Seventh World 異世界戦記の章
【悪魔と神編①】
「悪……魔…………?」
そこに現れたのは全長5メートルはある黒い生き物。全身を覆う皮膚は昆虫のような黒い光沢を放っており、頭からは細長い二本の触覚のようなものが生えている。
ズサッ!
ビュッ!
そう呟く星空 ひかり(ほしそら ひかり)の横を走り抜ける二人の戦士。
「悪魔だか何だか知らぬが俺様に任せて置け!」
リュウギ・アルタロスと
「ただならぬ気配!悪魔が暴れる前に私が仕留めます!」
神代 麗(かみしろ れい)
「あ!ちょっと二人とも!危険です!」
ひかりの言葉など聞こえないように、物凄い速さで疾走する二人。
最初に攻撃を仕掛けたのはリュウギ。
3メートルを越す巨体とは思えぬ敏捷性で空中に跳び跳ねると、鋭い手刀を繰り出した。
狙いは悪魔の頭の部分。
リュウギの手刀であれば一撃で頭部を吹き飛ばす事も出来るであろう。
「ギギ………オロカナ………。」
ビカッ!
「!!」
すると悪魔ダンタリオンの触覚が、リュウギに反応するかのように激しい光を放ち
ドスッ!!
リュウギ・アルタロスの身体に突き刺さる。
「がはっ!」
『妖気の膜(まく)』による鉄壁の防御を誇るリュウギ・アルタロスの身体が、意図も簡単に撃ち抜かれた。
「『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』!」
その直後、緋色の日本刀を真上に振り上げる神代 麗(かみしろ れい)。
狙いはリュウギを串刺しにしたダンタリオンの長い触覚。
麗の強い精神力により産み出された『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』が黒く光る触覚を真下から捉える。
ガキィーン!
「!!」
しかしその触覚は、麗の『緋炎剣』を弾き飛ばすと、返す刀で麗に襲い掛かる。
ビュン!
(速い!!)
刀を振り上げた直後の態勢で防御が間に合わない神代 麗(かみしろ れい)。このままでは、麗の身体も撃ち抜かれる。
(ダメだわ!避けきれない!)
ガシッ!
「!!」
すると、リュウギ・アルタロスは先程まで自分の身体を突き差していた黒い触覚を両手で捕まえて言う。
「『妖気の膜(まく)』が効かないとは、厄介じゃのぉ。」
「リュウギさん!!」
「今がチャンスだ!早く仕留めるがよい!」
「!!」
間一髪、触覚の攻撃を免れた麗は、そのまま悪魔ダンタリオンの本体に『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』を突き立てる。
(この至近距離なら私の攻撃をかわせない!)
「『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』!」
シュルルルルルッ!!
(なに!?)
それは一瞬の出来事。
悪魔ダンタリオンの頭部から生えている二本の触覚が、一瞬にして黒い壁に変化して
ガキィーンッ!
麗の攻撃を跳ね返した。
「何なの!この触覚は!?」
驚く麗の後方。
星空 ひかりが リュウギと麗に叫ぶ。
「二人とも!どけて!私が殺ります!」
ビカッ!
ひかりの左手に刻まれた『五芒星』の紋章が赤紫色に光り輝く。
『ヘスペリアス』の世界最強の魔法使い。
エレナ・エリュテイアの魔法。
「エレメンタル!イフリート!!」
ゴゴゴゴゴォ!
夜の帝都アンドロメダに一体の巨大な炎の化身が現れる。
イフリートの炎は激しい業火となりて
ボワッ!!
悪魔ダンタリオンの身体を覆い尽くした。
(これなら触覚で防ぐ事は出来ない!)
炎に包まれるダンタリオンを見てリュウギ・アルタロスは呟く。
「さすがは ひかり殿。魔法とは凄いものじゃのぉ。どうやら奴には物理攻撃は効かないらしいの。」
「リュウギさん!何を呑気な事を言っているんですか!早く傷の手足を!」
慌てて飛んで来たのはピクシー・ステラ。
ステラは治癒魔法を発動し、触覚で撃ち抜かれたリュウギの身体の傷を治療する。
「すまぬのステラ殿。お主には何度も助けられるわ。」
パチパチとイフリートの炎で燃えるダンタリオン。
麗はダンタリオンを見て目を細める。
(……………?)
(何……………)
「あの黒い球体は………何?」
ゴゴゴゴゴゴォ
燃え盛るイフリートの炎の中心部。
そこには、 真っ黒い巨大な球体が出現していた。
(まさか………)
(剣での攻撃だけでなく、ひかりの魔法攻撃も効かないと言うのですか……。)
【悪魔と神編②】
『マゼラン帝国』と『パラアテネ神聖国』の二大軍事国家が戦闘を繰り広げる戦場に、また新たな戦士が姿を現した。
アリス・クリオネ
チェリー・ブロッサム
チェリーは目の前に広がる光景を見てアリスに言う。
「もう!いったいどうなっているのよ!?」
桜色の衣装に身を包んだチェリーは、何やら不満があるらしい。
「どうしたの?チェリー。」
対照的に、黒い衣装を愛するアリスはチェリーを見て頭を傾げる。
「どうしたも何も、あたし達は最後の『天帝の加護』の戦士を探しに来たのよね!それなのに、何で『聖なる加護』の戦士が勢揃いしているのよ!」
流石のチェリーも『聖なる加護』の戦士達を相手にアリスと二人だけで勝てるとは思わない。
「まぁアチラ側にも都合があるのよ。それよりチェリー、どうやら『天帝の加護』の戦士が見つかったみたいよ。」
「そうねアリス。アマテラス様がお認めになった戦士。どれほど強いのか楽しみだわ。」
「行きましょう!最後の戦士の元へ!」
その戦場の一角では
エルザ王国の魔導師クララと、『神々の聖戦(ゴッドジハード)』の二人の戦士、日賀 タケル(ひが たける)と少年ゼロが対峙していた。
「エミリー!どうしたんだ!俺だ、タケルだ!」
「エミリー……、それが私の本当の名前……」
「そうだ!今世界は大変な事になっている!『天帝アマテラス』によって全ての世界か滅亡する所だ!」
「アマ…………テラス?」
「頼むエミリー!記憶を取り戻すんだ!そして力を貸してくれ!一緒にアマテラスを倒すんだ!」
タケルは祈るようにエミリーに話し掛ける。
タケルが初めてエミリーと出会ったのは遠い昔。まだタケルが小学校の低学年の頃であった。異空間である『時の城』に迷い込んだタケルは、今と変わらない容姿のエミリー・エヴァリーナと運命的な出会いを果たす。
タケルにとって、エミリー・エヴァリーナが特別な存在であるように、エミリーにとってもタケルは特別な存在であった。
エミリーの失われた記憶を呼び起こす事が出来るのは、日賀 タケル(ひが たける)しか居ない。少年ゼロは黙って二人の様子を伺っていた。
「痛っ!」
クララの頭に激しい痛みが襲う。
誰かが
誰かが封印した私の記憶
私は大切な何かを忘れている。
そして、クララは少しづつ記憶を取り戻して行く。
ここは
『ユグドラシドル』の世界
そして
あれは、四年前の出来事
魔族の王女として産まれたエミリーは、強大な敵『全能神ゼウス』と戦っていた。
「私の名前はエミリー・エヴァリーナ。」
「魔族と、そして人間と、全ての種族を代表して闘いましょう。」
「私達は神々(あなたたち)の操り人形では無いの。」
「例えこの命が尽きても神々(あなたたち)の好きにはさせません。」
それは
―――――――壮絶な戦いであった。
『ユグドラシル』の大自然から無限の魔力を吸収するエミリーは、神々の中でも頂点に立つゼウスと互角の死闘を演じる。
「信じられぬ!神である私が、ここまで苦戦するとは!」
しかし
「『全能神』である私が、たかが魔族の少女に負ける訳には行かぬのだ!」
ビカビカビカッ!
「受けて見よ!これか神の力!」
「『天空の雷』!!」
ゴロゴロゴロゴロッ!!
三日三晩続いた戦闘は、ゼウスの全身全霊を込めた一撃で遂に決着が付いた。
満身創痍のゼウスは傷付き意識を失ったエミリー・エヴァリーナの前に立つ。
「エミリー・エヴァリーナ。何と言う危険な存在か。確実に息の根を止めねばなるまい。」
そしてゼウスが
エミリーに留めを差そうとした時
「ゼウス!お止めなさい!」
ゼウスを静止する声が聞こえて来た。
ゼウスはゆっくりと声の持ち主の方へと振り返る。
「貴様は………。」
そこに現れたのは
もう一人の神―――――――
―――――――――アマテラス
「アマテラス……、天界を去った貴様が、なぜ、ここに居る?」
ゴゴゴゴゴゴォ!
全能神ゼウスは、天帝アマテラスを睨み付けた。