Seventh World 異世界戦記の章

【孤独な戦士編①】

本来、騎士と魔導師の戦闘では騎士が有利と言われている。

魔導師が魔法を発動するより早く、騎士は魔導師に攻撃を仕掛ける事が出来ると言うのが一般的な常識なのだ。

もう少し詳しく説明するならば

魔導師の弱点は、その魔法の威力と単発的な攻撃にある。仮に遠距離魔法で騎士を攻撃したとしても一撃で騎士を倒すのは難しい。

一般人よりも耐久力に優れた騎士は、魔法攻撃を受けても一撃では死なず、魔導師が二発目の魔法を発動するより早く魔導師に接近する事が出来る。


しかし

クララの放った魔法は、一撃で騎士を倒す程の高威力であり、更に騎士のスピードをも上回る速度で魔法を連射する。

常識を覆(くつがえ)すクララの魔法攻撃の前に『近衛騎士団』の騎士達は成す術が無い。

「ちきしょう!副団長が殺られた!」

「団長はどこだ!?あの魔導師に対抗出来るのはシャルロット団長しか居ない!」

「ぐわぁあぁぁ!」

「ダメだ!近寄る事が出来ない!」

「バカやろう!離れろ!殺されるぞ!」

「何て魔力だ!奴の魔力は底なしか!」


混乱する『近衛騎士団』を見てカール・シュナイゲートは笑いが止まらない。

(凄い!凄い!凄い!クララは想像以上の魔導師だ!たった一人で世界最強の『近衛騎士団』を手玉に取るとは全く信じられない魔導師だ!)



しかし、クララの魔法は、それだけでは終わらなかった。

クララは両手を大きく広げると、全身の魔力を両手に集中させて行く。

ビリビリと大気が震え戦場に物凄いオーラが立ち込める。

(今度は何をする気だ?)

カールが注目する中でクララはそっと魔法を詠唱した。

「『ネロフィアンマ』!!『レイン』!!」

ボワッ!

ボボボボボボッ!!

一撃でも高威力の『闇の炎』が雨のように降り注ぐ大魔法。百発を越える『闇の炎』が地表に居る『近衛騎士団』の騎士達に飛んで行く。

「な!バカな!」

「これ程の魔法を同時に放つなど有り得ない!」

「ダメだ!逃げ切れない!」


決着は着いた。

もはやクララの魔法を防ぐ手段は無い。

「ふはははっ!『近衛騎士団』は全滅だ!」

カール・シュナイゲートが勝利を確信して高笑いをした時、全く予想だにしない事が起きる。

『近衛騎士団』の居る方向とは真逆。

カール率いる『パラアテネ神聖国軍』の後方から少年の声が聞こえて来た。

それも攻撃魔法を詠唱する声が

「『ネロフィアンマ』!!『スピア』!!」

ボボボボボボッ!!

「!?」

信じられない事に

クララが放った無数の『闇の炎』を、同じ『闇の炎』の魔法で撃ち落とす少年の魔法。

ボボボボボボッ!

ボッカーン!

「はぁ!?」

これにはカール・シュナイゲートも驚いた。これ程の大魔法を、撃ち落とす程の大魔法。

「誰だ!!」

思わず後方へと振り向くカール。

「な!……あんな子供が!?」

そこには、クララと比べてもまだ若い少年が無表情で立っていた。

そして少年は

「相変わらずエゲツナイ魔法だなぁ。五年前に僕と戦った時よりも強くなっているんじゃないか?記憶が無くなった方が強いんじゃないの?」

そんな事を平然と言ってのける。

そもそも五年前と比べて、容姿が全く成長していない少年と少女と言うのがおかしいのだが、それを知っているのは、この場では日賀  タケル(ひが  たける)しか居ない。

魔法を放った少年ゼロを押し退けて、日賀  タケルは少女に言う。

「生きていた……。本当に生きていたんだ。」

タケルの目から大粒の涙が零れ落ちる。

「会いたかった。俺だ……。タケルだ。」

四年前のあの日、ヴァンパイア族との死闘の中で行方を眩ませていた少女。

後から聞いた話では『ユグドラシル』の世界でその少女は、『全能神ゼウス』に一人で戦いを挑んだと言う。

神と戦う事自体が全く無茶な話なのだが、それでも少女は生きていた。

「タ……ケ……ル?」

タケルを見てクララは呟く。


そして日賀  タケル(ひが  たける)は叫ぶ。

「エミリー!!俺だ!タケルだ!」


目を覚ますんだ!


エミリー・エヴァリーナ!!






【孤独な戦士編②】

「シャルロットさん!!」

「シャルロット!!」

星空  ひかり(ほしそら  ひかり)と銀河  昴(ぎんが  すばる)が倒れ込むシャルロットを見て同時に声をあげた。

(む……誰だ?見掛けない服装だな。)

シリウス・デュランダルは、シャルロットに駆け寄る ひかりと昴を見て目を細める。

「大丈夫ですか!シャルロットさん!!」

全身血だらけのシャルロットを抱えて星空  ひかりはもう一度叫ぶ。

「……あぁ、先ほどの……。どうやら少し油断したようです。」

シャルロットはそう言うと、ひかりの腕を離れシリウスの前に立ち『レイピア』を構え直す。

「シャルロットさん!その傷では無茶です!ここは私に任せて下さい!」

星空  ひかりが左手の甲にある『五芒星の紋章』に魔力を込めようとした時、シャルロットはそっとひかりの手の甲に左手を被せて言う。

「これは私の戦いです。それに私はまだ戦えます。言ったでしょう。油断しただけだと。」

「そんな………」

二人の会話を聞いていたシリウスは、再び『白光剣(びゃっこうけん)』を構えて言う。

「まだ戦うのかシャルロット。既に『光速剣』は見切った。シャルロット・ガードナーの時代は終わったのだ。」

「そうね……」

シャルロットは言う。

「確かに貴方は強い。まさか『光速剣』を見切られるとは思いませんでした。」

シャルロットの口元が微かに微笑んだ。


そして

シャルロットは

ゆっくりと口を開く


「ようやく私が、本気で戦える戦士が現れたようね。」


「なん……だと?」


世界最強の騎士シャルロット・ガードナー


彼女は孤独な戦士



あまりにも強過ぎるが故に、シャルロットには全力で戦える相手が存在しない。

それは、シャルロットにとって何よりも辛く悲しい事であった。

強過ぎるが故に、シャルロットは全力で戦う事を忘れていたのだ。

「それでは……、参りましょう。」

シャルロットの『レイピア』が光り輝く。

「どうやら死にたいようだな……。剣聖シリウス・デュランダル。今度は確実に葬って差し上げましょう。」

同じくシリウスの『白光剣』も真っ白い光を放つ。

しん

お互いの『光の粒子』が二人を別世界へと連れて行く。

そして

シリウスが攻撃を仕掛けようと右足を前に踏み出した時

すっ

「!!」

シャルロット・ガードナーの

姿が音も無く消え失せた。

(なに!どう言う事だ!?)


目の前に居たはずの

シャルロット・ガードナーの身体がシリウスの視界から消える。

そして

ズパッ!!

「ぐぉっ!」

シリウスの身体が何の気配も無く突然に斬り裂かれた。

「ちっ!何処だ!!」

バックリと開いた傷口を押さえたシリウスは、神経を集中させて周囲を警戒する。

しん

ドクン

ドクン

(何処だ………)

ドクン

ドクン

(なぜ姿が見えない……)

ドクン

ドクン


そしてシリウスの脳裏に、チンドウ老師の言葉が思い出される。

『速さもそうじゃが、シャルロットの剣は人間が出せる技の領域を越えておる。普通の人間ではシャルロットには勝てぬのじゃよ。』

ドクン

ドクン




「時空剣!!」

「!!」

シリウスがシャルロットの声を聞いた時には

ズパァアァァッ!!

「ぐわぁ!!」

ビシュッ!!

既にシリウスの身体は真っ二つに斬られた後であった。



それは


未来からの攻撃



姿を現したシャルロットは言う。

「私の剣は『光の速度』をも越えるのです。」

時空を越えて撃ち込まれる私の剣を


かわす事は


不可能なのです