Seventh World 異世界戦記の章
【聖者の行進編①】
アルゼリア歴3359年11月30日
先行して『マゼラン帝国』に侵攻していた国々のうち、八つの国の軍隊が帝都『アンドロメダ』を包囲し、帝都陥落は時間の問題であるかと思われた。
しかし
この日、戦士達は『マゼラン帝国』の上空に奇跡を見る。
「おい!見ろよ。」
帝都アンドロメダ北部
およそ1500人から為る『連合軍』の一人の戦士が空を見上げて呟いた。
日が沈み、赤く光る巨大な月を背に 上空を飛ぶ人影。
この世界の人間は当然のように空を飛ぶ事は出来ない。
しかし人々は知っている。
この世界『ワールド』に伝わる神話。
この世界は太古の昔に一度 滅びたと言われている。
伝説では、この世界は『悪魔』によって滅ぼされたのだ。
神話で伝えられる物語では、『悪魔』には敵がいた。『悪魔』に敵対し人類を守る為に戦った正義の存在。
――――――――――『 天使 』
ミカエル
ガブリエル
ラファエル
ウリエル
四大天使を初めとする『天使』達は、『悪魔王ルシファー』と戦い、自らの命と引き換えにルシファーを倒し、この世界から悪魔を追放した。
もちろん、多くの人はそんな神話を信じて居ない。
『悪魔』も『天使』も神話の中にだけ登場する架空の生き物。
しかし
それならば、この状況をどう説明したら良いのだろうか。
これは神話でも伝説でも無い。
たった今、目の前で起きている現実。
『マゼラン帝国』の帝都アンドロメダ上空に
――――――天使が舞い降りた
「可憐!今よ!可憐の『聖なる加護』の能力『天使の歌声』を発動して!」
妖精族の王女ステラが叫ぶ。
「分かったわステラ。やってみる!」
夢野 可憐(ゆめの かれん)は、地上に見える『連合軍』の戦士達を見ると大きく深呼吸をした。
そして
Seventh World (7つの世界)でも最も古い歴史を持つ『ワールド』の世界に、可憐の歌声が響き渡る。
ダブルミリオンを記録した四枚目のシングル
聴いて下さい
曲名『聖者の行進』
夢野 可憐(ゆめの かれん)―――――
―――――――――心を込めて歌います
♬
諦めないで
いつも見ています
諦めないで
祈りを捧げましょう
聖なる光に導かれ
幾千もの時を超え
あなたは再び舞い戻るのです
さぁ歌いましょう
さぁ踊りましょう
聖なる人々の行進を
聖なる人々の行進を
♬
透き通るような美しい音色を紡ぎ出す可憐の『聖なる加護』の歌声は、人々の脳内に巣食う『寄生虫』を
―――――――――消滅させて行く
「あれは………?」
アンドロメダ城の城門前で、その歌声を聞くのはシャルロット・ガードナー。
星空 ひかり(ほしそら ひかり)は、シャルロットに告げる。
「あの娘は私達の仲間です。彼女は人間の脳内に潜む『寄生虫』を消滅させる事が出来ます。」
「なんですって!それは本当ですか!?」
驚くシャルロットに、ひかりは話を続ける。
「よく聞いてシャルロットさん。今この国を侵略している多くの国の人々は『寄生虫』に操られているに過ぎません。『寄生虫』が消滅すれば、その進軍を止めるでしょう。」
しかし
「敵の中に『寄生虫』を操っている者が居るはずです。おそらく、その者は私達の敵。」
―――――『天帝の加護』の保持者です
「天帝の………加護………。」
「そうです。可憐の歌声を聞いても尚、進軍を止めずに向かって来る軍隊があれば、その指導者こそ『寄生虫』を操る敵なのです。
『寄生虫』の支配が解けた他の国の軍隊は私達が説得します。シャルロットさんは、本当の敵を倒して下さい。」
(歌声を聞いても尚、アンドロメダ城への進軍を止めない軍隊……か……。)
「分かった。ありがとう助かったわ。また後で話をしましょう。」
シャルロットはそう告げると、急いでアンドロメダ城の城壁を駆け上がる。
ぐるりとアンドロメダ城の周りを囲む1万人もの敵の軍隊。
その中で、進軍を続ける敵は………。
それは、南の方角から北進を続ける『月光騎士団』を討ち破った最強の敵。
『パラアテネ神聖国軍』
その軍を指揮する者の名は
――――――カール・シュナイゲート
(奴か!奴が『黒い虫』を操り世界を混乱に陥れた張本人!)
大陸を二分する二つの大国。
『マゼラン帝国』と『パラアテネ神聖国』
その因縁の超大国が
この帝都アンドロメダで
―――――――三度(みたび)激突する
「団長!いったい何処に行っていたのです!敵襲です!大変な事になっています!」
隊に戻ったシャルロットを見て、副団長のレイニー・バークレーが真っ先に口を開く。
「すまない!遅くなった!」
そしてシャルロットは部下の騎士達に命令する。
「敵は南方より迫る『パラアテネ神聖国軍』」
これより――――――
『マゼラン帝国』『近衛騎士団』
――――――――――出陣します!
【聖者の行進編②】
『帝都アンドロメダ』南部方面から迫る『パラアテネ神聖国軍』の兵士達。
(何だあれは……?)
空を飛ぶ夢野 可憐(ゆめの かれん)を見上げるカール・シュナイゲート。
(『マゼラン帝国』の戦士か……?)
(………いや…………あれは………)
―――――――――――天使?
ザワザワ
ザワザワ
突然現れた『天使』の存在に『パラアテネ神聖国軍』の兵士達がざわめきだす。
ザワザワ
(まずいな………)
今回の作戦は『マゼラン帝国』を滅ぼす絶好のチャンス。この機会を得体の知れない『天使』に邪魔させる訳には行かない。
カールは3000人を越える部下達に命令をする。
「狼狽(うろた)えるな!『アンドロメダ城』は目前である!今更『マゼラン帝国』には何も出来ん!!総攻撃を仕掛ける!!」
ズラリと並ぶ『パラアテネ神聖国軍』の魔導師達。
「撃て!!遠距離魔法で敵の城を攻め落とせ!!」
ズババババッ!
ビュッ!
ボワッ!
神聖国の魔導師達が各々得意の魔法で攻撃を開始する。
迎え撃つのは『マゼラン帝国魔導師団』の魔導師達。
「敵は南方の『パラアテネ神聖国軍』!今こそ『マゼラン帝国魔導師団』の腕の見せ所だ!撃て!」
ボワッ!
ボボボボッ!!
多種多様な魔法の撃ち合いにより、戦場は一気に華やかな魔法合戦の舞台へと早変りする。
魔導大国の『パラアテネ神聖国』には、優秀な魔導師が多く在籍しており、魔法の撃ち合いなら神聖国が負ける事は無い。
そこがカールの狙い。
「シリウス!敵は『近衛騎士団』だ!すぐに『近衛騎士団』が現れる。準備をしておけ!」
するとシリウスは『パラアテネ神聖国騎士団』を引き連れて前線へと進んで行く。
「望む所だ!シャルロット・ガードナーを倒す為に俺はここに居る!皆の者!行くぞ!」
1000人を越える騎士団が一気に『アンドロメダ城』との間合いを詰める。
敵は世界最強と名高い『近衛騎士団』。
遂に両大国の決戦が始まった。
そして、カール・シュナイゲートとは別に、夢野 可憐(ゆめの かれん)に反応する一人の戦士が居た。
エルザ王国の少女クララ
クララは上空を舞う可憐を見て、懐かしい衝動に駆られる。
(この歌は………。)
私はこの歌を知っている。
いや
あの上空を羽ばたく少女。
あの少女の事をクララは、よく知っている。
「痛っ!」
激しい頭痛がクララを襲う。
(思い出せない……。)
(私はいったい誰なの?)
(私の記憶を奪ったのは誰?)
そして
クララが激しい頭痛で頭を抱えている数キロメートル後方。
可憐を知る二人の戦士が、この世界『ワールド』に足を踏み入れていた。
「おいっ!あの空を飛んでいるのは夢野 可憐(ゆめの かれん)じゃないか!?」
驚きの声を上げるのは『天帝アマテラス』に対抗する為に造られた組織『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の隊員、日賀 タケル(ひが たける)。
「まぁ、可憐がこの世界『ワールド』に居ても不思議では無いでしょう。可憐は『聖なる加護』の戦士。おそらく、この世界の『聖なる加護』の戦士を探しに来たのでしょうね。」
冷静に答えるのは、年齢が10代前半に見える子供の戦士ゼロ。少年ゼロは興味無さそうにタケルに答える。
「てめぇ!そんな話は聞いて居ないぞ!可憐は生きていたのか!?」
「そうでしたっけ…? まぁ『聖なる加護』の戦士は僕達とは違う管轄ですからね。僕達には関係有りませんよ。」
「あのなー。俺も『神々の聖戦(ゴッド・ジハード』の一員になったんだから情報はちゃんと教えろよ!」
怒りの収まらないタケルに構わず少年ゼロは言葉を続ける。
「そんな事より、僕達の目的の少女が近くに居るようです。」
「なに!本当か!?」
「えぇ……。」
新世界ローマ教会の魔導師ゼロ。
ゼロは数キロ離れた人間の気配を察知する事が出来る。そして、何よりゼロはこの気配を忘れる事は出来ない。最強の魔法使いを自負していた少年ゼロを、完膚無きまでに叩き潰した魔法使い。
「タケルさん、早く行きましょう。彼女は記憶を失い魔法の使い方も忘れているはずです。」
少年ゼロは言う。
彼女の失った記憶を取り戻す事が出来るのは
日賀 タケルさん――――――
――――――あなたしか居ないのです
夜の『帝都アンドロメダ』に
夢野 可憐(ゆめの かれん)の透き通るような声が響き渡る。
♬
聖なる光に導かれ
幾千もの時を超え
あなたは再び舞い戻るのです
さぁ歌いましょう
さぁ踊りましょう
聖なる人々の行進を
聖なる人々の行進を
♬
あなたは再び――――――
――――――――――舞い戻るのです