Seventh World 異世界戦記の章

【光の共鳴編①】

マゼラン帝国『月光騎士団』敗戦の一報が届いたのは、その日の午後であった。

『近衛騎士団』『黄金騎士団』と並ぶ三大騎士団の一つ。

くしくも『黄金騎士団』は『黒い虫』に操られシャルロット自身が殲滅させた。

これで三大騎士団で残っているのは『近衛騎士団』のみ。

帝都アンドロメダに居住するアーサー・ニコラス皇帝陛下をお守りするのは『近衛騎士団』に託された。

近衛騎士団副団長レイニー・バークレーは、いつになく緊張で落ち着かない様子であった。

(そう言えば……)

団長のシャルロット・ガードナーの姿が見当たらない。

「おい!団長はどうした!?」

レイニーは周りに居る部下達に声を掛ける。

すると隊員の一人がレイニーに答える。

「副団長、少し落ち着いて下さい。団長なら城の外を見回りに行きました。すぐに戻るでしょう。」

「うむ……、そうか。」

(落ち着けレイニー。どんな敵が来ようとも『近衛騎士団』は負けない。自信を持つんだレイニー。)

と、その時

「副団長!来ました!敵襲です!」

「なに!!どこからだ!東か西か!それとも南か!?」

「それが……、全方位から囲まれています!少なく見ても八ヶ国の軍隊がアンドロメダに向かっています!敵の総数はおよそ一万!」

「なんだって!?十三ある帝国騎士団の防御網を潜り抜けて来たのか!」

(信じられん………)

(大陸最強の『マゼラン帝国』の騎士団が、こうも易々と突破されるなど……。

しかも敵の数は一万人だと?

『近衛騎士団』の団員の数は300人。まさに絶対絶命じゃないか。)

「団長は……、至急団長に連絡を!『帝国魔導師団』は応戦の準備を!!『近衛騎士団』はシャルロット団長が戻るまで臨戦態勢で待機!」


レイニーは思う。

(どうやら、本気で死ぬ覚悟を決めないと行けないらしい。)



帝都アンドロメダの城の外ではシャルロット・ガードナーが見回りをしていた。

(む……? 何やら城の内部が慌ただしい……。遂に来たか………。)

シャルロットが急いで城へ戻ろうとした時

見知らぬ二人の男女とすれ違う。

(……誰だ?『マゼラン帝国』の人間では無い。いや、大陸の人間でも無い。まさか、異大陸の戦士!!)

ズサッ!

シャルロットはその場に立ち止まり、腰に差していた細長い剣『レイピア』をすらりと抜いた。

「そこの者!止まりなさい!見た事の無い衣装。そなた達は何者なのか!!」

すると、その二人の人物。男と女の男の方、銀河  昴(ぎんが  すばる)がシャルロットを見て言う。

「いきなり剣を抜くなんて危ないなぁ。僕は日本から来た者だ。君と戦うつもりは無い。」

「日本………だと?」

シャルロットはその言葉に聞き覚えがある。かつて、シャルロットと互角の戦闘を繰り広げた戦士 高峰  瞬(たかみね  しゅん)、そして一条  舞  (いちじょう  まい)が  住む国の名前。

「お前達!まさか異世界の戦士か!」


そして

シャルロットと星空  ひかり(ほしそら  ひかり)の目が合った時


「!!」

「!?」




世界は光に包まれる


周りには何も無い光の世界



眩いばかりの光がシャルロットと星空  ひかりを包み込み、微かな風のようなものが二人の頬を優しく撫でて行く。


(これは………なに!?)

かつて経験した事の無い光の世界に迷い込んだシャルロットは、しばし茫然と周りの景色を見回した。


― 光の共鳴 



星空  ひかり(ほしそら  ひかり)の『聖なる加護』『惹かれ合う魂』。


それは、まさに魂の共鳴であった。


Seventh World(7つの世界)の一つ『ワールド』最強の騎士シャルロット・ガードナーと『ヘスペリアス』の世界最強の魔法使いエレナ・エリュティアの魂が、光の世界で交錯する。


星空  ひかりは言う。

「あなたは……『聖なる加護』の保持者ですね。ここまで強い共鳴を感じたのは初めてです。」

シャルロット・ガードナーは答える。

「『聖なる加護』………。ゴッドマリアが言っていた戦士とは、あなた達の事なのですか……。」

「ゴッド……マリア?」

「封印された天界の神々の中で、唯一封印から逃れた神。ゴッドマリアは、天界では無くこの世界で生活していたのだ。」

「この世界には天界の神が住んでいるのですか!?」

「いや、正確にはマリアはもう居ない。私に『聖なる加護』を与えてすぐに行方を眩ましてしまった。」

ただ一言

「アマテラスに会いに行くと……。」

「アマテラス……。」


そして

二人を包み込んでいた光の世界がゆっくりと元の世界へと戻って行く。

まるで何事も無かったかのように、ゆっくりと、『光の共鳴』は終わりを告げる。

「ひかり!大丈夫か!!」

星空  ひかりに声を掛けるのは銀河  昴(ぎんが  すばる)。

「貴様!ひかりに何をする!!」

激しい怒りをあらわにする昴。

しかし、ひかりは昴を手で制して言う。

「すばる!違うの!彼女は敵では無いわ!彼女こそ、この世界の『聖なる加護』の保持者。」



私達の最後の仲間です







【光の共鳴編②】

帝都アンドロメダ北西部

ここには『マゼラン帝国』『第三護衛団』の戦士約200名が待機していた。

対峙するのは神竜王国を中心とした三カ国連合軍、総勢2000名。騎士と魔導師が半数づつのバランスの取れた編成になっている。

「敵の数は10倍か……。果たして何分持ち堪える事が出来るのか。」

「この戦力差で戦闘になるのか?『月光騎士団』も敗戦したとの噂だ。『マゼラン帝国』も終しまいだ……。」

『第三護衛団』の戦士達は、もはや戦意を失っているようにも見える。

とその時、そこに現れた一人の大男が戦士達に声を掛ける。

「やれやれ。」

「む!?」

「情けないのぉ。たかが2000人程度の敵で臆病風に吹かれるとは『修羅の国』ならば戦士として失格だのぉ。」

「な!化け物!?」

その男は身長3メートルはあろうかと言う巨漢に大きな尻尾を生やしている。更に頭の上には猛獣を思わせる大きな耳。とても人間とは思えない。

「うぉおぉぉ!死ねぇ!化け物!!」

驚いた戦士の一人が大剣を振り回し、巨漢の男を斬り付けた。

バッキィーンッ!!

「!!」

すると、鉄製の大剣が巨漢の男の身体に弾かれて、剣の中心から真っ二つに折れ曲がった。

「な!な!な!」

もはや驚きのあまり言葉にならない戦士。

巨漢の男は、ひょいとその剣を取り上げると、マジマジと折れ曲がった剣を見て呟く。

「うむ。この世界の剣は、なかなか大きい。しかし切れ味はイマイチだのぉ。」

いや、切れ味とかそう言う問題では無いだろう。至近距離から斬り付けられて、平気な顔をしている化け物。

「ひぃ!化け物だ!助けてくれぇ!」

剣を折られた戦士は腰が抜けてその場に倒れ込む。

巨漢の男は気にする様子もなく『第三護衛団』の戦士達に言う。

「ここは俺様が引き受けた。お前達はそこで俺様の戦い振りでも見学していたら良かろう。」

ザワザワ

「な!引き受けたってお前!」

「敵は2000人もの軍隊だぞ!」

「だいたい、お前は何者だ!」

いきなり現れた化け物に、引き受けたと言われても簡単には受け入れられない。戦士達の反応は当然である。

すると巨漢の男は事も無げに言う。

「何者だと言われても説明しづらいのぉ……。一言で言うなら、人間どもは俺様の事をこう呼んでいる。」


― 魔王



「魔……王………」

「そうだ。まぁ、黙ってみて見ておれ。お前達に代わり俺様が戦ってやると言っておるのだ。」

そして魔王と名乗った巨漢の男リュウギ・アルタロスは、一人で敵陣の方へ歩いて行く。

「お!おい!」

「………どうする?」

「取り敢えず様子を見よう。いかに化け物でも2000人の兵士を相手に勝てるとは思えん。」

『第三護衛団』の戦士達は、突然現れた巨漢の男の後ろ姿を黙って眺めるより他に方法は無かった。

リュウギ・アルタロスは街の向こう側に待機している敵軍2000名を見渡すと(ふむ)と無言で頷き気合いを集中する。

(では、始めるとするかの………。)

そして、みなぎる妖気を一気に爆発させて技の名前を叫ぶ。

「『魔王の威圧』!!」

ビリビリビリビリビリッ!!

大気が激しく揺れて戦場の空気が一変した。

リュウギ・アルタロスの『聖なる加護』『魔王の威圧』は『寄生虫』の感染を一時的に無効化すると共に、その妖気に当てられた人間の動きを止める事が出来る。

「うっ!」

「何だ!?」

「身体が……」

「足に力が入らん……」

バタバタとその場に倒れて行く敵軍の戦士達。

驚いたのは『第三護衛団』の戦士達も一緒である。

「おお!凄い!」

「何だあの技は!」

「あれは、まさか!」

『マゼラン帝国』の戦士であれば、誰もがその技の名前を知っている。

かつて『マゼラン帝国』に君臨した『騎士の中の騎士』偉大なる『黄金騎士団』の団長カスター将軍が得意としていた技。


― 覇気



カスター将軍を目の前にした戦士は、その覇気の力により動く事が出来なかったと言う。

「なんと!あの男!カスター将軍の『覇気』を使いこなすとでも言うのか!」

リュウギは倒れ込む敵の戦士を見て呟く。

「これで、しばらくは動けまい。夢野  可憐(ゆめの  かれん)が来るまでの間、そこで じっとしておれ。」


可憐が来たら

『寄生虫』の呪縛から

解き放たれるであろう




【光の共鳴編③】

帝都アンドロメダ南東部

ここには、アルゼリア王国を主体とした連合軍およそ2500名が集結していた。

連合軍の指揮を取るのは『アルゼリア王国』『第一騎士団』団長マルス・ベリサリウス。

「皆の者!臆するでない!『アンドロメダ城』に居る兵士の数はたかが知れている!一気に攻め落とすぞー!」

「おー!」

「行くぞー!」

威勢の良い兵士達の雄叫びが鳴り響く。

もはや『アンドロメダ城』への道のりに邪魔する者は誰も居ない。一番乗りを果たし『マゼラン帝国』の皇帝アーサー・ニコラスの首を取るのは自分達だとばかりに兵士達の意気は最高潮に達していた。


その時

誰も居ないはずの一本道の向こうから、一人の女性が歩いて来るのが見えた。

歳は20歳前後の若い女性。

白と赤の見慣れない衣装に身を包んだ、長い黒髪の女性。

(ほぉ……美しい女性だ。)

マルスは思わずその女性に見とれてしまう。

すると、その女性は白い紙の札を懐から取り出すと、すっと空中に放り投げた。


(む…!何だ………?)


シュウ

それは、マルスの予想しない出来事。

シュウ

『連合軍』が待機している一帯が、高濃度の白い霧に包まれて行く。

「な!この霧はいったい!?」

「団長!このままでは進軍に支障をきたします!」

(くっ!まさか、あの女の仕業か!)

マルスは素早く部下の騎士に指示を出す。

「あの女は魔導師だ!これは、あの女の魔法!早く斬り倒してしまえ!」

ザザッ!

3人の騎士が素早くマルスの指示に反応した。
騎士のスピードは常人のそれを数倍も上回り瞬く間に黒髪の女性に接近する。

各々が大剣を振りかざし3方向から同時に攻撃を繰り出す騎士達は流石と言わざるを得ない。

ガキィーンッ!

バシュッ!

ズパッ!

既に辺りは白い霧で覆われており戦闘シーンを見届ける事は出来なかったが、マルスは女性を倒した事に疑いを持たない。

接近戦で魔導師が騎士の動きに付いて行ける訳が無い。それが、この世界の鉄則。マルスはゆっくりと戦闘のあった地点へと向かう。

ザッ

ザッ

そして、マルスが見たものは

「!!」

地面に倒れ込む3人の騎士。

「な!お前達!どうした!?」

すると騎士の一人がマルスに言う。

「不覚……、あの女は魔導師なんかじゃない。」

「なに?」

「我々3人の動きを上回る剣さばき……。しかも、わざと急所を外して……、完全に子供扱いだ……。」

「バカな……、するとあの女は騎士であり魔法も使える戦士……。」


すっ

「!!」

すると、マルス・ベリサリウスの背中に細長い緋色の剣が突き付けられた。

(な……、いつの間に俺の背後に……。)

「あなたが、この部隊の隊長ですね。」

ゴクリ

マルスはそのままの姿勢で答える。

「貴様……何者だ?『マゼラン帝国』の騎士か?それとも魔導師か?」

すると女性は予想外の事を言う。

「私は騎士でも魔導師でも有りません。」

「なんだと?」

「『マゼラン帝国』の人間でも有りません。」

「な、ならば何者だと言うのだ?」

「私の名前は『神代  麗(かみしろ  れい)』

日本国の陰陽師であり『神代一族(かみしろのいちぞく)』の棟梁。」

「陰陽……師?」

「部下達に命じなさい。少しの間その場に待機するようにと。」

「待機だと?貴様……何が目的だ?」

すっ

すると、神代  麗(かみしろ  れい)の持っていた緋色の剣が、音も無く姿を消した。

(…………どう言う事だ?)

後ろを振り向くマルス。

しかし、そこには既に女性の姿は無い。


シュウ


一帯を覆う『白い霧』は 、益々その濃度を増し、もはや一寸先も見通す事は出来ない。

(やむを得ないな………)

そしてマルスは全軍に命令する。

「作戦は一旦中止だ!霧がおさまるまでその場に待機!!繰り返す、全軍その場に待機せよ!」


少し離れた場所で、その言葉を聞いた麗はほっと胸を撫で下ろす。

(良かったわ。これで無用な戦闘はしなくて済む。私はともかく、『白虎』は手加減など出来ないでしょうから。)

ゴゴゴゴゴゴォ!

神代  麗(かみしろ  れい)の隣には、巨大な白い猛獣『白虎』が、鋭い眼光を光らせていた。