Seventh World 異世界戦記の章
【シリウスとクララ編①】
バロン公国首都
旧メガロバンクス
バロン城の城壁の上で遠くを眺めるのは『月光騎士団』副団長のアヤメ。
バロン公国占領後も同地域に留まり軍事拠点を造り上げていた。
「来たようね。」
『マゼラン帝国』に反旗を翻した14ヵ国の中でも、おそらく最大の脅威となる軍隊。
パラアテネ神聖国軍――――
「3000人程度か……、意外に多いわね。」
『月光騎士団』の主力を任されてるアヤメの軍隊は500名程度。数の上では戦力不足は否めない。
しかし、『月光騎士団』には騎士特有の機動力がある。アヤメは騎士団の半数を出撃させ敵の軍隊への攻撃を命じる。
敵の魔法攻撃を掻い潜り、本体に接近してしまえば『月光騎士団』に敵う敵など存在しない。
扇形の陣形を基本に臨機応変に姿を変えて突き進む騎士達はよく訓練されている事を伺わせた。
シュッ!
(む……何だ?)
敵の本隊から放たれる魔法攻撃の影に隠れて、一人の戦士が物凄い勢いで『月光騎士団』の騎士達に接近する。
(あれは………騎士か?)
たった一人の騎士で我々『月光騎士団』に対抗出来るとは思えない。
なぜなら騎士の実力に於いては『マゼラン帝国』が他の国々を圧倒している。
ましてや『マゼラン帝国』内でも一・二を争う『月光騎士団』にたった一人で立ち向かうなど死にに行くようなものだろう。そんな芸当が出来る者などこの世界には居ない。
(いや………一人だけ居るな。)
アヤメの脳裏に一人の女性騎士の顔が思い浮かぶ。
『近衛騎士団』の団長シャルロット・ガードナー。
彼女なら『月光騎士団』の精鋭500人を相手に一人で勝利をおさめる事が出来る。
(味方ながら、何とも恐ろしい化け物だな。)
シュバッ!
スパッ!
(なに……!)
ズサッ!
ブシュッ!
(あの男………)
一人で『月光騎士団』の精鋭達を圧倒するだと?
「白光剣(びゃっこうけん)!!」
「ぎゃあぁぁ!」
「うわぁぁー!」
新たに誕生したヴァルハラ王国の剣聖シリウス・デュランダルの剣技が冴え渡る。
あまりの剣のスピードに『月光騎士団』の騎士達は全く付いて行けないように見える。
「な!何者だ!『パラアテネ神聖国』にあのような騎士が居るなど聞いた事もない!」
驚きをあらわにするアヤメに部下の騎士が報告をする。
「副団長!奴は『パラアテネ神聖国』の騎士では有りません!」
「何ですって!」
「どうやら奴はヴァルハラ王国の剣聖。」
剣聖シリウス・デュランダルかと
「剣………聖………?」
(ヴァルハラ王国の剣聖は先の大戦で全て死亡したと聞いている。)
(生き残りが居たのか。)
(それとも、チンドウ老師。)
「新たな剣聖を育てていたのか!」
アヤメはすぐさま城壁を掛け降りて部下達に命令する。
「引け!お前達では荷が重い!ヴァルハラ王国の剣聖は私が殺る!」
「『月光騎士団』副団長!このアヤメ・ムラサキが相手を致す!」
【シリウスとクララ編②】
(なかなかやるではないか。シリウス・デュランダル。初めての実践で『マゼラン帝国』の騎士を圧倒するとは、私もシリウスの実力を見誤っていたようだ。)
嬉しい誤算にカール・シュナイゲートは目を細める。
「よし!魔導師達はそのまま城への魔法攻撃を開始せよ!一気に城を攻め落とす!」
戦局は『パラアテネ神聖国軍』有利。ここを落とせば後は『マゼラン帝国』まで障害は無い。
魔導師達の執拗な魔法攻撃がバロン城に次々と襲い掛かる。
「カール……」
「…………?」
「カール……あの城を攻撃すれば良いのか?」
いつの間にかカール・シュナイゲートの横にエルザ王国軍の小さな少女クララが立っていた。
(この少女は、先程の強大な魔力を解き放っていた少女。今度は何の気配も無く私の真横にまで接近するか……。)
クララは言う。
「どうやら私は、魔法使いのようです。私は遥か昔に大勢の騎士団と戦った事がある。」
大きな城
大勢の騎士達
この戦場が――――
――――――私の記憶を甦らせる
(魔法使い?遥か昔……?この少女は何を言っているのだ……。)
「あの城を破壊すれば良いのね。」
「………」
そう言って少女クララは
少し傾いた『黒いとんがり帽子』を被り直すと、何やら魔法を詠唱し始める。
カールはその様子を見て、額から冷や汗が流れるのを感じた。
(やはり私は運が良い……。)
カールは既に2つの大きな力を手に入れた。
そのうちの一つは『黒い虫』と呼ばれる『寄生虫』を操る能力。これにより『寄生虫』に感染している多くの人間を戦場に掻き立てる事に成功した。
まだ『摩耶(まや)の術』を完全には把握しきれては居ないが、今に感染者を思いのままに操れるようになるだろう。
2つ目は、取って置きの切り札。他の誰にも真似出来ない魔法を手に入れた。カールがその魔法を完全にマスターすれば、世界を滅ぼす事も出来るかもしれない。
カール・シュナイゲートは左手に持つ『黒い魔導書』をギュッと握りしめる。
そして3つ目は
目の前に居る少女。
もしかしたら、その少女はとんだ拾い物かもしれない。
かつて世界に君臨した『パラアテネの四将星』や伝説の魔導師ブラハム・ハザード。
キラ星の如く輝く大魔導師達と比べても、勝るとも劣らない強大な魔力。
クララは魔法を詠唱する。
それは偶然にも
伝説の魔導師ブラハム・ハザードが得意としていた、他の誰にも真似の出来ない究極魔法。
――――――――『メテオーラ』
ゴゴゴゴゴゴォ
空が割れ
上空を覆う雲の隙間から
巨大な隕石群が顔を覗かせる。
「!!」
「おい!あれは!」
「まさか!」
「信じられん!」
「ブラハムの魔法メテオ!?」
「伏せろ!巻添えを喰うぞ!!」
ゴゴゴゴゴゴォ!
無数の巨大な隕石群が――――
『月光騎士団』が本陣を構える『バロン城』に
ドガガガガーンッ!!
ドッゴーンッ!
――――激しい音を立てて激突する
「そんな!バカな!!」
信じられない光景に、アヤメ・ムラサキは後ろを振り向いた。
あの城には『月光騎士団』の精鋭達がまだ半分以上残っている。
それを一撃で粉砕するなど、そんな大魔法を操る魔導師が存在するなど
とてもじゃないが信じる事は出来ない!
「よそ見をするとは、それでも『マゼラン帝国』の騎士か!」
「!!」
ガキィーンッ!!
剣聖シリウスの剣を辛うじて防ぐアヤメ。
「あなたこそ、攻撃前に敵に声を掛けるなど騎士失格だわ。」
そう言ってアヤメは、細長い剣をシリウスに向けて突き付ける。一本の剣が何十本もの分身を造り同時に襲うアヤメの必殺技
「『百花乱舞(ひゃっからんぶ)!!』」
シャルロット・ガードナーの『高速剣』に対抗する為に編み出された俊速の剣撃が、無数の刃となってシリウスに襲い掛かる。
(見極めろ!シリウス!)
シリウスは老師との修行を思い出す。
行く筋にも見える剣撃も実体は一つしかない。
シャルロット・ガードナーに勝つ為には、その剣撃を見極める必要がある。
『白光剣(びゃっこうけん)』から溢れ出た『光の粒子』がシリウスの脳内に逆流し、アヤメの攻撃の軌道をシリウスに知らせる。
(ここだ!)
「『白光剣(びゃっこうけん)』」
ズバババババッ!!
「!!」
攻撃を放ったはずのアヤメの身体から無数の鮮血がほとばしる。
(そんな!私の剣の速度を上回るなんて……)
崩れ落ちるアヤメにシリウスは言う。
「騎士失格………確かに俺は騎士失格かもしれない。」
しかし―――
――――――俺は騎士では無い
(騎士では………ない……?)
俺は――――――――
ヴァルハラ王国の剣聖
―――――――――――聖騎士だ