Seventh World 異世界戦記の章
【伝説の魔導師編①】
アルゼリア歴3359年10月23日
大陸中央に位置する『バロン公国』。
貿易の拠点として栄える『バロン公国』は、大陸中から多くの人々が集まっていた。
先代のバロン閣下の後を受け継いだ現バロン公国国王バロン・バルモアはその資金力にものを言わせ多くの優秀な戦士を抱えている。
ヴァルハラ王国の剣聖シリウスが『バロン公国傭兵団』に入団したのは、つい先日の事であった。
「流石は世界の戦士達が集まるバロン公国。これ程の戦力があればマゼラン帝国にも対抗出来そうです。」
バロン城の一室で会話をするのはバロン閣下とシリウス。バロン閣下は嬉しそうにシリウスに答える。
「かっかっか。何を言うかシリウス。数多く居る傭兵団の戦士達の中でも、お主に勝る戦士はおらん。お主が居れば、かのシャルロット・ガードナー率いる『近衛騎士団』をも討ち任す事が出来るだろう。」
実際、急速に戦力を増強する『バロン公国』には一つの噂が流れている。
バロン閣下は『マゼラン帝国』を攻め滅ぼし大陸をその手中に治めるつもりであると。
そこに『バロン公国魔導師団』のシューベルト・セクター団長が室内に入って来た。
「閣下!時間です。『マゼラン帝国』の使者がお着きになられたようです。」
「ふむ……、すぐ行く。」
バロン閣下はシリウスとの話を中断し部屋の外へ向かう。そして振り向いてシリウスに言う。
「シリウスよ。『マゼラン帝国』と『パラアテネ神聖国』の二大大国の時代は終わりだよ。我々は、この大陸の中央に巨大国家を造り上げる。今日の会談はそれを邪魔させない為の試金石になるであろう。」
この大陸は長い間、北の軍事大国『マゼラン帝国』と南の魔導先進国『パラアテネ神聖国』の影響下に置かれていた。
どちらかの陣営に所属する事が、この大陸で生き延びる為の唯一の手段。それは『ラファール帝国』崩壊後の世界でも変わらない。
バロン閣下が目指すのは『マゼラン帝国』の影響力の排除。完全な独立国としての地位を確保し、あわよくば周辺国をも取り込もうとする戦略。
その為には『マゼラン帝国』と対等な立場で不戦条約を結ぶ必要がある。今の『バロン公国』の戦力があれば『マゼラン帝国』も断る事は出来ないであろう。
バロン閣下は意気揚々と会談場所の広場に向かう。バロン・バルモアは実に用心深い男であった。広場を会談場所に選んだのは、見晴らしの良い場所で敵の奇襲を回避し、更には敵の逃亡を逃さない為である。
広場の周りには『バロン公国魔導師団』の魔導師達が警備を固めている。いかに『マゼラン帝国』の戦士でも、この包囲網の中では何も出来ないであろう。
ザッ
ザッ
(む………。あれが『マゼラン帝国』の使者か……。『近衛騎士団』では無いな。)
バロンは広場の中央で待つ『マゼラン帝国』の使者を見て目を細める。
使者の数は4人。
予想よりもかなり少ない。
(やはり『マゼラン帝国』も我々と敵対する事は避けたいようだ。)
広場の中央に到着したバロンは使者達に言う。
「ようこそバロン公国へ。歓迎しよう。良い会談になる事を期待している。」
すると、使者の一人が腰に掛けてあった細長い剣をすらりと抜いた。
「わたくしは『マゼラン帝国』『月光騎士団』副団長のアヤメ。悪いけれど閣下には死んで貰います。」
「な!?」
スパッ!!
美しく真横に放たれた一閃が、バロン閣下の首を見事な切れ味で切断する。
「今よ!周りにる魔導師達を斬り刻んで差し上げなさい!」
シュバッ!
アヤメの声で3人の騎士達が一斉に動きだす。
ザワッ
動揺する『バロン公国魔導師団』の魔導師達。
「貴様!何をする!」
ようやく声を発した魔導師団の団長シューベルト・セクターにアヤメは言う。
「目障りなのよ。この大陸の平和は『マゼラン帝国』によって維持される。他に強い国は要らないわ。」
バロン公国の戦士達には――――
――――――――みんな、死んで貰います
ズパァッ!
そして
二つ目の首が
広場の中央に転がり落ちた。
【伝説の魔導師編②】
バロン城内部の一室
シリウス・デュランダルは、外の様子が一変した事を感じ取る。
(何だ……随分と騒がしい。)
と同時に城内に慌ただしい声が鳴り響いた。
「大変だ!バロン閣下が殺された!」
「広場の魔導師団に援軍を!早くしないと全滅するぞ!」
「街の外から『マゼラン帝国』軍が押し寄せて来るぞ!急げ!」
(な!………バカな!)
『ラファール帝国』崩壊以降『マゼラン帝国』は大陸の治安維持に尽力して来た。
反乱軍や暴動を鎮圧する事はあっても一国の王を殺し、正規軍に攻撃をするなど無かった事。
これでは、まるで――――
――――――――戦争じゃないか
「シリウス殿!急いで下さい!!」
走り過ぎて行くバロン公国傭兵団の戦士がシリウスに声を掛ける。
「分かった!すぐに行く!!」
全くの予想外。シリウスは背中に背負っていた聖剣『白光剣(びゃっこうけん)』を右手で引き抜くと急いで城の外へと向かう。
そして、シリウスが見た光景。
広場を取り囲んでいたはずのバロン公国魔導師団の魔導師達総勢300名余りは、ほぼ全滅していた。
(な!敵の数は……四人だと!?たった四人の騎士の前に全滅するとは……。)
これが戦争
これが世界最強の
――――『マゼラン帝国』の騎士の実力
「うぉおぉぉ!」
「返り討ちにしろ!」
「敵は四人だ!恐れるな!」
城内から飛び出した傭兵団と騎士団の戦士達が『マゼラン帝国』の戦士四人に攻撃を仕掛ける。
しかし
ズパッ!
バシュッ!
「ぎゃあぁぁ!」
「ぐわぁあぁ!」
戦士達は次々と『マゼラン帝国』の騎士に殺されて行く。
ドクン
ドクン
(強過ぎる………)
ドクン
ドクン
(しかし………)
ドクン
ドクン
(敵の増援までは少し時間がある。四人程度なら殺れるか……。)
シリウスが覚悟を決めて、足を前に踏み出そうとした時、誰かがシリウスの腕を後ろから捕まえた。
「止めて置け!無駄死にだぞ。」
「!!」
そこに居るのは白髪と白いマントが印象的な男。武器を持って居ない所を見ると魔導師であろう。
「誰だ!なぜ止める!」
シリウスが素早く男に問い正す。
すると男は呆れたようにシリウスに言う。
「あれは『マゼラン帝国』『月光騎士団』のアヤメだ。他の三人も大陸トップクラスの騎士。おまけに、後ろからは『マゼラン帝国』の本隊が押し寄せて来ている。」
バロン公国が勝つ可能性は
―――――――――――ゼロだ
「!!」
「そもそも戦略のミスだな。魔導師の役割は騎士の援護。騎士の護衛無しで『マゼラン帝国』の騎士を相手にするなど無謀にも程がある。よほど力のある魔導師で無い限り、何人居ようが殺られるのは目に見えていた。」
「……お前……何者だ?なぜ俺にそんな話を……。」
シリウスが男に訪ねると男はニヤリと笑ってシリウスに言う。
「私は『パラアテネ神聖国』の魔導師カール・シュナイゲートだ。剣聖シリウス、お前を仲間にする為に来た。」
「仲間……に?俺を?」
「あぁ、私は『マゼラン帝国』を倒して世界を支配する男だ。私の魔法とお前の剣技があれば、シャルロット・ガードナーにも勝てる。」
世界は―――――――
――――――――俺達のものになる
【伝説の魔導師編③】
『マゼラン帝国』と『バロン公国』との戦闘の噂はすぐに大陸中へと広まった。
ここはエルザ王国の港町
「おい、聞いたか?バロン閣下が殺されたらしぞ。」
ザワザワ
「バロン公国の戦士達は皆殺しにあったらしい。信じられねぇ。」
「やはり『マゼラン帝国』に逆らっちゃいけねぇな。『近衛騎士団』に『月光騎士団』、魔導師では一流の騎士には勝てない。先の大戦で優秀な魔導師は全て居なくなってしまった。」
「これからは『マゼラン帝国』一強の時代だな。魔導師の時代は終わったんだよ。」
魔導師――――――――
かつて、この世界には強大な力を誇る大魔導師達が存在していた。
伝説の大魔導師プラハム・ハザード
パラアテネ神聖国の四人の大魔導師『パラアテネの四将星』
アヴェスター公国の死神ヴァローナ・モト
いずれも世界中の騎士を相手取り、その強大な魔法で騎士達を恐怖のどん底に陥れた魔導師達。
大魔導師達には共通する一つの性質があった。
それは、三つの魔法属性を保有している事。
この世界で発見されている魔法属性は主に6つある。
炎・水・土・風・光・闇
一人の魔導師が操れる魔法の属性は一種類が普通であり2つの魔法を操れる魔導師はかなり稀である。
魔法属性は重なり合わせると強い魔法になる事が証明されており、大魔導師達は三つの魔法属性を操る事により強大な魔法を生み出したのだ。
「そう言えば………」
「ん、どうした?」
「知っているか?メザリー婆さんに拾われたクララちゃん。実は魔導師らしいぞ。」
「へぇ……、それは凄いな。まだ幼いのに。」
「いや、驚くのはそれだけじゃない。何とクララちゃん、三つの魔法属性を扱えるらしい。」
「……………何言ってんだ?そんな事がある訳無いだろう。」
「前に盗賊団が何者かに壊滅させられた事件があったのを覚えているか?」
「あぁ、それがどうした?」
「盗賊団の生き残りが証言したらしい。
盗賊団を壊滅させたのはクララ。
クララはその時、炎と風と闇、三つの魔法を操ったそうだ。
クララはエルザ王国が誇る伝説の魔導師プラハム・ハザードの再来かもしれない。」
ゴクリ
そんな……
――――バカな話が
――――――――信じられるかよ