Seventh World 聖なる天使の章

【アマテラスの敵編①】

「ヤマタノオロチ!!」

シリュウ・トキサダにより産み出された8つの頭と8つの尾を持つ巨大な妖獣。

ギャオォオォォーン!

一体でも強力なヤマタノオロチが無数に現れ、リュウギ・アルタロスへと襲い掛かる。

(ぐぬ……、何と言う数………。)

リュウギの身を包む『妖気の膜(まく)』は、どんな攻撃も受け付けない絶対防御術。その無敵の秘密は、その膨大な妖力にある。妖力に長けた『妖狐の一族』の中でも突出した妖力を保持するリュウギは、正に無敵の魔王。

魔王を倒す事は容易では無い。

共に修行に励んだシリュウ・トキサダは、その事を十分に理解している。だからこそ、シリュウは自らの妖力を高める為の修行を積んで来た。リュウギ・アルタロスに勝つには、リュウギをも上回る膨大な妖力が必要なのだから。

そこに転機が訪れる。

天帝アマテラスより授かった『天帝の加護』

『加護』の能力には様々あるが、誰もが超人的な能力を身に付ける訳では無い。本来その人間が持っている潜在能力や資質、強い想いを引き出す事が『加護』の力。

例えば、李  羽花(リー・ユイファ)の『天帝の加護』の能力は『アルテミスの槍』。かつて『ユグドラシル』の世界に存在したエルフの一族に代々伝わる伝説の武器。その王族の末裔であるユイファの強い想いが『アルテミスの槍』を自由に復元出来る能力へと繋がった。

シリュウ・トキサダが求めていたもの。

それは魔王リュウギ・アルタロスをも上回る膨大な妖力。シリュウの『天帝の加護』『無限妖術』は無制限に妖術を操る事の出来る禁断の能力。

ギャオォオォォーン!

「ふんぬ!!」

リュウギは力任せにヤマタノオロチの身体を引き裂いて行く。

(ぐっ!これで何体目かのお!)

倒しても倒しても現れるヤマタノオロチに徐々に妖力を消耗して行くリュウギ。しかし、リュウギの頭の中に1つの疑問が持ち上がる。

確かにシリュウはこう言った。

奴の『天帝の加護』の能力は

『無限妖力』では無く『無限妖術』

無限に妖力を産み出す能力では無く、単に妖術を無限に使えるだけ?

それなら、十分に勝算はある。

リュウギ・アルタロスは残された妖力を一気に解放する。

ゴゴゴゴゴゴォ

(むっ?)

明らかに変化したリュウギの妖気の質にシリュウは目を細める。

(ほぉ、持久戦では無く、一気に決着を付けるつもりか。)

「面白い!受けて立とう!どちらの妖力が上か勝負だ、リュウギ!!」

共に修行に励んだ二人の天才妖術師。

その雌雄を掛けて、リュウギとシリュウが動き出した正にその瞬間。

ゾクゾクッ!

二人の妖力をも上回る圧倒的な気配が、すぐ近くの戦場に現れた。

「む!?」

「何だ!!」

同時に反応するリュウギとシリュウ。

二人が振り向いたその先には、異様な殺気を放つ『化け物』が、『大天使シルフレア』を呑み込んでいる姿があった。

(何だ、あの『化け物』は!!)

そしてシリュウの脳裏に直接響く声が聞こえて来る。

「リザ!ジェイス!チェリー!シリュウ!ユイファ!作戦変更です!!夢野  可憐(ゆめの  かれん)は後回しです!」

(む……この声はアリス?)

「緊急事態です!『天使の城』の前に出現した『化け物』」


天帝アマテラス様の敵――――


――『7つの大罪』を抹殺せよ!!





【アマテラスの敵編②】

おそらくこの戦場に居る戦士達の中で、正しくその『化け物』を認識出来た戦士は二人しか居ない。

アリス・クリオネとジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世

アリスは幼少の頃に、その『化け物』に遭遇し全てを失った。当時のアリスは『化け物』と戦う術は無く、奇跡的に助かったと言える。

しかし、ジェイスは違う。

ジェイスの住んでいた世界。
Seventh World(7つの世界)から遠く離れたその世界に『化け物』が出現した時には、既にジェイスは一流の戦士であった。

ジェイスの育った世界は高度に魔法が発達した世界であり、多くの優秀な戦士がいた。ジェイスは仲間達と共に『化け物』と死闘を繰り広げた経験を持つ。

だからこそ、ジェイスは理解する。

今回現れた『化け物』の脅威を。

シルフレア・サーシャスを呑み込んだ『化け物』は、吸収した人間の能力を糧に成長する。

只でさえ厄介な『化け物』が

世界最強の大天使

シルフレア・サーシャスの力を吸収したのだ。

「ちっ!面倒な事になって来たぜ!」

黒い巨大な翼を羽ばたかせ、ジェイスは『化け物』の方へと旋回する。

「ちょっとジェイス!逃げるのですか!」

エレナ・エリュテイアが飛んで行くジェイスに声を掛けると、ジェイスはちらりとエレナの方を見て答える。

「エレナよ、お前との決着は後回しだ!今はそれ所では無い!」

「何ですって!」

「見ろエレナ!あの『化け物』を放置すると、下手をしたら俺達『天帝の加護』の戦士や『聖なる加護』の戦士達はおろか、この世界の全ての人間が喰い付くされるぞ!」

「!!」

「あの『化け物』こそが天帝アマテラス様の敵!」


――『7つの大罪』なのだ


飛び去るジェイスを茫然と見つめるエレナ。

(7つの………大罪……?)



ギギ――



ギギィ――




シルフレアを呑み込んだ『化け物』の身体が、白く発光して行く。

そして

ビカッ!!

その身体から無数の『光の波動』が一斉に撃ち出された。

「!!」

「リザッ!危ない!!」

ビュンッ!!

ビシャッ!!

「チェリー!!」

そのうち一本の『光の波動』は、リザ・チェスターを庇ったチェリー・ブロッサムの身体を撃ち抜き。


ビュン!

バシュバシュバシュ!!

前方に撃ち出された無数の『光の波動』は

「ぐわぁ!」

「ぎゃあぁぁ!!」

『天使の城』の前の広場に集まっていた群衆を吹き飛ばして行く。


そして

『化け物』の後方に撃ち込まれた『光の波動』は、火災により疲弊していた『天使の城』に直撃し

ガラガラガラガラ!

巨大な『天使の城』を崩壊させて行く。


『天使の城』の前方の壁が崩れ落ちるその先。

そこには、夢野  可憐(ゆめの  かれん)が、祈りを捧げて居た。


「きゃあぁぁぁ!!」


予想外の事態に、完全に逃げ遅れた可憐が叫び声をあげた時。

「可憐さん!危ない!!」

走り込んで来た銀河  昴(ぎんが  すばる)が、間一髪 可憐の身体を押し飛ばす。

「痛っ!」

瓦礫の破片が昴の左足に直撃し、昴の足に激痛が走る。

「昴さん!?」

昴は傷付いた自分の足を気にする様子も無く、可憐の方を見て、大切な事を告げる。

「可憐さん!頼みがある!君にしか出来ない頼みだ!」

「え!?」






【アマテラスの敵編③】

「ヤマタノオロチ!!」

「エグゾーダス(灼熱地獄)!!」


シリュウ・トキサダとジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世が、光り輝く『化け物』に攻撃を仕掛ける。

巨大なヤマタノオロチが『化け物』の身体を噛み千切り、灼熱の炎が『化け物』の身体を覆い尽くす。

ギギ

ギギィ


「!!」

「この『化け物』…………」


――――何と言う再生能力。


千切れた部位はすぐに復活し、燃える身体も焼け落ちる事は無い。
輝く『聖なる光』に包まれた『化け物』は、シリュウとジェイスの攻撃を受けても苦しむ様子は見えない。

(これは………)

シルフレア・サーシャスの力か……

かつて、ジェイスが対戦した『化け物』も相当に手強い敵であったが、攻撃が効かないと言う事は無かった。

しかし、今回の『化け物』は、明らかに耐久力が違うように感じられる。

更に厄介なのは、その攻撃力。

ギギ――

『化け物』の身体が青白く光りだす。

「くっ!またか!」

「敵の攻撃が来るぞ!」

ビカッ!

ビカビカビカッ!!

ドッガーンッ!!


「くっ!」

何とか攻撃をかわしたシリュウとジェイス。

その後方、無数の群衆で埋めつくされていた広場が『化け物』の攻撃で大きく抉り取られる。

「ちっ!先程より威力が上がっていやがる!」

「これが、大天使シルフレアの真の力か!」

モクモクと土煙りが舞い上がる中。

陥没した大地から走り込んで来る人影が、シリュウとジェイスに声を掛ける。

「どいて下さい!私が殺ります!」

その少女は、一瞬にして二人の中央を駆け抜けると、手に持つ黒い槍を前方の『化け物』へと構える。

「ユイファ!?」

ズサッ!

「『アルテミスの槍』!!」

『化け物』の手前数メートルの所から勢いよく跳び跳ねるユイファ。

そして、黒く輝く伝説の武器『アルテミスの槍』を『化け物』に向けて

ズパァッ!!


――斬り付ける!!


ギャギャガッ!!

思わず悲鳴を上げる『化け物』。


「やったか!?」

ビキビキビキッ!

「!!」

「いや、ダメだ!逃げろ!ユイファ!!」

ビカッ!!

「うっ!」

すると『化け物』から放たれた『光の波動』が、ユイファの右肩を掠めて行く。

(私の『アルテミスの槍』の攻撃が、効かない!?)


ギギ――

ギギィ――

そして、その『化け物』の身体が

シュウ――

徐々に姿を変えて行く。

青白く光る身体の左右に伸びるのは『天使の羽』

シルフレア・サーシャスの力を取り込んだ『化け物』は


ゆっくりと上空へと――


――浮かび上がった。






「大丈夫かユイファ!」

傷付いたユイファに駆け寄るシリュウ。

「私なら大丈夫。掠(かす)り傷です。」

「そうか、他の皆は無事か?リザにチェリーは?」

シリュウはぐるりと辺りを見回した。

するとジェイスが、遠くに退避しているリザとチェリーを指さして答える。

「あの二人も無事のようだ。チェリーは『化け物』に身体を撃ち抜かれたようだが、あいつは死なないからな。」


それより、問題は――


あの空中に浮かび上がった『化け物』を、どうやって殺すかだ。

『7つの大罪』と呼ばれる『化け物』をどうやって……。


ギギ――


ギギィ――


シュウ――


シュウ――



その『化け物』から発せられる奇妙な音が、夜の聖都ホワイトキャッスルに響き渡る。