Seventh World 聖なる天使の章
【天使の城襲撃編①】
聖都ホワイトキャッスルの中央にそびえる巨大な城
天使の城(ホワイトキャッスル)
その入口で押し問答をしているのは、星空 ひかり(ほしそら ひかり)と銀河 昴(ぎんが すばる)。
「私達は夢野 可憐(ゆめの かれん)に用があるのです!ここを通して下さい!」
対する天使の一族。背の高い黒い衣装に身を包んだ男 パトリック・ルピアは答える。
「あなた達もしつこいですね。この城には人間は立ち入り禁止だと言っているでしょう。」
「くっ!話にならないわね。昴、どうする?」
すると、銀河 昴(ぎんが すばる)は、パトリックに言う。
「逃げるんだ。早く逃げないと『天使の一族』は全滅するぞ!」
「!!」
パトリックは一瞬 驚いた表情を見せるが、すぐに昴の方を見て言う。
「何をバカな事をおっしゃる。我々『天使の一族』が全滅とはいい加減な事を言うのは止めたまえ。」
しかし昴は引き下がらない。
「いい加減じゃないさ。」
「なに?」
「見えるんだ。僕の『聖なる加護』『全能なる瞳』には未来を見通す力がある。このままでは『天使の一族』は滅びる。」
「………これは、困りましたね。」
パトリックは本当に困ったように眉を寄せる。
「こんな事、お嬢様にどう伝えたら良いものか。『聖なる加護』の保持者とは厄介な事を言う。」
すると、パトリックの後ろから1人の女性が声を掛ける。
「もう聞いたわパトリック。何を騒いでいるのかと思えば『聖なる加護』の保持者ですって?」
現れたのは『三大天使』の1人シルフレア・サーシャス。『バックワールド』の世界から夢野 可憐(ゆめの かれん)を連れ去った張本人。
「昴の能力は本物よ。私達に協力して下さい。一緒に『天帝の加護』の保持者と戦いましょう!」
ひかりはシルフレアに詰め寄り声をあげる。
「ふふ、協力ですって?」
シルフレアはそう言うと、右手を前方に差し出した。
ブンッ――――
その手に現れたのは巨大な剣。
見るからに力強いオーラを放つその剣をシルフレアは星空 ひかり(ほしそら ひかり)に向けて構える。
驚くひかりにシルフレアは言う。
「あなた達、何を勘違いしているのかしら?」
「………勘違い?」
「私達『天使の一族』にとっては『天帝の加護』も『聖なる加護』も関係ないわ。」
神々の力を借りたあなた達は
天使(私達)の敵!
「!!」
ブワッ!
シルフレアは巨体な剣『大天使の剣』を振り下ろす。
「ひかり!危ない!」
「きゃっ!」
銀河 昴(ぎんが すばる)が間一髪ひかりを救う。
昴に押し倒される形になった星空 ひかりは、自分が元いた空間を見てゾッとする。
ゴゴゴゴゴゴォ
空間が引き裂かれていたのだ。
「ちょっと、いきなり何をするのよ!危ないじゃない!」
ひかりはシルフレアに向かって怒声をあげる。
「あら?あなた、何も知らないのね。私達『天使の一族』が何故この世界に居るのかを。」
「……どう言う事?」
「天界の神々は私達の敵。憎むべき存在だと言ったのよ。」
「!!」
「そう。私達『天使の一族』は、神々に追放されたの。神々の力を借りる『聖なる加護』の保持者こそ、私達の敵なのです。」
【天使の城襲撃編②】
天使の城の最上階からホワイトキャッスルの町並みを見下ろしていた二人の大天使。
サンタクロス・ハミュエルとアクア・メガエルは異変に気付く。
「アクア。見えるか?大気中に黒いもやが拡散している。」
「ええ、こんな現象は初めて見ます。これは自然現象では有りません。人為的に造られた……、おそらく魔法。」
「いかん!すぐにシルフレアを呼んで来い!街中に憎悪の殺気が溢れている。これは大変な事になるかも知れぬ!」
それは、かつて見た事の無い光景。
日の沈んだホワイトキャッスルの町に人々が真っ黒い波のように溢れ返る。
その全ての人間が目指すのは『天使の城』
天使達が守り続けて来た人々が、敵となって押し寄せて来る。
「『大天使の弓』!」
ビシュッ!
ビシュビシュビシュッ!
天に向かって放たれた無数の矢が、黒い群衆に襲い掛かる。しかし、その勢いは止まらない。
それどころか、黒い群衆は手に持っている松明(たいまつ)を 次々と『天使の城』に投げ込んだ。
ボワッ!
ゴゴゴゴゴゴォ!
「ちっ!」
大天使サンタクロスは城内にいる天使達に命令する。
「天使達は全員で対応しろ!」
「非戦闘員は消火に専念!それ以外は群衆を迎え撃て!」
「ええい!シルフレアは何処に居る!」
苛立ちを隠せないサンタクロス。
もともと天使の数はそれほど多く無い。
ホワイトキャッスルに待機していた『天使の一族』の戦士総勢20名が城の外へと飛び出した。
「いったい何が!?」
城の入口で昴達と争っていたシルフレアの横を天使の戦士達が通り過ぎて行く。
「シルフレア様!敵襲です!」
「民衆が大群となって『天使の城』に!」
「早く応戦して下さい!数が多過ぎます!」
茫然と外の様子を伺うシルフレア。
「まさか……」
(あれが全て『寄生虫』に感染した人間だとでも言うのか?)
「ひかり!どうする!?」
声を張り上げる昴。
「『寄生虫』に感染した人間は構わないで!私達は夢野 可憐(ゆめの かれん)を救出します!」
「わかった!」
天使達とは逆方向。『天使の城』の内部へと走り出す昴とひかり。
しかし
「『大天使の剣』!!」
ズバッ!
「痛っ!!」
シルフレアの剣が、ひかりの右肩を斬り割いた。
「ひかり!」
倒れ込むひかりを抱き止めて昴が叫ぶ。
「貴様!こんな時に!!」
シルフレア・サーシャスは言う。
「言ったでしょう。あなた達は私の敵だと。『天使の城』の内部には誰1人通す訳には行きません。」
【天使の城襲撃編③】
燃え盛る『天使の城』の最上階から1人の天使が羽ばたいた。
『三大天使』の1人サンタクロス。
サンタクロスは上空から群衆のど真ん中に降り立つと、天界の武器をブンッと振り回す。
「『大天使の矛』!!」
それは圧倒的な威力を伴い、周りに居た群衆を数百人単位で吹き飛ばす。
「愚かな群衆よ!この『白の世界』で我々天使に勝てるとでも思ったか!」
怒声をあげるサンタクロス。しかし、群衆にその声は届かない。
『寄生虫』に感染し『摩耶(まや)の術』に操られた人間にはもはや理性は存在しない。
それどころか、中には片腕を吹き飛ばされた人間が、もう片方の腕に武器を持ち替えて襲って来る者もいる。
(こいつ騎兵隊の兵士か?腕を失っても戦闘意欲を失わないとは、痛みを感じないのか?)
これが『寄生虫』に感染した人間の真の恐怖。何度 群衆を吹き飛ばしても、生きている限り襲って来る。
サンタクロスは徐々に精神を疲弊して行く。
(ぐっ……『三大天使』の俺が、こんな所で負ける訳には行かぬ。)
サンタクロスは自らの『聖なる力』を『大天使の矛』に込める。
(一気に吹き飛ばしてやる!)
今までで最大級の力を込めた一撃。
大気を震わすほどの『大天使の矛』のひと振りが、周りの群衆を凪ぎ払う。
ズパァァッ!!
ドッガーン!!
これが大天使の力。
聖都ホワイトキャッスルの地に、半径数百メートルにも及ぶ巨大な陥没を造り出すほどの威力。
その円の中心でサンタクロスは目を見開いた。
「!!」
それは全くの予想外。
まさか、サンタクロスの攻撃をかわして攻撃を仕掛けて来る人間が居ようとは。
「『ライトセイバー』!」
その男は見たことの無い武器で攻撃をして来た。
「ふんっ!」
それでも、サンタクロスは『大天使の矛』で迎え撃つ。
至近距離で放たれたその一撃を、男は信じられない反応でかわして見せる。
ビュンッ!
(速いっ!!)
しかし、サンタクロスが驚くのは更にその後。
「『ライトセイバー』!」
「『ライトセイバー』!」
更にもう二人。
同じ顔をした人間が、飛び掛かって来る。
「!!」
(何だこいつらは!?)
『バックワールド』の世界で人工的に造られたクローン人間。
米軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』の超人達が、大天使サンタクロスに襲い掛かる。
【天使の城襲撃編④】
燃え盛る『天使の城』の入口で対峙するのは
シルフレア・サーシャスと星空 ひかり。
「仕方ないわね。」
ひかりは、隣に居る銀河 昴(ぎんが すばる)に耳打ちする。
(ここは私が引き受けるわ。すばるは予定通りステラと可憐の救出に向かって!昴の能力なら可憐の居場所が分かるはず。そして、ステラの能力なら可憐の所にすぐに行けるわ。)
すると、まるでひかりの話を聞いていたかのようなタイミングで、昴の後ろの空間が歪み出す。
モワーン
そこから現れたのは手の平サイズの小さな妖精ステラ。ピクシー・ステラの『聖なる加護』の能力『異世界への扉』は、自由に異空間を行き来出来る特殊能力。
「昴!こっちです!」
ステラは長い緑色の髪をたなびかせて昴に言う。
「ステラ!分かった!」
早速ステラの先導で異空間へ逃げ込む昴。
天使との交渉が決裂した時の為の予防策。
この辺は事前の打ち合わせ通りだ。
その状況を見ていたシルフレアは『大天使の剣』を振り上げた。
「また『聖なる加護』の戦士か!まとめて吹き飛ぶが良い!!」
同時に星空 ひかり(ほしそら ひかり)は、契約する5つあるエレメンタル(精霊)の一つの名前を叫ぶ。
「エレメンタル!セイレーン!」
「!!」
シルフレアの大剣が
突然現れた青紫色の光の壁と激突する。
バチーンッ!
バチバチバチッ!
ドッガーッン!!
(な!これは!!天界の剣を跳ね返すとは!?)
驚愕するシルフレア。
しかし、驚いたのはひかりも同じ。聖霊界の頂点に位置するセイレーンの壁を、こうも簡単に粉砕するとは、やはり天使の力は侮れない。
「でも、すばるを逃がす事には成功したわ。」
ひかりは、そう言ってシルフレアに左手を差し向ける。
その左手の甲からは『五芒星』の眩い光が、まるで夜空に輝くオーロラのように輝いている。
オーロラの姫君――――――――
そこに居るのは、女子高生の星空 ひかり(ほしそら ひかり)ではなく、『へスぺリアス』の世界最強の魔法使い。
――――――――エレナ・エリュテイア
「ふ……」
大天使シルフレア・サーシャスは、エレナを睨み付けて言う。
「魔法使いか。確かに人間にしては凄い力を感じるわ。」
しかし
「私は大天使セラフィエル様の血を受け継いだ本物の天使。たかが人間が『天使の一族』に勝てるとでも思っているのかしら?」
ブワッ!
シルフレアの持つ『大天使の剣』から物凄いオーラが放たれる。
ゴゴゴゴゴゴォ
しかし、エレナはにこりと微笑んでシルフレアに言う。
「さぁ、どうかしら?
だって私
天使と戦うのは初めてだから
やってみなければ分からないわ。」
「くっ!あなた、どうやら本気で死にたいらしいわね!大天使の力、思い知るが良い!!」
『へスぺリアス』の世界
と『白の世界(ホワイトワールド)』
二つの世界の最強の戦士が――――
―――――――――――早くも激突する