Seventh World 伝説の少女の章
【闇の聖霊編①】
「少女よ。名は何と言う!」
新世界ローマ教会法廷騎士団長マイケル・ブライアンは隣で疾走する少女の名前を問う。
ビカッ!
ビュン!
前方からはアメリカ合衆国の護衛兵が放ったレーザービームが、容赦なく飛んで来る。
しかし、少女はまるで舞いでも踊るかのように、紙一重で敵の攻撃をかわすと、手に持つ伝説の武器『アルテミスの槍』を護衛兵に向けて振り翳(かざ)した。
「私の名は……」
バシュッ!
「ぐわぁ!」
「ぎゃぁあぁ!」
―――――李 羽花(リー・ユイファ)!
10代の少女とは思えない見事な戦闘技術。
幾多の戦場をくぐり抜け、数多(あまた)の戦士達を葬って来たマイケル・ブライアンが感心する程の腕前。
「ブライアンさん!行きましょう!大統領の部屋はすぐそこです!」
事前の作戦で、ホワイトハウス内部の構造は把握している。
ダグラス・ジョブズ大統領がホワイトハウスに滞在しているのも確認済み。
後は見つけ出して殺すだけ。
もはや二人を遮る者は居ない。
ブライアンとユイファの後からホワイトハウスに進入した仲間達も、すぐに追い付いて来るだろう。新世界ローマ教会側の勝利は目前のように思われた。
「ここだ……」
建物内部の中央にある一室の前でブライアンは立ち止まった。この内部は大きな空間となっており、壁には世界中の映像が映し出されている。その一角にアメリカ合衆国大統領専用のブースがある。
「気を付けろユイファ。中には大統領の護衛が待ち構えて居るだろう。」
「ブライアンさん、私は大丈夫です。それより、おかしいと思いませんか?」
「……?」
ブライアンはしんと静まり返った建物内部を見回した。
「確かに……」
ブライアンは思う。
(静か過ぎる。俺達以外にも騎士団のメンバーが100人近く進入したはずだ。ホワイトハウスの内部に居るアメリカ軍の護衛兵と局地的な戦闘になっていてもおかしくない。)
しかし、戦闘の音が全く聞こえて来ない。
(まさか、全員殺られたとでも言うのだろうか?)
カツン
コツン
すると、建物の内部を歩く足音が聞こえて来た。
(敵か……?)
カツン
コツン
ゴクリと息を飲むマイケル・ブライアン。
カツン
コツン
渡り廊下の向こうから一人の男が姿を表す。
「やぁ、君達がテロリストの首謀者なのかい?新世界ローマ教会の愚かな騎士よ。」
「ちっ!」
マイケル・ブライアンは右手に持つ長剣を男の方へと差し出すと必殺の一撃を放つ。
「『聖剣エクスキャリバー』!!」
ビカッ!
ローマ教会に伝わる伝説の剣は、激しい光を放ち、数メートル先に居る敵に攻撃を仕掛ける。
その破壊力は巨大な岩をも粉砕する威力を持つ。
ドッガッーン!!
手加減の無いブライアンの一撃により、男が立っていた辺り一面が粉々に吹き飛んだ。
『!!』
(消えた!?)
「ブライアンさん!後ろです!!」
「なに!」
ユイファの声に反応したブライアンが咄嗟に後ろを振り向くと、その男が光の剣『ライトセイバー』をブライアンに向けて構えていた。
そして男は呟く。
「遅いなぁ。ローマ教会の騎士達はどいつもこいつも遅過ぎる。所詮は只の人間か。」
「只の人間だと!?貴様、何者だ!!」
ブライアンの問いに男は楽しそうに答える。
「俺か?俺は米軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員 ガゼル・ジャスティス。」
人間の力を超越した存在
―――――――――――新人類だ
【闇の聖霊編②】
自然界に存在する数多の聖霊。
魔法とは、聖霊の力を借りて異能の力を産み出す術であり、聖霊の種類は、炎・水・風・土、など様々な種類が存在する。
その中でも、闇の聖霊は特異な存在。
他の聖霊が、外部から人間に力を与えるのに対し、闇の聖霊はその人間の内部から力を与える。
そこから産み出される魔力は他の聖霊の比ではない。
闇の聖霊『ゼノア』が産み出す魔法は
全ての物体を腐敗させる悪魔の魔法。
「デスワールド(死の世界)!!」
レイヴン・パルテノが魔法を詠唱すると、真っ黒な霧が大気中に現れた。
その霧はするすると生き物のように這い上がり、遥か上空を飛んでいるアメリカ軍B-57型爆撃機に絡み付く。
ドロッ
すると、驚く事に最新鋭の装甲を誇るアメリカ軍の爆撃機が、どろどろと溶け始めた。
闇の聖霊『ゼノア』の魔法は
全ての物を腐敗させる暗黒魔法。
レイヴンは叫ぶ。
「偉大なる聖霊『ゼノア』よ!出し惜しみは不要。上空を飛ぶ全ての敵(爆撃機)を殲滅せよ!」
これがレイヴン・パルテノを最強の魔導師と言わしめる理由。レイヴンの攻撃から逃れる術は無いのだ。
(しかし、この俺が全力で戦う羽目になるとは……。解せないのは、アメリカ軍の行動の速さ。今回の奇襲作戦の情報が内部から漏れていたとでも言うのか……。)
レイヴンがそんな事を考えていると、後ろから一人の男性の声が聞こえて来た。
「凄い魔法だな。お前が新世界ローマ教会の魔導師レイヴン・パルテノか。」
「!?」
レイヴンが後ろを振り向くと、まだ20代の若い男性が立っていた。武器はアメリカ軍の造り出した光の剣『ライトセイバー』。
レイヴンの知り得た情報によると、その武器『ライトセイバー』は米軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員であるアルフ・ジャスティス愛用の武器のはず。
「貴様、アルフ・ジャスティスか?」
レイヴンがその男に向かって叫ぶ。
男は少し驚いたが、すぐさま表情を緩めレイヴンに言う。
「さすがは新世界ローマ教会の魔導師。アルフの武器を一目で判断するとは大したものだ。しかし……」
その男は言う。
「アルフは数ヶ月前の日本でのミッションで死亡した。ちょっと情報が古いようだな。」
「…………」
沈黙するレイヴンに男は更に話を続ける。
「それに、この俺をあんな出来損ないと一緒にされたら迷惑ってもんだ。俺は米軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員 パッカード・ジャスティス。完全体の俺の実力を見せてやろう。」
そして、パッカードと名乗った男は『ライトセイバー』を構えてレイヴンに歩み寄る。
「ふん。無駄な事を……。」
しかし最強の魔法使いレイヴン・パルテノは動じない。
闇の聖霊『ゼノア』が上空に浮かぶ米軍爆撃機を襲っている間は闇の魔法を使えない。
しかし、レイヴンには炎の魔法がある。
レイヴンは慌てる事なく炎の魔法を詠唱する。
「焼却!」
ボワッ!
燃え盛る炎がパッカード・ジャスティスに襲い掛かった。
それは一瞬の出来事。
レイヴンの炎がパッカードを襲う直前に、パッカードは手に持つ『ライトセイバー』で
自分の左腕を斬り落とす。
【闇の聖霊編③】
ビシュッと鮮血が跳び跳ねると同時に、数多(あまた)の『寄生虫』が左腕の傷口から飛び出した。
グニョグニョグニョ!
「貴様!何を!?」
パッカード・ジャスティスの能力は『超反応』と『超スピード』。
アルフ・ジャスティスの能力を引き継いだクローン人間であるパッカードは、俊速の動きでレイヴンに接近する。
ボワッ!
スパッ!
その身体を炎に焼かれながらも、パッカードは右手に持つ『ライトセイバー』を振り抜いた。
「痛っ!」
『ライトセイバー』が斬り落としたのはレイヴンの右の腕。
グニョグニョグニョ!
シュルシュルシュルシュル!
(しまった!!)
次の瞬間、パッカードの傷口から飛び出した『寄生虫』の群れがレイヴンの右腕の傷口から潜り込んで来る。
ブスブスと焦げ付いた匂いを漂わすパッカード・ジャスティスの身体は焼失と再生を繰り返す。
それでも、パッカードは死なない。
『寄生虫』の侵入を許して、もがき苦しむレイヴンを見下ろすパッカードが、ゆっくりと口を開く。
「レイヴン・パルテノ……。」
「ぐ……、うが……。」
「お前は本当に厄介な敵であった。俺達アメリカ合衆国の近代兵器を無効化する『魔導の壁』を発案し、その壁を破壊するにもローマの内部には最強の魔導師であるお前が居る。」
「ぐぉ……、ぎが……。」
「更に厄介なのは、お前は何故か『寄生虫』の感染者を見分ける事が出来る。その為にスパイを送り込んでもすぐに殺される。そしてお前は『寄生虫』に感染する事もない。」
「き……さま………。」
「そこで俺達は考えた。お前の能力の秘密を、お前をローマから引き離し更にお前を倒す方法をだ。」
お前の能力の秘密は―――――
―――――――――闇の聖霊『ゼノア』
「ゼノアは『寄生虫』の感染者を察知し『寄生虫』を寄せ付けない、正に『寄生虫』の天敵。」
更にパッカードは話を続ける。
「教えてやろうレイヴン。今回のミッションには2つの目的があった。
―――――1つはお前だ。
最強の魔導師であるレイヴン・パルテノをローマから連れ出して、更にはお前の身体に宿る『ゼノア』を引き離す。
無数の爆撃機を倒すには、流石のお前も『ゼノア』に頼るしか無い。そこが狙い目。
闇の聖霊『ゼノア』が居ない隙に、お前を『寄生虫』に感染させて仲間に率いれる事が1つ目の目的だ。」
「ぐ……、バカ……な……。」
レイヴンは思う。
(今回のホワイトハウス奇襲作戦は、俺を『寄生虫』に感染させる為に仕組まれたとでも言うのか。ローマ教会内部に、アメリカ軍の内通者が居ると……。)
薄れ行く意識の中でレイヴン・パルテノは考える。
(しかし、ローマ教会法廷騎士団の中には、『寄生虫』の感染者は居なかった。となると、アメリカ軍の内通者は……。)
居た
一人だけ
今回の作戦に参加した部外者が
(法廷騎士団以外に作戦に参加した人間は一人だけ。黒のアリスが連れて来たあの少女。あいつがアメリカ軍のスパイ……。
―――――李 羽花(リー・ユイファ)
レイヴン・パルテノ