Seventh World 伝説の少女の章

【二人の少女編①】

アメリカ合衆国ホワイトハウス

ダグラス・ジョブズ大統領は、ホワイトハウスの一室にあるモニターを眺めていた。

世界各地に進行しているアメリカ軍の映像。その圧倒的な軍事力は他の追随を許さない。

「やはり敵はローマか……。」

ジョブス大統領がぽつりと呟いた。

世界三大勢力の一つと言われた新世界国家連合は既に崩壊した。

中国もインドも敵では無かった。

事前に侵入したアメリカ軍のスパイが敵の上層部を暗殺し、その隙に攻撃を仕掛けたアメリカ軍。アメリカは、混乱した敵を一方的に侵略すれば良いだけである。

しかし、新世界ローマ教会だけは一筋縄では行かない。『魔導の壁』なる不思議な力で近代兵器での攻撃を無効化する。
ローマに潜入したアメリカ軍のスパイは尽(ことごと)く消息を絶たれている。

「魔法使いか……何とも厄介な奴等だ。」

ジョブス大統領は愛用の葉巻に火を付けて「ふぅ」と一息ついた後に、側近の男に声を掛ける。

「マーガイン。その後の様子はどうかね?」

マーガインと呼ばれた男。年齢は大統領よりも2つ年上の56歳。神経質そうな細身の男性は、近くにあったモニターのボタンをポチリと押した。

ブンと写し出される立体映像。

そこにはアメリカ軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』の戦闘員のプロフィールが書かれていた。

モデル・アルフ・ジャスティス
能力『超反応』『超スピード』
反応速度10080VOR
スピード11M/S
復元力SA
耐久力AA
適応性AA
総合値SA
量産識別番号1~25



第一次超人育成計画

『寄生虫』を脳内に取り込む特殊な手術を受けた人間は超人的な能力を身に付ける。

米軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』とは、『寄生虫』の能力を応用した超人育成計画。しかし、その計画には幾つかの欠点があった。

手術の成功率が極端に低いこと。米国の最新医療技術を持ってしても超人が産まれる確率は2%程度。手術に失敗した人間は100%近い確率で死亡する。

能力に個体差が発生すること。手術が成功しても発動する能力は様々であり、戦闘員として使える人間は更に少なくなる。莫大な資金を投入しても得られる効果が少ない。

最終的には『寄生虫』に乗っ取られ人格が崩壊すること。人格だけでなく身体の細胞までもが破壊され結局は死ぬ事になる。

これでは戦闘員としては不完全であり第一次超人育成計画は失敗したと言えよう。

そこで新たなプロジェクトが採用される。



第二次超人育成計画

またの名は『クローン人間育成計画』

第一次超人育成計画で造られた超人達の細胞に『寄生虫』を掛け合わせて新たな超人を造り出す悪魔の計画。

最初のモデルとなったのは『フォーミュラ・ジャスティス』最強と言われたアルフ・ジャスティスであった。

第一次超人育成計画の欠点を克服した二次計画では、『寄生虫』によって人格や身体の細胞を破壊される事も無い。
元より産み出された超人はクローン人間。手術の成功確率など関係なく無制限に超人を量産出来る。しかも、『フォーミュラ・ジャスティス』最強の能力を持ったアルフ・ジャスティスと同じ能力を持った超人達。

マーガインは、満足そうに大統領に告げる。

「今のところ新世代の隊員は25名ですが、更に量産は続きます。まさか『奴等』も自分達が造り出した『寄生虫』が利用されるとは思わないでしょうな。」

「奴等か……。『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員達が奴等に操られる可能性はどうだ?記録によれば日本で戦死したアルフ・ジャスティスは奴等に操られた可能性が高いとあるが。」

大統領の質問にマーガインが答える。

「それは未知数ですな。奴等がどうやって『寄生虫』に感染した人間を操っているのか分かりません。しかし、新世代の『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員達には、外からの干渉を受けない対策を施して有ります。おそらくは、大丈夫でしょう。」

「ふむ。」

大統領はそう頷くと火を付けた葉巻を吸い込んだ。

他の世界から来た侵略者。

奴等は『寄生虫』により感染した人間を操る事が出来ると言う。奴等の狙いは大国同士を戦わせて同士討ちさせる事であろう。

最悪のシナリオは『核戦争』の勃発。

大国同士の戦争は常に『核戦争』による共倒れの不安が付きまとう。

しかし

奴等の誤算はアメリカ合衆国の存在。

アメリカ合衆国の圧倒的な軍事力と科学力の前では、他の大国など恐るに足りない。
アメリカは大国では無い。

世界唯一の超大国なのだ。

奴等の好きにはさせない。手遅れになる前に世界はアメリカ合衆国が支配する。そうすれば『核戦争』による人類滅亡を防ぐ事が出来る。

この世界を支配するのは奴等では無い。

アメリカ合衆国こそ、人類滅亡を救い世界を支配するに相応しい。

「ところでマーガインよ。」

ジョブズ大統領は、もう一つの作戦の進捗状況を確認する。

「異世界からの侵略者。奴等の居所はまだ判明出来ないのか?」

それはアメリカ合衆国にとって、最も重要なミッション。いつまでも『寄生虫』による敵の攻撃を野放しにする訳には行かない。

攻撃は最大の防御との格言通り、アメリカ合衆国は侵略者の住む世界を見つけ出し攻撃する事を最終目標としていた。

Seventh World(7つの世界)の情報を収集し敵の所在を突き止めなければならない。

大統領の質問にマーガインは答える。

「残念ながら奴等の居所は未だ不明です。しかし、吉報が一つ有ります。」

「吉報だと?何だ?言って見ろ。」

神経質そうな表情のマーガインは、慎重に言葉を選びながら大統領に報告する。

「Seventh World(7つの世界)の一つ、『白の世界(ホワイトワールド)』から連絡が有りました。近く奴等を殲滅させる用意があると。『バックワールド』の世界の我々は何もせず静観していれば良いとの事です。」

「なに?何もするなだと?」

大統領はハハハと笑い声をあげる。

「我々も舐められたものだな。まぁ良い。『白の世界(ホワイトワールド)』の者達のお手並みを拝見しようではないか。」




【二人の少女編②】

黒のアリス

本名アリス・クリオネ

彼女が産まれた村は『寄生虫』に感染した人々の暴動により滅びたと言う。

数年前に発見された『寄生虫』は人々の脳に巣くい人々の人格を変えてしまう。
不運にも、アリスの村は『寄生虫』が蔓延し全ての村人が『寄生虫』の餌食となった。

周囲の他の村人達は『寄生虫』の感染を恐れて、その村を封鎖し火を放った。

何と言う悲劇

何と言う不運

『寄生虫』と言う自然災害を防ぐ事は不可能のように思われた。


しかし、アリスの持つ特殊能力『千里眼』の力がアリスに真実を教えてくれた。

『寄生虫』は決して自然に発生したものでは無い。人為的に産み出された、外の世界から持ち込まれたものだと。

そこでアリスは、『寄生虫』を産み出した奴等に復讐を誓う。

アリスの持つ異質な力を受け入れてくれたのは、新世界ローマ教会。

科学が発達した『バックワールド』の世界では、一般的に魔法使いは忌み嫌われる存在。多くの国では魔法使いは存在しない。
それは旧世紀時代に滅びた過去の遺物。

新世界ローマ教会が、密かに魔法使いを保護し育成していた事はアリスにとって幸いであった。

ここにアリスは自らの天命を確信する。

新世界ローマ教会の魔導師達と共に『寄生虫』を造り出した奴等を倒す。

その為にアリスは、自身の持てる全ての力をローマ教会に捧げる。


そして、もう一人

『寄生虫』を造り出した奴等に敵対する少女。

李  羽花(リー・フイファ)

ユイファが初めて『寄生虫』の存在を知ったのは、日本で出会った一つ歳上の少女の話からであった。

彼女の名前は夢野  可憐(ゆめの  かれん)。

可憐は、この世界の人間が『寄生虫』を知るよりも早く奴等と戦っていた。
ユイファの遠い祖先が暮らしていた『ユグドラシル』の世界で、可憐は『寄生虫』の存在を知ったのだ。

「可憐……、私も可憐の力になりたい。私を『ユグドラシル』の世界に連れて行って欲しい。」

いつの日だったかユイファは可憐にそう頼んだ。元よりユイファは可憐に命を救われた事がある。命の恩人の力になりたいと思うのが人間としての心情であろう。

しかし、可憐はユイファの申し出を断った。

「奴等の狙いは『ユグドラシル』の世界だけでは有りません。この私達が住む地球も狙われているのです。」

可憐はユイファに言う。

「もしも私が死ぬような事があったら、私の代わりに『寄生虫』の存在を皆さんに伝えて下さい。『寄生虫』は自然に産まれたものでは有りません。奴等を倒さなければ、人類は滅びるでしょう。」

そして、可憐の言葉は的中した。

奴等は『寄生虫』を操り、この世界への侵略を開始した。世界の国々は戦渦に巻き込まれ、ユイファの故郷である中華人民共和国も滅びてしまう。

このまま奴等を放置すれば、世界の全ての国が崩壊する。アメリカ合衆国ですら、自らの兵器により自滅する。

おそらく『核戦争』を引き起こす事が奴等の狙い。

ユイファは隣で魔法を発動させようとしているアリス・クリオネの横顔をちらりと見る。

アリスは不思議そうにユイファの顔を見返して言う。

「どうしましたか?私の顔に何か付いているのかしら?」

アリスは目をパチクリさせて、自分の顔をペタペタと触った。

「違うわアリス。」

ユイファは少し微笑んでアリスに言う。

「アリス……、あなたは不思議な人ね。見た目も雰囲気もまるで違うのに、あなたは私の友人に似ている気がします。何より、あなたは私と同じ運命にある。そんな気がするのです。」

アリスはユイファの言葉を聞いて、納得したように頷いた。

「同じ運命……。そうね、私達は同じ運命にあるのです。私の『千里眼』の能力が教えてくれました。」

―――――――私達は仲間なのです。


「さぁ、行きましょう。この戦いで全てが終わります。これが最後の戦いになるでしょう。」


アリスの魔法により『異空間』への扉が開かれる。


この日

新世界ローマ教会の精鋭200名による

アメリカ合衆国ホワイトハウスへの襲撃が開始された。