Seventh World 伝説の少女の章

【伝説の始まり編①】


その昔…

それは人類が産まれるよりも昔のこと

万物の創造神ガイアはオリュンポス十二神の神々に一つの命令をする。


神々に代わる種族の創造




森林と純潔の豊穣神アルテミスは、自ら創り出した新しい生命体に2つの贈り物をする。

万物の自然を操る能力

万物を破壊する黒い槍


アルテミスは願う。

「私の創り出した種族が他の神々が産み出した種族に滅ぼされる事の無いように…。」

大自然をこよなく愛したアルテミスは自ら産み出した種族にこう名付ける。



森の妖精


『エルフ』と









「シュリル様!敵襲です!既に森の城は完全に包囲されています。」

シュリルと呼ばれた男は静かに頷く。

「遂に来たか……。それで敵はどこの者だ?」

「はっ……、おそらく妖精(フェアリー)族を除く全ての種族の連合軍だと思われます。」

「ふむ……」

エルフ族の偉大なる王 シュリルは一度頷くと、側に置いてあった黒い槍を手に持ち、部下の戦士達に伝令をする。

「怯むでない。連合軍とは言え雑兵の集まり、私が直々に返り討ちにして来よう。」

「そんな……シュリル様自ら……。」

部下の一人が心配そうにシュリルを見つめる。

「こうなったのも私の責任。休戦協定を破った人族を擁護したのだから当然であろう。」

シュリルが森の城を出ようとした時…

「お待ちください。お父様。」

1人の少女に呼び止められる。
年齢は16〜17歳くらいのとても綺麗な顔をした少女。

少女は言う。

「お父様、私が行きましょう。」

驚くシュリル。

「何を馬鹿な事を……、お前は城の中で待っておれば良い。これは王である私の役目だ。」

しかし少女は引き下がる様子もなく、尚も父に告げる。

「お父様では勝てませぬ。」

「なんだと?」

少女は言う。

「その槍……『アルテミスの槍』の真の力を引き出せるのは、お母様が亡くなった今となっては、私だけです。エルフの一族は女系の一族。お父様では無理なのです。」

「………お前…。」

「安心して下さいお父様。私は負けません。この神聖なるエルフの森に於いては、私は無敵です。自然界に存在する森羅万象…全てが私に味方をするでしょう。」

少女は父親から黒色の槍を貰い受け、1人城の外へと向かう。

「ほぉ……、プリンセス様がお出ましか。これはこれは麗しい。」

「しかし、かの一族の能力は侮れ無い。例えプリンセス1人でも森の中では我々に不利ですぞ。」

「ふむ、ならば……」

敵軍を率いる幹部の1人が号令を掛ける。

「エルフの森を焼き払え!森も鳥も動物も草木一本残すでない。そうすれば、かの一族。エルフの一族など無力に等しい。」


ボワッ!

そしてエルフの森に火が放たれる。

幹部の男が言う。

「森の城にも火を放て!一匹たりとも城から出してはならぬ!焼き殺すのだ!」

プリンセスの少女は言う。

「おのれ…卑劣な……。」

「今日で貴様の一族も終わりだよプリンセス。人族に味方をした報いだ。死を持って償いたまえ!」

「そう……、ならばお見せしましょう。エルフの一族の真の力を―――」

そして少女は、周りを囲む数千人に及ぶ敵軍に攻撃を仕掛ける。




一族の命運を掛けた


たった1人の戦い






そして現代


中華人民共和国四川省

シュウ……

シュウ……

李  羽花(リー・ユイファ)が手に持つ黒い槍の意志が脳裏に流れ込んで来た。



それは遠い昔の記憶。

儚くも悲しい誰かの記憶がユイファの記憶とシンクロを始める。

(これは………)


李  羽花(リー・ユイファ)は思う。

(プリンセス・リーナ……、随分と久し振りに私の中に現れたのね。)

『アルテミスの槍』は単なる武器ではない。

『アルテミスの槍』が消滅してからと言うもの、リーナが私の中に現れる事は無かった。

神々が造ったこの槍は、古代の『ユグドラシルの英雄』プリンセス・リーナと私を繋ぐ道具なのかもしれない。

ユイファの身体に大自然のエネルギーが注ぎ込んで来る。

(この感覚は………)

ユイファは思う。

(私は負けない。……いや、負ける気がしない。)

エルフ族の王族の血が

ユイファの身体に流れる、その高貴な血が

滅び掛けた現代の世界に甦る。




【伝説の始まり編②】

李  羽花(リー・ユイファ)は、真っ黒に輝く長槍をくるりと回すと、片手でその槍をビュンと前方へ突き出した。

神々が創ったとされる伝説の武器『アルテミスの槍』

その威力は凄まじく、数百メートル先からユイファを狙っていたアメリカ合衆国特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』の兵士達を次々と斬り裂いて行く。

ビュン

「ぐわぁあぁ!」

「ぎゃあぁぁ!」

『アルテミスの槍』が造り出した風の威力だけでこの有り様。

シュウ……

(こいつ……雰囲気がガラリと変わりやがった。)

マーク・ブライアンは注意深くユイファを観察する。その耳は先程までと違い細長く伸びており、手に持つ黒い槍は尋常では無いオーラを放つ。そもそも、どこから巨大な武器を持ち出したのか。

(人間じゃない?それとも魔法使いか?)

「マーク!どけろ!俺が殺る!」

マークの後ろからそう叫ぶのはシルベスタ・ドラゴン。
左腕にはめられた特殊な武器が李  羽花(リー・ユイファ)を狙い撃つ。

バチバチバチッ!

「『超電磁砲(レールガン)』!!」

ビュンと物凄い音を立てて放たれる電磁砲。

ユイファは、その攻撃を、まるで舞いでも踊るかのような華麗なステップでくぐり抜けると、瞬時にシルベスタの側まで駆け寄った。

「!!」

(速い!?)

ビシュ!

『アルテミスの槍』が

スパッ!

シルベスタの左腕を切断する。

『超電磁砲』を造り出す特殊な武器ごと斬り落とされた左腕から真っ赤な血が吹き出した。

「!!」

しかし

マーク・ブライアンが驚いたのはその後。

ドバッ!

グニョグニョグニョ!

「何だ!?」

血が吹き出したその傷口から、得体の知れない真っ黒な虫の群れが大量に飛び出したのだ。


『寄生虫』

シルベスタ・ドラゴンの身体の内部は、既に『寄生虫』に支配されていた。

『寄生虫』に感染しないはずの手術を受けた『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員達。

彼等の目的は『寄生虫』に感染した人間を殺す事。

その隊員であるシルベスタの身体から

なぜ『寄生虫』が!?

グニョグニョグニョ!

しかし、それだけでは終わらない。

シルベスタの腕から湧き出た、その大量の『寄生虫』がユイファを目掛けて飛んで行く。ユイファの身体を覆うようにまとわり付く『寄生虫』の群れ。

ユイファはそっと全身の闘気を高めて行く。

「ぎひ……ぎひ……。」

もはや理性を失ったシルベスタは、その左腕の傷口の痛みすら感じない。

薄気味悪い笑みを浮かべるシルベスタを見てユイファは言う。

「これが『寄生虫』に感染した人間の成れの果てなのですか。」

ビシュッ!

ビチャビチャビチャビチャ!

ユイファの造り出した波動の波が『寄生虫』の群れを粉砕して行く。

ユイファは『アルテミスの槍』を、もはや人間とは言い難いシルベスタに向けて構える。

「終わりです。安らかに眠りなさい。」

マーク・ブライアンはその光景を見て何とも言えない感情が込み上げて来る。

(いったい、今のは何なんだ?なぜシルベスタの身体から『寄生虫』が……)

まさか、俺達は

『寄生虫』に感染しているのか?

ビシュッ!!

ユイファの一撃で

『アルテミスの槍』の一撃で

シルベスタ・ドラゴンの身体が消滅するのを、マーク・ブライアンは茫然と見つめていた。





【伝説の始まり編③】

イタリア

世界三大勢力の一つ
新世界ローマ教会本部

世界中が戦渦に巻き込まれる中、新世界ローマ教会の本部だけは全くの無傷であった。

なぜなら、ローマ教会が誇る優秀な魔道師達によって造られた『魔導の壁』に守られているから。

例え最新鋭のミサイルが撃ち込まれても、核兵器による攻撃を受けても『魔導の壁』を撃ち破る事は出来ない。

アメリカ合衆国による世界侵攻が進む現在、合衆国の最大の敵は新世界ローマ教会なのである。

新世界ローマ教会のトップ、ベネディクト・シーザー三世・ローマ法王は諜報部隊からの情報収集に明け暮れていた。

まさか、三大勢力の一角を担う新世界国家連合が、こうも簡単に滅びるとは思わなかった。
10月開戦によりアメリカ軍が中国に攻撃を仕掛けてわずか1ヶ月。連合国の主力である中国とインドは、アメリカ軍に一方的に侵略され降参する。

問題は、アメリカがなぜ、このような暴挙に出たのか。

「『寄生虫』か………、どうやら奴等の支配は、思いの外(ほか)進んでいるようだな。」

ローマ法王は眉間にシワを寄せて頭を抱え込む。

『寄生虫』


数年前に発見された未知の生命体。
人間の脳に入り込んだ『寄生虫』は、その人間を凶暴化させ、更には人間を操る事も出来ると言う。

最初は誰も、そんな話を信じていなかった。
人間を操るなんて有り得ない。たかが2㎜程度の虫に何が出来る。

しかし、ローマ教会だけは早くから、その噂が真実であると確信していた。

黒のアリス

本名アリス・クリオネ

世界有数の魔導師が集まるローマ教会には、多くの異能の力を持つ戦士が存在する。

アリスの得意とする能力は『千里眼』。

アリス・クリオネは、世界で起きている出来事を的確に把握出来る。

「アメリカは完全に『寄生虫』の支配下に置かれました。もう手遅れでしょう。」

アリスの言葉にローマ法王は首を横に振る。

「もはや、この世界を救う方法は一つ。奴等を倒すしか無いようだな。」

『寄生虫』を作り出し操る奴等を………

アリスは表情を変えずローマ法王に答える。

「大丈夫ですわ、ローマ法王。このローマを囲む『魔導の壁』はそう簡単には突破出来ません。奴等(侵略者)の拠点はアメリカ合衆国。奴等の拠点を攻撃します。私達、ローマ教会の魔導師達の力なら可能です。」

「アリス………、お前が居て助かった。お前が居なければ、我々は何も知らずに自滅する所であった。」

ローマ法王の言葉にアリスは「ふふ」と笑みを見せる。なんとも形容し難い笑みでアリスは言う。

「私の能力『千里眼』は全ての物事を見通す力。この世界に居る奴等(侵略者)は現在1人だけです。決して倒せない敵では有りませんわ。」

ローマ法王は満足そうにアリスを見つめる。

「それで、奴を倒す方法はあるのかね?」

最もな質問にアリスは答える。

「奴はアメリカ合衆国『ホワイトハウス』に居ます。ローマ教会の精鋭達を集めて奇襲攻撃を仕掛けましょう。私の『異世界転移魔法』なら、奴に見つからずに『ホワイトハウス』に接近出来ますわ。」

「ほぉ……」

ローマ法王はアリスの言葉に耳を疑う。
なぜなら『異世界転移魔法』など高度な魔法、誰もが操れるものではない。

新世界ローマ教会に所属する多数の魔導師達の中でも、『異世界転移魔法』を操れる魔導師は存在しない。このような魔導師が、このローマに居たとは嬉しい誤算であった。

ローマ法王がそんな事を考えていると、アリスがおもむろに口を開く。

「その前に……」

アリスはふと人差し指を唇に当てて思考を巡らせる。

「先ほど中国大陸で気になる動きがありました。もしかしたら……。」

「む?どうしたのだ?」

「えぇ……」

真っ黒な衣装に身を包んだ黒のアリスは、『千里眼』の能力で知り得た情報を口にする。

「新しい『加護』の保持者が誕生しました。」

その言葉にローマ法王は驚く。

『加護』の保持者とは、この世界を侵略している奴等『天帝の加護』の保持者。もしくは、この世界を救うと言われている『聖なる加護』の保持者の何れかしか居ない。

そんな重要人物が、新たに中国大陸に現れたなど驚くのも無理は無い。

黒のアリスは、右の手の平を何もない空中に向けて魔法を発動する。


果たして彼女は


敵か味方か


「ちょっと行って参りますわ。」

そう言って、アリス・クリオネは黒く歪んだ異空間の入り口へと消えて行く。

中国までの道のりを異空間を通って移動するのだろう。なんとも物凄い魔導師である。

ローマ法王は窓の外に広がる夜空を見上げる。

(黒のアリス。もしかしたら、彼女はこの世界を救う救世主かもしれぬ。アリスが居れば『寄生虫』を操る侵略者をも倒せるかもしれない。)




アメリカ合衆国


新世界ローマ教会


世界を二分する二大勢力による



この世界『バックワールド』の命運を決める戦いが始まろうとしていた。









アリス・クリオネ(左)

李  羽花(リー・ユイファ)(右)