Seventh World 伝説の少女の章

【プロローグ】

かつて

神々が創った伝説の武器を操り

強大な敵に立ち向かった少女がいた。


十二の種族が覇権を争うこの世界『ユグドラシル』の世界に於いて、最強と言われた魔族。

その中でも頂点に君臨する魔族の王様。

敵の名は

デーモン・シュバルツ

この少女は、伝説の武器『アルテミスの槍』を片手にシュバルツと対峙した。

(何て奴だ!伝説の武器を破壊するなど、敵の武器を破壊する為に『アルテミスの槍』もろとも破壊するなど、正気とは思えん!)

伝説の武器『ハデスの鎌』を打ち砕かれたシュバルツはその少女に驚愕する。


王下八掌拳奥義―――――――


―――――――――――――波動掌!



伝説の武器『アルテミスの槍』を失いながらも、激しい死闘の末に少女は魔族の王様シュバルツを撃破する。


これは

今や伝説となった

儚くも強い意思を持った

そんな少女の物語。





【伝説の少女編①】


西暦2047年11月3日

中華人民共和国  四川省

四川省に住む少女 李 羽花(リー ユイファ)は18歳になった。

伝統のチャイナ服に身を包んだ羽花 (ユイファ)は、自然をこよなく愛する少女。

しかし、彼女には秘密がある。

中国四千年の歴史の中で磨き上げられた中国憲法の一つ、王下八掌拳(おうかはっしょうけん)の使い手であり、何よりも彼女の身体には人外の者の血が流れている。

エルフの一族

李 羽花(リー ユイファ)こそは、エルフの一族の生き残り。今は亡き『ユグドラシル』の世界で栄えたエルフ族の王家の末裔なのである。


ユイファは今、数十人の仲間と共に古びた小屋の中で外を眺めていた。

「来ました!敵は20人程度です。」

『バックワールド』と呼ばれるこの地球では、世界各地で戦争が勃発している。

新世界国家連合の盟主として名を馳せた中華人民共和国は、アメリカ合衆国の攻撃に合い開戦からわずか2ヶ月で降伏する。

羽花 (ユイファ)は敗戦後も抵抗を続けるレジスタンスの一員となり、中国にやって来た米軍と交戦中なのである。

しかし、今回は相手が悪い。
新たに四川省に投入された米軍の部隊は、悪名高い特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』。

数ヶ月前の日本での戦闘で壊滅的なダメージを受けた『フォーミュラ・ジャスティス』は、合衆国の威信に掛けて再結成された。

この世界に蔓延している『寄生虫』を排除すると言う名目で、他国の住民を虐殺して行くジェノサイド部隊。

レジスタンスの隊長、周  歩庵 (シュウ  ホアン)は悔しそうに羽花(ユイファ)に言う。

「ちっ!奴等、国際条約なんてあったもんじゃねぇ。無抵抗の住民まで殺していやがる。」

「周さん、私が奴等を引き付けます。住民を連れて避難して下さい!」

「ユイファ!無茶だ!我々だけでは何も出来ぬ!人民軍が滅んだ今となっては、我々は米軍を不意討ちで襲うしかない。アジトがバレた以上逃げるしかない。」

「しかし、このままでは全滅です。誰かが奴等を足止めしないと。」

「だからと言ってお前一人で何が出来る!逃げるぞ!羽花(ユイファ)!」

「いいえ、私は逃げません。」

「なに!?」

「私の身体には、かつて何千何万人もの敵に一人で立ち向かった英雄の血が流れているのです。

私は『ユグドラシルの英雄』の生まれ変り。たかが数十人の兵士を相手に逃げる訳にも行かないでしょう。」

李 羽花(リー ユイファ)は、全神経を集中させる。

「………ユイファ。」

身体からみなぎる闘志は、とても18歳の可愛い少女のものとは思えなかった。

「仕方の無い奴だ。」

周隊長は、そう言うとレジスタンス全軍に命令する。

「全軍突撃を仕掛ける!敵は米軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』!心して掛かれ!」

「おー!」

「任せてくれ!」

「数はこっちが勝っているんだ!俺達は負けないぜ!」

ユイファは目をぱちくりさせて隊長を見る。

「ユイファ、お前がレジスタンスに入ってくれて助かったよ。我が部隊の紅一点。既に抵抗を諦めていた俺達をここまで導いてくれたのはお前のお蔭だ。」


―――――――最後くらいは一緒に死のうぜ



「隊長………」

ユイファの瞳から涙が零れ落ちる。

幾多の戦闘を経験して来たユイファは、今までも強大な敵と戦って来た。その度に仲間達に助けられ生き延びて来たユイファも、今度ばかりは生き残れないであろう。

何せ敵は

アメリカ合衆国が造り出した化け物集団なのだから。



【伝説の少女編②】

『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員 シルベスタ・ドラゴンはその左腕にはめられた特殊な武器をレジスタンスの方へ向ける。

ビビッ――――

シルベスタの脳から発せられる電磁波の波が左腕を通過して、巨体な電気のエネルギーを造り出す。

『フォーミュラ・ジャスティス』の若き戦士シルベスタが得意とする能力。

『超電磁砲(レールガン)!』

ビシュ!

超電磁砲が爆音を立てて炸裂する。

ドッガーンッ!!

「ぐわぁあぁっ!」

「どわぁ!」

まるで紙クズのように吹き飛ぶレジスタンスの兵士達。

「くっ!撃て!ありったけの銃弾をぶちかませ!」

レジスタンスの隊長周  歩庵(シュウ・ホアン)が仲間達に指示を出す。

レジスタンスの武器はこの時代には旧式のアサルトライフル。しかし、人間を殺すには申し分ない火力だ。

ダダダダッ!

ダダダダッ!

マシンガンの銃弾が『フォーミュラ・ジャスティス』の戦闘員を狙い撃つ。

バシュバシュと身体に銃弾を受けるのは、『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員の一人 マーク・ブライアン。

マークの着こんだ緑色の防護服。まるでスライムのようなゼリー状の服は、レジスタンスが放つ銃弾を完全に遮断する。

「バカな!」

「何だあの防護服は!!」

驚きの声をあげるレジスタンスの兵士達。

「そんな攻撃は、私には効きませんよ。」

マークはそう言うと、歪な鞄から、妙な機械を取り出して両手に構えると

「電気拡散砲!」

ビビッ!

バチバチバチッ!

自らが造り出した攻撃兵器でレジスタンスに攻撃を仕掛ける。

「ぐわぁ!」

「ぎゃあぁぁ!!」

瞬く間にレジスタンスの兵士達を高圧電流で感電死させて行くマーク。


シルベスタとマークだけではない、
『フォーミュラ・ジャスティス』の兵士達は全員が脳に特殊な手術を施した超人集団。

常人の何倍もの体力とスピード、反射神経に特殊な能力まで持ち合わせた『フォーミュラ・ジャスティス』にとっては、レジスタンスの兵士など赤子を捻るように容易い。

数は少ないものの『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員達には、負ける要素など微塵もないように思われた。

しかし

「何だお前は!?」

「素手で抵抗しようってのか?」

「お前もレジスタンスの一員か?笑わせてくれる。」

『フォーミュラ・ジャスティス』の隊員達の前に、一人の少女が立ち塞がる。

その美しくも胸に強い想いを秘めた少女、 李 羽花(リー ユイファ)は、すっと手の平を敵の兵士達に向けて差し向けた。


「王下八掌拳 奥義!」


―――――――『波動掌(はどうしょう)』


ゴゴゴゴゴゴォ

すると波動の波が大気に伝わり

「ぐわっ!!」

「どわっ!!」

目の前にいた『フォーミュラ・ジャスティス』の兵士達を一瞬にして戦闘不能にする。

「おい!大丈夫か!?」 

「こいつ!怪しい技を使う!」

もはや絶対絶命の戦場で、一人で敵に立ち向かうユイファ。

これは

死を覚悟した一人の少女

『ユグドラシルの英雄』の物語。



【伝説の少女編③】

ユイファの動きは、確かに常人の域を越えていた。

中国四千年の歴史が為せる技なのか、身体に流れるエルフの一族の血によるものなのか。
それとも、ユイファ自身が多くの修羅場をくぐり抜けて来た証明なのか。

一人、また一人と敵の兵士を葬り去るユイファには鬼気迫るものがあった。

(なかなかやる。しかし!)

『超電磁砲(レールガン)!』

遠距離から放たれたシルベスタの電磁砲が、巨大なエネルギーの塊となり、ユイファを狙い撃つ。

素早く身をかわすユイファ。

ドッガーッン!!

「きゃっ!」

直撃は免れたものの、あまりにも強大な爆発がユイファを吹き飛ばす。

「今だ!」

「全員で取り囲め!」

『フォーミュラ・ジャスティス』の兵士達がユイファの周りをぐるりと囲む。

各々が最新鋭の武器を持ち、ユイファに狙いを定める。ユイファを警戒してか、その距離は少し離れている。

マーク・ブライアンが兵士達に言う。

「敵の技の射程距離はそれほど長く無い。おそらく5~6メートル。動きは素早いが、それは俺達も同じ事。その距離で一斉攻撃をすれば、俺達の勝利は間違い無い。俺の頭脳がそう言っている。」

マーク・ブライアンの特殊能力『超視力』と『超頭脳』から導き出された計算は絶対。逃げ場を失ったユイファには、生き残る術は無い。

誰もがそう思った。

もしかしたら、李 羽花(リー ユイファ)自身も命を諦めたていたかも知れない。

しかし、天はユイファを見捨てない。

かつて、何度も強大な敵を倒して来たユイファに、奇跡が起こる。


空が突然 暗くなった。

まだ日が落ちるには早い時間帯にも関わらず、夜空が現れたのだ。

「何だ………?」

シルベスタが空を見上げると、そこに一筋の流れ星が落ちて来るのが見えた。

その眩いばかりの流れ星は、驚く事に目の前で戦っていた少女(ユイファ)の頭上に落ちて来た。

「うぉ!」

「危ない!」

『フォーミュラ・ジャスティス』の兵士達が思わずその身を避ける。

しかし、不思議な事に、その流れ星は少女の頭の中に吸い込まれるように消えて行った。

そして、ユイファの身体に異変が起きる。

小さな少女の身体に闘気がみなぎり

その細い右手には、黒く輝く巨大な槍が現れる。

「これは………!?」

かつて魔族の王シュバルツとの戦闘で砕け散ったはずの伝説の武器。


『アルテミスの槍』が

李 羽花(リー ユイファ)の手元に姿を現した。


しんと静まり返る戦場。

ユイファはそっと口を開く。

「さぁ、始めましょう。本当の戦いは……」



―――――――これからです。












イラスト提供  にゃんごろ様