Seventh World ひとひらの桜の章
【終戦編①】
『大樹の国』の戦場。
その一番東に位置する『連合軍』の本陣で戦況を見守るのはロンメル国王。
隣に居るのは『雷(イカズチ)の国』の狂人と言われる殺人鬼 人斬りジャック。
ジャックは楽しそうな笑みを浮かべてロンメル国王に話し掛ける。
「凄いじゃねぇか。これが『大樹の国』の秘密兵器『毒の幻石』の力か。」
『大樹の森』に生息する大蜘蛛から取り出した猛毒を原料に造り出したこの世界特有の兵器。
何十年も掛けて蓄えた『毒の幻石』を一斉に破裂させたロンメル国王は、ジャックとは対照的な表情を浮かべていた。
「いかに自分が助かる為とは言え、味方の戦士達まで殺す事になる。この戦場に居る50万人の戦士達の、果たして何人が生き残るか……」
ジャックは、ロンメル国王の顔を覗き込んでバカにした表情を見せる。
「はぁ?ロンメルさんよ。ここは『修羅の世界』だぜ?ましてや、ここは戦場。勝った者が正義、死ぬのは弱いからだ。俺達は勝ったんだよ。あの魔王リュウギにな。」
すると、二人の会話に入り込む声が聴こえて来た。
「ふふ♪あたしもジャックの意見に賛成よ♪殺される方が悪いの。これで心置きなく、あなた達を殺せるわね。」
ロンメルとジャックが居る場所の少し離れた空間から、突然現れた少女。桜色の衣装を身に纏う少女は、可愛らしい笑みを浮かべて二人に言う。
「貴様!チェリー!?」
「お主、生きていたのか!」
驚く二人にチェリーは更に言葉を掛ける。
「予想以上の働きだわ。これで、この世界の戦士達は全滅よね。もう、あなた達にも用は無いから。」
――――――ここで、死んでちょうだい♪
「貴様!!」
人斬りジャックは得意の二本の短剣を取り出してチェリー・ブロッサムに攻撃を仕掛ける。
まさに戦闘が始まる前に起こったのと同じ光景。
先ほどの戦闘との違いは
シュバッ!
スバッ!
ビシュ!
「!!」
チェリーはジャックの攻撃を全く避けない事。ジャックの鋭い短剣の刃が、チェリーの身体を斬り刻む。
しかし
斬られた傷口から血を流すチェリーは、悲鳴ひとつあげる事もなく可愛らしく微笑んでいる。
「な!いったいこれは!」
驚くジャックにチェリーは言う。
「ふふ♪残念でした。そんな攻撃ではあたしは死なない。」
―――――いや
―――――――――死ねないのよ
「!!バ……バケモノ!?」
「それじゃあ、終わりにするね♪」
そう言うとチェリーは素早くジャックとの間合いを詰めて、必殺の後ろ廻し蹴りを繰り出す。
バキッ!
「ガ……!」
バシュッ!!
「!!」
すると、ジャックの蹴られた頭部が風船のように破裂する。
「な!何をした!?」
「ふふ♪」
チェリーは楽しそうにロンメルに答える。
「もう大変だったわ。正体がバレないように弱く見せ掛けるのも。」
「何だと!?」
「あたしは触れたモノを爆発させる事が出来るのよ。それが、あたしの魔法。」
「魔法!?何だそれは!それに何故ジャックを……、我々を狙うのだ。我々は仲間であろう。」
「あら?おかしな事を言うのね。あなたも味方を殺したじゃない。それも大量にね♪」
「ぐっ………。」
「それに、ジャックはあたしの胸を掴んだのよ。そんなの許せ無いじゃない?だから殺したの。」
「胸!?では、この私は助けてくれるのか。私はお前に何もしていない。」
ロンメル国王がそう言うとチェリーはクスッと笑って答える。
「ぶっぶー。残念でした。だって、あなた。今、私のスカートの中を見たじゃない?そんなロリコンスケベは許さないわ♪」
「!!そんな……。見たってそれは、お前が勝手に……。」
シュッ――――――
チェリーはもう一度、後ろ廻し蹴りを繰り出してロンメル国王の頭部を蹴り飛ばす。
チェリーの足がロンメルの頭を直撃し
バシュッ!
一瞬にしてロンメルの頭が破裂する。
チェリーは頭の無くなったロンメルに言う。
「ふふ♪サービスよ。死ぬ前にもう一度、可愛いあたしのスカートの中を見れて良かったじゃない♪」
可愛らしく微笑むチェリーに、空間の歪みから顔を覗かせるジェイスが声を掛ける。
「おいチェリー、用件は済んだのか。早く行くぞ。天帝様が待っておられる。」
一旦戻るぞ
我々の世界――――――
『高天原(タガマガハラ)』の世界へ
【終戦編②】
一息吸っただけで、人間を即死させる猛毒の大気。紫色の大気が広い戦場を覆って行く。
「まずい!早くしないと僕達も毒の餌食だ!ひかり!麗さん!早く!!」
叫び声をあげる銀河 昴 (ぎんが すばる)。
しかし、二人の周りには『修羅の世界』の戦士達が群がり、昴の居る『異世界への扉』により造り出された異空間の入口に辿り着く事は出来ない。
「くっ!なぜ戦闘を止めない!すぐそこに猛毒が迫っていると言うのに!」
苛立ちを隠せない昴に、小さな妖精ピクシー・ステラが答える。
「無駄です昴。あれは『寄生虫』に洗脳されている戦士達。敵の術に掛かり理性を失っているようです。」
「それじゃあ!どうするんだ!時間が無いんだ!ひかりと麗さんを見殺しには出来ない!」
すると、隣で話を聞いていた巨漢の男、リュウギ・アルタロスが口を開く。
「仕方ない阿呆どもだのぉ。『連合軍』も『焔の国』の戦士達も、自分の命よりも敵を殺す事を優先するとは……、人間とは愚かな生き物だ。」
「なんだと!」
昴はリュウギを睨み付ける。
「ふむ。お主達には聞きたい事が山ほどある。命を助けられた恩もある。あの二人の女性を見捨てる訳には行かないの。」
「………え?」
「見せてやろうぞ。魔王の力と言うものを。」
そして、リュウギはゆっくりと立ちあがり、広い戦場に居る50万人の戦士達を見渡した。
ゴゴゴゴゴゴォ――――――
リュウギ・アルタロスの身体から巨大なオーラが溢れ出す。
「これは……」
「物凄い力を感じます。しかし魔力では有りません。この力はいったい!?」
昴とステラは、リュウギから溢れるオーラに驚き圧倒される。
この世界の戦士は魔法は使えない。魔法に近い能力と言えば、リュウギやシリュウが身に付けている妖力がある。しかし、リュウギは度重なる戦闘で既に妖力を使い果たしていた。
これは魔力でも妖力でも無い力。
『聖なる加護』の保持者であるリュウギ・アルタロスが持つ特殊能力。
――――――――――『魔王の威圧』
リュウギから発せられるオーラが、『寄生虫』に洗脳されている戦士達の理性を呼び戻す。
「………あれ?」
「どうしたんだ俺は………。」
すかさずリュウギが、広い戦場に向けて大声を張り上げた。
「我は魔王ぞ!よいかお前達!あれを見ろ!!」
戦士達は訳も分からずリュウギの指差した方角を見ると、そこには紫色に染まった大気が立ち込めているではないか。
「毒だ!あれは『大樹の国』に生息する毒蜘蛛の猛毒である!!今すぐ戦場を離れるがよい!!」
魔王リュウギの巨体から発せられる大声に近くの戦士達が反応する。
「おい!やばいぞ!戦っている暇は無い!」
「逃げろ!毒に殺られるぞ!」
逃げ出す戦士達を見て、周りの戦士達も一斉に逃げ出した。
「お?どうなってんだ?」
不思議そうな顔の昴にステラが言う。
「さぁ……?魔王には『寄生虫』の支配を無効化する力があるのかしら?」
「本当か!それは凄いじゃないか!」
すると、そこに駆け寄って来た神代 麗が二人に告げる。
「まだよ。戦士達の脳に巣くう『寄生虫』は消えていません。一時的に効力を失っているだけでしょう。」
「そうか……。とにかく僕達もまずい。早く『異空間』へ逃げ込もう!」
昴達4人がそんな相談をしている中、エレナ・エリュテイアは左手に浮かぶ五芒星の紋章を天に掲げて叫ぶ。
「エレメンタル!『シルフィード』!」
ピカッ!
ビュン―――――
すると、風の妖精『シルフィード』が造り出した巨大な竜巻が、猛毒の大気を吹き飛ばして行く。
「ひかり……、すげぇな………。」
エレナはにっこりと笑い昴に言う。
「助かったわ。戦士達の攻撃を受けながら『シルフィード』の魔法を詠唱するのは困難だもの。魔王のお蔭ね。」
こうして、『修羅の世界』で繰り広げられた『連合軍』と『焔の国』の戦いは終わった。
『連合軍』を指揮していた『大樹の国』のロンメル国王は何者かにより殺害され、魔王リュウギ・アルタロスと天才妖術師のシリュウ・トキサダも、戦場から姿を消したと言う。
また、この戦闘には『アンダーワールド』の住人とは明らかに違う異質な能力を持つ戦士達が参戦したとの証言もある。
魔王と言う絶対的な強者を失った『修羅の世界』は、更に混迷を深め、殺戮による殺戮が果てしなく続いて行く。
彼等の脳内には『寄生虫』と呼ばれる、ほんの2㎜程度の小さな虫が蠢いている事を、この世界の人間は誰も知らない。
ひとひらの桜の章 完
【エピローグ】
「どうやら、この世界も終わりのようね。」
モニターに写し出される画像を見て呟いたのは、シルフレア・サーシャス。
「お嬢様『フロントワールド』と『バックワールド』の2つの世界も先程、崩壊したようですな。」
そう答えるのは背の高い黒い衣装に身を包んだ男性。
「核戦争でも起きたのかしら?人間と言うのは哀れなものですね。」
「お嬢様、それは致し方の無い事です。彼等は私達とは違うのですから。」
「………そうね。」
シルフレアはそれだけ言うと、モニターの画面を消してその男性に言う。
「これで『へスぺリアス』『ユグドラシル』に続き『フロントワールド』『バックワールド』『修羅の世界』も奴等の手に墜ちるでしょう。」
「そうなりますな。」
「次に奴等は、この『白の世界 (ホワイトワールド)』に戦力を投入して来る可能性が高いわ。」
「おそらく……。」
シルフレアは「ふふ」と笑みを見せる。
「奴等の侵略もこれで終わりですね。私達が奴等に負ける訳が無いもの。」
「私達、『天使の一族』が居る限り、この世界を好きにはさせないわ。」
バサッ!
そう言うシルフレアの背中から巨大な白い翼が現れる。
天使の羽を広げたシルフレアが、隣に座っている女性に声を掛ける。
「『聖なる加護』の保持者の力など不要です。」
このシルフレアが
――――――奴等を殲滅させましょう。
「そうでしょう?可憐 (かれん)。」
Seventh World
――――――――――――To be continued