Seventh World ひとひらの桜の章
【シリュウとリュウギ編①】
ここは『修羅の世界』
50万人の戦士達が犇(ひし)めき合う戦場は、まさに修羅どもが集まる地獄絵図と化していた。
それぞれが腕に自信のある猛者達が敵の戦士を殺す為にその技を披露する。
敵を殺しても、その直後には他の戦士に殺される。
真の強者のみが生き残る世界。
そんな戦場の中にあって、他の戦士達とは明らかに違う二人の戦士がいた。
リュウギ・アルタロス
シリュウ・トキサダ
あまりにも強大な力を有する二人の戦士。
『修羅の世界』の中でも、おそらく頂点に立つ二人の戦士による戦闘が戦場のど真ん中で繰り広げられていた。
「『白蛇の舞い(しろへびのまい)』!」
「『黒蛇の舞い(くろへびのまい)』!」
白と黒のおびただしい数の大蛇が戦場の一角を支配する。
ここまでの所、二人の攻防は全くの互角。
妖術だけでなく、身体能力に優れるリュウギ・アルタロスと互角の戦いを演じるシリュウ・トキサダもやはり只者ではない。むしろ、妖術だけなら魔王リュウギをも上回る実力。
シリュウの真っ黒い大蛇が、リュウギ・アルタロスに襲い掛かる。
シャー!
「ふん!」
しかし、リュウギの『妖気の膜(まく)』の前では、その身体に傷ひとつ負わす事は出来ない。
(くっ!まだか、リュウギの妖力が尽きるのは!)
焦りの色が出始めたシリュウにリュウギは言う。
「よくやったシリュウよ。しかし、人間のお主では妖狐の一族である俺様には勝てぬ。生まれながらに、膨大な妖力を持って生れた俺様とお主との差だ。」
「ふざけるな!妖狐の一族を見殺しにしたお主には妖狐の一族を語る資格は無い!」
戦場で睨み合う二人の戦士。
リュウギは、ふと表情を緩める。
「何を言うかシリュウ。妖狐の一族を殺したのは人間ぞ。『焔の国』の戦士達が妖狐の村を襲ったのだ。だから、俺様は『焔の国』の国王を殺し『焔の国』を乗っ取った。」
「違う!妖狐の一族と人間は上手く行っていた。お互い協力し戦火を交える事も無かった。それを、お主がぶち壊したのであろう!」
リュウギは少しの間 沈黙し、そしてシリュウに言う。
「人間どもの言いなりになるのが、上手く言っていたとは、おかしな事を言う。ここは『修羅の世界』。強い者が弱者を支配するのが道理。俺様の方が人間よりも強い。それだけの話だ。」
そろそろ決着を付けようぞ―――――――
リュウギの膨大な妖力が膨れ上がる。
これが魔王の実力。
今までの妖力とは桁が違う。この一撃を受ければ、如何にシリュウとて一溜りも無い。
「行くぞシリュウ!妖狐の一族に伝わる三大妖術がひとつ!」
――――――魔獣キュウビ!!
ゴゴゴゴゴゴォ!!
それは真っ黒な巨大な化け物。九つの尾を持つ狐の魔獣。その尾一本で数百人もの戦士を吹き飛ばす威力を持つ。
「ちっ!」
シリュウは巨大な狐の化け物を迎え撃つ態勢に入る。
ここが勝負の分かれ目―――――
シリュウがそう思った時
「!!」
「!!」
戦場に異変が起きる。
それまで二人の戦闘を傍観していた戦士達が、リュウギの産み出した魔獣キュウビに攻撃を開始する。
ギャオォオォォーン!
キュウビは巨大な九つの尻尾を振り回し、戦士達を吹き飛ばして行く。
「ぐわっ!」
「うわぁあぁ!!」
次々と殺される戦士達。
「ふん、黙って見ておれば死なずに済むものを。阿呆な奴等だのぉ。」
リュウギが、つまらなそうに殺されて行く戦士達を見る。
しかし、戦士達の攻撃はそれだけでは終わらない。
「死ね魔王!」
「狐の化け物がぁ!」
リュウギの後ろから大剣で襲い掛かる二人の戦士。
「む!?」
リュウギは無造作に右腕を振り回し
ブシャッ!
自分を襲って来た戦士達の頭を粉砕する。
しかし、驚いたのは、リュウギを襲った戦士は『焔の国』の戦士達。自分の部下である戦士が国王であるリュウギに攻撃を仕掛けたのだ。
(なんだ?この状況で裏切りか?)
リュウギがそう思ったのも束の間。
周りを取り囲んでいた戦士達が、敵も味方も関係なく魔獣キュウビに攻撃を仕掛けているではないか。
ギャオォオォォーン!
この戦場には50万人の戦士がいる。
殺されても殺されても次々と湧き出る戦士達の前には、さすがの魔獣も耐えきれない。
剣に槍に弓での攻撃。
この世界特有の幻石で攻撃する戦士もいる。
『修羅の世界』の猛者達の攻撃に、遂に魔獣キュウビは激しい悲鳴を上げて消滅する。
「バカな!何がどうなっている!」
これにはリュウギも驚きを隠せない。
敵の戦士だけではなく、『焔の国』の戦士までもが、国王であるリュウギに向かって来るではないか。
「撃て!魔王を殺せ!」
シュシュシュシュシュッ!
無数の弓矢がリュウギに向かって放たれる。
「この阿呆共がぁ!」
たまらずリュウギは俊敏な動きで弓を放った戦士達を一網打尽にする。
自分の部下である『焔の国』の戦士達を……
「今だ!一斉に攻撃しろ!」
「む!」
殺しても殺しても、襲って来る戦士達。 まるで命を惜しく無いかのような怒濤の攻撃。
50万人の戦士達が魔王リュウギ・アルタロスの敵となる。
【シリュウとリュウギ編②】
「これは…、いったいどう言う事だ。」
驚いたのはリュウギだけでは無い。先ほどまでリュウギと死闘を演じていたシリュウ・トキサダは、目の前で起きている状況を理解出来ないでいた。
(『焔の国』の戦士達による裏切り?これほど大勢の戦士達が、一斉に?)
茫然としているシリュウ。
そこにシリュウの後ろから聞き覚えのある少女の声が聞こえて来た。
「シリュウ!」
「チェリー!」
見るとチェリー・ブロッサムがシリュウの元に走り込んで来るではないか。
しかも、チェリーの桜色の衣装は真っ赤な血の色で染まっている。誰かにやられたか。
「チェリー!大丈夫か!酷い怪我だ!」
チェリーは可愛らしい顔で微笑む。
「やっぱりシリュウは優しいのね。」
そして
「あたしなら大丈夫。それより、今がチャンスよ。シリュウ!あなたの妖術で魔王を倒すの!」
「チェリー……。」
「あれほどの戦士達の攻撃を受ければ、さすがの魔王も妖力が消耗しているわ。今なら魔王を倒せる!」
シリュウはリュウギの方へと振り向く。
確かに
確かに今のリュウギは、その妖力を消耗している。今なら鉄壁の防御を誇るリュウギの『妖気の膜』を撃ち破れるだろう。
俺の『ヤマタノオロチ』であれば、魔王リュウギを殺す事が出来る。
「分かった。多対一など不本意ではあるが、今はそんな事も言っていられない。」
魔王リュウギは俺が倒す――――
シリュウは両腕を前に出し、妖狐の一族に伝わる三大妖術のひとつを発動する。
「ヤマタノオロチ!!」
8つの頭と8つの尾を持つ巨大な化け物。
魔獣キュウビにも匹敵する化け物が魔王リュウギに襲い掛かる。
戦士達に囲まれたリュウギは、その巨大な殺気を感じ取った。
( まずい!今、あの攻撃を受ければ、俺様の妖気は持たない。『妖気の膜』は粉砕するであろう。)
絶対絶命!
四面楚歌の状況に陥るリュウギ・アルタロス。
攻撃を仕掛けるシリュウを見てチェリーは思う。
(ふふ……、やっぱりシリュウは頼りになるわ。これで魔王も……)
いや
(『聖なる加護』の保持者であるリュウギ・アルタロスも……)
―――――――――おしまいね♪
【シリュウとリュウギ編③】
妖狐の一族に伝わる三大妖術。8つの頭と8つの尾を持つ巨大な化け物『ヤマタノオロチ』が、リュウギ・アルタロスを襲う。
周りを取り囲む戦士達の攻撃を受けるのに妖力を使い果たしたリュウギには、もはや『ヤマタノオロチ』の攻撃を耐える力は残っていない。
( ぐ……もはや、これまでか。この俺様がこんな所で朽ち果てるとは……。)
遂にリュウギは死を覚悟した。
殺し殺されて、いつまでも戦火が絶えない『修羅の世界』。『妖狐の一族』も人間共に殺された。
この止まらない負の連鎖を止める方法はただ一つ。
絶対的な強者による恐怖による支配。
それが出来るのは自分を於いて他にはいない。
リュウギが目指すのは力による世界の統一。
その夢もここで尽きる。
『修羅の世界』では強い者が正義。
( この俺様でも、力不足だったと言う事か……。仕方ないのぉ。それが『修羅の世界』の掟なのだから。)
そして
『ヤマタノオロチ』が、遂にリュウギを捕らえようとした時。
「エレメンタル『イフリート』!」
どこからともなく声が聞こえて来た。
戦場に似合わない若い少女の声。
『ヤマタノオロチ』にも勝るとも劣らない巨大な炎の怪物が現れた。
ボワッ!
ギャオォオォーンッ!!
絶叫をあげる『ヤマタノオロチ』。
突然現れた炎の聖霊『イフリート』が『ヤマタノオロチ』を攻撃したのだ。
激しくぶつかり合う二つの巨大な怪物が
バチバチバチバチッ!
ドッカーンッ!
音を立てて消滅する。
「な!!」
「誰!?」
思わず声をあげるシリュウとチェリー。
妖狐の一族に伝わる三大妖術の一つ『ヤマタノオロチ』を粉砕出来るほどの妖術の使い手など、シリュウとリュウギ以外には聞いた事も無い。
二人が振り向いた先に立っているのは、まだ若い少女。
歳はチェリー・ブロッサムと同じくらいに見える。
(ひかり!?)
チェリーはその少女を見て思う。
( いや、違う。顔は似ているけれど別人だ。髪の色も瞳の色も、着ている衣装も違う。)
「あなた、誰なの?もうすぐ魔王を倒せるところだったのに、邪魔をしないでくれる?」
すると、その星空色 (ほしぞらいろ)の衣装を纏った少女がチェリーに答える。
「私の名前は……」
―――――エレナ・エリュテイア
「チェリー、あなたに確かめたい事があります。」
「エレナ……ですって?」
聞いた事がある。
確か『ヘスペリアス』の世界でジェイスが少しの間 共に過ごした戦士。
オーロラの姫君と呼ばれる『ヘスペリアス』の世界 最強の魔法使い。
( なぜ、エレナがこの世界に!)
「確かエレナはジェイスに殺されたと聞いているわ。何で『オーロラの姫君』が生きているのよ!」
驚くチェリー・ブロッサムを見てエレナはそっと口を開く。
「チェリー……、やはりあなたはジェイスの……、いや、奴等の仲間なのですね。残念ですが、これで躊躇 (ためら)いは無くなりました。」
エレナはその左手を天に突き上げる。
「『ヘスペリアス』の世界を滅ぼしたあなた達を生かしておく訳には行きません。」
ピカッ――――――――
星空色 (ほしぞらいろ)の衣装に身を包んだ少女。エレナ・エリュテイアの左手の紋章。
―――――――五芒星の紋章が光り輝く
