Seventh World 星空の光の章
【オーロラのひかり編①】
銀河 昴(ぎんが すばる)は日本帝都大学に通う普通の大学生である。
友達とワイワイ騒ぎながら何の変哲も無い生活を送り、やがて社会人となり平凡な人生を歩んで行く。
昴はそう思っていた。
世間を騒がしている殺人事件やNASAが発見した『地球外生命体』など自分とは無縁の世界。
ところが、昴を取り巻く環境は一変した。
大学の講義中に起きた暴動。
教室には手榴弾が投げ込まれ。
北海道ではロシアの軍隊に襲われ。
更には、アメリカの軍用機が上空に現れ、陸上自衛隊の一個師団を壊滅させる。
非現実的な世界が、次々と昴を襲うのだ。
そして、昴の驚きに追い打ちを掛ける少女の名は、星空 ひかり(ほしそら ひかり)。
昴の目の前で、空色の手袋を投げ捨てたひかりは、左手を天に突き出した。
(ひかり……何をする気だ……)
昴はそう思い、ひかりの左手に注目すると、その手の甲に薄っすらと星型の紋章が浮かび上がった。
星型に輝くその紋章を見て、昴は呟く。
「あれは……五芒星………」
すると驚く事に、星空 ひかり(ほしそら ひかり)の全身が眩いばかりの光に包まれる。
鮮やかな光に目を眩ませた昴が、次に見た ひかりの姿は、先程までの ひかりとは様変わりしていた。
全身を見た事も無い異国の衣装に身を包み、髪の色までもが綺麗なエメラルドブルーに発光している。
昴は
その少女を知っている。
稚内の宗谷岬で、初めて ひかりと出会った時の姿。彼女は間違いなく、あの日に見た星空 ひかり(ほしそら ひかり)である。
五芒星の紋章が青紫色に変色し、ひかりは左手を真正面へと突き出した。
ビュン―――――
米軍の最新鋭AI搭載型無人戦闘機『ハリケーン』が放つレーザービームが、ピクシー・ステラを捉えるその瞬間。
ビカッ!
バチバチバチッ!
ドッガーッン!!
ひかりの左手から放たれた青紫色の光線が、レーザービームを粉砕した。
(な!なんだ!今のは!!)
――――――すごい………!
昴は、茫然とその光景を見つめていた。
すかさず、星空 ひかり(ほしそら ひかり)はステラに向って叫ぶ。
「ステラ!後は私に任せて、ステラは神童博士と すばるをお願い!」
ステラはひかりを見て、もう一度
もう一度、挫けた心を奮い立たせる。
(そうね、ひかり。あなたも私と同じ。)
そう―――
―――――私は、ひとりじゃない。
ビュン―――
ビュン―――――
ビュン―――――――
米軍が誇る5機の無人戦闘機『ハリケーン』が、神居古潭(かむいこたん)の上空を旋回し、星空 ひかり(ほしそら ひかり)を取り囲んだ。
どうやら、ひかりを次の標的に定めたらしい。
昴はひかりの危機を感じて叫び声を上げる。
「ステラさん!ひかりが危ない!」
僕を避難させようと誘導する小さな妖精ステラに頼るしか出来ない昴。
すると、昴の隣を走っていた神童博士が
「昴くん、あれはひかり君なのかい!?」
と昴に質問をして来る。
神童博士は様変わりした星空 ひかり(ほしそら ひかり)を見て驚いた様子だ。
僕に代わって答えるのはピクシー・ステラ。
「驚くのはまだ早いわ。ひかりは……、いえ、エレナ・エリュテイアの力はあんなものでは無い。あの姿は『五芒星』の5つあるエレメンタル(精霊)の一つに過ぎない。」
エレナは5つのエレメンタル(精霊)を自在に操る魔法の申し子。
エレナを讃えた『ヘスペリアス』の人々は彼女の事をこう呼んでいたそうです。
――――――オーロラの姫君と
【オーロラのひかり編②】
エレナ・エリュテイアは自分の周りを旋回する5つの無人戦闘機をぐるりと見渡す。
自衛隊の砲撃が掠りもしないそのスピードは、米軍の軍事技術の高さを物語っている。
ビュン――
ビュン―――――
ビュン――――――――
戦闘機の頭部に設置されたレーザー砲から同時に放たれるレーザービーム。
エレナは左手の甲に刻まれた五芒星の紋章をそっと胸に当てて言う。
「エレメンタル!セイレーン!」
エレナがそう叫ぶと、エレナを取り囲むように青紫の光が瞬時に現れ
バチバチバチバチッ!
ドッガーッン!!
全てのレーザービームを消滅させた。
「なんだ!あいつは!?」
スターフォースワン内部のモニターで戦況を見ていたシャンクが驚きの声を上げる。
米軍の最新技術を注ぎ込んで開発された『ハリケーン』。そこから発射されるレーザービーム砲を……
―――――――弾き返した?
戦闘機の攻撃をしのいだエレナは、今度は左手を前方に突き出して言う。
「エレメンタル!イフリート!」
すると、エレナの左手の甲の『五芒星』が青紫色から赤紫色へと変化する。
不思議な事に『五芒星』の紋章の色が変化すると、エレナの髪も同系統の色へと変色して行く。
「まずは、邪魔な戦闘機を破壊します!」
エレナがそう宣言すると
ボワッ――――――
小型戦闘機『ハリケーン』の一体が真っ赤な光に包まれて
ボッカーッン!!
大爆発を起こす。
(な!何をしたんだ!?)
もはや、変身した星空 ひかり(ほしそら ひかり)を止める事は誰にも出来ない。
米軍の最新技術を駆使して造られた小型戦闘機『ハリケーン』が、真っ赤な光に包まれては……
ボッカーッン!!
ドッガーッン!!
次々と爆発して行く。
『ハリケーン』の最後の一体を破壊したエレナは、上空に浮か空飛ぶ要塞『スターフォースワン』を睨み付けた。
「バカな…………………」
モニター越しにエレナの戦闘を見ていたシャンク・ガリクソンは、目の前で起きた光景を茫然と見つめていた。
(我がアメリカ合衆国の最新戦闘機が、たった1人の少女を前に一方的に壊滅させられるなど……)
―――――――有り得ない。
これがオーロラの姫君
エレナ・エリュテイアの魔法の力。
魔法が発達した『ヘスペリアス』の世界に於いて、この人ありと謳われたエリュテイア王国のお姫様。
「話には聞いていましたが、想像以上ね………。」
ピクシー・ステラが感嘆の声を上げる。
「ひかり君……、まさかひかり君がボムボムの言っていたオーロラの姫君だったとは。」
「オーロラの姫君?」
昴が神童博士に問いかける。
「あぁ、『聖なる加護』を持つ7人の戦士の一人だね。どうやら、今ここに『聖なる加護』の保持者が三人揃ったようだ。」
「『聖なる加護』を持つ7人の戦士……」
『惹かれ合う魂』の能力者。
『ヘスペリアス』の世界の戦士。
エレナ・エリュテイア改め星空 ひかり(ほしそら ひかり)。
『異世界への扉』の能力者。
『ユグドラシル』の世界の戦士。
妖精族の第三王女ピクシー・ステラ。
「そして、銀河 昴(ぎんが すばる)、君(きみ)が三人目の『聖なる加護』の保持者だ。」
【オーロラのひかり編③】
スターフォースワンの中でモニターを見ていたシャンクは、焦りを感じていた。
(これは予想外の展開だ……
まさか『ハリケーン』が全滅するとは考えても居なかった。
このままでは、スターフォースワンにまで被害が及ぶか。)
しかし――――
――――俺には奥の手がある。
シャンクは操縦席の後ろで縛られている2人の人質の方へと振り返る。
「隆くん、咲さんと言ったか。ようやくお前達の出番が来たようだ。」
「くっ!貴様!よくも俺達を!」
木田 隆(きだ たかし)は威勢よくシャンクを睨み付けた。
「ふん、その意気だ。下にいる奴等に聞こえるようにもっと叫ぶのだ。助けてくれとな!」
スターフォースワン内部の音声が、神居古潭(かむいこたん)の夜空に響き渡る。
「なにかしら……?」
「…………隆!?」
「今のは、敵の軍用機の中の音声か?」
NASAのエリート隊員である、シャンク・ガリクソンが大統領から受けた指令は『神童博士』の殺害。
アメリカ合衆国は『地球外生命体』を消滅させる薬『アダム』の独占を狙っていた。
日本帝都大学の神童博士の研究資料を盗み出したアメリカにとっては神童博士は邪魔な存在でしかない。
ロシアを初め世界中の国が『アダム』を狙っている中では、一刻も早く神童博士を殺害する必要がある。
(少し……遊びが過ぎたようだ。)
シャンクは地上に居る神童博士と秘密組織『STERA』のメンバー、そして星空 ひかりと銀河 昴(ぎんが すばる)に呼び掛ける。
『聞こえているかね。日本の諸君!
私はアメリカ航空宇宙局『NASA』の隊員であるシャンク・ガリクソンだ。
私の目的は神童博士のみ。神童博士を引き渡して貰おう。』
更にシャンクは言葉を続ける。
『それと、この米軍機『スターフォースワン』には銀河 昴(ぎんが すばる)君の友達が乗っている。
下手に攻撃をすると、友達を殺す事になるだろう。』
『昴!俺達の事は放っておけ!』
『すばる!昴君なの!?』
スターフォースワンから聞こえて来る見知った声に顔を青ざめる昴。
「何で隆と咲が米軍の軍用機に………。」
人質作戦など我ながら古い手法だと、シャンクは思う。
しかし、効果はあったようだ。
モニターに映し出された星空 ひかり(ほしそら ひかり)の動きが止まったのを確認するシャンク。
(あとは、神童博士がどう出るか……。おそらく人質を見殺しには出来まい。)
シャンクの予想は見事に的中し、神童博士が降参のシグナルを送る。
両手をバンザイの形に広げた博士がスターフォースワンに向って叫ぶ。
「シャンク!私はここだ!関係の無い子供達は解放して貰おう!」
「神童博士!?」
隣に居る昴が博士の方へと振り向いて声を掛ける。
しかし博士は静かに昴に告げる。
「大丈夫だ昴くん。私の研究が無くとも君達が居れば奴等を倒す事が出来る。
よく聞きたまえ
本当の敵は米軍では無い。
ましてや『寄生虫』に洗脳された人々でも無い。
『聖なる加護』の保持者の中には
奴等の『寄生虫』を無効化出来る能力を持つ戦士が居ると言う。」
「『寄生虫』を無効化?」
「そうだ。探すのだ。『寄生虫』を無効化出来る戦士。
Seventh World(7つの世界)の何処かに存在する残る4人の戦士達を――――」
話を終えた神童博士は、空に浮かぶ米軍機(スターフォースワン)の方へと歩き出す。
「さぁ、シャンク。昴くんの友達を解放して貰おう!もともとアメリカにとっては、昴くん達は関係の無い話だろう!」
モニターから神童博士を見ていたシャンクは、安堵の表情を見せる。
(そうだ。それで良い。無理にあの少女と戦う必要は無い。まずは神童博士を殺害し…)
戦力を整えて、あの得体の知れない少女を
――――ゆっくりと、殺せば良い。
神童博士の後ろ姿を見送るしかない銀河 昴(ぎんが すばる)。
(これで仕方ないのか。隆と咲を助ける為には、神童博士を見殺しにするしか…。
そもそも、アメリカの最新鋭の軍用機と戦う事自体が間違いだろう。
ひかりだって、きっと………)
そして、昴は星空 ひかり(ほしそら ひかり)の方を見た。
「!!」
(ひかり!何をする気だ!まさかまだ戦うと言うのか!隆と咲が居るのに!?)
星空 ひかり(ほしそら ひかり)、今の姿はエレナ・エリュテイアはスターフォースワンに向けて左手を突き出して言う。
「エレメンタル!シルフィード!」
ビカッ―――――
エレナの左手に刻まれた『五芒星』の紋章が光り輝く。
「神童博士…、巻き込まれますから退けた方が良いでしょう。」
これから―――
――――敵の軍用機を
――――――――破壊します。
夜の神居古潭(かむいこたん)の森林がオーロラ色に染まって行く。

エレナ・エリュテイア
イラスト提供 ルイン様
【オーロラのひかり編①】
銀河 昴(ぎんが すばる)は日本帝都大学に通う普通の大学生である。
友達とワイワイ騒ぎながら何の変哲も無い生活を送り、やがて社会人となり平凡な人生を歩んで行く。
昴はそう思っていた。
世間を騒がしている殺人事件やNASAが発見した『地球外生命体』など自分とは無縁の世界。
ところが、昴を取り巻く環境は一変した。
大学の講義中に起きた暴動。
教室には手榴弾が投げ込まれ。
北海道ではロシアの軍隊に襲われ。
更には、アメリカの軍用機が上空に現れ、陸上自衛隊の一個師団を壊滅させる。
非現実的な世界が、次々と昴を襲うのだ。
そして、昴の驚きに追い打ちを掛ける少女の名は、星空 ひかり(ほしそら ひかり)。
昴の目の前で、空色の手袋を投げ捨てたひかりは、左手を天に突き出した。
(ひかり……何をする気だ……)
昴はそう思い、ひかりの左手に注目すると、その手の甲に薄っすらと星型の紋章が浮かび上がった。
星型に輝くその紋章を見て、昴は呟く。
「あれは……五芒星………」
すると驚く事に、星空 ひかり(ほしそら ひかり)の全身が眩いばかりの光に包まれる。
鮮やかな光に目を眩ませた昴が、次に見た ひかりの姿は、先程までの ひかりとは様変わりしていた。
全身を見た事も無い異国の衣装に身を包み、髪の色までもが綺麗なエメラルドブルーに発光している。
昴は
その少女を知っている。
稚内の宗谷岬で、初めて ひかりと出会った時の姿。彼女は間違いなく、あの日に見た星空 ひかり(ほしそら ひかり)である。
五芒星の紋章が青紫色に変色し、ひかりは左手を真正面へと突き出した。
ビュン―――――
米軍の最新鋭AI搭載型無人戦闘機『ハリケーン』が放つレーザービームが、ピクシー・ステラを捉えるその瞬間。
ビカッ!
バチバチバチッ!
ドッガーッン!!
ひかりの左手から放たれた青紫色の光線が、レーザービームを粉砕した。
(な!なんだ!今のは!!)
――――――すごい………!
昴は、茫然とその光景を見つめていた。
すかさず、星空 ひかり(ほしそら ひかり)はステラに向って叫ぶ。
「ステラ!後は私に任せて、ステラは神童博士と すばるをお願い!」
ステラはひかりを見て、もう一度
もう一度、挫けた心を奮い立たせる。
(そうね、ひかり。あなたも私と同じ。)
そう―――
―――――私は、ひとりじゃない。
ビュン―――
ビュン―――――
ビュン―――――――
米軍が誇る5機の無人戦闘機『ハリケーン』が、神居古潭(かむいこたん)の上空を旋回し、星空 ひかり(ほしそら ひかり)を取り囲んだ。
どうやら、ひかりを次の標的に定めたらしい。
昴はひかりの危機を感じて叫び声を上げる。
「ステラさん!ひかりが危ない!」
僕を避難させようと誘導する小さな妖精ステラに頼るしか出来ない昴。
すると、昴の隣を走っていた神童博士が
「昴くん、あれはひかり君なのかい!?」
と昴に質問をして来る。
神童博士は様変わりした星空 ひかり(ほしそら ひかり)を見て驚いた様子だ。
僕に代わって答えるのはピクシー・ステラ。
「驚くのはまだ早いわ。ひかりは……、いえ、エレナ・エリュテイアの力はあんなものでは無い。あの姿は『五芒星』の5つあるエレメンタル(精霊)の一つに過ぎない。」
エレナは5つのエレメンタル(精霊)を自在に操る魔法の申し子。
エレナを讃えた『ヘスペリアス』の人々は彼女の事をこう呼んでいたそうです。
――――――オーロラの姫君と
【オーロラのひかり編②】
エレナ・エリュテイアは自分の周りを旋回する5つの無人戦闘機をぐるりと見渡す。
自衛隊の砲撃が掠りもしないそのスピードは、米軍の軍事技術の高さを物語っている。
ビュン――
ビュン―――――
ビュン――――――――
戦闘機の頭部に設置されたレーザー砲から同時に放たれるレーザービーム。
エレナは左手の甲に刻まれた五芒星の紋章をそっと胸に当てて言う。
「エレメンタル!セイレーン!」
エレナがそう叫ぶと、エレナを取り囲むように青紫の光が瞬時に現れ
バチバチバチバチッ!
ドッガーッン!!
全てのレーザービームを消滅させた。
「なんだ!あいつは!?」
スターフォースワン内部のモニターで戦況を見ていたシャンクが驚きの声を上げる。
米軍の最新技術を注ぎ込んで開発された『ハリケーン』。そこから発射されるレーザービーム砲を……
―――――――弾き返した?
戦闘機の攻撃をしのいだエレナは、今度は左手を前方に突き出して言う。
「エレメンタル!イフリート!」
すると、エレナの左手の甲の『五芒星』が青紫色から赤紫色へと変化する。
不思議な事に『五芒星』の紋章の色が変化すると、エレナの髪も同系統の色へと変色して行く。
「まずは、邪魔な戦闘機を破壊します!」
エレナがそう宣言すると
ボワッ――――――
小型戦闘機『ハリケーン』の一体が真っ赤な光に包まれて
ボッカーッン!!
大爆発を起こす。
(な!何をしたんだ!?)
もはや、変身した星空 ひかり(ほしそら ひかり)を止める事は誰にも出来ない。
米軍の最新技術を駆使して造られた小型戦闘機『ハリケーン』が、真っ赤な光に包まれては……
ボッカーッン!!
ドッガーッン!!
次々と爆発して行く。
『ハリケーン』の最後の一体を破壊したエレナは、上空に浮か空飛ぶ要塞『スターフォースワン』を睨み付けた。
「バカな…………………」
モニター越しにエレナの戦闘を見ていたシャンク・ガリクソンは、目の前で起きた光景を茫然と見つめていた。
(我がアメリカ合衆国の最新戦闘機が、たった1人の少女を前に一方的に壊滅させられるなど……)
―――――――有り得ない。
これがオーロラの姫君
エレナ・エリュテイアの魔法の力。
魔法が発達した『ヘスペリアス』の世界に於いて、この人ありと謳われたエリュテイア王国のお姫様。
「話には聞いていましたが、想像以上ね………。」
ピクシー・ステラが感嘆の声を上げる。
「ひかり君……、まさかひかり君がボムボムの言っていたオーロラの姫君だったとは。」
「オーロラの姫君?」
昴が神童博士に問いかける。
「あぁ、『聖なる加護』を持つ7人の戦士の一人だね。どうやら、今ここに『聖なる加護』の保持者が三人揃ったようだ。」
「『聖なる加護』を持つ7人の戦士……」
『惹かれ合う魂』の能力者。
『ヘスペリアス』の世界の戦士。
エレナ・エリュテイア改め星空 ひかり(ほしそら ひかり)。
『異世界への扉』の能力者。
『ユグドラシル』の世界の戦士。
妖精族の第三王女ピクシー・ステラ。
「そして、銀河 昴(ぎんが すばる)、君(きみ)が三人目の『聖なる加護』の保持者だ。」
【オーロラのひかり編③】
スターフォースワンの中でモニターを見ていたシャンクは、焦りを感じていた。
(これは予想外の展開だ……
まさか『ハリケーン』が全滅するとは考えても居なかった。
このままでは、スターフォースワンにまで被害が及ぶか。)
しかし――――
――――俺には奥の手がある。
シャンクは操縦席の後ろで縛られている2人の人質の方へと振り返る。
「隆くん、咲さんと言ったか。ようやくお前達の出番が来たようだ。」
「くっ!貴様!よくも俺達を!」
木田 隆(きだ たかし)は威勢よくシャンクを睨み付けた。
「ふん、その意気だ。下にいる奴等に聞こえるようにもっと叫ぶのだ。助けてくれとな!」
スターフォースワン内部の音声が、神居古潭(かむいこたん)の夜空に響き渡る。
「なにかしら……?」
「…………隆!?」
「今のは、敵の軍用機の中の音声か?」
NASAのエリート隊員である、シャンク・ガリクソンが大統領から受けた指令は『神童博士』の殺害。
アメリカ合衆国は『地球外生命体』を消滅させる薬『アダム』の独占を狙っていた。
日本帝都大学の神童博士の研究資料を盗み出したアメリカにとっては神童博士は邪魔な存在でしかない。
ロシアを初め世界中の国が『アダム』を狙っている中では、一刻も早く神童博士を殺害する必要がある。
(少し……遊びが過ぎたようだ。)
シャンクは地上に居る神童博士と秘密組織『STERA』のメンバー、そして星空 ひかりと銀河 昴(ぎんが すばる)に呼び掛ける。
『聞こえているかね。日本の諸君!
私はアメリカ航空宇宙局『NASA』の隊員であるシャンク・ガリクソンだ。
私の目的は神童博士のみ。神童博士を引き渡して貰おう。』
更にシャンクは言葉を続ける。
『それと、この米軍機『スターフォースワン』には銀河 昴(ぎんが すばる)君の友達が乗っている。
下手に攻撃をすると、友達を殺す事になるだろう。』
『昴!俺達の事は放っておけ!』
『すばる!昴君なの!?』
スターフォースワンから聞こえて来る見知った声に顔を青ざめる昴。
「何で隆と咲が米軍の軍用機に………。」
人質作戦など我ながら古い手法だと、シャンクは思う。
しかし、効果はあったようだ。
モニターに映し出された星空 ひかり(ほしそら ひかり)の動きが止まったのを確認するシャンク。
(あとは、神童博士がどう出るか……。おそらく人質を見殺しには出来まい。)
シャンクの予想は見事に的中し、神童博士が降参のシグナルを送る。
両手をバンザイの形に広げた博士がスターフォースワンに向って叫ぶ。
「シャンク!私はここだ!関係の無い子供達は解放して貰おう!」
「神童博士!?」
隣に居る昴が博士の方へと振り向いて声を掛ける。
しかし博士は静かに昴に告げる。
「大丈夫だ昴くん。私の研究が無くとも君達が居れば奴等を倒す事が出来る。
よく聞きたまえ
本当の敵は米軍では無い。
ましてや『寄生虫』に洗脳された人々でも無い。
『聖なる加護』の保持者の中には
奴等の『寄生虫』を無効化出来る能力を持つ戦士が居ると言う。」
「『寄生虫』を無効化?」
「そうだ。探すのだ。『寄生虫』を無効化出来る戦士。
Seventh World(7つの世界)の何処かに存在する残る4人の戦士達を――――」
話を終えた神童博士は、空に浮かぶ米軍機(スターフォースワン)の方へと歩き出す。
「さぁ、シャンク。昴くんの友達を解放して貰おう!もともとアメリカにとっては、昴くん達は関係の無い話だろう!」
モニターから神童博士を見ていたシャンクは、安堵の表情を見せる。
(そうだ。それで良い。無理にあの少女と戦う必要は無い。まずは神童博士を殺害し…)
戦力を整えて、あの得体の知れない少女を
――――ゆっくりと、殺せば良い。
神童博士の後ろ姿を見送るしかない銀河 昴(ぎんが すばる)。
(これで仕方ないのか。隆と咲を助ける為には、神童博士を見殺しにするしか…。
そもそも、アメリカの最新鋭の軍用機と戦う事自体が間違いだろう。
ひかりだって、きっと………)
そして、昴は星空 ひかり(ほしそら ひかり)の方を見た。
「!!」
(ひかり!何をする気だ!まさかまだ戦うと言うのか!隆と咲が居るのに!?)
星空 ひかり(ほしそら ひかり)、今の姿はエレナ・エリュテイアはスターフォースワンに向けて左手を突き出して言う。
「エレメンタル!シルフィード!」
ビカッ―――――
エレナの左手に刻まれた『五芒星』の紋章が光り輝く。
「神童博士…、巻き込まれますから退けた方が良いでしょう。」
これから―――
――――敵の軍用機を
――――――――破壊します。
夜の神居古潭(かむいこたん)の森林がオーロラ色に染まって行く。

エレナ・エリュテイア
イラスト提供 ルイン様