Seventh World 星空の光の章
【虹色の光の世界編①】
日本帝都大学の路地裏にある喫茶店『ヘップバーン』
午前中の講義をサボった昴と隆は近くの喫茶店で時間を潰していた。
「おい昴(すばる)……知っているか?」
「ん……いきなり、どうした?」
なにやら神妙な顔をして、隆(たかし)が僕の顔を覗き込む。
「昨日の新宿で起きた事件だよ!知らないのか?」
昨日の新宿と言えば、隆と ひかりと3人で遊びに行って、ひかり がいきなり走り出した………。
「新宿で何かあったのか?」
僕が質問をすると隆は胸のポケットからスマホを取り出して何やら検索を始める。
「まぁ、知らないのも無理は無い。新聞にもテレビのニュースでも報道されていないからな。」
そして、僕の目の前に検索結果の動画をかざして言う。
「見てみろよ、これ!」
「ん?………んあ?」
そこに映し出された映像。
何者かがナイフを振り回して街ゆく人々を襲っている。
別の者は近くにいる通行人に金属バットで殴り掛かる。
暴漢者は他にもいる。映像に映っているだけで10人以上の老若男女が狂ったように暴れていた。
「はぁ?何だこれ?何かの映画の撮影か?」
こんな映像、とても現実のものとは思えない。すると隆は他の動画をクリックして話を続ける。
「他にもアップされている。信じられないだろうが、これは現実だ。」
「まさか、だって新聞にもテレビにもこんな報道はされていない。」
するとオカルト好きの隆は勝手な予想を話し始める。
「これは何か裏がある。世間には公表出来ない大きな組織が関与しているとか。」
更に他の画像をクリックする隆。
「驚け昴(すばる)。実は同じような暴動が新宿だけじゃなく世界中で起きているらしい。」
「何言ってんだ?そんな訳………」
そこに映し出される映像の数々。
これが本当に現実なのかと疑いたくなる酷い映像ばかりだ。
最近治安が悪くなって来たのは知っていたが、この映像が真実なら治安どころの騒ぎではない。
「ネットによれば、おかしな暴動が最初に日本で起きたのは2ヶ月前の北海道。丁度俺達が卒業旅行に行っていた時だ。」
「北海道?」
「それから東日本を中心に暴動の件数が増発している。しかもテレビでは一切報道されていない。」
「どう言う事だよ―――」
「分からん。分からんが北海道の独立運動と何か関係があるかもしれな……痛っ!」
「隆!どうした!?」
苦痛に顔を歪める隆。
「いや、大丈夫だ。最近急に頭痛がするんだ。少し休めば治る。」
そして隆は話を続ける。
「とにかく、嫌な予感がするぜ。日本で…、いや世界中で、……とんでも無い事が起きている気がする。」
俺達の知らない何か――――
―――得体の知れない不吉さを感じるぜ
【虹色の光の世界編②】
西暦2047年6月
東京都新宿区
この時代になっても世界最大の都市圏である東京。
眠らない街『新宿』の夜は、ネオンライトの光に照らされる人々の 楽しげな笑い声で溢れていた。
すると、雑多な人々が行き交う交差点で1人の男が立ち止まる。
少し白髪の混じった冴えない顔をした男。
ドンッ!
「痛っ!急に立ち止まらないでよね!」
男と肩をぶつけたホステス風の女性が男を睨みつける。
「――?」
男は女性を見ると薄気味悪い笑みを浮かべてぼつりと呟いた。
「みんな、死んでしまえばいい――。」
男は懐から取り出した銀色のナイフをペロリと舐める。
「ちょっと……冗談………」
グサリ――――!
それは突然の出来事であった。
「きゃあぁぁぁっ!」
「通り魔だ!助けてくれぇぇ!」
「逃げろー!」
大勢の人で賑わう新宿の街に悲鳴がこだまし、突然現れた『通り魔』に混乱する人々。
しかし、事件はそれだけでは終わらない。
人々が逃げるその先で、一人の警察官がふらりと腰から38口径の拳銃を取り出す。
「お巡りさん!人殺しです!殺人です!」
必死に警察官に助けを求める人々。
―――――しかし
ズキューッン!!
「ぐわぁあぁぁ!!」
「!!」
警察官が大衆に向かって発砲する。
「な!何をする!?」
「お前、警察だろ!通り魔はあっちだぞ!」
ズキューッン!!
「ぐわぁあぁっ!!」
何がなんだか分からず泣き叫ぶ人々。
通り魔は、逃げ遅れた通行人を次々とナイフで刺して行く。
その間も警察官の銃声が鳴り響き、犠牲者は増える一方だ。
後ろには通り魔、前には警察官が一般大衆を殺して行くのだ。
次々と赤い鮮血が飛び散り、夜の新宿の街は地獄の様相と化していた。
―――と、その時
通り魔の前に現れた1人の青年が
カチッ!
手に持つ筒状の棒のスイッチを押すと、ビュンと光の剣が現れた。
夜の街に映える薄いイエローカラーの光の剣。
「ライトサーベル!」
日本国公安秘密警察官 日賀 タケル(ひが たける)が愛用する光の剣が――
スパッ!
通り魔の右手首を一刀両断する。
ぎゃあと叫び声を上げる通り魔の男が倒れた瞬間――
ズキューッン!
反対方向から銃声が鳴り、日賀 タケル(ひが たける)の短い髪を掠(かす)めて行く。
タケルはくるりと振り返ると、またしてもライトサーベルのスイッチをカチリと押した。
ビュンと勢い良く伸びた光の剣が
スパッ!
「ぐわぁあぁ!!」
数十メートルも先にいる警察官の右手首を斬り落とした。
日本国の先端技術が生み出した伸縮自在の光の剣『ライトサーベル』が日賀 タケル(ひが たける)の武器である。
カランコロンと地面に落ちる拳銃。
20歳になったばかりの日賀 タケルは、2人の殺人鬼を意図も簡単に仕留めてしまう。
「ふぅ」と息を吐いたタケルは、歩み寄る長身の男の方を見て話し掛ける。
「沖田さん、こんなんで良いっすかね?」
すると顔に斜めの傷を持つ長身の男が、手首の無い2人の殺人鬼を見て言う。
「やり過ぎだ。手首など切らなくても捕まえられただろう。」
「何言ってるんすか。相手は殺人犯だぜ?俺達には殺人犯を処罰出来る権利を持っている。」
それに―――
「沖田さん、あんたと違って俺は生身の人間だからね。凶器を持った人間を無傷で捕まえるなんて出来ねぇよ。」
日賀 タケル(ひが たける)20歳。
沖田 栄治(おきた えいじ)32歳。
日本国公安秘密警察官、通称『エージェント』と呼ばれる2人は、日々悪化する東京の治安維持の任務にあたっていた。
「それにしても、凶悪犯罪が後を絶たない。何か有りそうだ…………」
そう沖田が言いかけた時、タケルが沖田の言葉を遮って空を見上げる。
「沖田さん…あれは…………。」
「―――――!?」
ゴゴゴゴゴゴォ!
上空にはアメリカ空軍の爆撃機が、編隊を為して滑空していた。
そして―――――
―――――さらなる悲劇が東京の街を襲う
【虹色の光の世界編③】
いくつか疑問がある―――
仮に昨日の新宿の事件が本当であったとしたら、僕達があのまま新宿で遊んでいたら事件に巻き込まれたかもしれない。
とすると……
『あの先は危ないわ!気が付かなかった!?もうあの人達は―――』
―――――――人間じゃない
昴(すばる)は昨日の ひかりの言葉を思い出す。
(僕達は星空 ひかり(ほしそら ひかり)に助けられたって事か………)
―――人間じゃないってどう言う事だ?
ひかりは不思議な女性だ。
まだ出会って間もないと言うのに、僕の心に土足で入り込み、僕の意識を掻き乱す。
あの日、北海道の宗谷岬で ひかりは何を言ったのだろう。
ひかりは―――
―――――僕に何を伝えたかったのか
昴はふふと自嘲気味に笑う。
(いや……、そんな事を考えても仕方がない。今度 直接聞いてみれば良い話だ。)
「今日はなんか……疲れたな…………。」
そして銀河 昴(ぎんが すばる)は眠りにつく。
深い深い眠りにつく昴(すばる)
すると昴の目の前に色鮮やかな世界が顔を見せる。
(あぁ………
今日の夢は、いつもと違う。
崩壊した後の『東京』以外の夢を見るのは何ヶ月ぶりだろう。)
今日の夢に出て来るのは……
(――――ひかり!?)
いや、似ているが別人だ。
そもそも、ここは日本じゃない。
異国の世界の女性を星空 ひかり(ほしそら ひかり)と見間違うなんて…
―――――――僕もどうかしている
彼女の名はエレナ・エリュテイア
虹色の光が輝くその世界では、エレナはオーロラの姫君と呼ばれていた。
「エレナ様………そろそろ仕度をして下さい。国王様がお待ちですよ。」
王国に使える兵士がエレナに何度目かの催促をする。
「ジェイス、どこに逃げても無駄です。平和であったこの世界『ヘスペリアス』は地獄へと変貌しました。
1000年以上も戦乱の無かったこの地『ヘスペリアス』は変わってしまったのです。」
「しかしエレナ様、ここにいては危険です。姫様の魔法を持ってしても敵の軍勢は多過ぎます。どうかお逃げ下さい。」
そう言うジェイスの言葉も力がこもっていない事はエレナも知っている。
仲が良かった9つある大国の全てが、数年前から戦乱に明け暮れていた。
逃げる場所など無いのだ――――
エレナの父が治めるこの国『エリュテイア王国』は、大国の中でも一番大きな国で力もある。だからこそ、他の8つの国は『エリュテイア王国』を恐れ戦争を仕掛けて来た。
「ジェイス……、私は戦います。逃げられないのなら敵を倒すのみ。私の魔法があれば………。」
するとジェイスは、腰に掛けていた大剣をすらりと抜いた。
「――――!?ジェイス?」
「分からない姫様だ。お前は邪魔な存在なのだよ。」
「何を言っているのですか?」
「お前だけじゃない。お前の父親も、他の大国を治める全ての王族。いや、この世界の人間全てが邪魔な存在なのだ。」
この世界は―――――
―――――滅びるのだよ
「何も知らず、お互いを憎しみ殺し合い、憎悪の中で滅びるのだ。」
その為にはエレナ……
「『聖なる加護』を受けたお前は邪魔な存在なのだよ。」
ガラリと雰囲気の変わったジェイスにエレナは問う。
「『聖なる加護』?何の話です。そしてジェイス!貴方は何者なのですか!」
「俺の正体など どうでも良い。死ね!エレナ!!」
―――――――!!
「…………………」
―――――夢
(僕は……何を見ているのか……)
夢から覚めた昴(すばる)は額から汗が流れ落ちているのに気が付く。
ベッドの横にある時計の針は深夜零時を回っていた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
(『聖なる加護』…………………)
僕はその言葉が妙に気になった。
初めて聞くその言葉が、とても他人ごととは思えなかった。

【虹色の光の世界編①】
日本帝都大学の路地裏にある喫茶店『ヘップバーン』
午前中の講義をサボった昴と隆は近くの喫茶店で時間を潰していた。
「おい昴(すばる)……知っているか?」
「ん……いきなり、どうした?」
なにやら神妙な顔をして、隆(たかし)が僕の顔を覗き込む。
「昨日の新宿で起きた事件だよ!知らないのか?」
昨日の新宿と言えば、隆と ひかりと3人で遊びに行って、ひかり がいきなり走り出した………。
「新宿で何かあったのか?」
僕が質問をすると隆は胸のポケットからスマホを取り出して何やら検索を始める。
「まぁ、知らないのも無理は無い。新聞にもテレビのニュースでも報道されていないからな。」
そして、僕の目の前に検索結果の動画をかざして言う。
「見てみろよ、これ!」
「ん?………んあ?」
そこに映し出された映像。
何者かがナイフを振り回して街ゆく人々を襲っている。
別の者は近くにいる通行人に金属バットで殴り掛かる。
暴漢者は他にもいる。映像に映っているだけで10人以上の老若男女が狂ったように暴れていた。
「はぁ?何だこれ?何かの映画の撮影か?」
こんな映像、とても現実のものとは思えない。すると隆は他の動画をクリックして話を続ける。
「他にもアップされている。信じられないだろうが、これは現実だ。」
「まさか、だって新聞にもテレビにもこんな報道はされていない。」
するとオカルト好きの隆は勝手な予想を話し始める。
「これは何か裏がある。世間には公表出来ない大きな組織が関与しているとか。」
更に他の画像をクリックする隆。
「驚け昴(すばる)。実は同じような暴動が新宿だけじゃなく世界中で起きているらしい。」
「何言ってんだ?そんな訳………」
そこに映し出される映像の数々。
これが本当に現実なのかと疑いたくなる酷い映像ばかりだ。
最近治安が悪くなって来たのは知っていたが、この映像が真実なら治安どころの騒ぎではない。
「ネットによれば、おかしな暴動が最初に日本で起きたのは2ヶ月前の北海道。丁度俺達が卒業旅行に行っていた時だ。」
「北海道?」
「それから東日本を中心に暴動の件数が増発している。しかもテレビでは一切報道されていない。」
「どう言う事だよ―――」
「分からん。分からんが北海道の独立運動と何か関係があるかもしれな……痛っ!」
「隆!どうした!?」
苦痛に顔を歪める隆。
「いや、大丈夫だ。最近急に頭痛がするんだ。少し休めば治る。」
そして隆は話を続ける。
「とにかく、嫌な予感がするぜ。日本で…、いや世界中で、……とんでも無い事が起きている気がする。」
俺達の知らない何か――――
―――得体の知れない不吉さを感じるぜ
【虹色の光の世界編②】
西暦2047年6月
東京都新宿区
この時代になっても世界最大の都市圏である東京。
眠らない街『新宿』の夜は、ネオンライトの光に照らされる人々の 楽しげな笑い声で溢れていた。
すると、雑多な人々が行き交う交差点で1人の男が立ち止まる。
少し白髪の混じった冴えない顔をした男。
ドンッ!
「痛っ!急に立ち止まらないでよね!」
男と肩をぶつけたホステス風の女性が男を睨みつける。
「――?」
男は女性を見ると薄気味悪い笑みを浮かべてぼつりと呟いた。
「みんな、死んでしまえばいい――。」
男は懐から取り出した銀色のナイフをペロリと舐める。
「ちょっと……冗談………」
グサリ――――!
それは突然の出来事であった。
「きゃあぁぁぁっ!」
「通り魔だ!助けてくれぇぇ!」
「逃げろー!」
大勢の人で賑わう新宿の街に悲鳴がこだまし、突然現れた『通り魔』に混乱する人々。
しかし、事件はそれだけでは終わらない。
人々が逃げるその先で、一人の警察官がふらりと腰から38口径の拳銃を取り出す。
「お巡りさん!人殺しです!殺人です!」
必死に警察官に助けを求める人々。
―――――しかし
ズキューッン!!
「ぐわぁあぁぁ!!」
「!!」
警察官が大衆に向かって発砲する。
「な!何をする!?」
「お前、警察だろ!通り魔はあっちだぞ!」
ズキューッン!!
「ぐわぁあぁっ!!」
何がなんだか分からず泣き叫ぶ人々。
通り魔は、逃げ遅れた通行人を次々とナイフで刺して行く。
その間も警察官の銃声が鳴り響き、犠牲者は増える一方だ。
後ろには通り魔、前には警察官が一般大衆を殺して行くのだ。
次々と赤い鮮血が飛び散り、夜の新宿の街は地獄の様相と化していた。
―――と、その時
通り魔の前に現れた1人の青年が
カチッ!
手に持つ筒状の棒のスイッチを押すと、ビュンと光の剣が現れた。
夜の街に映える薄いイエローカラーの光の剣。
「ライトサーベル!」
日本国公安秘密警察官 日賀 タケル(ひが たける)が愛用する光の剣が――
スパッ!
通り魔の右手首を一刀両断する。
ぎゃあと叫び声を上げる通り魔の男が倒れた瞬間――
ズキューッン!
反対方向から銃声が鳴り、日賀 タケル(ひが たける)の短い髪を掠(かす)めて行く。
タケルはくるりと振り返ると、またしてもライトサーベルのスイッチをカチリと押した。
ビュンと勢い良く伸びた光の剣が
スパッ!
「ぐわぁあぁ!!」
数十メートルも先にいる警察官の右手首を斬り落とした。
日本国の先端技術が生み出した伸縮自在の光の剣『ライトサーベル』が日賀 タケル(ひが たける)の武器である。
カランコロンと地面に落ちる拳銃。
20歳になったばかりの日賀 タケルは、2人の殺人鬼を意図も簡単に仕留めてしまう。
「ふぅ」と息を吐いたタケルは、歩み寄る長身の男の方を見て話し掛ける。
「沖田さん、こんなんで良いっすかね?」
すると顔に斜めの傷を持つ長身の男が、手首の無い2人の殺人鬼を見て言う。
「やり過ぎだ。手首など切らなくても捕まえられただろう。」
「何言ってるんすか。相手は殺人犯だぜ?俺達には殺人犯を処罰出来る権利を持っている。」
それに―――
「沖田さん、あんたと違って俺は生身の人間だからね。凶器を持った人間を無傷で捕まえるなんて出来ねぇよ。」
日賀 タケル(ひが たける)20歳。
沖田 栄治(おきた えいじ)32歳。
日本国公安秘密警察官、通称『エージェント』と呼ばれる2人は、日々悪化する東京の治安維持の任務にあたっていた。
「それにしても、凶悪犯罪が後を絶たない。何か有りそうだ…………」
そう沖田が言いかけた時、タケルが沖田の言葉を遮って空を見上げる。
「沖田さん…あれは…………。」
「―――――!?」
ゴゴゴゴゴゴォ!
上空にはアメリカ空軍の爆撃機が、編隊を為して滑空していた。
そして―――――
―――――さらなる悲劇が東京の街を襲う
【虹色の光の世界編③】
いくつか疑問がある―――
仮に昨日の新宿の事件が本当であったとしたら、僕達があのまま新宿で遊んでいたら事件に巻き込まれたかもしれない。
とすると……
『あの先は危ないわ!気が付かなかった!?もうあの人達は―――』
―――――――人間じゃない
昴(すばる)は昨日の ひかりの言葉を思い出す。
(僕達は星空 ひかり(ほしそら ひかり)に助けられたって事か………)
―――人間じゃないってどう言う事だ?
ひかりは不思議な女性だ。
まだ出会って間もないと言うのに、僕の心に土足で入り込み、僕の意識を掻き乱す。
あの日、北海道の宗谷岬で ひかりは何を言ったのだろう。
ひかりは―――
―――――僕に何を伝えたかったのか
昴はふふと自嘲気味に笑う。
(いや……、そんな事を考えても仕方がない。今度 直接聞いてみれば良い話だ。)
「今日はなんか……疲れたな…………。」
そして銀河 昴(ぎんが すばる)は眠りにつく。
深い深い眠りにつく昴(すばる)
すると昴の目の前に色鮮やかな世界が顔を見せる。
(あぁ………
今日の夢は、いつもと違う。
崩壊した後の『東京』以外の夢を見るのは何ヶ月ぶりだろう。)
今日の夢に出て来るのは……
(――――ひかり!?)
いや、似ているが別人だ。
そもそも、ここは日本じゃない。
異国の世界の女性を星空 ひかり(ほしそら ひかり)と見間違うなんて…
―――――――僕もどうかしている
彼女の名はエレナ・エリュテイア
虹色の光が輝くその世界では、エレナはオーロラの姫君と呼ばれていた。
「エレナ様………そろそろ仕度をして下さい。国王様がお待ちですよ。」
王国に使える兵士がエレナに何度目かの催促をする。
「ジェイス、どこに逃げても無駄です。平和であったこの世界『ヘスペリアス』は地獄へと変貌しました。
1000年以上も戦乱の無かったこの地『ヘスペリアス』は変わってしまったのです。」
「しかしエレナ様、ここにいては危険です。姫様の魔法を持ってしても敵の軍勢は多過ぎます。どうかお逃げ下さい。」
そう言うジェイスの言葉も力がこもっていない事はエレナも知っている。
仲が良かった9つある大国の全てが、数年前から戦乱に明け暮れていた。
逃げる場所など無いのだ――――
エレナの父が治めるこの国『エリュテイア王国』は、大国の中でも一番大きな国で力もある。だからこそ、他の8つの国は『エリュテイア王国』を恐れ戦争を仕掛けて来た。
「ジェイス……、私は戦います。逃げられないのなら敵を倒すのみ。私の魔法があれば………。」
するとジェイスは、腰に掛けていた大剣をすらりと抜いた。
「――――!?ジェイス?」
「分からない姫様だ。お前は邪魔な存在なのだよ。」
「何を言っているのですか?」
「お前だけじゃない。お前の父親も、他の大国を治める全ての王族。いや、この世界の人間全てが邪魔な存在なのだ。」
この世界は―――――
―――――滅びるのだよ
「何も知らず、お互いを憎しみ殺し合い、憎悪の中で滅びるのだ。」
その為にはエレナ……
「『聖なる加護』を受けたお前は邪魔な存在なのだよ。」
ガラリと雰囲気の変わったジェイスにエレナは問う。
「『聖なる加護』?何の話です。そしてジェイス!貴方は何者なのですか!」
「俺の正体など どうでも良い。死ね!エレナ!!」
―――――――!!
「…………………」
―――――夢
(僕は……何を見ているのか……)
夢から覚めた昴(すばる)は額から汗が流れ落ちているのに気が付く。
ベッドの横にある時計の針は深夜零時を回っていた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
(『聖なる加護』…………………)
僕はその言葉が妙に気になった。
初めて聞くその言葉が、とても他人ごととは思えなかった。
