Seventh World 星空の光の章
【夜空に瞬く光編①】
その日
夜空に一筋の光が輝いた。
とても小さいけれど、とても美しい光を放つ一筋の流れ星。
受験勉強に疲れた僕が、ぼんやりと窓の外を眺めていると、その流れ星が僕の頭の中に流れ込んで来た。
「うわっ…!」
頭の中が光り輝いたような錯覚にとらわれる。
「………………」
僕は少し驚いたが特に変わった様子は無い。
(今のは、何だったんだ?受験勉強で疲れてるのかな………)
「よし!今日はもう寝よう!」
そう……
おそらくあれは錯覚であったのだろう。
次の日、目が覚めても特に変わった様子は無い。
何の変哲も無い日常。
今までと同じように平凡な日々を送り、受験勉強に明け暮れる毎日。
何も変わらないはずだったんだ。
しかし
それから、僕は毎日
―――――――同じ夢を見る
近代的な都市を彷彿させる高層ビル群。
真夜中でもきらびやかに輝くネオンライトが行き交う人々を照らしている。
かなり大きな都市だと思う。
雑多な街並みに似合わず、道路は綺麗に清掃されていて、人々は幸せそうな笑顔を見せている。
ブンと物音がすると、人々は同時に空を見上げるんだ。
夜空の向こうに見えるのはスカイツリー。
そう――――
――――――この都市は東京
そして、僕は叫ぶ。
「危ない!逃げるんだ!そこに居たら全滅するぞ!」
しかし、人々は何事も無かったように歩き出す。いつもと変わらない光景。
夢の中の僕の声は、街行く人々には届かない。
ピカッ――――
眩いばかりの閃光が夜の東京を照らし出す。
ドッゴォオォォーッン!!
轟音(ごうおん)が鳴り響き、世界有数の大都市東京が
――――――――崩壊する
僕は止める事が出来ない。
何百何千万人もの命が消失するその瞬間を。
いったい東京に何が起きたのか……
そうして、幾日かの間、僕は草木も生えない崩壊した東京の街を彷徨い歩く。
周りに見えるのは瓦礫の間に横たわる人々の死体の山。
(うっ…………)
僕は思わず目を伏せる。
この世に地獄と言うものが存在するとしたら、おそらくこれが地獄だと思う。
全ての生き物の命は失われた。
東京に何が起きたのか。
誰が東京をこんなにしたのか。
東京には、もう人類は存在しない。
この街で生き延びた人間など、いるはずもない。そう思わせる程の絶望した世界。
ピカッ―――――
「!!」
(なんだ?この地獄のような世界で、まだ何かをする気か?)
僕は光の方向へ走り出す。
(いったい誰が東京をこんなにしたんだ!僕の故郷を!両親を!友達を返せ!)
僕は一心不乱に光へと走る。
倒壊した高層ビル群の一角に、僕は人影を見つける。
(あいつか……、あいつが東京を崩壊させた張本人か!)
すると、その女性が僕に気が付いて振り向くんだ。
スローモーションのように、ゆっくりと振り向いたその女性は無言で僕を見つめる。
僕はその顔を忘れない。
東京を崩壊させた悪魔――――
僕は―――――――
「………………」
「すばる………」
「……………ん…」
「そろそろ授業が終わるわよ。神童博士の講義で居眠りするとはいい度胸ね。」
「………お前は……女子高生!?」
「失礼ね。私の名前は ひかり!いい加減に覚えなさいよ。」
どうやら、僕は授業中に居眠りをしていたらしい。
「しかし、お前も変わってるな。高校はどうしたんだよ?サボっていると授業に付いて行けなくなるぞ。」
すると ひかりはフフンと鼻を鳴らして得意気に言う。
「残念でした。私はめっちゃ頭が良いので、高校の授業なんて楽勝よ♪」
確かに星空 ひかり(ほしそら ひかり)は頭が良い。
神童博士の講義は一流大学に進学した僕でさえ理解するのが難しいのだ。
「お前、医者にでもなるつもりか?脳外科医とか………。」
すると ひかりは珍しく、暗い雰囲気で黙り込む。
「いや…、なんだ。話したくないなら別に良いんだが…。」
僕は気まずくなって話題を変えようとする。
「そうね……、あなたになら教えてあげても良いわ。」
「ん……何をだ?」
「何をって決まっているじゃない。私がどうして神童博士の講義を聞いているのかを。」
そして、ひかりは真面目な顔で僕の顔を真正面から見つめる。
(こいつ……、よくよく見ると可愛いんだよな……。)
僕は少し照れて目を伏せようとするが、ひかりは両手で僕の顔をグッと引き寄せる。
(おいおい、近過ぎだろ………)
僕はカァっと顔を赤らめる。
ひかりはそんな僕の様子を気にすることも無く言うんだ。
「すばる……、これは他の誰にも言ってはダメよ。私の目的は………。」
――――――復讐のためよ
【夜空に瞬く光編②】
『臨時ニュースです。昨夜起きた東京都品川区の無差別殺人事件の犯人が逮捕されました。犯人をよく知る知人の話では、犯人は普段はおとなしく、とても穏やかな性格であったと…』
「なぁ、昴(すばる)、犯人が捕まったみたいぜ。」
昴に話し掛けるのは、親友の隆(たかし)。
「そうか、最近多いな……、殺人事件。」
世界的に治安が良いとされる日本であるが、近年の殺人事件の増加は異常な件数に昇っていた。
いや、日本だけでは無い。
世界中で殺人事件が増加し、テロやら紛争やらの話題にも事欠かない。
世紀末でも無いのに、世の中は暗い話題で持ち切りだ。
「そこでだ!」
隆(たかし)は楽しそうに笑みを浮かべる。
「遊びに行こうぜ、ほら、例の女子高生も誘ってよ。」
「はぁ?なんで ひかりなんて誘うんだ?」
すると隆は急に真剣な顔をして昴に言う。
「分かって無いなぁ…昴くん。彼女の可愛さは半端じゃないよ?街で歩いていたら男性陣は全員振り向くレベルだよ?」
そして、今度は急に怖い顔つきになる隆。
「お前だけ仲良くしててズルいだろうが、紹介しろよ。」
「はぁ……」
昴はため息を付いて隆に言う。
「お前って平和だよな……。」
実際ひかりは超が付くくらいに可愛いかった。顔立ちは整っていて笑うと愛敬もある。
まだ16歳なので可愛いと言う形容詞がピッタリ来るのだが、あと何年かすると美しい女性に成長するだろう。
北海道の宗谷岬で見た時の彼女は、可愛いと言うよりも、物悲しい美しさがあったのだが、それはおそらくオーロラの為せる技であろう。
今の彼女には物悲しさは全く見られない。
(まぁ、僕も彼女の事を少し知りたいかな…。)
――――私達は運命で結ばれているの
昴(すばる)は先日の彼女の言葉を思い出す。
(あれはいったい、どう言う意味だったのだろう………。)
「明日も神童博士の講義があるな。よし!誘って見よう!」
「おー!さすがは昴くん!持つべきものは親友だぜ!ひかりちゃん、待っててくれ!」
2人で盛り上がる僕達を、他の学生達が白い目で見ている事を2人は知らない―――
――――翌日
カラッと晴れた金曜日
神童博士の講義は午前中で終わり、僕達三人は新宿の街へと繰り出した。
ひかりは僕の予想に反し僕らの誘いに嬉しそうに付いて来た。
(今時の女子高生は知らない男の誘いに付いて来るのか……、しかも高校の授業はどうなってんだ?)
「すばる?どうしたの?私の顔に何かついてる?」
(しまった……、目と目が合ってしまった。)
昴は恥ずかしそうに目を伏せる。
「おい昴!なに2人で話してんだよ!俺も会話に混ぜろよ!」
横で隆のやつが僕を睨んで来る。
(これが会話しているように見えるのかよ!)
僕は心の中で突っ込みを入れる。
そんな他愛のない日常――――
何気ない会話をしながら歩いていると、ひかりがはたと足を止める。
「ん?どうしたの?ひかりちゃん。」
隆が ひかりの方を振り返る。
それはカラッと晴れた金曜日の午後。
事件は何の前触れもなくやって来た。
「すばる!隆くん!走るわよ!」
ひかりは突然走り出した。
何が何だか分からない僕と隆は、彼女の後を追い掛けながら叫ぶ。
「お~い!ひかりちゃん!いったいどうしたんだ!?」
隆が ひかりに質問をする。
何でいきなり走り出すのか……。隆も僕と同じ気持ちだろう。
(高校の先生でも居たのかな?)
僕がそんな事を考えていると、ひかりは僕らの予想もしていない事を言い出した。
「あの先は危ないわ!気が付かなかった!?もうあの人達は―――」
―――――――人間じゃない
「はぁ……?」
隆が素っ頓狂な声を上げた。
それはそうだろう。人間じゃないと言われても何が人間じゃないのか。
宇宙人でも見つけたのか?
すると先程まで僕らが居た付近で
―――――きゃあぁぁあぁぁ!!
悲鳴が聞こえて来た。
「おい!昴!」
「あぁ、何が起きたんだ!?」
「いいから早く!!」
ひかりは僕の手を引いて悲鳴とは反対の方向へ引っ張って行く。
小一時間ほど走って、僕達3人は皇居の見える公園に辿り着いた。
「はぁはぁ………」
「ここまで来れば大丈夫……」
ひかりはホッとした様子で学生鞄から取り出したペットボトルの水を飲み干す。
僕は少し息を整えてから、ひかりに質問をする。
「なぁ…、いったい何だったんだ?人間じゃないって何だよ?」
「うん……」
ひかりは少し困ったようにうつむいて言う。
「例え話よ………。すれ違った人の目……、今にも人を襲いそうだったから……。」
煮え切らない返事に僕は疑念を感じたが、隆が横から口を挟む。
「まぁ、いいじゃないか昴。ほら、今日は良い天気だぜ!」
空には太陽が燦々と輝き、公園に生い茂る木々の間から木漏れ日が射し込んでいた。
(確かに………良い天気だな………。)
「すばる!隆くん!ボートにでも乗らない?私、ボートって乗ったこと無いんだよね……。」
「おー!いいね!ボート乗ろうぜ!」
ボートの中で楽しそうに笑うひかりと隆。
僕もつられて笑顔を見せる。
平穏を取り戻した日常―――
そんな平和な日がいつまでも続くと思っていた。
僕らは―――
この平和な世界を――――
―――――当たり前だと思っていたんだ

星空 ひかり(ほしそら ひかり)
イラスト提供 ルイン様
【夜空に瞬く光編①】
その日
夜空に一筋の光が輝いた。
とても小さいけれど、とても美しい光を放つ一筋の流れ星。
受験勉強に疲れた僕が、ぼんやりと窓の外を眺めていると、その流れ星が僕の頭の中に流れ込んで来た。
「うわっ…!」
頭の中が光り輝いたような錯覚にとらわれる。
「………………」
僕は少し驚いたが特に変わった様子は無い。
(今のは、何だったんだ?受験勉強で疲れてるのかな………)
「よし!今日はもう寝よう!」
そう……
おそらくあれは錯覚であったのだろう。
次の日、目が覚めても特に変わった様子は無い。
何の変哲も無い日常。
今までと同じように平凡な日々を送り、受験勉強に明け暮れる毎日。
何も変わらないはずだったんだ。
しかし
それから、僕は毎日
―――――――同じ夢を見る
近代的な都市を彷彿させる高層ビル群。
真夜中でもきらびやかに輝くネオンライトが行き交う人々を照らしている。
かなり大きな都市だと思う。
雑多な街並みに似合わず、道路は綺麗に清掃されていて、人々は幸せそうな笑顔を見せている。
ブンと物音がすると、人々は同時に空を見上げるんだ。
夜空の向こうに見えるのはスカイツリー。
そう――――
――――――この都市は東京
そして、僕は叫ぶ。
「危ない!逃げるんだ!そこに居たら全滅するぞ!」
しかし、人々は何事も無かったように歩き出す。いつもと変わらない光景。
夢の中の僕の声は、街行く人々には届かない。
ピカッ――――
眩いばかりの閃光が夜の東京を照らし出す。
ドッゴォオォォーッン!!
轟音(ごうおん)が鳴り響き、世界有数の大都市東京が
――――――――崩壊する
僕は止める事が出来ない。
何百何千万人もの命が消失するその瞬間を。
いったい東京に何が起きたのか……
そうして、幾日かの間、僕は草木も生えない崩壊した東京の街を彷徨い歩く。
周りに見えるのは瓦礫の間に横たわる人々の死体の山。
(うっ…………)
僕は思わず目を伏せる。
この世に地獄と言うものが存在するとしたら、おそらくこれが地獄だと思う。
全ての生き物の命は失われた。
東京に何が起きたのか。
誰が東京をこんなにしたのか。
東京には、もう人類は存在しない。
この街で生き延びた人間など、いるはずもない。そう思わせる程の絶望した世界。
ピカッ―――――
「!!」
(なんだ?この地獄のような世界で、まだ何かをする気か?)
僕は光の方向へ走り出す。
(いったい誰が東京をこんなにしたんだ!僕の故郷を!両親を!友達を返せ!)
僕は一心不乱に光へと走る。
倒壊した高層ビル群の一角に、僕は人影を見つける。
(あいつか……、あいつが東京を崩壊させた張本人か!)
すると、その女性が僕に気が付いて振り向くんだ。
スローモーションのように、ゆっくりと振り向いたその女性は無言で僕を見つめる。
僕はその顔を忘れない。
東京を崩壊させた悪魔――――
僕は―――――――
「………………」
「すばる………」
「……………ん…」
「そろそろ授業が終わるわよ。神童博士の講義で居眠りするとはいい度胸ね。」
「………お前は……女子高生!?」
「失礼ね。私の名前は ひかり!いい加減に覚えなさいよ。」
どうやら、僕は授業中に居眠りをしていたらしい。
「しかし、お前も変わってるな。高校はどうしたんだよ?サボっていると授業に付いて行けなくなるぞ。」
すると ひかりはフフンと鼻を鳴らして得意気に言う。
「残念でした。私はめっちゃ頭が良いので、高校の授業なんて楽勝よ♪」
確かに星空 ひかり(ほしそら ひかり)は頭が良い。
神童博士の講義は一流大学に進学した僕でさえ理解するのが難しいのだ。
「お前、医者にでもなるつもりか?脳外科医とか………。」
すると ひかりは珍しく、暗い雰囲気で黙り込む。
「いや…、なんだ。話したくないなら別に良いんだが…。」
僕は気まずくなって話題を変えようとする。
「そうね……、あなたになら教えてあげても良いわ。」
「ん……何をだ?」
「何をって決まっているじゃない。私がどうして神童博士の講義を聞いているのかを。」
そして、ひかりは真面目な顔で僕の顔を真正面から見つめる。
(こいつ……、よくよく見ると可愛いんだよな……。)
僕は少し照れて目を伏せようとするが、ひかりは両手で僕の顔をグッと引き寄せる。
(おいおい、近過ぎだろ………)
僕はカァっと顔を赤らめる。
ひかりはそんな僕の様子を気にすることも無く言うんだ。
「すばる……、これは他の誰にも言ってはダメよ。私の目的は………。」
――――――復讐のためよ
【夜空に瞬く光編②】
『臨時ニュースです。昨夜起きた東京都品川区の無差別殺人事件の犯人が逮捕されました。犯人をよく知る知人の話では、犯人は普段はおとなしく、とても穏やかな性格であったと…』
「なぁ、昴(すばる)、犯人が捕まったみたいぜ。」
昴に話し掛けるのは、親友の隆(たかし)。
「そうか、最近多いな……、殺人事件。」
世界的に治安が良いとされる日本であるが、近年の殺人事件の増加は異常な件数に昇っていた。
いや、日本だけでは無い。
世界中で殺人事件が増加し、テロやら紛争やらの話題にも事欠かない。
世紀末でも無いのに、世の中は暗い話題で持ち切りだ。
「そこでだ!」
隆(たかし)は楽しそうに笑みを浮かべる。
「遊びに行こうぜ、ほら、例の女子高生も誘ってよ。」
「はぁ?なんで ひかりなんて誘うんだ?」
すると隆は急に真剣な顔をして昴に言う。
「分かって無いなぁ…昴くん。彼女の可愛さは半端じゃないよ?街で歩いていたら男性陣は全員振り向くレベルだよ?」
そして、今度は急に怖い顔つきになる隆。
「お前だけ仲良くしててズルいだろうが、紹介しろよ。」
「はぁ……」
昴はため息を付いて隆に言う。
「お前って平和だよな……。」
実際ひかりは超が付くくらいに可愛いかった。顔立ちは整っていて笑うと愛敬もある。
まだ16歳なので可愛いと言う形容詞がピッタリ来るのだが、あと何年かすると美しい女性に成長するだろう。
北海道の宗谷岬で見た時の彼女は、可愛いと言うよりも、物悲しい美しさがあったのだが、それはおそらくオーロラの為せる技であろう。
今の彼女には物悲しさは全く見られない。
(まぁ、僕も彼女の事を少し知りたいかな…。)
――――私達は運命で結ばれているの
昴(すばる)は先日の彼女の言葉を思い出す。
(あれはいったい、どう言う意味だったのだろう………。)
「明日も神童博士の講義があるな。よし!誘って見よう!」
「おー!さすがは昴くん!持つべきものは親友だぜ!ひかりちゃん、待っててくれ!」
2人で盛り上がる僕達を、他の学生達が白い目で見ている事を2人は知らない―――
――――翌日
カラッと晴れた金曜日
神童博士の講義は午前中で終わり、僕達三人は新宿の街へと繰り出した。
ひかりは僕の予想に反し僕らの誘いに嬉しそうに付いて来た。
(今時の女子高生は知らない男の誘いに付いて来るのか……、しかも高校の授業はどうなってんだ?)
「すばる?どうしたの?私の顔に何かついてる?」
(しまった……、目と目が合ってしまった。)
昴は恥ずかしそうに目を伏せる。
「おい昴!なに2人で話してんだよ!俺も会話に混ぜろよ!」
横で隆のやつが僕を睨んで来る。
(これが会話しているように見えるのかよ!)
僕は心の中で突っ込みを入れる。
そんな他愛のない日常――――
何気ない会話をしながら歩いていると、ひかりがはたと足を止める。
「ん?どうしたの?ひかりちゃん。」
隆が ひかりの方を振り返る。
それはカラッと晴れた金曜日の午後。
事件は何の前触れもなくやって来た。
「すばる!隆くん!走るわよ!」
ひかりは突然走り出した。
何が何だか分からない僕と隆は、彼女の後を追い掛けながら叫ぶ。
「お~い!ひかりちゃん!いったいどうしたんだ!?」
隆が ひかりに質問をする。
何でいきなり走り出すのか……。隆も僕と同じ気持ちだろう。
(高校の先生でも居たのかな?)
僕がそんな事を考えていると、ひかりは僕らの予想もしていない事を言い出した。
「あの先は危ないわ!気が付かなかった!?もうあの人達は―――」
―――――――人間じゃない
「はぁ……?」
隆が素っ頓狂な声を上げた。
それはそうだろう。人間じゃないと言われても何が人間じゃないのか。
宇宙人でも見つけたのか?
すると先程まで僕らが居た付近で
―――――きゃあぁぁあぁぁ!!
悲鳴が聞こえて来た。
「おい!昴!」
「あぁ、何が起きたんだ!?」
「いいから早く!!」
ひかりは僕の手を引いて悲鳴とは反対の方向へ引っ張って行く。
小一時間ほど走って、僕達3人は皇居の見える公園に辿り着いた。
「はぁはぁ………」
「ここまで来れば大丈夫……」
ひかりはホッとした様子で学生鞄から取り出したペットボトルの水を飲み干す。
僕は少し息を整えてから、ひかりに質問をする。
「なぁ…、いったい何だったんだ?人間じゃないって何だよ?」
「うん……」
ひかりは少し困ったようにうつむいて言う。
「例え話よ………。すれ違った人の目……、今にも人を襲いそうだったから……。」
煮え切らない返事に僕は疑念を感じたが、隆が横から口を挟む。
「まぁ、いいじゃないか昴。ほら、今日は良い天気だぜ!」
空には太陽が燦々と輝き、公園に生い茂る木々の間から木漏れ日が射し込んでいた。
(確かに………良い天気だな………。)
「すばる!隆くん!ボートにでも乗らない?私、ボートって乗ったこと無いんだよね……。」
「おー!いいね!ボート乗ろうぜ!」
ボートの中で楽しそうに笑うひかりと隆。
僕もつられて笑顔を見せる。
平穏を取り戻した日常―――
そんな平和な日がいつまでも続くと思っていた。
僕らは―――
この平和な世界を――――
―――――当たり前だと思っていたんだ

星空 ひかり(ほしそら ひかり)
イラスト提供 ルイン様