Seventh World 星空の光の章

【夜空に輝くオーロラ編①】

君と出会わなければ良かった。

いや

君を好きにならなければ良かった。

こんなにも

こんなにも、君を失う事が辛いなんて

僕には分からなかったんだ。

あの夜空の向こうに見える星空は

あの日と変わらず

こんなにも

綺麗だというのに―――







それは魔法に掛けられたような幻想的な景色の夜であった。

北海道の厳しい寒さを忘れるような、空一面に広がる虹色の光は、僕の心に深く刻み込まれた。


「綺麗――――」


北海道観光に来ていた僕達は、とても幸運だと思う。

日本最北のこの地でもオーロラが発生する事は稀だと言う。

「俺達、付いてるな!良い卒業記念になったぜ!」

「稚内まで来た甲斐があったな。誰だよ、札幌にずっと居ようって言ってたのは!」


都内でも有数の進学校を卒業した僕らが卒業旅行に選んだのは、北の大地『北海道』であった。



同じ部活の柊 咲(ひいらぎ さき)の地元が北海道であったのと、北海道が独立するかも知れない為に、日本国にあるうちに一度行ってみようと言う話になった。


「それにしても何で独立なんてしたいのかね。」

親友の木田 隆(きだ たかし)がそんな事を言い出した。

「そんなの知らないわ。道民の投票で独立派が多数を占めたんだから、仕方ないじゃない。」

咲が残念そうに隆に返答する。

北海道が独立したら、咲は故郷に帰るのも外国へ行く事になる。咲は高校を卒業したら、都内の有名大学への進学が決まっていた。故郷の独立には複雑な心境だろう。

「まだ決まった訳じゃ無いさ。今度の総選挙の結果次第だろ?野党第一党の市民の党が勝ったら北海道の独立が決まるらしいぜ。」

そんな事を話しながら僕らは稚内の宗谷岬を後にする。



僕は帰り際にもう一度オーロラを見ようと振り返る。

(……………?

あんな所に人が居たっけ?)


僕は岬の先に立つ一人の女性を見つける。

(真夜中に宗谷岬に一人で来るなんて、オーロラを見に来たにしても危なく無いのかな?稚内は治安が良いのか…)

よく見ると、その女性はまだ若い。僕よりも年下に見える。

(女子高生?……いや、変わった服装をしている。)

薄暗い真夜中の稚内で、あまりよく見えなかったが彼女はとても綺麗な色のドレスのようなものを着ていた。

背景にはとても綺麗なオーロラが広がっていて、彼女の腰まである長い髪も薄っすらと光って見える。

ぼんやりと見えるその女性は、僕に気が付くと、こちらの方を振り返り、何かを話し掛けて来た。

遠くて何を言っているのかは分からなかったが、一つだけ言えるのは――


その女性は――――


――――――とても美しかった




「おい、昴(すばる)!早く行こうぜ!」

「お、おう!」

隆(たかし)に声を掛けられて、一瞬目を離した昴(すばる)が、もう一度岬の方を見ると…

もうその女性は居なかった。


それが銀河 昴(ぎんが すばる)と彼女との一度目の出会いである。



夜空には、とても美しい神秘的な七色の光が幻想的な世界を醸し出していた。





【夜空に輝くオーロラ編②】

大学生になった昴(すばる)は親友の隆(たかし)と共に都内の有名な市立大学に進学した。

第一希望であった東京大学は残念ながら不合格であったが、昴(すばる)はこの学校を気に入っている。

――――――市立帝都大学


少子化が進む日本に於いて、新たに市立大学が新設される事は珍しい。
しかも、かなりの難易度の大学だ。

この学校を一躍有名にしたのが、脳医学の権威『神童(しんどう)博士』の存在だろう。

若干28歳の若さでノーベル医学賞を受賞したのは史上最年少の若さだと言う。
神童博士はアメリカ合衆国のNASAからも研究の手伝いを依頼されているとの噂もある。

その経歴もさる事ながら、博士はかなりの美男子であった。
ニュースではその功績よりもアイドル顔負けのその美しい容姿を特集している。


「なぁ、昴(すばる)今朝の新聞見たか?」

話し掛けて来たのは親友の隆(たかし)。大学に入っても同じクラスとは腐れ縁と言うやつか。

「『地球外生命体の発見』ってやつか?あんなの只の寄生虫だろ?驚くほどの事では無いさ。」

昨夜アメリカのNASAから発表されたニュース。


―――――『地球外生命体』の発見


今まで地球で発見された事の無い未知の物質で出来た、ほんの2ミリほどの小さな寄生虫。

その寄生虫が人間の体内に入り込んでいるのが発見された。
アメリカ合衆国はその生命体を宇宙から迷いこんだ生物だと結論付ける。

「お前って、ほんと、つまらないやつだな……。」

隆はオカルトとか宇宙人とか、そっち方面の話が好きなのだが、残念ながら僕はあまり興味が無い。

それより今日は、大学に入って初めての神童博士の講義である。

ノーベル賞を取った先生の講義など、そうそう受けられるものではない。

僕は胸を時めかせて先生の講義が始まるのを待っていた。

と……そこに

僕の隣の席に、ちょこんと一人の女のコが座った。

僕は彼女の事を見て驚く。

彼女は、卒業旅行の宗谷岬で見た女性にそっくりだったからだ。

「………あれ?………君は……」

思わず僕は彼女に話し掛ける。
すると彼女は細い指を口に充てて、まるで犯罪者のように辺りを気にしながら言う。

「しぃ〜!ちょっと静かにしてよね。私が潜り込んだのがバレたら追い出されるじゃないの!」

「潜り込むって、君はここの大学生じゃ……。」

「何言ってるのよ!私は16歳、花の女子高生ってやつよ。失礼しちゃうわ!」

僕は混乱する頭を整理する。

要するに、彼女は神童博士を目当てに潜り込んだ女子高生で、博士の『追っかけ』ってやつなのだろう。

ノーベル賞を取ると『追っかけ』まで居るのだなぁ、と僕は少し感心する。

それにしても

彼女は本当にあの時の女性なのだろうか。

顔は確かに似ているけれど、雰囲気が全然違うし髪の色も違う。あの日の彼女は、もっとお淑やかで繊細な感じがした。


今にも消え入りそうな―――


―――――とても美しい女性




すると彼女が僕の顔をじっと見ているのに気が付く。

僕は慌てて彼女に言う。

「な!なんだよ!人の顔を見て!何か付いているのかよ!」

「………別に……。ただ、鼻の下を伸ばして何を考えているのかなーと思って。」

「………。」

僕は顔を真っ赤にして先程までの思考を訂正する。

(全然似てない!こんな女子高生が彼女のはずが無いじゃないか!
だいいち彼女は北海道の稚内に居たんだ。東京で高校生をやっている訳が無い!)

ほどなくして、神童博士が現れる。

テレビで見た通り、博士はとても美男子で性格も良さそうな人柄であった。
美男子と言っても歳は28歳なので、僕等の年代から見たら大人の魅力もある。

博士の授業は少し難しく、脳に及ぼす特殊な電磁波の影響やら何やら言っている。

(最初の授業で、少し難易度高く無いっすかね……。)

僕が心の中で愚痴を溢していると、隣に座る女子高生の様子が目に入り込んで来た。

(………あれ?)

女子高生の彼女は、必死で先生の授業内容をノートに書き写していた。

(なんだ…?只のミーハー女子高生じゃないのか?)

そして、彼女は何故か左手だけに手袋をはめている。

(変わった奴だな……。)

ようやく難しい講義が終わり、僕らは爽やかに立ち去る神童博士を見送った。

女学生達は、博士をアイドルか何かと勘違いしている様子で完全に目がハート状態となっている。

「やれやれ……」

(少し難しかったけど、授業内容はなかなか面白かったな。さすがはノーベル医学賞を取った先生だ。)

そう思って僕が立ち去ろうとした時、隣に座っていた女子高生が僕に話し掛けて来た。

「今度の授業の時も来るから、あなた席を取っておいてね。」

「な!何を言っているんだ!初めて会ったお前の為に何で僕が!」

僕がそう言うと、彼女は少し微笑んでこんな事を言う。

「初めてじゃないわ。あなた私と会ったじゃない。私は覚えているわ。」

そして、彼女は僕の鼻にちょこんと指を充てて言う。



――――私達は運命で結ばれているの






それが僕と彼女―――

星空 ひかり(ほしそら ひかり)との二度目の出会いであった。