【番外編】

みなさーん♪

今日は私のステージを観に来て下さってありがとー♡

国民的美少女アイドル夢野 可憐(ゆめの かれん)は超満員のコンサート会場で元気に笑顔を振りまいていた。


「ぐふふ………やっぱり可憐ちゃんは可愛いな……。」


会場で不気味な笑みで独りごちっているのは、日本帝都学園3年E組『夢野 可憐ファン倶楽部 会員No03番オタクの中のオタク。

篠島 源次郎(しのじま げんじろう)

『黒い霧』の脅威が去り平穏を取り戻した日本で、ようやく夢野 可憐(ゆめの かれん)のコンサートが再開されたのだ。

源次郎は今日と言う日をどれほど楽しみにしていたか。

そこで源次郎はとある人物を見て衝撃を受ける。

「むっ!まさか、あの娘は!?」

夢野 可憐(ゆめの かれん)一筋の源次郎にとって、それは衝撃的な出会いであった。

北条 月詠(ほうじょう つくよみ)の精神干渉術にすら動じなかったこの男。源次郎の心を鷲掴みにした目の前の少女。

李 羽花(リー ユイファ)を見た源次郎の異常なまでの嗅覚がビンビンに反応した。

この少女は、まさか――――

「世の男性の憧れ、エルフっ娘(こ)ではないかー!!」

突然 叫び声を上げる源次郎を見て身構えるユイファ。

「きさま!なぜ私がエルフ(の血を引いているの)だと知っている!?変身前の姿の私は普通の人間と変わらないはず!」

篠島 源次郎(しのじま げんじろう)のオタクパワーによる能力は、例え見た目では分からなくても、エルフ族と人間を区別する事が出来る恐るべき能力。

そんな事とは知らないユイファは、慌てて周りを警戒する。

「さては、貴様!リンクスの手下のヴァンパイアね!まだ人族の支配を諦めていないなんて……許しません!」

「おっほー!怒った姿も可愛いのねん!さすがはエルフっ娘(こ)なのでーす!」

(くっ!………この男……)

オタクパワーに圧倒されるユイファ。

そこに、可憐のコンサートを観に来ていた(ファン倶楽部会員No9999番の)リンクスが口を挟む。

「おいユイファ、黙って聞いていたら心外の事を言う。いくらヴァンパイア族が人手不足でも、こんな不細工な男は不要だ。ヴァンパイア族の品が疑われる。」

「ぶ!ぶさいくだと!!?」

「ん……?なんだ?怒ったのか?」

リンクスを睨みつける源次郎。

「お前こそエルフちゃんと親しいようだが、何者だ!」

――――――――許さん!!


ゴゴゴゴゴゴォ―――――


コンサート会場が源次郎のオタクパワーにより揺れ動く。

(むっ………この威圧感は………、あの時のゼウス……いや、それ以上!?)

慌てて臨戦態勢に入るリンクス。

「ちっ!先手必勝!人族がヴァンパイア族の動きに付いて来れるか!」

リンクスは、素早い動きで源次郎に手刀を打ち込もうと接近する。

すると源次郎は――

「うぉおぉぉぉおぉぉぉ!!!」

オタク界において伝説となっている究極の必殺技――――

――――――オタクパーンチ!!!


「うおっ!?」

源次郎のエルフっ娘(こ)への想いが、アドレナリンを限界以上に引き出し、脳からその右腕にオタクパワーが伝導する。

物凄いパワーを伴ったパンチがリンクスを直撃した。

「ぐわぁあぁぁぁぁっ!!」

数十メートルも飛ばされたリンクスは、薄れ行く意識の中で思う。

(人族、恐るべし…………)


これほどの使い手が―――――

――――――――まだ残っていたとは



リンクスを葬り去った源次郎が李 羽花(リー ユイファ)の方へ向き直り、改めてユイファに話し掛ける。

「ぐふふ……エルフちゃん♪遊びましょ♡」

するとユイファは近くに居た男に助けを求める。

「警備員さん、この男です!変態です!」

「え?」

「おい!変態だ!とっ捕まえろ!」

ゾロゾロと集まって来た警備員達に連れて行かれる源次郎。

ほどなくパトカーのサイレンが鳴りコンサート会場は元の平穏を取り戻した。

こうして夢野 可憐(ゆめの かれん)の復活コンサートは無事に開催されましたとさ。

めでたし、めでたし。




メビウスの輪(番外編)   完