【開戦編①】

『北の果ての地』からの侵入者

―――――奴等の正体は魔族

奴等の目的は、クリスタルに封印された魔族の王の開放。

「ふっ……、面白い。」

ヴァンパイア族最強の戦士、金色のシャウストは手に持つ短剣をぺろりと舐める。

「それでこそ、2つの世界に喧嘩を売れると言うものだ。

この荒廃した地で、十一種族が仲良く死んで行くなど許されてたまるか。

俺様は、そんな、器の小さな男では無い。


―――――真のユグドラシルの地


この世界の何倍もの広さと、大自然が広がる広大な大地。

2つに別れたもう一つの世界を、俺は手に入れて見せる。

利用出来るものは、何だって利用する。」


例えそれが――――


――――伝説の種族である魔族でも!





「シャウストよ。本当に魔族の側に付くのか?エルフの森で見た者達の実力は本物だ。彼女達こそ『ユグドラシルの英雄』だ。」

巨人族の隊長ゴーグ。

彼はエルフの森の一戦から、心が揺らいでいる。確かに魔族は恐ろしい存在。
しかし、恐怖による支配では平和は訪れ無い。

シャウストを止める為に最後の説得を試みる。

「ゴーグよ。俺はヴァンパイアだ。ヴァンパイア族にとって人族は、魔族よりも憎むべき存在。お前の言う『ユグドラシルの英雄』とは、我ら十一種族を裏切った人族だと言う事を忘れるな。」

「むぅ………」

「それと、ゴーグ。お前には俺様の兵隊となって働いて貰う。」

「なんだと!?」

「言っただろう?俺はヴァンパイア。ヴァンパイア族の特殊能力を知らない訳ではあるまい。」

「シャウスト!貴様ッ!」


――――吸血蝙蝠(きゅうけつこうもり)


蝙蝠に血を吸われた者はヴァンパイアと化す。

荒廃した大地に佇むシャウストは、夜空を見上げて呟く。


「そろそろだな………。魔族の動きを察知した奴等と魔族の幹部共が激突する。」



それにしても――


(幻影のミーシャとか言ったか……

あの女、何を企んでいる。

魔族の王を復活させて、霊族に何の得があると言うのだ………。)



【開戦編②】

「あれが……ミーシャの言っていた『ハデスの神殿』か……。」

「私達、魔族ですら知らない建物をなぜ霊族の女が……。」

魔族の幹部である2人は、遠くに巨大な建物『ハデスの神殿』を見つける。

「ハート、霊族の女の事は後回しだ。今はクリスタルから王を開放するのが先決。行くぞ!」

魔族の戦士達の数は6人。
6人が神殿に向かって走り出したその時、前方に巨大な人影が見える。

(む……?あれは、巨人族の戦士ゴーグ。そしてヴァンパイア族のシャウストか。)

金色(こんじき)のシャウストは、魔族の戦士達の前に歩み寄り、ハッターとハートに言葉を掛ける。

「やぁ、幹部殿、随分とお急ぎのようですがクリスタルは見つかったのかね?」

「シャウスト……、貴様 何しに来た?殺されたいか?」

ハッターは右手をすっと差し出して言う。

するとシャウストはニヤリと笑いハッターに言う。

「とんでもない。俺は魔族の味方に付くと決めたんだ。

今はユグドラシル中の種族が『ユグドラシルの英雄』の出現により、どちら側に付くのか迷っているようだが――

英雄達が死ねば元通り、この世界は魔族の支配下に治まるだろう。

―――――――俺は魔族の味方だ。」


「ふん、そちらの巨人族の男も同じ意見なのか?」

ハッターはゴーグを見上げて言う。

「あぁ、俺はシャウストに従うさ。」


(……この男、以前と何か様子が違う。それに、以前よりも身体から漲(みなぎ)るオーラが強くなっている。)

ハッターはひと目でゴーグの異変に気が付く。

「シャウスト……、お前、ゴーグに何かしたな?」

シャウストはフフと笑い答える。

「そんなことより――――

ユグドラシルの英雄達が近くに来ている。

すぐ近くにだ―――――」

「!?」



遠くに見えた『光の絨毯』が物凄い速さで魔族達の元へ接近し、4つの人影が飛び降りた。

李 羽花(リー ユイファ)
神代 麗(かみしろ れい)
王城 信長(おうじょう のぶなが)
ヴァンパイア・リンクス

「麗!ユイファ!魔族の方はお願いします!私は神殿に向かいクリスタルを見つけ出します!」


おそらく、あの神殿の内部に―――


―――――クリスタルがある!



光の絨毯の上で叫ぶ夢野 可憐(ゆめの かれん)。

「可憐さん、行きますよ!神殿の壁を魔法で破壊し、そのまま内部に突入します!」

妖精族の王女ステラが素早く魔法を詠唱する。

「ホーリーライトニング!」

ビカッ!

ガガガガッ!

ドッガーッン!!

物凄い音を立てて『ハデスの神殿』の城壁に穴が開く。

「くっ!あいつら、いつの間に!」

慌てたハッターが神殿の方へ駆け寄ろうとすと、前方に降り立った4人の戦士のひとりが『アルテミスの槍』をブンと構えてハッターに言う。

「ここは通しません。あなた方が『北の果ての地』からの侵入者―――」


―――――魔族ですね



何千年の時を超え、ハンプティ・ハッターは『アルテミスの槍』と対峙する。

「ほぉ……」

ハッターは言う。

「噂通り、伝説のエルフ族の少女……
プリンセス・リーナに瓜ふたつ。」


敢えて言おう――――――――


――――久し振りだなリーナ


―――――あの時の決着、今こそ付けてやろう


ボワッ!

ハッターの両腕の膨大な魔力が爆発し、巨大な業火がユイファに襲い掛かる。



――――――アルテミスの槍



ユイファは慌てる事なく、神々が造った伝説の武器『アルテミスの槍』をひと振りする。

バシュッ!

すると大気が割(さ)かれ、ハッターの業火を大気ごとねじ伏せる。

ユイファは言う。

「望むところです。リーナとアロンの意志は、私の中に生きています。」

『ユグドラシルの英雄』の中でも最強と言われた2人の戦士。

「私には、2人の血が流れています。」


覚悟して下さい――――――


――――――ユグドラシルの平和は


―――――――私が守ります―――――――












李 羽花(リー ユイファ)

イラスト提供 にゃんごろ様