【クリスタルの行方編①】

エルフの森―――

この土地は、神話の時代には広大な森林が生い茂る緑豊かな土地であったと記録される。

しかし、ゼウスの力により水源地が閉ざされた現在では、やせ細った木々がまばらに生えているに過ぎない。

それでも、エルフの一族は森林を守って来た。森の動物達と共に過ごし、他の種族から領地を守る為に命を掛けて戦って来た。

いつの日か、水源地を塞ぐゼウスの石が取り除かれる日を夢見て―――。



李 羽花(リー ユイファ)は伝説の武器である『アルテミスの槍』を振り上げる。

ピカッ!

アルテミス神の力を宿したその黒い槍は眩い光を放ち、同じく神であるゼウス神が創り出した『ゼウスの石』を――


ビキビキッ

バキィーンッ!!


木端微塵に打ち砕く――――



「おぉ!奇跡だ!何千年もの間、エルフの民を苦しめていた『ゼウスの石』が砕け散るとは……。」

アーサー王は思わず感嘆の声を上げる。

「これで良いかしら?」

仕事を終えたユイファは『アルテミスの槍』をブンと回し後ろを振り向く。

「ユイファ様!ありがとうございます!やはり貴女は伝説のプリンセス・リーナ………むぐ?。」

ユイファは恥ずかしそうにマリアーナ姫の口を手で塞ぐ。

「私はそんなたいそうな者では無いわ。私はユイファ。ユイファって呼び捨てで構わないわ。」

『ゼウスの石』が取り除かれたエルフの森は、再び緑豊かな森林が生い茂る大地へと生まれ変わるであろう。


「ユイファ様、麗さん、本当に何とお礼を言って良いのか。それに……」

アーサー王は後ろに立っている人族の2人の戦士とヴァンパイア族のリンクス、妖精族のステラの方を見る。

「可憐さん、王城さん、そしてリンクス王子にステラ王女。あたな方が来てくれなければ、戦闘は終わらなかった。本当にありがとう。」

「ふん……」

リンクスはつまらなそうに鼻を鳴らすと、麗とユイファの方を見る。

「まさか、この世界まで追って来るとはよほど死にたいらしいな。なんなら今から決着を付けるかい?」

「ちょっとリンクスさん!」

可憐は慌ててリンクスを止める。

そこに歩み寄るのは神代 麗(かみしろ れい)

「可憐………無事だったのね。本当に良かったわ。」

ひしと抱き合う可憐と麗。

「どうやら、ヴァンパイア族と人族との戦闘はひとまず休戦と言ったところか……。なぁ、リンクス。」

横から口を挟むのはキングこと王城 信長(おうじょう のぶなが)。

「仕方がないな……。しかし忘れるな。俺の妹キャロルの仇は必ず取らせて貰う。」

リンクスはユイファを睨みつけて言う。

「それはお互い様です。貴方が天佑(テンユー)や私達のポリス『ブルースカイ』にした事は許されるものでは有りません。この戦闘が終われば、私は貴方を倒さねばなりません。」

ユイファは『アルテミスの槍』をリンクスに向けて言い返す。

今にも戦闘を始めそうな2人の間に入るのは夢野 可憐(ゆめの かれん)。

「まぁまぁ、お二人とも今は止めにしましょう。」

なんとか、その場をおさめた可憐は、ほっと胸を撫で下ろす。

「ところで、『北の果ての地』からの侵入者とは何者なんだ?」

当然の疑問を口にするキング。

すると、それまで口を紡いでいたオーク族の大将ギャバンが口を開く。

「これは推測だが、おそらく奴等の正体は……」


――――――魔族




「…………魔族?」

「そうだ。神話の時代にユグドラシルに恐怖をもたらした伝説の種族だ。」

今まで見た事も無い『魔族』と言う存在。
その『魔族』が現代に現れユグドラシルの地を侵略したと言う。

「オーク族の地で奴等と対峙したが、とても勝てる気がしなかった。奴等の魔力と身体能力…、あれは神話に語り継がれる魔族と酷似している。」

一堂はゴクリと息を呑み、辺りはしんと静まり返る。

ギャバンは更に言葉を続ける。

「奴等の狙いは、薄緑色に輝くクリスタル。奴等はそのクリスタルを必死で探している。」

「薄緑色のクリスタル?それなら……」

その言葉に反応したのは妖精族の王女ステラ。

「私達、妖精族の住む聖都シーナ。そこの地下神殿で見た事があるわ。しかし、数年前に何者かによって盗まれたの。今は何処にあるのかは分かりません。」

「盗まれた?」

「いったい誰が?」

「奴等より早くクリスタルを見つけ出そう。嫌な予感がする。」

キングの言葉に一堂が頷いた。


薄緑色のクリスタル―――


―――――クリスタルは何処に?




【クリスタルの行方編②】

現在 魔族はユグドラシルの地の西にある旧サラマンダー族の首都を拠点としていた。

サラマンダー城の王の間には、魔族の幹部であるハッターとハートが会話を交している。

他の魔族は見当たらない。

そもそも異世界から開放された魔族の数は実の所ものすごく少ない。

魔族の神である『ハデス神』は異世界に閉じ込められた魔族の時間を封印した。

しかし、その魔法に耐えられる魔族は、魔族の中でもごく一部。高い魔力を持っていた幹部達と、その他数人の魔族しか生き残る事が出来なかった。

だからこそ、ハッターは他の種族を支配下に置く事を選んだ。

「まさか、エルフの森に派遣した部隊が敗れるとはな。エルフ族を甘く見ていたようだ……。」とハッター。

「計画が狂ったわね。今回の敗戦でユグドラシル中の種族が私達に反旗を翻す恐れがあります。」とハート。

「一日も早くクリスタルを見つけ出し、シュバルツ王を復活させねばなならぬ……。」

「そうねハッター。クリスタルの封印を解く事が私達の目的……。」

クイーンズ・ハートは手に持つカードをパラパラとめくる。

すると、その中の一枚のカードがハートの意志に反して空中に浮かび上がる。

「な!誰です!?」

思わず声を出して警戒するハート。

浮かび上がったハートのエースのカード。
その後ろにぼんやりと人影が浮かび上がる。

薄っすらと、まるで気配を感じさせないその女性は、2人の魔族の戦士に優しく微笑み掛ける。

そして、その女性はこんな事を言う。

「お待ちしておりました。あなた方が魔族の戦士ですね?この日が来るのをどれだけ待った事でしょう。」

「なんだと?貴様、何者だ?」

ハッターは魔力を込めた両手を、その女性に差し向ける。

「無駄です。私の肉体は遥か昔に消滅しています。あなた方が見ているのは私の思念体。」

「思念体だと?その思念体がハートのカードを宙に浮かせているとでも言うのか?そんなバカな事……。」

ハッターの言葉が終わる前に、その女性はフフと可笑しそうに笑って言う。

「まさか……、いくら私でもそんな事は出来ませんわ。」

「では、いったいどうやって!」

ハッターが叫ぶとハートのエースのカードが空中でクルクルと回って――


ボワッ!


一瞬にして燃え尽きる。

「!?」

何が起きているのか理解が追い付かない魔族の2人。

「ハートさんと言ったかしら?お手元のカードを見てごらんなさい。ハートのエースは――、その手元にあるはずです。」

「何ですって!?」

慌てて手元のカードを確認するハート。

「…………」

「どうしたハート?」とハッター。

「……ある。ハートのエースのカードはここに有ります。いったい、どうなっているの?」

ハッターとハート。
2人の魔族の幹部がその女性の方を見て警戒を強める。

「どう言う事だ?」とハッター。

するとその女性は種明かしをするマジシャンのような口調で答える。

「今燃え尽きたカード。それは私の創り出した幻影。あなた方は幻を見ていたのです。」

「幻だと?………貴様はいったい何者だ?」


そうね……


お答えしましょう。


私の名前はミーシャ――――


古(いにしえ)の人々は私の事をこう呼んでいました。


―――――――幻影のミーシャ