【トリトンの戦い編①】
ガーゴイル族の領地にある商業都市ミラパーク
「大変だ!魔獣の群れが来るぞ!」
「何だって!?」
広大な大地を有するユグドラシルには様々な生物が存在する。
ユグドラシル最南端に位置するガーゴイル族の領地には『デビルコンドル』と呼ばれる獰猛な魔獣が生息している。
大空から集団で襲い掛かる攻撃的な性格は、魔獣の中でも特Aランクに指定されるほど危険な魔獣である。
上空に羽ばたくデビルコンドルの群れ。
その前方に一人のガーゴイル族の戦士が空中に飛び立ち迎え撃つ。
「おい!誰だアイツは!?危険だぞ!」
「いや、トリトンだ!これで安心だろう。」
ガーゴイル族の戦士トリトン
トリトンは両手を広げ大気中に存在する水の精霊の力を呼び寄せる。
ガーゴイル族の特徴は空を自在に飛び回る巨大な羽と、十一種族トップクラスの魔力にある。
トリトンの両手から鋭利な氷の槍が無数に放出され空中に浮遊する。
「アイスジャベリン!」
トリトンがそう呟くと
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
氷の槍が一斉にデビルコンドルに襲い掛かる。
ギャオォオォーン!
次々と氷の槍がデビルコンドルの身体を串刺しにして行く。
デビルコンドルの群れはトリトンを敵と定め、鋭いクチバシを大きく広げる。
デビルコンドルが危険度特Aランクに指定される所以はその攻撃にある。
大きな口から放出される炎の塊。
灼熱の炎がトリトンを襲う。
ボボボボボッ!!
しかしトリトンは炎の塊を素早く避けると、一気にデビルコンドルとの間合いを詰めて反撃に転じる。
「雷(イカズチ)の剣!」
今度の魔法は雷の魔法。
電気を帯びた超巨大な剣がデビルコンドルを薙ぎ払う。
ギャオォオォーン!
地上から見ていたガーゴイル族の住民達は大歓声でトリトンの戦闘を見守っていた。
城の窓から戦闘を見守るのはガーゴイル族の王ガトリン。
ガトリンは思う。
(ガーゴイル族最強の戦士トリトン。世が世なら多くの武勲を上げたに違いない。しかし、時代が悪過ぎる。)
魔族に支配されているこの時代には、十一種族の中で、どんなに強い戦士が居ても活躍する場所が無い。
異族間での戦闘はもちろん、魔族に逆らう事など絶対禁止事項。
魔族に逆らえば殺されるのみ――――
デビルコンドルとの戦闘を終え地上の大広場に降り立つトリトン。
住民は大歓声でトリトンを取り囲む。
すると
騒ぎを聞き付けた魔族の戦士が大広場にやって来た。
ガーゴイル族の領地に配備されている魔族の戦士ドーラ。
ドーラはトリトンに大剣を突き付けて言う。
「貴様……誰の許可を得て魔獣を殺しているのだ?」
「なんだと?」
「知らぬのか?魔獣を殺すには魔族の許可が必要だと言う決まりだ。決まりを破るのは大罪に値する。」
「大罪だと?あのまま放置していたら住民に被害が出ただろう。住民の命を何だと思っている。」
魔族の戦士ドーラが答える。
「ガーゴイル族の命など、虫けらにも及ばない。特にお前のような大罪人は死刑だ!」
ドーラが大剣を振り上げる。
「くっ!虫けらはお前の方だ!」
トリトンは瞬時に雷(イカズチ)の剣を創り出しドーラの身体を突き刺した。
「ガハッ!貴様……魔族に逆らうか……。」
「ふっ……、魔族など関係ない。貴様のような外道には死が相応しい。」
シュバッ!
トリトンの雷(イカズチ)の剣が真上に斬り上げられ、ドーラの身体が真っ二つに引き裂かれる。
この日
ガーゴイル族最強の戦士トリトンは、ユグドラシルの全世界中に指名手配され魔族に命を狙われる事になる。
【トリトンの戦い編②】
ユグドラシルの地を魔族が支配して10数年の歳月が過ぎた。
主要十一種族は魔族の力を恐れ抵抗する事も叶わない。
誰もが、魔族の支配がこのまま続くものだと諦めていた。
妖精族の聖都シーナに足を踏み入れるのは巨人族の王グレイン。
妖精族の王女シルビアがグレインに言う。
「お待ちしておりましたグレイン王。」
巨人族のグレインにとって、妖精族の身体は小指の先ほどしか無い大きさである。
身体も小さく華奢な妖精族がユグドラシルの地で生きて来られたのには理由がある。
妖精族は他の種族よりも魔法の力に長けていた。
攻撃魔法に限らず、あらゆる特殊魔法を使いこなす妖精族はユグドラシルの主要十二種族の中でも特殊な存在と言える。
「完成したのかね?例の魔法が…」
グレインはシルビアに問う。
「ええ…」
シルビアは答える。
「ようやく完成しました。この魔法を使えば魔族を倒せるかもしれません。」
「そうか……シルビア殿、ご苦労をお掛けした。」
「それと一つ気になる情報があります。」
「ん?何かね?」
グレインはシルビアの言葉に耳を傾ける。
「ガーゴイル族の領地で魔族を殺した者がおります。私達の計画にはガーゴイル族の戦士が必要です。彼を助け出し仲間に加える事は出来ないでしょうか?」
「ふむ……」
グレインは静かに頷く。
「その話なら私も聞きました。確かガーゴイル族最強の戦士と名高い、名前はトリトンと言ったか…。」
そこに妖精族の女性の戦士が口を挟む。
「トリトンなら知っているわ。私が行って来ましょう。」
「まぁ、メタファーナ。あなた話を聞いていたのですか?」
「私の魔法なら魔族に見つからずにトリトンを連れて来る事が出来ます。その代わり妖精族の秘宝をちょっとお借りするわね。」
「えっとメタファーナ。あなた『ヘラの首飾り』を持ち出すと言うの!?」
「『ヘラの首飾り』……ですか?」
グレインは聞いた事の無い単語に首を傾げる。
「ええ……、エルフ族に伝わる『アルテミスの槍』と同じく神々が作ったと言われる伝説の武器。今回の魔族を葬り去る魔法も『ヘラの首飾り』があってこそ効果を発揮します。」
そしてシルビアはメタファーナに言う。
「『ヘラの首飾り』は私達妖精族の秘宝中の秘宝。その存在が魔族に知られては大変な事になります。持ち出しは許しません。」
するとメタファーナはいたずらっぽく舌をぺろりと出してシルビアに言う。
「大丈夫よ、お姉様。私の力は知って居るでしょう?私の魔法に『ヘラの首飾り』があれば、魔族に見つかる事なんて絶対に無いわ。私の特殊魔法があれば、2日もあればトリトンを連れて来られるでしょう。」
「ちょっ!ちょっとメタファーナ!」
そう言ってメタファーナはシルビアの制止を振り切り『ヘラの首飾り』を持って飛び立って行く。
「本当に困った妹だわ。」
「大丈夫なのですかシルビア殿。妖精族の秘宝を持ち出して……。」
グレインは困惑した表情でシルビアに尋ねる。
「大丈夫も何も、メタファーナを捕まえる事など不可能なのよ。なぜなら彼女は――」
――――異空間を自在に移動出来る。
「な!異空間を!?」
今度こそ驚きを隠せないグレイン。
「彼女ほど妖精族の神様『ヘラ様』に愛されている居る者はおりません。今回の私が完成させた魔法もメタファーナの魔法の応用に過ぎないのです。」
「神様に愛されて居る者……ですか。」
「そう……そして……」
シルビアは言葉を続ける。
「この世界に存在する、もう一人の神様に愛されて居る者。」
エルフ族の王女――――
――――――プリンセス・リーナ
「彼女を仲間に率いれましょう。魔族の王シュバルツと戦う為には彼女の力が必要になります。」
「ああ……それなら……」
グレインはシルビアに言う。
「我々の仲間である人族の戦士アロン。彼にリーナ姫を迎えに行かせてある。今頃はエルフの森に着いた頃でしょう。」
ガーゴイル族のトリトン
エルフ族のリーナ
「2人の戦士が揃えば十一種族の全ての戦士が揃った事になる。魔族を倒す為の計画を発動する日はもうすぐです。」
「ええ、グレイン王。10年以上にも及ぶ魔族の支配に終止符を討たねばなりません。今回の作戦は必ず成功させます。」
魔族掃討作戦を――――
――――――成功させましょう。
【トリトンの戦い編③】
「いたぞ!トリトンだ!」
魔族殺しの重罪人トリトンを捕まえる為に、魔族は総力を上げてトリトンを探していた。
世界中に張り巡らされた監視の目をくぐり抜けるなど簡単では無い。
遂にトリトンは魔族の戦士達に包囲される事になる。
1人でも強力な戦士である魔族。
トリトンは周りを囲む魔族達をぐるりと見回した。
(8人か……、個体数の少ない魔族にしては、よく集めたものだ。)
魔族の数は世界中の魔族を足しても200人を少し越える程度。
十一種族の中でも個体数の少ないヴァンパイア族でさえ一万人を越える人口を抱えて居る。
いかに魔族の数が少ないか。世界を支配しているのは、ほんの少数の魔族と言う現実。
しかし、それは魔族の弱点では無い。
魔族は強過ぎるが故に命を落とす危険が非常に少ない。そして魔族の寿命は半永久的とも思われる長い年月を生きる事が出来る。
(ガーゴイルの領地では魔族の下っ端を不意討ちで殺したが、今回は簡単には行かなそうだな……。)
トリトンは覚悟を決めて魔族の戦士達と対峙する。
8人の魔族がトリトンに攻撃を開始する。
流石のトリトンも反撃をする余裕は無く、魔族の攻撃を躱(かわ)すのに精一杯である。
(くっ!これは予想以上に厳しい……。)
素早いガーゴイル族の中でもスピードに秀でるトリトンだからこそ魔族の攻撃を躱す事が出来る。
しかし、いつまでも躱し続ける事は不可能。
バシュッ!
「ぐぉっ!」
魔族の攻撃魔法がトリトンの背中に生える巨大な羽を直撃する。
バランスを失ったトリトンは地上に落下して行く。
「今だ!一斉に攻撃するぞ!」
8人の魔族による一斉攻撃。
ビカビカビカッ!
ドッカーン!
激しい閃光を撒き散らし、トリトンの落下した地点で大爆発が起こる。
生存不可能な大爆発による煙が辺り一面に広がって行く。
「ふん……、口程にも無い。」
「所詮はガーゴイル族、俺達 魔族には敵わないさ。」
8人の魔族は爆発による煙が消え行くのを待ちトリトンの遺体を確認する。
「…………ん?」
「おい、トリトンはどうした?奴の遺体は何処にある!?」
「いや、あまりの強烈な魔法で弾け飛んだようだ。」
「ふん、脆弱な種族めが……。」
「長居は無用だ。早く戻って報告をしよう。」
――――――――――――――
(…………………)
(…………ここは……)
何も無いような不思議な空間。
ここは世界と世界の狭間。
――――――――異空間
トリトンが茫然としていると、耳元で聞き覚えのある声が聞こえて来る。
「久し振りねトリトン。」
驚いだトリトンが横を向くと、小さな妖精族の女性メタファーナがニッコリと微笑んでいる。
「メタファーナ……ここは?」
トリトンの質問に答えるメタファーナ。
「ここは異空間。私の魔法で貴方を連れて来たの。このまま聖都へ行くわよ。」
「異空間?……聖都?
聖都って妖精族の住む聖都シーナの事かい?」
「他に何処にあるのよ?聖都と言えばシーナに決まっているわ。」
「さぁ、行きましょう。『ヘラの首飾り』がある限り私の魔力が途切れる事は有りません。このまま聖都まで飛んで行きましょう。」
鮮やかな光の渦がトリトンの周りを取り囲む。
目指すは妖精族の住む聖都シーナ。
メタファーナは空中を飛びながら、トリトンに話し掛ける。
「トリトン、貴方の力を貸して欲しいの。」
「俺の力?魔族に追われている俺に関わると、お前や妖精族も魔族に狙われるぞ。」
「違うわトリトン。」
メタファーナは言う。
「狙うのは私達の方。私達の狙いは魔族をこの世界から消し去る事。その為に貴方の力を貸して欲しいのよ。」
「何だって!メタファーナ、いったい何をする気だ!?」
「それは聖都シーナに着いたらシルビアに聞いて下さい。既に仲間達が待っています。」
「仲間達だって?」
「そう、仲間達。見たらきっと驚くわよ。十一種族の最高峰の戦士達が貴方を待っています。」
メタファーナは更に言葉を続ける。
「あとはエルフ族のプリンセス・リーナが揃えば作戦を決行します。」
魔族による暗黒の時代は――――
―――――私達が終わらせるのです。

イラスト提供 pepeami様
妖精さん | *pepeami* pixiv
ガーゴイル族の領地にある商業都市ミラパーク
「大変だ!魔獣の群れが来るぞ!」
「何だって!?」
広大な大地を有するユグドラシルには様々な生物が存在する。
ユグドラシル最南端に位置するガーゴイル族の領地には『デビルコンドル』と呼ばれる獰猛な魔獣が生息している。
大空から集団で襲い掛かる攻撃的な性格は、魔獣の中でも特Aランクに指定されるほど危険な魔獣である。
上空に羽ばたくデビルコンドルの群れ。
その前方に一人のガーゴイル族の戦士が空中に飛び立ち迎え撃つ。
「おい!誰だアイツは!?危険だぞ!」
「いや、トリトンだ!これで安心だろう。」
ガーゴイル族の戦士トリトン
トリトンは両手を広げ大気中に存在する水の精霊の力を呼び寄せる。
ガーゴイル族の特徴は空を自在に飛び回る巨大な羽と、十一種族トップクラスの魔力にある。
トリトンの両手から鋭利な氷の槍が無数に放出され空中に浮遊する。
「アイスジャベリン!」
トリトンがそう呟くと
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
氷の槍が一斉にデビルコンドルに襲い掛かる。
ギャオォオォーン!
次々と氷の槍がデビルコンドルの身体を串刺しにして行く。
デビルコンドルの群れはトリトンを敵と定め、鋭いクチバシを大きく広げる。
デビルコンドルが危険度特Aランクに指定される所以はその攻撃にある。
大きな口から放出される炎の塊。
灼熱の炎がトリトンを襲う。
ボボボボボッ!!
しかしトリトンは炎の塊を素早く避けると、一気にデビルコンドルとの間合いを詰めて反撃に転じる。
「雷(イカズチ)の剣!」
今度の魔法は雷の魔法。
電気を帯びた超巨大な剣がデビルコンドルを薙ぎ払う。
ギャオォオォーン!
地上から見ていたガーゴイル族の住民達は大歓声でトリトンの戦闘を見守っていた。
城の窓から戦闘を見守るのはガーゴイル族の王ガトリン。
ガトリンは思う。
(ガーゴイル族最強の戦士トリトン。世が世なら多くの武勲を上げたに違いない。しかし、時代が悪過ぎる。)
魔族に支配されているこの時代には、十一種族の中で、どんなに強い戦士が居ても活躍する場所が無い。
異族間での戦闘はもちろん、魔族に逆らう事など絶対禁止事項。
魔族に逆らえば殺されるのみ――――
デビルコンドルとの戦闘を終え地上の大広場に降り立つトリトン。
住民は大歓声でトリトンを取り囲む。
すると
騒ぎを聞き付けた魔族の戦士が大広場にやって来た。
ガーゴイル族の領地に配備されている魔族の戦士ドーラ。
ドーラはトリトンに大剣を突き付けて言う。
「貴様……誰の許可を得て魔獣を殺しているのだ?」
「なんだと?」
「知らぬのか?魔獣を殺すには魔族の許可が必要だと言う決まりだ。決まりを破るのは大罪に値する。」
「大罪だと?あのまま放置していたら住民に被害が出ただろう。住民の命を何だと思っている。」
魔族の戦士ドーラが答える。
「ガーゴイル族の命など、虫けらにも及ばない。特にお前のような大罪人は死刑だ!」
ドーラが大剣を振り上げる。
「くっ!虫けらはお前の方だ!」
トリトンは瞬時に雷(イカズチ)の剣を創り出しドーラの身体を突き刺した。
「ガハッ!貴様……魔族に逆らうか……。」
「ふっ……、魔族など関係ない。貴様のような外道には死が相応しい。」
シュバッ!
トリトンの雷(イカズチ)の剣が真上に斬り上げられ、ドーラの身体が真っ二つに引き裂かれる。
この日
ガーゴイル族最強の戦士トリトンは、ユグドラシルの全世界中に指名手配され魔族に命を狙われる事になる。
【トリトンの戦い編②】
ユグドラシルの地を魔族が支配して10数年の歳月が過ぎた。
主要十一種族は魔族の力を恐れ抵抗する事も叶わない。
誰もが、魔族の支配がこのまま続くものだと諦めていた。
妖精族の聖都シーナに足を踏み入れるのは巨人族の王グレイン。
妖精族の王女シルビアがグレインに言う。
「お待ちしておりましたグレイン王。」
巨人族のグレインにとって、妖精族の身体は小指の先ほどしか無い大きさである。
身体も小さく華奢な妖精族がユグドラシルの地で生きて来られたのには理由がある。
妖精族は他の種族よりも魔法の力に長けていた。
攻撃魔法に限らず、あらゆる特殊魔法を使いこなす妖精族はユグドラシルの主要十二種族の中でも特殊な存在と言える。
「完成したのかね?例の魔法が…」
グレインはシルビアに問う。
「ええ…」
シルビアは答える。
「ようやく完成しました。この魔法を使えば魔族を倒せるかもしれません。」
「そうか……シルビア殿、ご苦労をお掛けした。」
「それと一つ気になる情報があります。」
「ん?何かね?」
グレインはシルビアの言葉に耳を傾ける。
「ガーゴイル族の領地で魔族を殺した者がおります。私達の計画にはガーゴイル族の戦士が必要です。彼を助け出し仲間に加える事は出来ないでしょうか?」
「ふむ……」
グレインは静かに頷く。
「その話なら私も聞きました。確かガーゴイル族最強の戦士と名高い、名前はトリトンと言ったか…。」
そこに妖精族の女性の戦士が口を挟む。
「トリトンなら知っているわ。私が行って来ましょう。」
「まぁ、メタファーナ。あなた話を聞いていたのですか?」
「私の魔法なら魔族に見つからずにトリトンを連れて来る事が出来ます。その代わり妖精族の秘宝をちょっとお借りするわね。」
「えっとメタファーナ。あなた『ヘラの首飾り』を持ち出すと言うの!?」
「『ヘラの首飾り』……ですか?」
グレインは聞いた事の無い単語に首を傾げる。
「ええ……、エルフ族に伝わる『アルテミスの槍』と同じく神々が作ったと言われる伝説の武器。今回の魔族を葬り去る魔法も『ヘラの首飾り』があってこそ効果を発揮します。」
そしてシルビアはメタファーナに言う。
「『ヘラの首飾り』は私達妖精族の秘宝中の秘宝。その存在が魔族に知られては大変な事になります。持ち出しは許しません。」
するとメタファーナはいたずらっぽく舌をぺろりと出してシルビアに言う。
「大丈夫よ、お姉様。私の力は知って居るでしょう?私の魔法に『ヘラの首飾り』があれば、魔族に見つかる事なんて絶対に無いわ。私の特殊魔法があれば、2日もあればトリトンを連れて来られるでしょう。」
「ちょっ!ちょっとメタファーナ!」
そう言ってメタファーナはシルビアの制止を振り切り『ヘラの首飾り』を持って飛び立って行く。
「本当に困った妹だわ。」
「大丈夫なのですかシルビア殿。妖精族の秘宝を持ち出して……。」
グレインは困惑した表情でシルビアに尋ねる。
「大丈夫も何も、メタファーナを捕まえる事など不可能なのよ。なぜなら彼女は――」
――――異空間を自在に移動出来る。
「な!異空間を!?」
今度こそ驚きを隠せないグレイン。
「彼女ほど妖精族の神様『ヘラ様』に愛されている居る者はおりません。今回の私が完成させた魔法もメタファーナの魔法の応用に過ぎないのです。」
「神様に愛されて居る者……ですか。」
「そう……そして……」
シルビアは言葉を続ける。
「この世界に存在する、もう一人の神様に愛されて居る者。」
エルフ族の王女――――
――――――プリンセス・リーナ
「彼女を仲間に率いれましょう。魔族の王シュバルツと戦う為には彼女の力が必要になります。」
「ああ……それなら……」
グレインはシルビアに言う。
「我々の仲間である人族の戦士アロン。彼にリーナ姫を迎えに行かせてある。今頃はエルフの森に着いた頃でしょう。」
ガーゴイル族のトリトン
エルフ族のリーナ
「2人の戦士が揃えば十一種族の全ての戦士が揃った事になる。魔族を倒す為の計画を発動する日はもうすぐです。」
「ええ、グレイン王。10年以上にも及ぶ魔族の支配に終止符を討たねばなりません。今回の作戦は必ず成功させます。」
魔族掃討作戦を――――
――――――成功させましょう。
【トリトンの戦い編③】
「いたぞ!トリトンだ!」
魔族殺しの重罪人トリトンを捕まえる為に、魔族は総力を上げてトリトンを探していた。
世界中に張り巡らされた監視の目をくぐり抜けるなど簡単では無い。
遂にトリトンは魔族の戦士達に包囲される事になる。
1人でも強力な戦士である魔族。
トリトンは周りを囲む魔族達をぐるりと見回した。
(8人か……、個体数の少ない魔族にしては、よく集めたものだ。)
魔族の数は世界中の魔族を足しても200人を少し越える程度。
十一種族の中でも個体数の少ないヴァンパイア族でさえ一万人を越える人口を抱えて居る。
いかに魔族の数が少ないか。世界を支配しているのは、ほんの少数の魔族と言う現実。
しかし、それは魔族の弱点では無い。
魔族は強過ぎるが故に命を落とす危険が非常に少ない。そして魔族の寿命は半永久的とも思われる長い年月を生きる事が出来る。
(ガーゴイルの領地では魔族の下っ端を不意討ちで殺したが、今回は簡単には行かなそうだな……。)
トリトンは覚悟を決めて魔族の戦士達と対峙する。
8人の魔族がトリトンに攻撃を開始する。
流石のトリトンも反撃をする余裕は無く、魔族の攻撃を躱(かわ)すのに精一杯である。
(くっ!これは予想以上に厳しい……。)
素早いガーゴイル族の中でもスピードに秀でるトリトンだからこそ魔族の攻撃を躱す事が出来る。
しかし、いつまでも躱し続ける事は不可能。
バシュッ!
「ぐぉっ!」
魔族の攻撃魔法がトリトンの背中に生える巨大な羽を直撃する。
バランスを失ったトリトンは地上に落下して行く。
「今だ!一斉に攻撃するぞ!」
8人の魔族による一斉攻撃。
ビカビカビカッ!
ドッカーン!
激しい閃光を撒き散らし、トリトンの落下した地点で大爆発が起こる。
生存不可能な大爆発による煙が辺り一面に広がって行く。
「ふん……、口程にも無い。」
「所詮はガーゴイル族、俺達 魔族には敵わないさ。」
8人の魔族は爆発による煙が消え行くのを待ちトリトンの遺体を確認する。
「…………ん?」
「おい、トリトンはどうした?奴の遺体は何処にある!?」
「いや、あまりの強烈な魔法で弾け飛んだようだ。」
「ふん、脆弱な種族めが……。」
「長居は無用だ。早く戻って報告をしよう。」
――――――――――――――
(…………………)
(…………ここは……)
何も無いような不思議な空間。
ここは世界と世界の狭間。
――――――――異空間
トリトンが茫然としていると、耳元で聞き覚えのある声が聞こえて来る。
「久し振りねトリトン。」
驚いだトリトンが横を向くと、小さな妖精族の女性メタファーナがニッコリと微笑んでいる。
「メタファーナ……ここは?」
トリトンの質問に答えるメタファーナ。
「ここは異空間。私の魔法で貴方を連れて来たの。このまま聖都へ行くわよ。」
「異空間?……聖都?
聖都って妖精族の住む聖都シーナの事かい?」
「他に何処にあるのよ?聖都と言えばシーナに決まっているわ。」
「さぁ、行きましょう。『ヘラの首飾り』がある限り私の魔力が途切れる事は有りません。このまま聖都まで飛んで行きましょう。」
鮮やかな光の渦がトリトンの周りを取り囲む。
目指すは妖精族の住む聖都シーナ。
メタファーナは空中を飛びながら、トリトンに話し掛ける。
「トリトン、貴方の力を貸して欲しいの。」
「俺の力?魔族に追われている俺に関わると、お前や妖精族も魔族に狙われるぞ。」
「違うわトリトン。」
メタファーナは言う。
「狙うのは私達の方。私達の狙いは魔族をこの世界から消し去る事。その為に貴方の力を貸して欲しいのよ。」
「何だって!メタファーナ、いったい何をする気だ!?」
「それは聖都シーナに着いたらシルビアに聞いて下さい。既に仲間達が待っています。」
「仲間達だって?」
「そう、仲間達。見たらきっと驚くわよ。十一種族の最高峰の戦士達が貴方を待っています。」
メタファーナは更に言葉を続ける。
「あとはエルフ族のプリンセス・リーナが揃えば作戦を決行します。」
魔族による暗黒の時代は――――
―――――私達が終わらせるのです。

イラスト提供 pepeami様
妖精さん | *pepeami* pixiv