【グレインの戦い編①】

エルフの森で繰り広げられた戦闘。

魔族 対 十一種族の戦闘は一方的な戦いとなる。

十一種族の精鋭達は魔族の奇襲攻撃に対応出来ず、もはや戦闘にすらならない。

この戦闘には十一種族の中で2人の王族の戦士が参加していた。

1人はエルフ族の王妃ライカ。
もう1人は巨人族の王グレイン。

グレインは仲間の戦士達を逃がす為に、魔族の戦士を相手に孤軍奮闘していた。

「何てタフな奴だ!俺様の攻撃魔法を受けても倒れないとは!」

「ふんっ!」

「ぐはっ!!」

グレインの持つ巨大なアックスが魔族の戦士を真っ二つに叩き潰す。

他の十一種族の戦士達が一方的に殺られる中で、グレインのみが魔族の戦士と互角以上の戦いを繰り広げる。

しかしグレインも無事では無い。
魔族の攻撃を幾度となく受けて満身創痍の状態である。

(そろそろ撤退せねば……)

グレインがそう思い撤退しようとした時、グレインはライカの姿が見えないのに気が付いた。

「おい!そこのエルフ族の戦士よ!ライカ殿はどうした?」

エルフ族の戦士が答える。

「ライカ様なら、シュバルツを討ちに森の先へ行かれました。」

「なんだと!たった1人でシュバルツを相手にすると言うのか!?」


無茶だ――――

ライカ殿は我々十一種族にとっての切り札。神々の武器である『アルテミスの槍』を扱えるのはエルフ族の王妃であるライカ殿のみ。

(こんな負け戦でむざむざ殺させる訳には行かない!)

グレインはライカを探す為にエルフの森の先を目指す。

前方には魔族の戦士達がグレインの行く手を阻む。

「巨大族の王グレインだな!逃さぬぞ!」

数人の魔族による魔法攻撃がグレインを襲う。

「ぐおぉぉおぉ!何のこれしき!!」

巨人族の防御力は他の種族と比べても群を抜いている。その中でもグレインのタフさは尋常では無い。

強力な魔族の攻撃魔法を受けながらもグレインは魔族の包囲網を突破して先へ進む。


巨人族の王グレインは思う。

今回の戦闘は十一種族の完敗である。
精鋭を失った十一種族は、もはや魔族に対抗出来ないだろう。

魔族によるユグドラシルの支配が始まる。

しかし

いつの日か十一種族が魔族に反旗を翻す時にライカ殿の力が必要になる。

ライカ殿だけは失う訳には行かない!



【グレインの戦い編②】

グサッ!!

ライカの突き出した『アルテミスの槍』が魔族の王シュバルツの右肩を突き抜ける。

「ぐっ……、大したものだ。この俺様とここまで戦える戦士が居るとは思わなかった。」

ライカが『アルテミスの槍』に力を入れたなら、シュバルツの身体を一瞬にして粉砕出来る。

もう少しでライカはシュバルツを倒す事が出来る。

もう少し―――


ビシュッ!!

「あ……!」

しかし

ライカの全身から大量の血が噴き出す方が早かった。

ビシュ!
ビシュ!ビシュ!

シュバルツの身体から放たれた無数の魔力の弾丸がライカの身体に風穴を空ける。

ライカにはもう『アルテミスの槍』を操る力は残っていない。

「ライカとか言ったな……。覚えて置こう。」

シュバルツの言葉はライカには届かない。

ライカは手に持つ『アルテミスの槍』をぽろりと落とし、そのままエルフの森の大地に崩れ去る。

ライカが死ぬ間際に頭に浮かんだのは、10日前に産まれた我が子の笑顔であった。


我が娘、リーナ――――――


―――――――――どうか幸せに





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戦闘は終わった。

十一種族の精鋭達の殆どは魔族によって殺された。

巨人族の王グレインはライカの亡骸を見つけて茫然と立ち竦む。

(遅かった………、もはや我々十一種族は魔族に対抗する事は無理であろう。)

「ライカ殿…………」

グレインはライカの亡骸を抱き上げる。
そして、その傍らに『アルテミスの槍』が落ちているのを発見する。

(この槍も、ライカ殿が亡くなった今となっては誰も扱えぬか……。)

グレインは『アルテミスの槍』を拾い上げライカの胸元にそっと乗せる。



ここに

エルフの森の守護者

エルフ族の王妃ライカが

短い生涯の幕を下ろす。



そして、ユグドラシルは

魔族の支配による暗黒の時代に突入する。