【ライカの戦い編①】
夜空に満月が煌々と輝く夜。
人族が住む要塞都市『ベルン』には数千人もの兵士が敵が来るのを待ち構えていた。
「魔族の軍団か……」
黒髪短髪の兵士サーガは手に持つ弓を構えてその時が来るのを待つ。
魔族の噂は知っている。
高い身体能力と強力は魔法を操る種族。
単体では、おそらくユグドラシル最強の種族であろう。
だからこそ十一の種族の王族達は、魔族を最大の脅威とみなし『北の果ての地』へ追いやった。
魔族が徒党を組む前に、数の力で捕らえ魔法の使えない土地に幽閉する。
それが最善の策に思われた。
しかしサーガは思う。
軍団と言ってもたかだか200人程度の集団。
要塞都市ベルンに集結した人族の兵士の数は3000人を越える。
人族が本気を出せば200人程度の魔族など敵では無い。
「来たぞ!」
その時、兵士の誰かが声を上げた。
しんと静まり返ったベルンの街に緊張が走る。
十一種族の中でも最大勢力である人族に対し、正面から戦闘を挑む種族は久しく居ない。、大規模な戦闘など久し振りだ。
サーガは目を凝らし敵の集団を確認する。
(……………!?)
「1人……!?」
煌々と輝く満月を背に、映し出された1つの影。
魔族の王デーモン・シュバルツは一言だけ呟いた。
「さぁ、復讐を始めようか。」
ビカッ!!
突然辺りが明るくなった。
強大なシュバルツの攻撃魔法が要塞都市ベルンを襲う。
ドッガーッン!!
ドッゴーンッ!!
「ぐわぁあぁ!」
「攻撃して来たぞ!」
「敵は1人だ!矢を放て!」
「魔族とて生身の身体!人族の力を見せてやれ!」
シュバババババッ!!
人族の兵士達から一斉に矢が放たれる。
人族は、巨人族やオーク族のようなパワーも、ヴァンパイア族や獣人族のような身体能力も兼ね備えていない。
ガーゴイル族や妖精族のように魔法を使う事も出来ない。
それでも人族はユグドラシルに住む主要種族の中で最大勢力として君臨する。
人族の最大の武器は数の力。
どんなに強い兵士でも四方から一斉に放たれた無数の矢を躱す事は出来ない。
シュバルツは、そんな人族の常識を一瞬で覆す。
ババババババッ!!
バシュバシュバシュ!!
シュバルツの全身から放出された魔力の弾丸が、飛んで来る無数の矢を粉々に打ち砕く!
「バカな………!」
サーガは目の前の光景に目を疑う。
シュバルツと人族との戦闘は一方的なものとなった。
あまりの強大なシュバルツの魔法の前に成す術の無い人族の兵士達。
人族の兵士サーガの前に降り立つシュバルツを前に、サーガは手に持つ弓を前方に向けて構える。
「魔族の者よ……、お前の強さは十分に分かった。お前は、なぜ人族の街を襲うのだ?」
サーガの問いにシュバルツは答える。
「なぜ?分からぬか人族の兵士よ。我々魔族は、何の理由も無く荒廃した『北の果ての地』に追いやられたのだ。精霊も居ない。食べる物すら乏しい北の果ての地。俺はそこで産まれた。」
――――これは復讐なのだよ。
「しかし!」
サーガはそれでもシュバルツに言う。
「俺達は魔族を『北の果ての地』に追いやった。しかし、魔族を意味も無く殺したりはしない。話し合おう。お互いに共存出来る道が必ずある。」
「…………ふ
ふははははっ!」
シュバルツは笑う。
「何がおかしい!」
声を荒げるサーガに対しシュバルツは言う。
「話し合うだと?それはお前達十一種族のエゴだよ。北の果ての地で生き抜く事がどんなに大変な事か。そして、そこから逃げ出そうとした魔族が何人お前達に殺された事か!」
「くっ……………」
サーガは返す言葉に詰まる。
「だが1つチャンスをやろう。」
「何だって!?」
「俺は何もこの世界の十一種族を滅ぼそうとしている訳では無い。俺達魔族は十一種族に決闘を申し出る。」
「決闘……、それはいったい?」
「10日後に俺達魔族と十一種族の代表が、この世界の支配を掛けて戦うのだ。負けた方は勝った方に従うと言う決まりだ。」
「そんな無茶な……。1対1の戦闘で魔族に勝てる訳が無い!」
デーモン・シュバルツはサーガに向けて言う。
「1対1とは言っていない。俺達魔族の代表は3人。そして十一種族の代表は何人でも連れて来るが良い。」
「何人でもだって!?」
「そうだ。それで決着を付けようでは無いか。どちらがユグドラシルを支配するのに相応しいのかを。」
そしてシュバルツは要塞都市『ベルン』を後にする。
10日後に会おう――――――
【ライカの戦い編②】
十一種族王族会議――――
「これはチャンスである。」
人族の王が話を切り出した。
「魔族の軍団とまともに戦っては、こちらの被害が増える一方だ。たったの3人であれば集団で襲えばどうにでもなる。」
巨人族の王グレインが後に続く。
「問題はシュバルツ。奴の強さは魔族の中でも群を抜いている。『ベルン』での戦闘ではシュバルツ一人に歯が立たなかったと言うでは無いか。」
「ぐむ……」
王族達の中に重苦しい空気が流れる。
そして
少しの沈黙の後にエルフ族の王妃ライカが口を開く。
「シュバルツは私にお任せ下さい。」
「なに?ライカ殿よ。それは本気かね?」
グレインの言葉にライカが答える。
「戦場はエルフの森を指定しましょう。エルフの森での戦闘なら――」
――――私は無敵です。
「しかしライカ殿!」
グレインが止めようとした時に人族の王が言葉を遮る。
「確かに……、エルフ族に伝わる伝説の武器『アルテミスの槍』があればシュバルツにも勝てるかもしれぬ。頼めるかねライカ殿。」
ライカは答える。
「お任せ下さい。私は負けません。」
―――――――――――――
エルフの森
エルフ族が生活する豊かな緑が生い茂る森林に主要十一種族の精鋭達が集まる。
対魔族との戦闘に集まった戦士の数は、およそ2000人。
強力な魔族を相手に脆弱な戦士は不要。
足手まといになり殺されるだけである。
それでも、魔族を恐れる十一種族の王族達は2000人規模の戦士を用意した。
何れも十一種族を代表する歴戦の勇者。
これで勝てなければ十一種族には後が無いと言う布陣である。
先頭に立つのはエルフ族の王妃ライカ。
ライカは3人の魔族が来るのを静かに待ち構える。
ザワザワ―――
森がざわつき始める。
(……………来たか)
ライカが『アルテミスの槍』を握り締めたその時、2000人の戦士達の周囲を囲む森の中から一斉に攻撃魔法が放たれる。
ビカビカビカッ!
ゴゴゴゴゴォッ!
「ぐわぁあぁ!」
「ぎゃあぁぁ!」
予想外の出来事に動揺する戦士達。
「どうしました!?何があったのです!?」
ライカは周囲を見回して声を上げる。
「敵です!魔族の戦士達に囲まれています!」
「何ですって!」
魔族の王シュバルツの狙い。
シュバルツは最初から3人で戦う気など毛頭無かった。
十一種族の精鋭達を誘き出し、一網打尽にするのがシュバルツの狙い。
エルフの森に十一種族の戦士達の悲鳴がこだまする。
「ライカ様!計られました!このままでは全滅です。早くお逃げ下さい!」
突然の攻撃に陣形を崩された十一種族の戦士達は、魔族とまともに戦う事も出来ない状況。逃げる事すら出来るかどうか。
その時
エルフの森の小鳥達がバタバタと羽ばたきライカの元に集まって来る。
(うむ……)
ライカは頷き配下の戦士達に言う。
「奴は……シュバルツはこの先に居ます。今回の戦闘の最大の目的はシュバルツを倒す事。」
――――作戦は計画通り遂行します。
「な!何を仰いますかライカ様!」
ライカは戦士達に命令をする。
「あなた達は逃げなさい!私はシュバルツを倒しに行きます!」
「そんな無茶な!ライカ様!」
エルフ族の王妃ライカは、一人でエルフの森を駆け抜ける。
【ライカの戦い編③】
小鳥達に誘導されたライカの行き着く先に現れたのは、魔族の王シュバルツと2人の魔族の戦士。
「ほぉ……」
シュバルツは少し驚いた顔でライカを見る。
「この状況で逃げもせず、この俺の命を狙いに来るか…。貴様、名は何と言う?」
ライカは答える。
「エルフの森の守護者にしてエルフ族の王妃ライカ。その命、頂戴致します!」
「面白い!魔族3人を相手にして全く臆する様子が無いとは大した者だ。お前達、相手をしてやれ!」
シュバルツの命令に横に居るシルクハットを被った男が前に出る。
名はハンプティ・ハッター。
魔族の中でも強力な魔法を操る戦士。
「ふん……、たかだかエルフ族の戦士など一撃で葬り去ろう。」
ハッターは軽く右手を上げると魔法詠唱無しで炎の魔法を発動する。
ゴォッ!
紅蓮の炎が一直線にライカに襲い掛かる。
ライカは手に持つ黒い槍を上段に構えて言う。
「その程度の魔法は私には効きません。」
そして『アルテミスの槍』をブンと振り下ろすと強烈な斬撃がハッターの炎を打ち消して、尚且つハンプティ・ハッターへ飛んで行く。
「!?」
シュバッ!!
「ぐっ!」
遠距離からの斬撃での攻撃がハッターの右肩を斬り裂いた!
「ハッター!?ちっ!」
もう一人の魔族の女性、クイーンズ・ハートが、すかさず無数のカードを空中に投げつける。
魔力の込められたカードは正確にライカの急所を狙い物凄い勢いで飛んで来る。
全方位から飛んで来るカードを『アルテミスの槍』で防ぐ事は不可能。
しかしライカは動じない。
ライカの周りに生い茂る木々が一斉に形を変えて、ライカを防御するように取り囲んだ。
シュバババッ!
無数のカードはライカを守る木々に防がれライカまでは届かない。
「なんだそれは!?木々を操る魔法か!」
驚くクイーンズ・ハート。
ライカは3人の魔族に言う。
「魔族の戦士達よ、この森に入り込んだのが貴方達の最大の過ち。アルテミス神の名において、このライカが貴方達の命を貰い受けます!」
「くっ!生意気な!」
ハンプティ・ハッターが傷付いた右肩から血を流しながらも、次なる魔法の準備に入る。
「待てハッター。」
するとシュバルツが手を差し出してハッターを止める。
「予定変更だ。このエルフ族の女は俺が殺る。お前達は手を出すな。」
「しかしシュバルツ!」とハッター。
「そうよ、貴方が戦わなくても私達で十分です!」
クイーンズ・ハートもハッターの言葉に続く。
「いや……」
シュバルツは楽しそうな笑みを浮かべて2人の魔族に言う。
「お前達にも見せてやろう。俺の本気の戦闘を……」
―――魔族の王の力をよく見ておくのだ。
夜空に満月が煌々と輝く夜。
人族が住む要塞都市『ベルン』には数千人もの兵士が敵が来るのを待ち構えていた。
「魔族の軍団か……」
黒髪短髪の兵士サーガは手に持つ弓を構えてその時が来るのを待つ。
魔族の噂は知っている。
高い身体能力と強力は魔法を操る種族。
単体では、おそらくユグドラシル最強の種族であろう。
だからこそ十一の種族の王族達は、魔族を最大の脅威とみなし『北の果ての地』へ追いやった。
魔族が徒党を組む前に、数の力で捕らえ魔法の使えない土地に幽閉する。
それが最善の策に思われた。
しかしサーガは思う。
軍団と言ってもたかだか200人程度の集団。
要塞都市ベルンに集結した人族の兵士の数は3000人を越える。
人族が本気を出せば200人程度の魔族など敵では無い。
「来たぞ!」
その時、兵士の誰かが声を上げた。
しんと静まり返ったベルンの街に緊張が走る。
十一種族の中でも最大勢力である人族に対し、正面から戦闘を挑む種族は久しく居ない。、大規模な戦闘など久し振りだ。
サーガは目を凝らし敵の集団を確認する。
(……………!?)
「1人……!?」
煌々と輝く満月を背に、映し出された1つの影。
魔族の王デーモン・シュバルツは一言だけ呟いた。
「さぁ、復讐を始めようか。」
ビカッ!!
突然辺りが明るくなった。
強大なシュバルツの攻撃魔法が要塞都市ベルンを襲う。
ドッガーッン!!
ドッゴーンッ!!
「ぐわぁあぁ!」
「攻撃して来たぞ!」
「敵は1人だ!矢を放て!」
「魔族とて生身の身体!人族の力を見せてやれ!」
シュバババババッ!!
人族の兵士達から一斉に矢が放たれる。
人族は、巨人族やオーク族のようなパワーも、ヴァンパイア族や獣人族のような身体能力も兼ね備えていない。
ガーゴイル族や妖精族のように魔法を使う事も出来ない。
それでも人族はユグドラシルに住む主要種族の中で最大勢力として君臨する。
人族の最大の武器は数の力。
どんなに強い兵士でも四方から一斉に放たれた無数の矢を躱す事は出来ない。
シュバルツは、そんな人族の常識を一瞬で覆す。
ババババババッ!!
バシュバシュバシュ!!
シュバルツの全身から放出された魔力の弾丸が、飛んで来る無数の矢を粉々に打ち砕く!
「バカな………!」
サーガは目の前の光景に目を疑う。
シュバルツと人族との戦闘は一方的なものとなった。
あまりの強大なシュバルツの魔法の前に成す術の無い人族の兵士達。
人族の兵士サーガの前に降り立つシュバルツを前に、サーガは手に持つ弓を前方に向けて構える。
「魔族の者よ……、お前の強さは十分に分かった。お前は、なぜ人族の街を襲うのだ?」
サーガの問いにシュバルツは答える。
「なぜ?分からぬか人族の兵士よ。我々魔族は、何の理由も無く荒廃した『北の果ての地』に追いやられたのだ。精霊も居ない。食べる物すら乏しい北の果ての地。俺はそこで産まれた。」
――――これは復讐なのだよ。
「しかし!」
サーガはそれでもシュバルツに言う。
「俺達は魔族を『北の果ての地』に追いやった。しかし、魔族を意味も無く殺したりはしない。話し合おう。お互いに共存出来る道が必ずある。」
「…………ふ
ふははははっ!」
シュバルツは笑う。
「何がおかしい!」
声を荒げるサーガに対しシュバルツは言う。
「話し合うだと?それはお前達十一種族のエゴだよ。北の果ての地で生き抜く事がどんなに大変な事か。そして、そこから逃げ出そうとした魔族が何人お前達に殺された事か!」
「くっ……………」
サーガは返す言葉に詰まる。
「だが1つチャンスをやろう。」
「何だって!?」
「俺は何もこの世界の十一種族を滅ぼそうとしている訳では無い。俺達魔族は十一種族に決闘を申し出る。」
「決闘……、それはいったい?」
「10日後に俺達魔族と十一種族の代表が、この世界の支配を掛けて戦うのだ。負けた方は勝った方に従うと言う決まりだ。」
「そんな無茶な……。1対1の戦闘で魔族に勝てる訳が無い!」
デーモン・シュバルツはサーガに向けて言う。
「1対1とは言っていない。俺達魔族の代表は3人。そして十一種族の代表は何人でも連れて来るが良い。」
「何人でもだって!?」
「そうだ。それで決着を付けようでは無いか。どちらがユグドラシルを支配するのに相応しいのかを。」
そしてシュバルツは要塞都市『ベルン』を後にする。
10日後に会おう――――――
【ライカの戦い編②】
十一種族王族会議――――
「これはチャンスである。」
人族の王が話を切り出した。
「魔族の軍団とまともに戦っては、こちらの被害が増える一方だ。たったの3人であれば集団で襲えばどうにでもなる。」
巨人族の王グレインが後に続く。
「問題はシュバルツ。奴の強さは魔族の中でも群を抜いている。『ベルン』での戦闘ではシュバルツ一人に歯が立たなかったと言うでは無いか。」
「ぐむ……」
王族達の中に重苦しい空気が流れる。
そして
少しの沈黙の後にエルフ族の王妃ライカが口を開く。
「シュバルツは私にお任せ下さい。」
「なに?ライカ殿よ。それは本気かね?」
グレインの言葉にライカが答える。
「戦場はエルフの森を指定しましょう。エルフの森での戦闘なら――」
――――私は無敵です。
「しかしライカ殿!」
グレインが止めようとした時に人族の王が言葉を遮る。
「確かに……、エルフ族に伝わる伝説の武器『アルテミスの槍』があればシュバルツにも勝てるかもしれぬ。頼めるかねライカ殿。」
ライカは答える。
「お任せ下さい。私は負けません。」
―――――――――――――
エルフの森
エルフ族が生活する豊かな緑が生い茂る森林に主要十一種族の精鋭達が集まる。
対魔族との戦闘に集まった戦士の数は、およそ2000人。
強力な魔族を相手に脆弱な戦士は不要。
足手まといになり殺されるだけである。
それでも、魔族を恐れる十一種族の王族達は2000人規模の戦士を用意した。
何れも十一種族を代表する歴戦の勇者。
これで勝てなければ十一種族には後が無いと言う布陣である。
先頭に立つのはエルフ族の王妃ライカ。
ライカは3人の魔族が来るのを静かに待ち構える。
ザワザワ―――
森がざわつき始める。
(……………来たか)
ライカが『アルテミスの槍』を握り締めたその時、2000人の戦士達の周囲を囲む森の中から一斉に攻撃魔法が放たれる。
ビカビカビカッ!
ゴゴゴゴゴォッ!
「ぐわぁあぁ!」
「ぎゃあぁぁ!」
予想外の出来事に動揺する戦士達。
「どうしました!?何があったのです!?」
ライカは周囲を見回して声を上げる。
「敵です!魔族の戦士達に囲まれています!」
「何ですって!」
魔族の王シュバルツの狙い。
シュバルツは最初から3人で戦う気など毛頭無かった。
十一種族の精鋭達を誘き出し、一網打尽にするのがシュバルツの狙い。
エルフの森に十一種族の戦士達の悲鳴がこだまする。
「ライカ様!計られました!このままでは全滅です。早くお逃げ下さい!」
突然の攻撃に陣形を崩された十一種族の戦士達は、魔族とまともに戦う事も出来ない状況。逃げる事すら出来るかどうか。
その時
エルフの森の小鳥達がバタバタと羽ばたきライカの元に集まって来る。
(うむ……)
ライカは頷き配下の戦士達に言う。
「奴は……シュバルツはこの先に居ます。今回の戦闘の最大の目的はシュバルツを倒す事。」
――――作戦は計画通り遂行します。
「な!何を仰いますかライカ様!」
ライカは戦士達に命令をする。
「あなた達は逃げなさい!私はシュバルツを倒しに行きます!」
「そんな無茶な!ライカ様!」
エルフ族の王妃ライカは、一人でエルフの森を駆け抜ける。
【ライカの戦い編③】
小鳥達に誘導されたライカの行き着く先に現れたのは、魔族の王シュバルツと2人の魔族の戦士。
「ほぉ……」
シュバルツは少し驚いた顔でライカを見る。
「この状況で逃げもせず、この俺の命を狙いに来るか…。貴様、名は何と言う?」
ライカは答える。
「エルフの森の守護者にしてエルフ族の王妃ライカ。その命、頂戴致します!」
「面白い!魔族3人を相手にして全く臆する様子が無いとは大した者だ。お前達、相手をしてやれ!」
シュバルツの命令に横に居るシルクハットを被った男が前に出る。
名はハンプティ・ハッター。
魔族の中でも強力な魔法を操る戦士。
「ふん……、たかだかエルフ族の戦士など一撃で葬り去ろう。」
ハッターは軽く右手を上げると魔法詠唱無しで炎の魔法を発動する。
ゴォッ!
紅蓮の炎が一直線にライカに襲い掛かる。
ライカは手に持つ黒い槍を上段に構えて言う。
「その程度の魔法は私には効きません。」
そして『アルテミスの槍』をブンと振り下ろすと強烈な斬撃がハッターの炎を打ち消して、尚且つハンプティ・ハッターへ飛んで行く。
「!?」
シュバッ!!
「ぐっ!」
遠距離からの斬撃での攻撃がハッターの右肩を斬り裂いた!
「ハッター!?ちっ!」
もう一人の魔族の女性、クイーンズ・ハートが、すかさず無数のカードを空中に投げつける。
魔力の込められたカードは正確にライカの急所を狙い物凄い勢いで飛んで来る。
全方位から飛んで来るカードを『アルテミスの槍』で防ぐ事は不可能。
しかしライカは動じない。
ライカの周りに生い茂る木々が一斉に形を変えて、ライカを防御するように取り囲んだ。
シュバババッ!
無数のカードはライカを守る木々に防がれライカまでは届かない。
「なんだそれは!?木々を操る魔法か!」
驚くクイーンズ・ハート。
ライカは3人の魔族に言う。
「魔族の戦士達よ、この森に入り込んだのが貴方達の最大の過ち。アルテミス神の名において、このライカが貴方達の命を貰い受けます!」
「くっ!生意気な!」
ハンプティ・ハッターが傷付いた右肩から血を流しながらも、次なる魔法の準備に入る。
「待てハッター。」
するとシュバルツが手を差し出してハッターを止める。
「予定変更だ。このエルフ族の女は俺が殺る。お前達は手を出すな。」
「しかしシュバルツ!」とハッター。
「そうよ、貴方が戦わなくても私達で十分です!」
クイーンズ・ハートもハッターの言葉に続く。
「いや……」
シュバルツは楽しそうな笑みを浮かべて2人の魔族に言う。
「お前達にも見せてやろう。俺の本気の戦闘を……」
―――魔族の王の力をよく見ておくのだ。