【オーク族の戦い編①】

古代中国に伝わる四つの霊獣

神の化身である霊獣を人々は、四神と崇め恐れ敬った。

いつの日か日本に渡った四神を守護神として奉る一族。


――――神代一族(かみしろのいちぞく)


数々の異能の力を使いこなす神代一族の中でも、歴代最強と言われる少女が現れた。


神代 麗(かみしろ れい)



麗は陰陽術、剣術、体術、全てに於いて天賦の才を発揮した。

しかし麗を知る者は、麗の凄さを一言で表すなら、こう言うであろう。

神代 麗の凄さはその精神力にある。

異世界の門(ゲート)を一人で守り続けた麗の身体は、既にボロボロである。

それでも麗は一切の弱みを見せない。
麗は精神を集中させ、周りに居る全ての敵の動きを感じ取る。



白い霧に紛れて敵を襲うのは四神の一つ『白虎』。

「ぐわぁあぁ!」

「ぎゃあぁぁ!」

戦場に響く敵軍の悲鳴から、麗は敵の位置を割り出し、速やかに前進する。

狙うは敵の大将。




「ほぉ………」

目の前に現れたのは敵の大将の一人。

オーク族のギャバン。

ギャバンは麗に向かって言う。

「この大軍の中を、こうもあっさり突破されるとは、エルフ族の中にここまでの戦士が居たとは驚きだ。」

麗はギャバンを睨みつけて言う。

「あなたがこの軍の大将ですね。あなたに恨みは有りませんが、これも運命だと思って諦めて下さい。」

麗は懐から式札を取り出し術式を唱える。

「緋炎剣(ひえんのつるぎ)!」

深紅の剣が麗の手元に現れる。

「面白い!オーク族でも最強の剣士である俺様に剣で挑むか!」

ギャバンは巨大な大剣を振り上げる。
身の丈ほどもある大剣を自在に操れるのは、オーク族の腕力があってこそ。

「行くぞ!エルフ族の戦士!」

ガキィーン!

緋炎剣とオークの大剣が物凄い音を立てて交錯する。

「む!?これほどの威力の大剣を受けきるとは、その細い剣はいったい……。」

麗はギャバンに言う。

「緋炎剣(ひえんのつるぎ)は私の精神が生み出した架空の刀。私の精神が折れない限り緋炎剣が折れる事は有りません。」

「はっ!ならばお前の精神とやらを打ち砕いてやろう!」

バチバチバチッ!

ギャバンの頭に生える二本の角が激しく電気の火花を散らす。

「オーク族の真の力!思い知るが良い!」


【オーク族の戦い編②】

オーク族――――

オーク族の特徴はその腕力。

巨大な大剣を自在に操る腕力は、ユグドラシル主要十種族の中で、巨人族に次ぐパワーを誇る。

加えて二本の角から作られる電流。

バチバチッ!

ギャバンは電流を自らの身体に滞電させて、不敵に笑う。

「これがオーク族の真の力!受けて見よ!」


―――――大鬼のイカズチ!


二本の角で造られた電流がギャバンの身体を通し巨大な大剣に集められる。

そしてギャバンが大剣を振り抜くと

バチバチバチバチバチッ!

激しい音を立てて巨大な雷が麗に向かって飛んで行く。

麗はすっと懐から式札を取り出すと、慌てる様子もなく術式を唱える。

神代一族(かみしろのいちぞく)の守護神の一つ。

その防御力は四神の中でも最高度を誇る武神

―――――――玄武


麗の前に現れた玄武は鬼にも勝る迫力で、持っている大剣をブンと振り下ろす。


バチバチバチッ!

ドッカーンッ!

ギャバンの放った雷が玄武の一撃で弾け飛んだ。

「な!なんと!?」

麗はギャバンに言う。

「オーク族の真の力とはその程度なのですか。ならば次は、神代一族(かみしろのいちぞく)の真の力をお見せしましょう。」

「ちっ!貴様、何者だ!?」

麗はそっと呟く。

「何者……?」

「そうね……、私はこの世界とは別の世界から来ました。私は神に使える巫女。そして神代一族(かみしろのいちぞく)の棟梁――」


―――――神代 麗(かみしろ れい)





うっすらと

うっすらと麗の身体が光り輝くように見えた。それはおそらくギャバンが見た錯覚であったろう。


「別の世界………、神に……使えるだと………」



そしてギャバンは凛として佇む麗の美しい姿に、心を奪われる。

オーク族でありながら、他の種族に…

しかも戦闘の最中に、敵である女性に心を奪われるとは………

「何たる不覚!」

バチバチバチバチッ!

ギャバンの鬼の角が激しい電流で火花を散らす。

「オーク族一の戦士!ギャバンの力を受けて見よ!!」

それはギャバンにとって全ての力を出した最大の奥義。

先程の雷とは比べものにならない程の巨大な電流が大気に放たれる。

麗は式札を取り出し術式を唱える。

「陰陽師の守護神であり、四神最強の攻撃力を誇る蒼き龍よ。目の前の敵を喰らいなさい!」

すると、怒り猛る蒼き龍が激しい雷と共に空中に現れる。



――――――――青龍




青龍はギャバンの造りし巨大な電気の塊をムシャムシャと喰らい始める。


「な!バカな!!」

驚くギャバンに麗は言う。

「四神青龍は全ての物を喰らい尽くします。さぁ、終わりにしましょう。」

ギャバンは思う。

(この力……、この者であれば……奴等に勝てるかも知れぬ……。)




【オーク族の戦い編③】

時は少し遡る―――

オーク族の領地にある王家の城

オーク族の王は間近に迫る敵の戦士を城の城壁の上から見下ろしていた。

「まさか、我々オーク族の精鋭が手も足も出ないとは……」

オーク族の王は目の前の光景を、信じられないと言う目で見ている。

「妖精族の王家は奴等に滅ぼされたと聞きます。いったい何者なのでしょうか?」

隣に控えるギャバンが言う。

「ふむ……」

オーク王はギャバンの質問に答える。

「妖精族からの情報によると、奴等は北の果ての地から来たようだ。」

「北の果ての地……ですか?」

「古い神話に残る地名だが……、実際に北の果ての地を見た者はおらぬ。」

「そんな、それでは奴等は……」

「わからぬ……、しかし奴等の強さは尋常ではない……、この戦は我々の負けだ。」

「オーク王!まだ私がおります!」

オーク族最強の戦士ギャバンは身の丈ほどある大剣を軽々と振り回し腰に構える。

「止めておけギャバン。」

「しかし!」

オーク王はギャバンに諭すように語り掛ける。

「奴等の狙いは王族。抵抗さえしなければ王族以外は命を落とす事は無かろう。」

「何をおっしゃいます!王族が滅びてはオーク族が滅びたのも同じ!」

「違うぞギャバン。お前まで殺されたらオーク族はどうなる。いざ決戦になる前にオーク族の戦士が居なければ元も子もない。時を待つのだ。」

「いざ……決戦……ですか?」

「ふむ……。残念ながら我々の力だけでは奴等には勝てぬ。今は奴等の下に付き機会を伺うのだ。」

「奴等の下に………」

「そうだ。そして、奴等に勝てる者が現れるのを待て。その時はギャバン。お前がその者と共に立ち上がるのだ。オーク族を引き連れてな。」

「………奴等に勝てる者……ですか。」

そしてオーク王は城壁の一番前に立ち、叫び声を上げる。

「北の果ての地の侵入者よ!!」

城壁の下には、オーク族の精鋭を皆殺しにしたシルクハットを被った男が城に侵入する所であった。

男は城壁の上を見上げる。

「……オーク族の王か。今からそちらへ行く。待っていろ。」

するとオーク王は男に言う。

「その必要は無い。オーク王である私の命など、いくらでもくれてやる!その変わりオーク族の住民、戦士には手を出すな!」

シルクハットの男は少しの沈黙の後に答える。

「良いだろう。元々王族以外に用は無い。いや、我々の兵隊としてオーク族の力は必要だ。命を取る事はしない。」

その言葉を聞いて、オーク王はギャバンの方を見て微笑む。

「ギャバン……後は頼んだぞ。オーク族を決して滅ぼしてはならぬ。時を待て……」

「オーク王。何を………」

「さらばだギャバン。オーク族に栄光を!」

「王!!」

その日

偉大なるオーク王は

オーク城の城壁から身を投げ出した。


ギャバンはやるせない気持ちを胸に秘めて誓う。

(オーク王……、必ず、必ずこのギャバンが王の仇を取ります。見ていて下さい。偉大なる王よ……。)


【オーク族の戦い編④】

怒り猛る蒼き龍が、ギャバンを目掛けて突撃を開始する。

ギャバンは右手に持つ身の丈ほどもある大剣を前方へとポンと放り投げた。

しかし青龍は止まる事なくギャバンの右肩に噛り付く。

「ぐわぁあぁ!!」

悲鳴を上げるギャバン。

そこでようやく麗はギャバンの異変に気付き青龍に命令をする。

「青龍!戻りなさい!」

麗は表情を崩さずギャバンに問う。

「あなた、なぜ武器を捨てたのですか?」


大量の血が流れる右肩の痛みを堪えギャバンは言う。


「俺達オーク族は偉大なるアレス神の末裔。オークの王族が滅びてもオーク族を滅ぼす訳には行かないのだ。」

「……………」

無言の麗にギャバンは更に言葉を続ける。

「お前は別の世界から来たと言ったな……。では問おう。この世界に来た目的は何だ?その力でこの世界の征服を企むか?」

ドクドクとギャバンの右肩からは大量の血が流れ落ちる。
しかし、ギャバンはそんな傷などどうでも良いと言う表情で麗の答えを待つ。

「私がこの世界に来た目的……」

麗はギャバンの目を真正面から見据えて答える。


それは――――


―――――――友を救うため




ギャバンはその答えを理解するのに、少し時間が掛かった。

「ふっ……」

「ふはははは!」

「面白い!お前は友を救うために、これ程の大軍に立ち向かうと言うのか!」

笑うギャバンに麗は答える。

「何がおかしいのですか?例えどんな強敵が現れようと私は友(可憐)を救い出して見せます。」

「ふむ……」

そしてギャバンは後ろを振り向きオーク族の部下達に命令をする。

「これより我々オーク族は、連合軍より脱退しエルフ族の陣営に付く!これからは、我等が王、オーク王の仇である北の果ての地からの侵入者を倒す事を目的に行動する!」

「え………」

「ギャバン隊長……」

戸惑うオーク族の戦士達にギャバンは命令をする。

「俺はオーク王に一族の未来を託された!奴等を倒す事の出来る戦士!この異国の戦士(神代 麗)を守るのだ!彼女こそ我々オーク族の未来を託すのに相応しい戦士である!」

「え!ちょっと何を…!」

今度は麗が戸惑いを隠せ無い。

ギャバンは麗に一礼をしてから言う。

「無理は承知でお願いがある。奴等を……、北の果ての地からの侵入者を倒して欲しい。」


―――――この世界を救って欲しいのだ