【王族狩り編①】

ユグドラシルの古びた街に2人の男と1人の少女が歩いていた。

「どうして肩の傷を治したのですか?」

その少女、夢野 可憐(ゆめの かれん)は前を歩く男に質問をする。

声を掛けられたのは王城 信長(おうじょう のぶなが)。触れただけで物体を破壊する脅威的な能力の持ち主だ。人は彼をキングと呼んでいる。

そしてキングはその能力で可憐の肩の傷を治した。

「お前に死なれたら困るんだよ。異世界の門(ゲート)の結界を解けるのはお前しか居ないからな。」

もう一人の男、ヴァンパイア・リンクスは無言で歩き続ける。

キングはその様子を見てリンクスに言う。

「おい、リンクス。浮かない顔をしてどうした?ここはお前の故郷だろう?」

リンクスはキングに答える。

「ここは、獣人族の街だ。俺の故郷、ヴァンパイア族の領地はもう少し先だ。」

獣人族(じゅうじんぞく)とは、狼と人間を合わせたような亜人であり、ヴァンパイア族にも劣らない身体能力を保有する。普段は人族の容姿とそれほど変わらないが、能力発生時には獣のような姿となる。



それにしても―――

ヴァンパイア・リンクスは思う。

街が静か過ぎる……

(獣人族の人影も殆ど見当たらない。いったいどう言う事だ?)



3人が人通りの少ない街中を歩いていると

「ぐわあぁぁぁ!」

突然の悲鳴が聞こえて来た。

「なんだ!?」

何事かと声の聞こえた方へ急ぐ3人。

「!?」

そこで目にした光景は、獣人族の死体。
首から上がザックリと切られて生々しい血が溢れ出ている。

「酷い………」

可憐が思わず口に手を当てる。

「なんだ?戦闘の後か?」とキング。

「分からん。しかし、首を切り取った奴は、まだ近くに居る。」

警戒を強めるリンクス。

すると通りの向こうに一人の男性が立っているのが見えた。

その男性はゆっくりと3人の方に近付いて来る。

その手にぶら下げて居るのは獣人族の生首。ざっと見たところ5つの首を持っているようだ。

「おいおい、物騒な奴だな。」

とキングが言うとリンクスは一言呟く。

「オーク族……」

よく見るとその男の頭から鋭い角が二本伸びている。

リンクスはその男に向かって言う。

「おい、お前!獣人族は俺達ヴァンパイア族と同盟関係にある。オーク族が勝手に領地に入って何をしている!」

その男は鋭い目付きでリンクスを見るとポツリと呟いた。

「お前…ヴァンパイア族のリンクスだな……」


―――――――探したぜ



「何だと?」とリンクス。

その男は続けて言う。

「どこに隠れていたかは知らないが、俺達から逃げる事など出来ない。大人しく死ぬが良い!」

「ちっ!」

シュバッ!

リンクスは瞬時にその男との間合いを詰め、鋭い手刀を男の胸部に突き刺した。

「ガハッ!」

口から血を吐き出すオーク族の男。

リンクスは男に向かって言う。

「はっ!たかだかオーク族の兵隊がヴァンパイア族の王子に向かって何を言うか。大人しく死んでろ。」

(さすがだ。スピードも去ることながら動きに無駄が無い…。)

キングはリンクスの動きに感心する。

すると路地裏から一人の小さな女の子が飛んで来た。
緑色の髪は足元まで伸びており、背中には透明な綺麗な羽をパタパタと羽ばたかせている。

「よっ!妖精!?」

可憐は思わず声を上げた。
西欧の童話やファンタジー映画に出て来そうなその妖精は、血相を変えてリンクスに叫ぶ。

「ちょっと貴方!何をしているのよ!」

リンクスはいきなり現れた妖精に言う。

「何だお前は?お前こそ獣人族の街で何をしている。」

するとその妖精は可愛らしい声で答える。

「私は妖精族の第三王女ステラ。貴方ヴァンパイア族の王子でしょう?」

「俺の事を知っているのか?」

「知っているも何も王族の会合で何度か見掛けた事があるわ。」

「ふん……、で妖精族の王女様が俺に何の用だ?」

するとステラは思い出したように言う。

「あなた、オーク族の兵士を殺したでしょう?奴等に見つからない内に早く逃げなさい!」

「あん?どう言う事だ?」

リンクスの言葉にステラは呆れた様子で言う。

「何を言っているのよ。あなた、王族狩りに合うわよ!」


―――――王族狩り!?



【王族狩り編②】

サラマンダー族の領地の中央にそびえる巨大な城―――


―――――サラマンダー城



王の間の中央には、サラマンダー族の王『ジーブラ』が剣を構える。

そして王の前方にはサラマンダー族の近衛騎士達が敵を睨みつける。


王の間への侵入者は2人。

そのうち1人の男性。シルクハットをかぶった男が右手を前方に突き出した。

「サラマンダー王ジーブラだな。王族は皆殺しにする。」

ジーブラも黙っていない。近衛騎士の兵士達に命令を下す。

「敵は2人だ!怯むことは無い!殺れ!」

サラマンダー族の特徴は口から吐き出す炎。先制攻撃とばかりに騎士達が灼熱の炎を侵入者に吹き付ける。

男が前に突き出した右手をサッと降ると城内にも関わらず、突風が吹き荒れ、サラマンダー族の炎を吹き飛ばす。

「ちっ!魔法か!?一斉に飛び掛かれ!」

王の命令により、近衛騎士達は手に持つ大剣で侵入者に襲い掛かる!

すると侵入者のもう一人。
女性の侵入者が手に持つ複数のカードを素早く投げつける。

「どわっ!」

「ぐわぁあぁ!」

手から放たれたカードは近衛騎士達の喉元を正確に切り裂き、一撃で絶命させる。

護衛が居なくなったサラマンダー王ジーブラ。ジーブラは2人を睨みつけて言う。

「くっ……、お前達は何物だ?見たところヴァンパイア族かエルフ族か……、なぜ我々を狙うのだ!?」

するとシルクハットをかぶった男が言う。

「ヴァンパイア族?エルフ族?あんな低種族と一緒にされたら困るな。」

「なんだと……ではお前達は……」

「なんだ?サラマンダー王よ。そんな事も知らないのか。自分達が北の果ての地に追いやったんだろうが。」

「北の果ての地?何の事だ?」

すると2人の会話に女性の侵入者が口を挟む。

「ハンプティ・ハッター。そんな大昔の話をしても無駄だわ。私達の事など誰も覚えていないでしょう。それより……」

女性の侵入者がジーブラに向かって言う。

「王族の誰かが持っていると言われるクリスタル。私達の王が封印されているクリスタルを見つけるのが先決です。」

「そして私達を北の果ての地に追いやった王族達に復讐を果たすのです!」



王族には―――――――


―――――――――死を




【王族狩り編③】

目の前を飛ぶのは妖精族の王女。

ピクシー・ステラはリンクス達に説明をする。

「既に十種族のうちの八種族の領地が攻め込まれました……。」

ステラの話はこうだ。

リンクスが異世界へ旅立つのと同じ頃、北の地から突然現れた者達がユグドラシルに居る主要十種族への侵攻を開始した。

最初に狙われたのは妖精族。
妖精族の王族は皆殺しにされ、第三王女のピクシー・ステラのみが逃げる事に成功した。

その後、侵入者達は次々と他の種族の領地へ攻め入り、八つの種族の王族が殺されたと言う。

そして、その殺された種族の中には

リンクスの親族。
ヴァンパイア族も含まれている。

「何だと!?そんなバカな!そんな事は有り得ない。俺達ヴァンパイア族は十種族の中でも上位の戦闘能力を誇る!獣人族との同盟もある。たかがオーク族にそんな力がある訳が無い!」

するとステラは呆れたように言う。

「あなた、私の説明を聞いていたの?敵はオーク族では有りません。オーク族の王族は奴等に皆殺しにされました。先程の兵士は奴等に支配されたオーク族の生き残りでしょう。」

「その奴等とはいったい何族の事なのだ!?」

ステラは言う。

「私も詳しくは分かりませんが、その姿形(すがたかたち)は神話の時代に語り継がれる種族。」



―――人族にとても良く似ていました。



「人族だと!?」

リンクスは驚いて可憐とキングの方を見る。

キングは黙って首を横に振る。

声を出したのは可憐。

「聞いた事が有りません。こちらの世界への移動は日本の富士山にある異世界の門(ゲート)しか知られていないでしょう。」

「そして私達の世界から、こちらの世界へ侵入する人間が居るなんて信じられません。」


「ちっ!」

舌打ちをするリンクス。

リンクスはステラに向かって質問をする。

「八つの種族の王族が殺されたと言ったな。で、残りの王族……、まだ攻められていない種族はどこの種族だ?」

「そうね……」

ステラは答える。

「先日、サラマンダー族の王族が滅ぼされましたので、残る種族は2つ。」

「南のガーゴイル族と、エルフの森に住むエルフ族。私は今エルフの森に向かっている途中なのです。」


リンクスは東の方角に目をやり呟く。

「エルフの森……か」


キングはリンクスに言う。

「どうするんだリンクス。ヴァンパイアの領地に行っても既に奴等の支配下にあるようだ。」

可憐もキングに続いて言う。

「これでは、私達の世界を攻めるどころでは有りません。あなたの命が狙われているようです。『異世界の門(ゲート)』へ戻り、向こうの世界に逃げると言う方法もあります。」

リンクスは少し考えて言う。

「いや……、奴等は俺の両親、ヴァンパイア族の王族を殺した。そしてユグドラシルが奴等に奪われるなど許す訳には行かない。」

リンクスはステラに向かって言う。

「俺達もエルフの森へ行く。ガーゴイル族の領地はかなり遠い。次の奴等の狙いはおそらくエルフ族。



誰かは知らぬが――――


エルフの森で奴等を迎え撃つ――――


この俺様に逆らう奴は皆殺しにする!」


(確かに……)

ピクシー・ステラは思う。

この世界でまだ奴等に襲われていないのは、エルフの森とガーゴイル族の領地のみ。

2つの領地が奴等の支配下になれば王族であるステラは見つかって殺されるだろう。

「分かりました。リンクス王子、一緒にエルフの森へ行きましょう。」


―――――私も戦います!