【ゲート封印編①】
よいかリンクス
我々ヴァンパイアの一族は遠い昔に、人族との争いに破れた。
しかし忘れるでない。
我々は決して人族を許してはならない。
いつの日か、我々は人族に復讐し、人族を滅ぼすのだ。
それが我々、ヴァンパイアの王家に課せられた使命。
「異世界の門(ゲート)が開かれた?」
(なんだそのゲートというのは……)
あちらの世界には人族が支配する広大な大地があると言う。
遥か昔に隔てられた2つの大地が繋がったのだ。
今こそ人族への恨みを晴らす時
ヴァンパイアこそが大地の支配者に相応しい。
「これは面白い。」
リンクスは高揚していた。
(この世界に居る人族は何の力も無い弱者の集団。優秀な人族をヴァンパイア化して行けば、この世界は我々のものになる。)
ポリス『ピュアブラッド』を結成し次々と領地を広げるリンクス。
しかし、そこで…
この世界に来て初めて強敵と思える人物に出会う。
(キング………)
「貴様は何者だ?」
人族にそんな力が…………
もっと仲間が必要だ。
あちらの世界(ユグドラシル)に居る仲間達はどうした?
何故、俺達の後に続かない……
富士山にあるゲートが何者かに封鎖されている。
これでは向こうの世界に居るヴァンパイアの仲間達が、こちらの世界に来れないではないか。
「キャロル、富士山へ戻るぞ。
俺達の邪魔をする奴を蹴散らしてやる。」
オリジナルのヴァンパイアを呼び寄せる為に富士山にある異世界の門(ゲート)へ戻るリンクスとキャロル。
なんだこの少女……
このエルフの少女は………
何故俺の邪魔をする。
何故人族の味方をするのだ!
確かに森の中での戦闘ではエルフには敵わない。それは認めよう。
しかしだ
俺にはとっておきの能力がある。
吸血蝙蝠(きゅうけつこうもり)による他種族のヴァンパイア化。
エルフの王族をヴァンパイアの仲間に引き入れてやる。
!?
まさか……
俺の蝙蝠(こうもり)まで操れると言うのか……
「これで終わりです。」
グサッ!
「ぐわぁあぁ!」
エルフの一族――――
エルフの王族の持つ『アルテミスの槍』
ヴァンパイアの中でも驚異的な能力を持つヴァンパイアの王子ヴァンパイア・リンクス。
リンクスの力を持ってしても、『アルテミスの槍』によって受けた傷を再生するのは不可能。
(はは……、こちらの世界に来てこの様とは情けない。ヴァンパイアの王子が聞いて飽きれる。)
もう死ぬのも時間の問題だな………
ズサリ
(………?)
ズサリ
(誰だ……?)
「……リンクスか。」
(……………)
「1ヶ月前に、この俺と互角の戦いを演じたヴァンパイアが負けるとは信じられんな。」
(………キング?)
「なんだ?まだ息があるのか……」
キングはそっとリンクスの胸に手をあてる。
破壊の王様キングの『原子操作』
(ぐっ!!)
「さて……、先を急ぐか。沖田や他のエージェントに遅れを取る訳にも行かない。」
キングは陰陽師の神社。
富士御嵩神社(ふじみたけじんじゃ)に足を踏み入れる。
【ゲート封印編②】
異世界の門(ゲート)
巨大なその門は異様なオーラを放っていた。
異世界から放たれる強烈なプレッシャーが陰陽師の棟梁である神代 麗(かみしろ れい)の身体を斬り刻む。
全身を自らの血で染めながらも、結界を張り続ける麗(れい)。
「麗ちゃん!」
「麗様!」
声を掛けるのは、夢野 可憐(ゆめの かれん)と神影 小次郎(かみかげ こじろう)。
麗は可憐を見て微笑んだ。
「可憐………来てくれたのね。」
良かっ…………た…………。
「麗様!?」
ガシッ!
倒れ込む麗を抱き留める小次郎。
「麗様!申し訳ございません!麗様一人に辛い戦いを………。」
そして小次郎は、可憐を見て言う。
「可憐さん!いや朱雀(すざく)様!どうか異世界の門(ゲート)を封鎖して下さい!」
日本を代表する国民的アイドル夢野 可憐(ゆめの かれん)
彼女の身体には陰陽師の守護神である霊獣『朱雀』が宿っている。
「分かりました。人格を朱雀に明け渡します。朱雀さん……お願いします。」
可憐がそう言うと、可憐の雰囲気がガラリと変わる。
ゴクリ……
(これが…朱雀様か……。)
その雰囲気に圧倒される小次郎。
朱雀はまず麗にねぎらいの言葉を掛ける。
「麗……、よくぞここまで持ち堪えた。主が居なければ、異世界の門(ゲート)は完全に開かれていたであろう。」
そして朱雀は異世界の門(ゲート)を見る。
(しかし、これは簡単には行かない。ここまで世界が繋がってしまうと、元に戻すのは至難の業。)
「朱雀様……、いかがでしょうか?」
小次郎が心配そうに話し掛ける。
「ふむ。やって見よう。少し時間が掛かるかも知れぬが、何とかなるだろう。」
朱雀は全身全霊の力を込めて結界を貼り直す。
(良かった………、これで世界は救われる………。)
小次郎はほっと胸を撫で下ろした。
【ゲート封印編③】
「あの………、先程の女のコ……。エミリーさん……大丈夫でしょうか?」
話し掛けるのは李 羽花(リー ユイファ)。一見すると可愛い女子高生なのだが、ヴァンパイア達の主力をほぼ一人で倒した強者である。
「うーん……、まぁ大丈夫だろう。ああ見えてエミリーは伝説の魔法使いだからな。それに、エミリーの暴走は今に始まった事じゃない。」
公安秘密警察官(エージェント)の日賀 タケル(ひが たける)は諦めた様子でユイファに答える。
雑談を交わす2人に口を挟むのは、同じくエージェントの沖田 栄治(おきた えいじ)
「そろそろ着くぞ……油断するな。」
地下空間の通路の先にある大空間に辿り着いた3人。
「これは………」
思わず声を上げる沖田。
「可憐!」
「夢野!それに神代!?」
全身から血を流す麗(れい)に駆け寄るタケル。
「お知り合いか?大丈夫。麗様は気絶されているだけです。」と小次郎。
ユイファは可憐を見て異変に気が付く。
(彼女は可憐じゃない。いや、可憐の言っていたもう一つの人格…『朱雀』?)
沖田は朱雀に近付き話し掛ける。
「……門を……塞いでいるのか?」
「ふん……貴様か……。」
沖田と朱雀は一度、戦った事がある。当時は敵対していた2人も今では目的は同じ。
―――異世界の門(ゲート)の封印
朱雀は沖田に答える。
「結界は既に完成している。後は時間が解決するだろう。もうすぐ門は完全に閉ざされる。我(朱雀)の仕事は終わったようだ。」
朱雀は疲れきった様子で人格を可憐に戻す。
夢野 可憐(ゆめの かれん)の身体を依代(よりしろ)とする朱雀は、長時間その人格を維持する事が出来ない。
ましてやゲートを塞ぐのに力を使い果たした朱雀はしばらく眠りに付く事になる。
「そうか……。」
沖田はそれだけ答えて門の方に目をやる。
黒い霧が日本を襲ってから4ヶ月になる。近代文明を無効化する黒い霧は日本に大混乱をもたらした。
黒い霧の正体は不明だが、この門が塞がれば全て解決する。
あと……少し――――
【ゲート封印編④】
「ほぉ……、門を封鎖するとは夢野 可憐(ゆめの かれん)ってのは只者じゃないな。」
そこに声を掛ける一人の男。
大空間にいる皆が突然現れた男を見る。
王城 信長(おうじょう のぶなが)、通称キングと呼ばれているエージェントの1人。
「あなたは……誰ですか?」
人格を取り戻した可憐はキングに向かって言う。
ユイファもアルテミスの槍を持って身構える。
「おいおい、待ってくれ!俺はエージェントの一人 信長って者だ。沖田、なんとか言ってくれ。」
そう言ってキングは大空間の中央、異世界の門(ゲート)の前に歩み寄る。
「遅かったなキング。何をやっていたんだ?」と沖田。
「沖田さんの知り合いですか?」と可憐。
沖田は異世界の門(ゲート)がもうすぐ塞がれる事をキングに説明する。
ただ1人、羽花(ユイファ)は警戒を解かずじっとキングの様子を伺っている。
キングは言う。
「なるほど、夢野 可憐(ゆめの かれん)に宿る朱雀か。こいつが居れば異世界の門(ゲート)の開閉、すなわち異世界への出入りが自由って訳か。」
「どう言う事だ?」と沖田。
「この門は二度と開きません。そんな事は私が許しません。」と可憐。
そしてキングは沖田と可憐の肩にポンと手を乗せて言う。
「それだと、困るんだよね。」
「なに?」
沖田がキングの言葉に反応すると同時にキングは能力を発動する。
触れる者を一瞬にして破壊する脅威の能力。
―――――原子操作
ブシュ!
グシャ!
「ぐわぁあぁ!」
「きゃあぁ!!」
沖田と可憐の肩が一瞬にして破壊される。
「何をする!」
「キング!てめぇ!」
それまで静観していた小次郎とタケルがキングに向かって叫び声を上げる。
「おっと、待った!下手に動くと今度は沖田と可憐の頭を破壊する。」
そう言って2人の頭に手をやるキング。
「キング……お前、気でも違ったか。」
消滅した肩の痛みを堪えて沖田はキングに言う。
「気でも……?
俺は至ってマトモさ。そうだろうリンクス。」
「!?」
「なに!?」
「リンクス!?」
すると大空間の入口にグレーの髪の青年……、ヴァンパイア・リンクスが現れる。
「あなた!なぜ生きているのです!」
ユイファが黒い槍を構えて叫ぶ。
リンクスはふふと笑みを浮かべて言う。
「流石の俺様も危うく死ぬ所だった。お前の強さは認めよう。キングの能力が無ければ命は無かっただろう。」
「なに?」
と声を上げるのは沖田。
「キングの能力とはどう言う事だ?」
タケルがすかさず質問をする。
リンクスに変わって答えるのはキング。
「俺の能力は『原子操作』。人はその能力を称えてこう呼ぶのさ。」
――――破壊と再生の王様
「俺はどんな傷でも一瞬で再生出来る。原子操作の能力でな。」
「お前…………」
タケルも沖田も、その場に居る全員が、この状況に理解が追い付かない。
エージェントの1人であるキングが、ヴァンパイア・リンクスを助けて、更に沖田と可憐に攻撃をするのかを……
「お前………、裏切ったのか……」
沖田が苦痛に顔を歪めながらも、キングに言う。
「裏切った?違うなぁ……。」
キングは答える。
「なぜなら、俺は1ヶ月前から既に……」
―――――――ヴァンパイアだ
「!?」
「なんだと!?」
ポリス『ピュアブラッド』と『ゴッドパラダイス』のリーダーであるリンクスとキング。
2人は1ヶ月前に、その雌雄を掛けて戦闘を行った。
その時に、リンクスは特殊な吸血蝙蝠(こうもり)の力により、キングをヴァンパイア化して仲間に引き入れていた。
「そんなバカな…………」
沖田は驚きを隠せない。
「おっと時間が無い。そろそろ異世界の門(ゲート)が閉じるようだ。行くぞキング。」
リンクスはそう言って異世界の門(ゲート)に歩み寄る。
「いったい何を!」
ユイファがリンクスに言う。
「なに、今は何もしないさ。俺はこの世界を甘く見ていた。オリジナルのヴァンパイアが俺一人ではどうする事も出来ない。だから……
今度は向こうの世界から仲間を引き連れて来よう。それまで対戦はおあずけだ。」
リンクスに続いて言葉を放つのはキング。
「それまで、この少女。可憐(朱雀)の力は人質として預っておく。こいつが居れば――」
いつでも
こちらの世界に戻って来れる―――
【ゲート封印編⑤】
「あ……」
破壊された可憐の右肩からは大量の血が滴り落ちる。
いつもなら朱雀の不死の能力で再生される傷も塞がる様子は無い。
(朱雀の能力が発動しない……。ゲートを塞ぐのに力を使い果たしたとでも言うの?)
「それでは、また会おう。それまで対策でも練って置くのだな。」
そう言い残し、リンクスとキング、そして可憐は異世界の門(ゲート)に消えて行く。
「そんな……夢野……。」
タケルが力無く呟いた。
「ようやく異世界の門(ゲート)が塞がれると言うのに、これではいつ奴らが襲って来るのか。」と沖田。
「そんな事はどうでもいい!夢野がさらわれたんだぞ!」とタケル。
「しかし、どうすると言うのだタケル。向こうの世界にまで助けに行くのか?ヴァンパイアや他の敵がどれだけ居るかも分からない異世界に…。」
「それは……」
それ以上、何も言えないタケル。
タケルは自分の弱さが憎い。エージェントでありながら、何の能力も無いタケル。
ヴァンパイアやキングと戦闘になれば、間違い無く殺される。
それは沖田も同じだった。
黒い霧の影響でサイボーグの身体が使えない今の沖田は通常の人間と変わらない。
可憐がさらわれるのを黙って見過ごすしか他に方法は無いのだ。
しんと、静まり返る大空間……
もうすぐ異世界の門は閉ざされる。
「……小次郎。」
「……?」
「その手を離すのです。」
声を発したのは陰陽師の棟梁である少女 神代 麗(かみしろ れい)。
「麗様……気付いておられたのですか?」と小次郎。
「えぇ……、途中からですが、だいたいの事情は飲み込めました。」
そう言って麗は傷ついた身体を起こし異世界の門(ゲート)へと歩き出す。
「麗様………何を?」
麗は小次郎の質問に答える。
「可憐を連れ戻して参ります。」
「!?」
「そんな無茶です!その身体で!」と小次郎。
「神代!何を言い出すんだ!たった一人で何が出来る!」
タケルも声を上げる。
しかし麗の意志は変わらない。
「今この場で、ここに居るメンバーで彼等に勝てるのは、私しか居ないでしょう。
これは自惚れでは有りません。
神代一族(かみしろのいちぞく)の棟梁として、そして可憐の友人として、朱雀を…そして可憐を連れ戻す義務が私にはあるのです。」
大丈夫―――――
―――――私は負けません
「そんな……」
凛として佇む、美しい少女。
神代 麗(かみしろ れい)は一人異世界の門をくぐる。
「ちくしょう!」
小次郎は拳を地面に叩き付ける。
「俺には異世界へ行く勇気が無い。ヴァンパイア化した人間にすら俺は敵わなかった。あちらの世界にはどれ程の化物が居るのか……。」
その言葉は沖田やタケルにも言える事であった。
異世界へ行けば殺されるのは目に見えている。麗の後を追って可憐を助けに行く人間など居るはずが無いのだ。
たった1人を除いて―――――
「私が行きます。」
「!?」
中華人民共和国の少女、李 羽花(リー ユイファ)。
「私は可憐に命を助けられました。このまま放って置く事は出来ません。」
「あんた……、異世界へ行く事の意味が分かっているのか!?死ぬぞ!」
ユイファに声を掛けるタケル。
しかしユイファは笑顔で答える。
「もう時間が有りません。それでは行って参ります。可憐は私が助けて見せます。」
ユイファはその手に持つ『アルテミスの槍』をギュッと握り締め、麗(れい)の後を追う。
その先にあるのは
ヴァンパイア族を含む、多くの敵が待ち受ける未知の世界。
その名も―――――
―――――――――ユグドラシル

(左)神代 麗(かみしろ れい)
(右)李 羽花(リー ユイファ)
よいかリンクス
我々ヴァンパイアの一族は遠い昔に、人族との争いに破れた。
しかし忘れるでない。
我々は決して人族を許してはならない。
いつの日か、我々は人族に復讐し、人族を滅ぼすのだ。
それが我々、ヴァンパイアの王家に課せられた使命。
「異世界の門(ゲート)が開かれた?」
(なんだそのゲートというのは……)
あちらの世界には人族が支配する広大な大地があると言う。
遥か昔に隔てられた2つの大地が繋がったのだ。
今こそ人族への恨みを晴らす時
ヴァンパイアこそが大地の支配者に相応しい。
「これは面白い。」
リンクスは高揚していた。
(この世界に居る人族は何の力も無い弱者の集団。優秀な人族をヴァンパイア化して行けば、この世界は我々のものになる。)
ポリス『ピュアブラッド』を結成し次々と領地を広げるリンクス。
しかし、そこで…
この世界に来て初めて強敵と思える人物に出会う。
(キング………)
「貴様は何者だ?」
人族にそんな力が…………
もっと仲間が必要だ。
あちらの世界(ユグドラシル)に居る仲間達はどうした?
何故、俺達の後に続かない……
富士山にあるゲートが何者かに封鎖されている。
これでは向こうの世界に居るヴァンパイアの仲間達が、こちらの世界に来れないではないか。
「キャロル、富士山へ戻るぞ。
俺達の邪魔をする奴を蹴散らしてやる。」
オリジナルのヴァンパイアを呼び寄せる為に富士山にある異世界の門(ゲート)へ戻るリンクスとキャロル。
なんだこの少女……
このエルフの少女は………
何故俺の邪魔をする。
何故人族の味方をするのだ!
確かに森の中での戦闘ではエルフには敵わない。それは認めよう。
しかしだ
俺にはとっておきの能力がある。
吸血蝙蝠(きゅうけつこうもり)による他種族のヴァンパイア化。
エルフの王族をヴァンパイアの仲間に引き入れてやる。
!?
まさか……
俺の蝙蝠(こうもり)まで操れると言うのか……
「これで終わりです。」
グサッ!
「ぐわぁあぁ!」
エルフの一族――――
エルフの王族の持つ『アルテミスの槍』
ヴァンパイアの中でも驚異的な能力を持つヴァンパイアの王子ヴァンパイア・リンクス。
リンクスの力を持ってしても、『アルテミスの槍』によって受けた傷を再生するのは不可能。
(はは……、こちらの世界に来てこの様とは情けない。ヴァンパイアの王子が聞いて飽きれる。)
もう死ぬのも時間の問題だな………
ズサリ
(………?)
ズサリ
(誰だ……?)
「……リンクスか。」
(……………)
「1ヶ月前に、この俺と互角の戦いを演じたヴァンパイアが負けるとは信じられんな。」
(………キング?)
「なんだ?まだ息があるのか……」
キングはそっとリンクスの胸に手をあてる。
破壊の王様キングの『原子操作』
(ぐっ!!)
「さて……、先を急ぐか。沖田や他のエージェントに遅れを取る訳にも行かない。」
キングは陰陽師の神社。
富士御嵩神社(ふじみたけじんじゃ)に足を踏み入れる。
【ゲート封印編②】
異世界の門(ゲート)
巨大なその門は異様なオーラを放っていた。
異世界から放たれる強烈なプレッシャーが陰陽師の棟梁である神代 麗(かみしろ れい)の身体を斬り刻む。
全身を自らの血で染めながらも、結界を張り続ける麗(れい)。
「麗ちゃん!」
「麗様!」
声を掛けるのは、夢野 可憐(ゆめの かれん)と神影 小次郎(かみかげ こじろう)。
麗は可憐を見て微笑んだ。
「可憐………来てくれたのね。」
良かっ…………た…………。
「麗様!?」
ガシッ!
倒れ込む麗を抱き留める小次郎。
「麗様!申し訳ございません!麗様一人に辛い戦いを………。」
そして小次郎は、可憐を見て言う。
「可憐さん!いや朱雀(すざく)様!どうか異世界の門(ゲート)を封鎖して下さい!」
日本を代表する国民的アイドル夢野 可憐(ゆめの かれん)
彼女の身体には陰陽師の守護神である霊獣『朱雀』が宿っている。
「分かりました。人格を朱雀に明け渡します。朱雀さん……お願いします。」
可憐がそう言うと、可憐の雰囲気がガラリと変わる。
ゴクリ……
(これが…朱雀様か……。)
その雰囲気に圧倒される小次郎。
朱雀はまず麗にねぎらいの言葉を掛ける。
「麗……、よくぞここまで持ち堪えた。主が居なければ、異世界の門(ゲート)は完全に開かれていたであろう。」
そして朱雀は異世界の門(ゲート)を見る。
(しかし、これは簡単には行かない。ここまで世界が繋がってしまうと、元に戻すのは至難の業。)
「朱雀様……、いかがでしょうか?」
小次郎が心配そうに話し掛ける。
「ふむ。やって見よう。少し時間が掛かるかも知れぬが、何とかなるだろう。」
朱雀は全身全霊の力を込めて結界を貼り直す。
(良かった………、これで世界は救われる………。)
小次郎はほっと胸を撫で下ろした。
【ゲート封印編③】
「あの………、先程の女のコ……。エミリーさん……大丈夫でしょうか?」
話し掛けるのは李 羽花(リー ユイファ)。一見すると可愛い女子高生なのだが、ヴァンパイア達の主力をほぼ一人で倒した強者である。
「うーん……、まぁ大丈夫だろう。ああ見えてエミリーは伝説の魔法使いだからな。それに、エミリーの暴走は今に始まった事じゃない。」
公安秘密警察官(エージェント)の日賀 タケル(ひが たける)は諦めた様子でユイファに答える。
雑談を交わす2人に口を挟むのは、同じくエージェントの沖田 栄治(おきた えいじ)
「そろそろ着くぞ……油断するな。」
地下空間の通路の先にある大空間に辿り着いた3人。
「これは………」
思わず声を上げる沖田。
「可憐!」
「夢野!それに神代!?」
全身から血を流す麗(れい)に駆け寄るタケル。
「お知り合いか?大丈夫。麗様は気絶されているだけです。」と小次郎。
ユイファは可憐を見て異変に気が付く。
(彼女は可憐じゃない。いや、可憐の言っていたもう一つの人格…『朱雀』?)
沖田は朱雀に近付き話し掛ける。
「……門を……塞いでいるのか?」
「ふん……貴様か……。」
沖田と朱雀は一度、戦った事がある。当時は敵対していた2人も今では目的は同じ。
―――異世界の門(ゲート)の封印
朱雀は沖田に答える。
「結界は既に完成している。後は時間が解決するだろう。もうすぐ門は完全に閉ざされる。我(朱雀)の仕事は終わったようだ。」
朱雀は疲れきった様子で人格を可憐に戻す。
夢野 可憐(ゆめの かれん)の身体を依代(よりしろ)とする朱雀は、長時間その人格を維持する事が出来ない。
ましてやゲートを塞ぐのに力を使い果たした朱雀はしばらく眠りに付く事になる。
「そうか……。」
沖田はそれだけ答えて門の方に目をやる。
黒い霧が日本を襲ってから4ヶ月になる。近代文明を無効化する黒い霧は日本に大混乱をもたらした。
黒い霧の正体は不明だが、この門が塞がれば全て解決する。
あと……少し――――
【ゲート封印編④】
「ほぉ……、門を封鎖するとは夢野 可憐(ゆめの かれん)ってのは只者じゃないな。」
そこに声を掛ける一人の男。
大空間にいる皆が突然現れた男を見る。
王城 信長(おうじょう のぶなが)、通称キングと呼ばれているエージェントの1人。
「あなたは……誰ですか?」
人格を取り戻した可憐はキングに向かって言う。
ユイファもアルテミスの槍を持って身構える。
「おいおい、待ってくれ!俺はエージェントの一人 信長って者だ。沖田、なんとか言ってくれ。」
そう言ってキングは大空間の中央、異世界の門(ゲート)の前に歩み寄る。
「遅かったなキング。何をやっていたんだ?」と沖田。
「沖田さんの知り合いですか?」と可憐。
沖田は異世界の門(ゲート)がもうすぐ塞がれる事をキングに説明する。
ただ1人、羽花(ユイファ)は警戒を解かずじっとキングの様子を伺っている。
キングは言う。
「なるほど、夢野 可憐(ゆめの かれん)に宿る朱雀か。こいつが居れば異世界の門(ゲート)の開閉、すなわち異世界への出入りが自由って訳か。」
「どう言う事だ?」と沖田。
「この門は二度と開きません。そんな事は私が許しません。」と可憐。
そしてキングは沖田と可憐の肩にポンと手を乗せて言う。
「それだと、困るんだよね。」
「なに?」
沖田がキングの言葉に反応すると同時にキングは能力を発動する。
触れる者を一瞬にして破壊する脅威の能力。
―――――原子操作
ブシュ!
グシャ!
「ぐわぁあぁ!」
「きゃあぁ!!」
沖田と可憐の肩が一瞬にして破壊される。
「何をする!」
「キング!てめぇ!」
それまで静観していた小次郎とタケルがキングに向かって叫び声を上げる。
「おっと、待った!下手に動くと今度は沖田と可憐の頭を破壊する。」
そう言って2人の頭に手をやるキング。
「キング……お前、気でも違ったか。」
消滅した肩の痛みを堪えて沖田はキングに言う。
「気でも……?
俺は至ってマトモさ。そうだろうリンクス。」
「!?」
「なに!?」
「リンクス!?」
すると大空間の入口にグレーの髪の青年……、ヴァンパイア・リンクスが現れる。
「あなた!なぜ生きているのです!」
ユイファが黒い槍を構えて叫ぶ。
リンクスはふふと笑みを浮かべて言う。
「流石の俺様も危うく死ぬ所だった。お前の強さは認めよう。キングの能力が無ければ命は無かっただろう。」
「なに?」
と声を上げるのは沖田。
「キングの能力とはどう言う事だ?」
タケルがすかさず質問をする。
リンクスに変わって答えるのはキング。
「俺の能力は『原子操作』。人はその能力を称えてこう呼ぶのさ。」
――――破壊と再生の王様
「俺はどんな傷でも一瞬で再生出来る。原子操作の能力でな。」
「お前…………」
タケルも沖田も、その場に居る全員が、この状況に理解が追い付かない。
エージェントの1人であるキングが、ヴァンパイア・リンクスを助けて、更に沖田と可憐に攻撃をするのかを……
「お前………、裏切ったのか……」
沖田が苦痛に顔を歪めながらも、キングに言う。
「裏切った?違うなぁ……。」
キングは答える。
「なぜなら、俺は1ヶ月前から既に……」
―――――――ヴァンパイアだ
「!?」
「なんだと!?」
ポリス『ピュアブラッド』と『ゴッドパラダイス』のリーダーであるリンクスとキング。
2人は1ヶ月前に、その雌雄を掛けて戦闘を行った。
その時に、リンクスは特殊な吸血蝙蝠(こうもり)の力により、キングをヴァンパイア化して仲間に引き入れていた。
「そんなバカな…………」
沖田は驚きを隠せない。
「おっと時間が無い。そろそろ異世界の門(ゲート)が閉じるようだ。行くぞキング。」
リンクスはそう言って異世界の門(ゲート)に歩み寄る。
「いったい何を!」
ユイファがリンクスに言う。
「なに、今は何もしないさ。俺はこの世界を甘く見ていた。オリジナルのヴァンパイアが俺一人ではどうする事も出来ない。だから……
今度は向こうの世界から仲間を引き連れて来よう。それまで対戦はおあずけだ。」
リンクスに続いて言葉を放つのはキング。
「それまで、この少女。可憐(朱雀)の力は人質として預っておく。こいつが居れば――」
いつでも
こちらの世界に戻って来れる―――
【ゲート封印編⑤】
「あ……」
破壊された可憐の右肩からは大量の血が滴り落ちる。
いつもなら朱雀の不死の能力で再生される傷も塞がる様子は無い。
(朱雀の能力が発動しない……。ゲートを塞ぐのに力を使い果たしたとでも言うの?)
「それでは、また会おう。それまで対策でも練って置くのだな。」
そう言い残し、リンクスとキング、そして可憐は異世界の門(ゲート)に消えて行く。
「そんな……夢野……。」
タケルが力無く呟いた。
「ようやく異世界の門(ゲート)が塞がれると言うのに、これではいつ奴らが襲って来るのか。」と沖田。
「そんな事はどうでもいい!夢野がさらわれたんだぞ!」とタケル。
「しかし、どうすると言うのだタケル。向こうの世界にまで助けに行くのか?ヴァンパイアや他の敵がどれだけ居るかも分からない異世界に…。」
「それは……」
それ以上、何も言えないタケル。
タケルは自分の弱さが憎い。エージェントでありながら、何の能力も無いタケル。
ヴァンパイアやキングと戦闘になれば、間違い無く殺される。
それは沖田も同じだった。
黒い霧の影響でサイボーグの身体が使えない今の沖田は通常の人間と変わらない。
可憐がさらわれるのを黙って見過ごすしか他に方法は無いのだ。
しんと、静まり返る大空間……
もうすぐ異世界の門は閉ざされる。
「……小次郎。」
「……?」
「その手を離すのです。」
声を発したのは陰陽師の棟梁である少女 神代 麗(かみしろ れい)。
「麗様……気付いておられたのですか?」と小次郎。
「えぇ……、途中からですが、だいたいの事情は飲み込めました。」
そう言って麗は傷ついた身体を起こし異世界の門(ゲート)へと歩き出す。
「麗様………何を?」
麗は小次郎の質問に答える。
「可憐を連れ戻して参ります。」
「!?」
「そんな無茶です!その身体で!」と小次郎。
「神代!何を言い出すんだ!たった一人で何が出来る!」
タケルも声を上げる。
しかし麗の意志は変わらない。
「今この場で、ここに居るメンバーで彼等に勝てるのは、私しか居ないでしょう。
これは自惚れでは有りません。
神代一族(かみしろのいちぞく)の棟梁として、そして可憐の友人として、朱雀を…そして可憐を連れ戻す義務が私にはあるのです。」
大丈夫―――――
―――――私は負けません
「そんな……」
凛として佇む、美しい少女。
神代 麗(かみしろ れい)は一人異世界の門をくぐる。
「ちくしょう!」
小次郎は拳を地面に叩き付ける。
「俺には異世界へ行く勇気が無い。ヴァンパイア化した人間にすら俺は敵わなかった。あちらの世界にはどれ程の化物が居るのか……。」
その言葉は沖田やタケルにも言える事であった。
異世界へ行けば殺されるのは目に見えている。麗の後を追って可憐を助けに行く人間など居るはずが無いのだ。
たった1人を除いて―――――
「私が行きます。」
「!?」
中華人民共和国の少女、李 羽花(リー ユイファ)。
「私は可憐に命を助けられました。このまま放って置く事は出来ません。」
「あんた……、異世界へ行く事の意味が分かっているのか!?死ぬぞ!」
ユイファに声を掛けるタケル。
しかしユイファは笑顔で答える。
「もう時間が有りません。それでは行って参ります。可憐は私が助けて見せます。」
ユイファはその手に持つ『アルテミスの槍』をギュッと握り締め、麗(れい)の後を追う。
その先にあるのは
ヴァンパイア族を含む、多くの敵が待ち受ける未知の世界。
その名も―――――
―――――――――ユグドラシル

(左)神代 麗(かみしろ れい)
(右)李 羽花(リー ユイファ)