【アルテミスの槍とエルフの少女編①】
その昔…
それは人類が産まれるよりも昔のこと
万物の創造神ガイアはオリュンポス十二神の神々に一つの命令をする。
―――――神々に変わる種族の創造
森林と純潔の豊穣神アルテミスは、自ら創り出した新しい生命体に2つの贈り物をする。
万物の自然を操る能力
万物を破壊する黒い槍
アルテミスは願う。
「私の創り出した種族が他の神々が産み出した種族に滅ぼされる事の無いように―――。」
大自然をこよなく愛したアルテミスは自ら産み出した種族にこう名付ける。
森の妖精―――
――――――――――『エルフ』と
西暦2042年3月
中華人民共和国四川省
李 羽花(リー ユイファ)は、高校に入学する前の晩に李一族の長(おさ)である父親に呼び出された。
(何の用かしら?)
ユイファは不思議に思いながらも父親の居る屋敷の奥へと向かう。
「羽花(ユイファ)よ、これを持ちなさい。」
父は部屋の奥にある大きな箱から一本の槍を持ち出して来た。
「お父様……、これは?」
父の差し出したズシリと重たい黒色の槍を見つめるユイファ。
ユイファはその槍に、この世のものとは思えない不思議な感覚を覚える。
「これは李家に伝わる伝説の槍。我が一族にしか扱う事の出来ない特別な素材で出来ておる。」
「特別な……素材?」
「そう……、特別な素材だ。ユイファ……、能力を発動してみなさい。」
「え……ここで?」
「うむ……発動すれば分かる。」
ユイファは父の言われるがままに精神を集中する。
シュウ……
シュウ……
すると羽花(ユイファ)の両耳が細長く変化を始める。
「!?」
すると、手に持つ黒い槍の意志がユイファの脳裏に流れ込んで来た。
それは遠い昔の記憶。
儚くも悲しい誰かの記憶がユイファの記憶とシンクロを始める。
(これは………)
「シュリル様!敵襲です!既に森の城は完全に包囲されています。」
シュリルと呼ばれた男は静かに頷く。
「遂に来たか……。それで敵はどこの者だ?」
「はっ……、おそらく妖精(フェアリー)族を除く全ての種族の連合軍だと思われます。」
「ふむ……」
シュリルは一度頷くと、側に置いてあった黒い槍を手に持ち、部下の戦士達に伝令をする。
「怯むでない。連合軍とは言え雑兵の集まり、私が直々に返り討ちにして来よう。」
「そんな……シュリル様自ら……。」
部下の一人が心配そうにシュリルを見つめる。
「こうなったのも私の責任。休戦協定を破った人族を擁護したのだから当然であろう。」
シュリルが森の城を出ようとした時…
「お待ちください。お父様。」
1人の少女に呼び止められる。
年齢は16〜17歳くらいのとても綺麗な顔をした少女。
少女は言う。
「お父様、私が行きましょう。」
驚くシュリル。
「何を馬鹿な事を……、お前は城の中で待っておれば良い。これは王である私の役目だ。」
しかし少女は引き下がる様子もなく、尚も父に告げる。
「お父様では勝てませぬ。」
「なんだと?」
少女は言う。
「その槍……『アルテミスの槍』の真の力を引き出せるのは、お母様が亡くなった今となっては、私だけです。私達の一族は女系の一族。お父様では無理なのです。」
「………お前…。」
「安心して下さいお父様。私は負けません。この神聖なるエルフの森に於いては、私は無敵です。自然界に存在する森羅万象…全てが私に味方をするでしょう。」
少女は父親から黒色の槍を貰い受け、1人城の外へと向かう。
「ほぉ……、プリンセス様がお出ましか。これはこれは麗しい。」
「しかし、かの一族の能力は侮れ無い。例えプリンセス1人でも森の中では我々に不利ですぞ。」
「ふむ、ならば……」
敵軍を率いる幹部の1人が号令を掛ける。
「エルフの森を焼き払え!森も鳥も動物も草木一本残すでない。そうすれば、かの一族。エルフの一族など無力に等しい。」
ボワッ!
そしてエルフの森に火が放たれる。
幹部の男が言う。
「森の城にも火を放て!一匹たりとも城から出してはならぬ!焼き殺すのだ!」
プリンセスの少女は言う。
「おのれ…卑劣な……。」
「今日で貴様の一族も終わりだよプリンセス。人族に味方をした報いだ。死を持って償いたまえ!」
「そう……、ならばお見せしましょう。エルフの一族の真の力を―――」
そして少女は、周りを囲む数千人に及ぶ敵軍に攻撃を仕掛ける。
一族の命運を掛けた―――――
――――――――たった1人の戦い
【アルテミスの槍とエルフの少女編②】
西暦2043年4月28日
東京都千代田区の一角に建てられた内閣総理大臣の公邸。
通称―――『白銀の要塞(シルバードーム)』
核兵器が落ちてもビクともしないと言われている日本の最先端の科学技術で造られた鉄壁の要塞。
黒い霧の発生によりシルバードームの機能は完全に失われた。
正確には――
その地上部分の機能が失われた。
シルバードームには有事の時の為に、地下深くに造られた巨大な空間がある。
もはや一つの都市とも言えるこの巨大な空間には、日本国の緊急事態に備えて様々な設備が外部とは独立した形で備わっている。
自家発電により煌々と明かりが灯り、自給自足をコンセプトに造られた近代的な農園。牛や馬まで飼われている施設まである。
地底深くに隔離されたこの都市には、黒い霧の影響も及ばない。
「それにしても、凄えなこれ。いったい どうなってんだ?」
感嘆の声を上げるのは、日本国公安秘密警察官(エージェント)の一人である日賀 タケル(ひが たける)。
「エミリーもびっくりなのです!ど、ど、どうしてこんなに美味しいパフェを作れるのか!」
同じくエージェントの一人、エミリー・エヴァリーナ。
「エージェントのメンバーが4人も揃って何よりだ。なぁキング。」
キングに話し掛けるのは沖田 栄治(おきた えいじ)。
日本国公安秘密警察官―――
――――通称『エージェント』
通常の警察官では手に負えない凶悪犯罪の捜査や、表立っては動けない闇の事件の捜査。
時には日本に敵対する勢力の排除や暗殺まで行う非合法の秘密組織。
沖田 栄治(おきた えいじ)と王城 信長(おうじょう のぶなが)は共に政府によって育てられた『ラボ』の卒業生。
『原子操作』の能力を持つ信長(キング)に対して沖田の能力はサイボーグ。
白銀の要塞(シルバードーム)と同じ素材のボディーを持つ沖田は機関銃の弾丸をも弾き返す。
「しかし、沖田……。お前、黒い霧の影響は無いのか?」
科学技術の結晶である沖田が、黒い霧の中で動いているのに疑問を持つキング。
「あぁ、それなら……」
沖田の話では、富士山で黒い霧に包まれた沖田は、全身が動かなくなりその場に倒れ込んだ。
そこに事前に連絡をとっていたエージェントの仲間である遠藤 時彦(えんどう ときひこ)に発見され白銀の要塞(シルバードーム)に運ばれたと言う。
そして驚く事に現在の沖田はサイボーグでは無く生身の身体。
なんでもサイボーグになる前に沖田の身体が冷凍保存されていて、シルバードームに保管されていたらしい。
「それで元の身体に脳を移植したってか?テメェは化物かよ。」
呆れるキングに
「お前にだけは言われたくねぇよ。」
沖田も言い返す。
「それで、時彦の奴はどこに居るんだ?」
キングの質問に沖田が答える。
「時彦か……、先日までは居たんだが、逃げられた……。」
「はは、時彦らしいな。」
笑うキング。
そこに…
雑談をしているエージェントの4人の前に1人の男が現れる。
「お前…生きていたのか。」とタケル。
「おー!久し振りなのだ!」とエミリー。
その男の名は――
第百十代内閣総理大臣
北条 月影(ほうじょう つきかげ)
月影は言う。
「お前達エージェントの4人に作戦を命ずる。」
富士山へ行き黒い霧の発生源である異世界への門(ゲート)。
―――――ゲートを封鎖せよ。
【アルテミスの槍とエルフの少女編③】
静岡県にある港町にある海岸。
堤防にぶつかり崩れ掛けた巨大な木造船に2人の少女が乗り込んでいた。
中華人民共和国の女子校生。
王下八掌拳(おうかはっしょうけん)の使い手
李 羽花(リー ユイファ)
炎の化身をその身に宿す
国民的トップアイドル
夢野 可憐(ゆめの かれん)
神奈川県でのポリス『ピュアブラッド』との戦闘から逃げて来た2人は、ここまで行動を共にして来た。年齢が近い事もあり2人はすぐに仲良くなった。
「有ったわ!」
思わず声を上げるユイファ。
可憐が羽花(ユイファ)に質問をする。
「ユイファ、それは何なの?」
「うん…」
ユイファは可憐に答える。
「この船は私が中国から乗って来た船。船を降りる時は慌ててたから荷物を置いて来たけど…」
「荷物?」
「そう……、李家に伝わる伝説の武器。」
――――――『アルテミスの槍』
「王牙(おうが)と……いえ、ヴァンパイアとの戦いには、この槍(やり)が必要になる。」
「ヴァンパイア……彼等の行き先は、おそらく富士山。私も知り合いが富士山にいます。きっと黒い霧と関係がある。私も一緒に富士山に行くわ。」
「可憐……。ありがとう。」
強い決意を胸に秘め、2人の少女が歩き出す。
目指すは―――
―――――――富士山
――――――――――――――――
そして、富士山の密林で立ち往生する集団があった。
ヴァンパイア・リンクス
ヴァンパイア・キャロル
2人のリーダーとその配下にあるヴァンパイアの集団。
―――――『ピュアブラッド』
黒い霧に包まれて、力こそが正義となったこの日本で最強の戦闘集団となったポリス『ピュアブラッド』のメンバー。
彼等の目的は異世界の門を塞いでいる何者かの排除。
「おかしい……。」
リンクスは首を傾げてキャロルに言う。
「確かこの辺に神社があったはずだが、なぜ見当たらない。」
2人のリーダーのひとり、妹のキャロルも首をひねる。
「お兄様、富士山に到着してから既に2週間。これほど探しても見当たらないなんて、人為的な何かを感じます。」
キャロルの横に控える男、不知火 琢磨(しらぬい たくま)が2人に進言をする。
「これは陰陽師の仕業でしょう。」
「陰陽師?」
「ええ……。俺がヴァンパイア化する前に一度この地に赴いた事がある。ここは陰陽師の聖地。奴らは摩訶不思議な術を使う。」
不知火は話を続ける。
「特に陰陽師の棟梁である神代 麗(かみしろ れい)。彼女の実力は計り知れない。リンクス様でも敵うかどうか…。」
「口を慎みなさい!不知火!お兄様はヴァンパイア族のプリンス。人族がお兄様に勝てる訳が有りません!」
怒るキャロルをリンクスがなだめる。
「まぁ、良いではないかキャロル。強い人族はこちらとしても望む所だ。今は一人でも強い戦闘員が欲しい。俺の吸血蝙蝠(きゅうけつこうもり)の餌食にしてやろう。」
そして
ピュアブラッドが陣を構える富士山の密林に2人の男が近付いていた。
新世界ローマ教会の魔導師。
カーディナルズの隊長
ラルゴ・ハインリッヒ
暗黒魔法の使い手
エストラーダ・オリバー
「おいエストラーダ。この先にある気配……。尋常では無いぞ。」
ラルゴの言葉にエストラーダが答える。
「悪魔の………魔女か?」
「分からん。しかし十分注意しろ。」
「俺達2人がその辺の奴らに負けるかよ。」
エストラーダはそれほど気にする様子もない。
「お前のその若さが命取りになる。たまには年長者の言う事を聞くんだな。」
(もっとも…)
エストラーダに勝てる人間が居るとも思えない。ラルゴはもちろん、ウイリアムやミカエルと比べても、その実力は計り知れない。
「ラルゴ……、どうやら気付かれたみたいだ。来るぞ…。」
「仕方ない。頼りにしてるぜエストラーダ。」
そして―――
富士山中での死闘が
――――――――幕を開ける
その昔…
それは人類が産まれるよりも昔のこと
万物の創造神ガイアはオリュンポス十二神の神々に一つの命令をする。
―――――神々に変わる種族の創造
森林と純潔の豊穣神アルテミスは、自ら創り出した新しい生命体に2つの贈り物をする。
万物の自然を操る能力
万物を破壊する黒い槍
アルテミスは願う。
「私の創り出した種族が他の神々が産み出した種族に滅ぼされる事の無いように―――。」
大自然をこよなく愛したアルテミスは自ら産み出した種族にこう名付ける。
森の妖精―――
――――――――――『エルフ』と
西暦2042年3月
中華人民共和国四川省
李 羽花(リー ユイファ)は、高校に入学する前の晩に李一族の長(おさ)である父親に呼び出された。
(何の用かしら?)
ユイファは不思議に思いながらも父親の居る屋敷の奥へと向かう。
「羽花(ユイファ)よ、これを持ちなさい。」
父は部屋の奥にある大きな箱から一本の槍を持ち出して来た。
「お父様……、これは?」
父の差し出したズシリと重たい黒色の槍を見つめるユイファ。
ユイファはその槍に、この世のものとは思えない不思議な感覚を覚える。
「これは李家に伝わる伝説の槍。我が一族にしか扱う事の出来ない特別な素材で出来ておる。」
「特別な……素材?」
「そう……、特別な素材だ。ユイファ……、能力を発動してみなさい。」
「え……ここで?」
「うむ……発動すれば分かる。」
ユイファは父の言われるがままに精神を集中する。
シュウ……
シュウ……
すると羽花(ユイファ)の両耳が細長く変化を始める。
「!?」
すると、手に持つ黒い槍の意志がユイファの脳裏に流れ込んで来た。
それは遠い昔の記憶。
儚くも悲しい誰かの記憶がユイファの記憶とシンクロを始める。
(これは………)
「シュリル様!敵襲です!既に森の城は完全に包囲されています。」
シュリルと呼ばれた男は静かに頷く。
「遂に来たか……。それで敵はどこの者だ?」
「はっ……、おそらく妖精(フェアリー)族を除く全ての種族の連合軍だと思われます。」
「ふむ……」
シュリルは一度頷くと、側に置いてあった黒い槍を手に持ち、部下の戦士達に伝令をする。
「怯むでない。連合軍とは言え雑兵の集まり、私が直々に返り討ちにして来よう。」
「そんな……シュリル様自ら……。」
部下の一人が心配そうにシュリルを見つめる。
「こうなったのも私の責任。休戦協定を破った人族を擁護したのだから当然であろう。」
シュリルが森の城を出ようとした時…
「お待ちください。お父様。」
1人の少女に呼び止められる。
年齢は16〜17歳くらいのとても綺麗な顔をした少女。
少女は言う。
「お父様、私が行きましょう。」
驚くシュリル。
「何を馬鹿な事を……、お前は城の中で待っておれば良い。これは王である私の役目だ。」
しかし少女は引き下がる様子もなく、尚も父に告げる。
「お父様では勝てませぬ。」
「なんだと?」
少女は言う。
「その槍……『アルテミスの槍』の真の力を引き出せるのは、お母様が亡くなった今となっては、私だけです。私達の一族は女系の一族。お父様では無理なのです。」
「………お前…。」
「安心して下さいお父様。私は負けません。この神聖なるエルフの森に於いては、私は無敵です。自然界に存在する森羅万象…全てが私に味方をするでしょう。」
少女は父親から黒色の槍を貰い受け、1人城の外へと向かう。
「ほぉ……、プリンセス様がお出ましか。これはこれは麗しい。」
「しかし、かの一族の能力は侮れ無い。例えプリンセス1人でも森の中では我々に不利ですぞ。」
「ふむ、ならば……」
敵軍を率いる幹部の1人が号令を掛ける。
「エルフの森を焼き払え!森も鳥も動物も草木一本残すでない。そうすれば、かの一族。エルフの一族など無力に等しい。」
ボワッ!
そしてエルフの森に火が放たれる。
幹部の男が言う。
「森の城にも火を放て!一匹たりとも城から出してはならぬ!焼き殺すのだ!」
プリンセスの少女は言う。
「おのれ…卑劣な……。」
「今日で貴様の一族も終わりだよプリンセス。人族に味方をした報いだ。死を持って償いたまえ!」
「そう……、ならばお見せしましょう。エルフの一族の真の力を―――」
そして少女は、周りを囲む数千人に及ぶ敵軍に攻撃を仕掛ける。
一族の命運を掛けた―――――
――――――――たった1人の戦い
【アルテミスの槍とエルフの少女編②】
西暦2043年4月28日
東京都千代田区の一角に建てられた内閣総理大臣の公邸。
通称―――『白銀の要塞(シルバードーム)』
核兵器が落ちてもビクともしないと言われている日本の最先端の科学技術で造られた鉄壁の要塞。
黒い霧の発生によりシルバードームの機能は完全に失われた。
正確には――
その地上部分の機能が失われた。
シルバードームには有事の時の為に、地下深くに造られた巨大な空間がある。
もはや一つの都市とも言えるこの巨大な空間には、日本国の緊急事態に備えて様々な設備が外部とは独立した形で備わっている。
自家発電により煌々と明かりが灯り、自給自足をコンセプトに造られた近代的な農園。牛や馬まで飼われている施設まである。
地底深くに隔離されたこの都市には、黒い霧の影響も及ばない。
「それにしても、凄えなこれ。いったい どうなってんだ?」
感嘆の声を上げるのは、日本国公安秘密警察官(エージェント)の一人である日賀 タケル(ひが たける)。
「エミリーもびっくりなのです!ど、ど、どうしてこんなに美味しいパフェを作れるのか!」
同じくエージェントの一人、エミリー・エヴァリーナ。
「エージェントのメンバーが4人も揃って何よりだ。なぁキング。」
キングに話し掛けるのは沖田 栄治(おきた えいじ)。
日本国公安秘密警察官―――
――――通称『エージェント』
通常の警察官では手に負えない凶悪犯罪の捜査や、表立っては動けない闇の事件の捜査。
時には日本に敵対する勢力の排除や暗殺まで行う非合法の秘密組織。
沖田 栄治(おきた えいじ)と王城 信長(おうじょう のぶなが)は共に政府によって育てられた『ラボ』の卒業生。
『原子操作』の能力を持つ信長(キング)に対して沖田の能力はサイボーグ。
白銀の要塞(シルバードーム)と同じ素材のボディーを持つ沖田は機関銃の弾丸をも弾き返す。
「しかし、沖田……。お前、黒い霧の影響は無いのか?」
科学技術の結晶である沖田が、黒い霧の中で動いているのに疑問を持つキング。
「あぁ、それなら……」
沖田の話では、富士山で黒い霧に包まれた沖田は、全身が動かなくなりその場に倒れ込んだ。
そこに事前に連絡をとっていたエージェントの仲間である遠藤 時彦(えんどう ときひこ)に発見され白銀の要塞(シルバードーム)に運ばれたと言う。
そして驚く事に現在の沖田はサイボーグでは無く生身の身体。
なんでもサイボーグになる前に沖田の身体が冷凍保存されていて、シルバードームに保管されていたらしい。
「それで元の身体に脳を移植したってか?テメェは化物かよ。」
呆れるキングに
「お前にだけは言われたくねぇよ。」
沖田も言い返す。
「それで、時彦の奴はどこに居るんだ?」
キングの質問に沖田が答える。
「時彦か……、先日までは居たんだが、逃げられた……。」
「はは、時彦らしいな。」
笑うキング。
そこに…
雑談をしているエージェントの4人の前に1人の男が現れる。
「お前…生きていたのか。」とタケル。
「おー!久し振りなのだ!」とエミリー。
その男の名は――
第百十代内閣総理大臣
北条 月影(ほうじょう つきかげ)
月影は言う。
「お前達エージェントの4人に作戦を命ずる。」
富士山へ行き黒い霧の発生源である異世界への門(ゲート)。
―――――ゲートを封鎖せよ。
【アルテミスの槍とエルフの少女編③】
静岡県にある港町にある海岸。
堤防にぶつかり崩れ掛けた巨大な木造船に2人の少女が乗り込んでいた。
中華人民共和国の女子校生。
王下八掌拳(おうかはっしょうけん)の使い手
李 羽花(リー ユイファ)
炎の化身をその身に宿す
国民的トップアイドル
夢野 可憐(ゆめの かれん)
神奈川県でのポリス『ピュアブラッド』との戦闘から逃げて来た2人は、ここまで行動を共にして来た。年齢が近い事もあり2人はすぐに仲良くなった。
「有ったわ!」
思わず声を上げるユイファ。
可憐が羽花(ユイファ)に質問をする。
「ユイファ、それは何なの?」
「うん…」
ユイファは可憐に答える。
「この船は私が中国から乗って来た船。船を降りる時は慌ててたから荷物を置いて来たけど…」
「荷物?」
「そう……、李家に伝わる伝説の武器。」
――――――『アルテミスの槍』
「王牙(おうが)と……いえ、ヴァンパイアとの戦いには、この槍(やり)が必要になる。」
「ヴァンパイア……彼等の行き先は、おそらく富士山。私も知り合いが富士山にいます。きっと黒い霧と関係がある。私も一緒に富士山に行くわ。」
「可憐……。ありがとう。」
強い決意を胸に秘め、2人の少女が歩き出す。
目指すは―――
―――――――富士山
――――――――――――――――
そして、富士山の密林で立ち往生する集団があった。
ヴァンパイア・リンクス
ヴァンパイア・キャロル
2人のリーダーとその配下にあるヴァンパイアの集団。
―――――『ピュアブラッド』
黒い霧に包まれて、力こそが正義となったこの日本で最強の戦闘集団となったポリス『ピュアブラッド』のメンバー。
彼等の目的は異世界の門を塞いでいる何者かの排除。
「おかしい……。」
リンクスは首を傾げてキャロルに言う。
「確かこの辺に神社があったはずだが、なぜ見当たらない。」
2人のリーダーのひとり、妹のキャロルも首をひねる。
「お兄様、富士山に到着してから既に2週間。これほど探しても見当たらないなんて、人為的な何かを感じます。」
キャロルの横に控える男、不知火 琢磨(しらぬい たくま)が2人に進言をする。
「これは陰陽師の仕業でしょう。」
「陰陽師?」
「ええ……。俺がヴァンパイア化する前に一度この地に赴いた事がある。ここは陰陽師の聖地。奴らは摩訶不思議な術を使う。」
不知火は話を続ける。
「特に陰陽師の棟梁である神代 麗(かみしろ れい)。彼女の実力は計り知れない。リンクス様でも敵うかどうか…。」
「口を慎みなさい!不知火!お兄様はヴァンパイア族のプリンス。人族がお兄様に勝てる訳が有りません!」
怒るキャロルをリンクスがなだめる。
「まぁ、良いではないかキャロル。強い人族はこちらとしても望む所だ。今は一人でも強い戦闘員が欲しい。俺の吸血蝙蝠(きゅうけつこうもり)の餌食にしてやろう。」
そして
ピュアブラッドが陣を構える富士山の密林に2人の男が近付いていた。
新世界ローマ教会の魔導師。
カーディナルズの隊長
ラルゴ・ハインリッヒ
暗黒魔法の使い手
エストラーダ・オリバー
「おいエストラーダ。この先にある気配……。尋常では無いぞ。」
ラルゴの言葉にエストラーダが答える。
「悪魔の………魔女か?」
「分からん。しかし十分注意しろ。」
「俺達2人がその辺の奴らに負けるかよ。」
エストラーダはそれほど気にする様子もない。
「お前のその若さが命取りになる。たまには年長者の言う事を聞くんだな。」
(もっとも…)
エストラーダに勝てる人間が居るとも思えない。ラルゴはもちろん、ウイリアムやミカエルと比べても、その実力は計り知れない。
「ラルゴ……、どうやら気付かれたみたいだ。来るぞ…。」
「仕方ない。頼りにしてるぜエストラーダ。」
そして―――
富士山中での死闘が
――――――――幕を開ける