【地球最後の告白を(前編)】

あの頃の僕は、とても子供で正義のヒーローなんかに憧れていた。

一端の正義感で小悪党を見つけては正義の鉄槌と称し喧嘩に明け暮れた。

幼馴染みの香保里は、そんな僕をいつも気にして心配そうに見つめていた。

タケシの父親はノーベル賞候補にもなるような世界でも有名な科学者で、タケシに掛けられた期待は想像を絶するものがあった。

それでも、子供の頃は成績も優秀で期待に応えようと努力をした。

しかし偉大な父親の血はそれほど受け継がれ無かったのか、中学に入る頃には成績はグングン下がり、タケシは現実を逃避して夢ばかり追い掛けるようになる。



高校三年生になった僕は、相も変わらず夢見がちな事を語っていたが周りの友達は受験勉強なんかで忙しく、いつの間にか僕は孤独を感じるようになる。

ある日、僕と香保里は学校帰りの公園で将来の事なんかを語っていた。

「タケシくん。ちゃんと勉強してる?もう三年生なんだから、勉強しなきゃダメだよ。」

僕は面倒くさくなり適当に応える。
「大丈夫だって、人生なんて何とでもなるって!」

そんなやり取りを繰り返しているうちに、公園の電波放送から夕方を知らせる音楽が聴こえて来た。

今や世界中の都市へ自家用飛空艇でどこにでも行ける世の中にあって、この音楽は変わらないんだな。

そんな事を考えながら「夕焼けこやけ」の心地よい音楽を聴いていた。

おそらく僕は、誰にも打ち明けられない孤独を共有してくれる人が欲しかった。

そして、その相手は1人しかいない事も分かっている。

香保里は幼馴染みの僕から見ても贔屓目なしに可愛い。

今までに告白された事は何度となくあると聞いている。

香保里は異性への興味が無いのか、全ての告白を断り、いつも女友達と遊んでいた。

「お前さぁ、付き合ったりしないの?」

「この前も告白されてたろ?ほら、3組の…、結構イケメンの。」

唐突に切り出した僕の質問に香保里は大きな目をパチクリさせて答える。
「だって私達もう受験生じゃない。付き合ってる暇なんて無いでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど。」

「それに……」

そう言い掛けて香保里はニコリと微笑む。

「タケシくん、そろそろ帰ろっか。」

夕焼けを背にした香保里はどこまでも美しく、僕の心に残り続けた。









【地球最後の告白を(後編)】

大学受験を迎えたその日の朝は暗雲が立ち込めていて、僕をとても不安な気持ちにさせた。

それは昨夜見たニュースのせいかも知れない。
21世紀に入り急速な成長を遂げた隣国が同じく近隣諸国との国境を越えて戦争を開始したとの忌々しいニュースだ。

世界の超大国となったかの国に、勝てる見込みは無いだろう。
一世紀以上も前の世界大戦によって築かれた世界秩序は既に崩壊している。

日本はどうだろう?

先日の国民投票により、長年の懸案であった憲法が改正され軍隊を保有出来るようになった。

超大国となった隣国も経済で深い繋がりのある日本と戦争をしてもメリットは無い。

そんな事を考えていると、ポンと肩を叩かれる。

「おはよう、タケシくん。浮かない顔をしてどうしたの?自信ないの?」
香保里はいつもの屈託のない顔で僕の顔を覗き込む。

「いや……」
僕は少し照れて

「そうだ!受験が終わったら2人で遊びに行かないか?」

「え?どうしたの急に?」

「うん、海…、そうだ海を見に行こう!昨年の夏は海水浴にも行って無いだろ?」

香保里はクスリと笑い
「そうね、タケシくんと海に行ってみたいな…、でも寒くて泳げないわね。」

そんな約束を交わした僕達は人生最大の試練に挑む。

高校三年生にとっての大学受験は、いつの時代もはた迷惑なほどに重大な出来事で、それだけで人生が決まるような錯覚にとらわれる。

そして午前中の試験が終わるチャイムが鳴った。

窓の外から見た空は、やはりどんよりと曇っていて、僕の気持ちを一層暗くさせた。

「!!!?」

急に…

急に、天空が明るくなった。

それはとても鮮やかな光景で僕はつい見惚れてしまう。

そして次に、あの日見た夕焼けを想い出した。

夕焼けこやけを口ずさむ香保里の歌声が聴こえたような気がした。

その日、世界は核の炎に包まれ、地球上を埋め尽くしていた人類は滅亡する。

________




あれから何百年の時が過ぎただろうか?

科学者である父はノーベル賞こそ取れなかったが、おそらく人類最高の科学者だった。

それが良い事なのか、悪い事なのか

今の僕にはどうでも良い事だ。

何も無い地平線に沈む夕日は、あの頃の僕を今でも思い出させる。

好きだ。

何百年遅れの告白を僕はそっと呟いた。






地球最後の告白を













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(上)夢野 可憐(ゆめの かれん)

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(下)マリー・ステイシア

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