【カーディナルズ編①】
黒い霧
その霧に包まれると
電気も、電波も、銃火器すらも使えなくなると言う。
誰がこのような黒い霧を発生させたのかは知らないが……
「なんと都合の良い事か……」
かつて魔法使いは、その魔法により多くの人々に尊敬され、高い地位を得ていた。
それが産業革命に始まる科学の発達により、その存在が忌み嫌われるようになる。
魔法を使えなくても、人類が開発した兵器があれば戦争をする事も出来る。
むしろ魔法使いは、魔法を使えない多くの人々にとっては邪魔な存在となって行く。
流石に17世紀のヨーロッパで起きた魔女狩りのような出来事は起こらないだろうが、今や魔法使いは世界に不必要な存在と成りつつある。
しかし、あの黒い霧が世界中に広がれば、我々魔法使いにとっては好都合と言わざるを得ない。
新世界ローマ教会の魔法使い、『カーディナルズ』のひとりエストラーダは夜空に輝く満月を見て呟いた。
「これからは魔法の時代が到来する。」
そこにエストラーダに声を掛ける男。
同じく新世界ローマ教会に所属する魔法使いラルゴ。
「エストラーダよ。どうやら そう上手くは行きそうにないな。」
「ラルゴか……、どう言う事だ?」
「ふむ」
ラルゴはひと呼吸置いてエストラーダに答える。
「先程、ローマ法王から連絡が入った。今すぐ日本へ飛び日本で発生している黒い霧の正体を掴めとな。」
「………なんだと?」
「近代兵器が使えないのだから当然だろう。法廷騎士団所属の魔法使い、その頂点に立つ俺達5人への指令だ。」
「ローマ法王はいったい何を…」
「簡単な事だ。アメリカや新世界国家連合よりも早く黒い霧の正体を解明し、あわよくば日本を支配するつもりだろう。そして……」
「………そして?」
「ローマ法王は、黒い霧の正体に概ね見当を付けているようだ。」
「なに!それは本当か?」
「よく考えたら分かる事だ。黒い霧など現代科学では造り出せない超常現象。あんな霧を造り出せる人物。そして、黒い霧によって一番都合の良い人物は誰か。」
「……都合の良い人物?」
「まだ分からないかエストラーダよ。何百年もの間、音沙汰の無かった人物が昨年日本で発見されただろ?そして今年に入り日本で黒い霧が発生した。これが偶然だと思うのか?」
「…………まさか」
「そう。そのまさかだ。おそらく黒い霧を発生させているのは……。」
――――――悪魔の魔女だ
【カーディナルズ編②】
新世界ローマ教会に語り継がれている史実に基づいた悲劇がある。
17世紀のイタリアには多くの魔女が存在していた。魔女は人々をたぶらかし多くの災いをもたらした。
時の権力者であるローマ法王は魔女を制圧する為に法廷騎士団を結成する。
何万人もの騎士団が魔女との戦いに挑む事になる。
これが歴史に残る魔女戦争。
魔女の力は凄まじく、その魔法により多くの騎士団の兵士達が苦しめられた。
その中でも、特に強力な魔法を使う2人の魔女の母娘が居た。
魔女戦争末期に起きた最終決戦
―――――サンシェーロ城の戦い
別名「魔女の城」と言われるこの城に、何万人もの法廷騎士団が侵攻し、その殆どが命を落とした。
2人の魔女が放つ魔法は、天地を揺るがす程 強力なものだったと記録に残っている。
ローマ教会は2人の魔女の事を恐れ恐怖の対象として「悪魔の魔女」と名付けた。
法廷騎士団の兵士達が、どんなに死力を尽くしても悪魔の魔女を倒す事が出来ない。
そこでローマ教会が取った秘策こそ「空間断絶魔法」。
2人の魔女を城ごと異空間に閉じ込める事に成功したローマ教会。
多くの犠牲者を出したローマ教会にようやく平和が訪れた。
そして300年の時が経つ。
エストラーダはラルゴの言葉に妙に納得する。
「確かに……、確かに悪魔の魔女なら黒い霧を造り出せるかもしれない。」
「何せ300年もの間、姿形(すがたかたち)を変えずに生きている化物だ。」
ラルゴは言う。
「分かっただろう。悪魔の魔女は黒い霧を利用して世界を支配するつもりだ。そして、奴の目的には当然、ローマ教会…、法廷騎士団への復讐が含まれている。」
エストラーダはようやく理解する。
「どのみち俺達は日本へ行って悪魔の魔女を倒さねばならないと言う事か。」
「さぁ、急ぐぞエストラーダ。ローマ教会の、そして世界の平和の為だ。」
【カーディナルズ編③】
イタリア ローマ
新世界ローマ教会の本部がある大聖堂の一室で2人の男が密談を躱していた。
1人は新世界ローマ教会のトップ、ベネディクト・シーザー三世・ローマ法王。
ローマ法王に話し掛けるのは『カーディナルズ』のひとりアリエス・マイヤード。
青髪の若いアリエスはローマ法王に
「どう言う事だい?シーザーちゃん。俺達カーディナルズを集合させるなんて。」
にこやかに話し掛ける。
ローマ法王は少し眉間にシワを寄せて答える。
「シーザーちゃんは止めたまえアリエス。仮にも新世界ローマ教会のトップであるぞ。」
アリエスは特に気にする様子もなく質問を繰り返す。
「それで、この俺っちを呼び出したのは何故なんだい?下らない用件じゃあ無いよね?」
(うむ……、アリエスの実力は申し分ないが、この性格には難があるな。)
ローマ法王は目の前にあるモニターのスイッチを押す。
「まずはこれを見たまえ。」
「ん?」
モニターには2人の少年と少女が戦闘を行っている様子が映し出された。
昨年末に世界中に現れた「黒い化物」。
原因不明の化物は、昨年クリスマスに起きたある出来事を堺に忽然と姿を消した。
日本の国会議事堂前で起きた内閣総理大臣襲撃テロ。全世界へ生放送されたその襲撃テロ事件の中で、ひときわ異彩を放っていた戦闘があった。
若い少年と少女が繰り広げた戦い。
それは明らかに――――
―――――――――魔法での戦闘
アリエスはモニターを見た後にローマ法王に話を切り出す。
「これがどうしたんだ?こんな映像は何度も見た。連日テレビで放映されていたからね。」
ローマ法王はアリエスに言う。
「少年の方は我々ローマ教会の魔法使いだ。そして、相手の少女は…………」
――――――悪魔の魔女
ぴくりとアリエスが反応する。
ローマ教会に所属している人間にとって、悪魔の魔女を知らない者は居ない。
ローマ法王は話を続ける。
「アリエス……、いや君達カーディナルズは、悪魔の魔女に勝てると思うか?それが、君に映像を見せた理由だ。」
「対戦している少年は、我々ローマ教会が密かに育て上げた魔導の結晶。その少年ですら悪魔の魔女には敵わなかった……。」
「魔導の結晶?」
アリエスはローマ法王の話の途中で口を挟む。
「シーザーちゃん、困るなぁ。俺っちに内緒で、あんな魔法使いを育てるなんて。」
「あんまり勝手な真似をすると……」
――――その首、撥ねるよ?
アリエスの異様な目つきにゴクリと唾を飲むローマ法王。
「まぁ、いいや。それで俺達カーディナルズを集めて悪魔の魔女を倒すって寸法だね。」
アリエスは再びにこやかな表情をしてローマ法王に話し掛ける。
「確かに………、この映像に映っている悪魔の魔女の魔力は相当なものだ……。」
ローマ法王は黙ってアリエスの言葉に耳を傾ける。
「しかし」
アリエスは話を続ける。
「俺達カーディナルズが5人揃えば、まず負けないだろうね。悪魔の魔女――是非とも対戦したいものだ。」
「そ……そうか。」
ほっとするローマ法王。
「それに……」
「それに?」
「悪魔の魔女に殺されるウイリアムを見るのも楽しそうじゃないか。白の魔導師(ホワイトマジシャン)の綺麗な顔が苦痛で歪む所を是非とも見てみたいなぁ……。」
楽しそうな笑みを浮かべるアリエス。
(こいつは面白くなって来やがった。5人の中で誰が最強か教えてやろう。)
「…………アリエス…」
ローマ法王は狂気の笑みを浮かべるアリエスの顔を見てゾッとする。
翌日
西暦2043年3月17日
新世界ローマ教会
法廷騎士団に所属する最高位の5人の魔導師達が教会専用の空港に集まっていた。
エストラーダは言う。
「5人が揃うなんて久し振りだな。」
「エストラーダ、お前がどれだけ強くなったのか楽しみだ。」とミカエル。
「相手はあの悪魔の魔女……、今回の任務は油断出来ませんね。」
ウイリアムは綺麗な金髪をそっと指でかき上げる。
「皆さんの活躍期待してますよ。」
アリエスは不敵な笑みを見せる。
一番年長でリーダー格のラルゴが四人に向けて言う。
「目的は黒い霧の正体……、悪魔の魔女の抹殺だ。俺達にローマ教会と世界の未来がかかっている。気合入れて行くぞ!」
5人の魔導師達
―――――カーディナルズが
―――――――――――始動する

カーディナルズ
エストラーダ・オリバー(中央)
ウイリアム・ロビンソン(左上)
アリエス・マイヤード(右上)
ミカエル・K・フォース(左下)
ラルゴ・ハインリッヒ(右下)
イラスト提供 フリー素材サイトより
黒い霧
その霧に包まれると
電気も、電波も、銃火器すらも使えなくなると言う。
誰がこのような黒い霧を発生させたのかは知らないが……
「なんと都合の良い事か……」
かつて魔法使いは、その魔法により多くの人々に尊敬され、高い地位を得ていた。
それが産業革命に始まる科学の発達により、その存在が忌み嫌われるようになる。
魔法を使えなくても、人類が開発した兵器があれば戦争をする事も出来る。
むしろ魔法使いは、魔法を使えない多くの人々にとっては邪魔な存在となって行く。
流石に17世紀のヨーロッパで起きた魔女狩りのような出来事は起こらないだろうが、今や魔法使いは世界に不必要な存在と成りつつある。
しかし、あの黒い霧が世界中に広がれば、我々魔法使いにとっては好都合と言わざるを得ない。
新世界ローマ教会の魔法使い、『カーディナルズ』のひとりエストラーダは夜空に輝く満月を見て呟いた。
「これからは魔法の時代が到来する。」
そこにエストラーダに声を掛ける男。
同じく新世界ローマ教会に所属する魔法使いラルゴ。
「エストラーダよ。どうやら そう上手くは行きそうにないな。」
「ラルゴか……、どう言う事だ?」
「ふむ」
ラルゴはひと呼吸置いてエストラーダに答える。
「先程、ローマ法王から連絡が入った。今すぐ日本へ飛び日本で発生している黒い霧の正体を掴めとな。」
「………なんだと?」
「近代兵器が使えないのだから当然だろう。法廷騎士団所属の魔法使い、その頂点に立つ俺達5人への指令だ。」
「ローマ法王はいったい何を…」
「簡単な事だ。アメリカや新世界国家連合よりも早く黒い霧の正体を解明し、あわよくば日本を支配するつもりだろう。そして……」
「………そして?」
「ローマ法王は、黒い霧の正体に概ね見当を付けているようだ。」
「なに!それは本当か?」
「よく考えたら分かる事だ。黒い霧など現代科学では造り出せない超常現象。あんな霧を造り出せる人物。そして、黒い霧によって一番都合の良い人物は誰か。」
「……都合の良い人物?」
「まだ分からないかエストラーダよ。何百年もの間、音沙汰の無かった人物が昨年日本で発見されただろ?そして今年に入り日本で黒い霧が発生した。これが偶然だと思うのか?」
「…………まさか」
「そう。そのまさかだ。おそらく黒い霧を発生させているのは……。」
――――――悪魔の魔女だ
【カーディナルズ編②】
新世界ローマ教会に語り継がれている史実に基づいた悲劇がある。
17世紀のイタリアには多くの魔女が存在していた。魔女は人々をたぶらかし多くの災いをもたらした。
時の権力者であるローマ法王は魔女を制圧する為に法廷騎士団を結成する。
何万人もの騎士団が魔女との戦いに挑む事になる。
これが歴史に残る魔女戦争。
魔女の力は凄まじく、その魔法により多くの騎士団の兵士達が苦しめられた。
その中でも、特に強力な魔法を使う2人の魔女の母娘が居た。
魔女戦争末期に起きた最終決戦
―――――サンシェーロ城の戦い
別名「魔女の城」と言われるこの城に、何万人もの法廷騎士団が侵攻し、その殆どが命を落とした。
2人の魔女が放つ魔法は、天地を揺るがす程 強力なものだったと記録に残っている。
ローマ教会は2人の魔女の事を恐れ恐怖の対象として「悪魔の魔女」と名付けた。
法廷騎士団の兵士達が、どんなに死力を尽くしても悪魔の魔女を倒す事が出来ない。
そこでローマ教会が取った秘策こそ「空間断絶魔法」。
2人の魔女を城ごと異空間に閉じ込める事に成功したローマ教会。
多くの犠牲者を出したローマ教会にようやく平和が訪れた。
そして300年の時が経つ。
エストラーダはラルゴの言葉に妙に納得する。
「確かに……、確かに悪魔の魔女なら黒い霧を造り出せるかもしれない。」
「何せ300年もの間、姿形(すがたかたち)を変えずに生きている化物だ。」
ラルゴは言う。
「分かっただろう。悪魔の魔女は黒い霧を利用して世界を支配するつもりだ。そして、奴の目的には当然、ローマ教会…、法廷騎士団への復讐が含まれている。」
エストラーダはようやく理解する。
「どのみち俺達は日本へ行って悪魔の魔女を倒さねばならないと言う事か。」
「さぁ、急ぐぞエストラーダ。ローマ教会の、そして世界の平和の為だ。」
【カーディナルズ編③】
イタリア ローマ
新世界ローマ教会の本部がある大聖堂の一室で2人の男が密談を躱していた。
1人は新世界ローマ教会のトップ、ベネディクト・シーザー三世・ローマ法王。
ローマ法王に話し掛けるのは『カーディナルズ』のひとりアリエス・マイヤード。
青髪の若いアリエスはローマ法王に
「どう言う事だい?シーザーちゃん。俺達カーディナルズを集合させるなんて。」
にこやかに話し掛ける。
ローマ法王は少し眉間にシワを寄せて答える。
「シーザーちゃんは止めたまえアリエス。仮にも新世界ローマ教会のトップであるぞ。」
アリエスは特に気にする様子もなく質問を繰り返す。
「それで、この俺っちを呼び出したのは何故なんだい?下らない用件じゃあ無いよね?」
(うむ……、アリエスの実力は申し分ないが、この性格には難があるな。)
ローマ法王は目の前にあるモニターのスイッチを押す。
「まずはこれを見たまえ。」
「ん?」
モニターには2人の少年と少女が戦闘を行っている様子が映し出された。
昨年末に世界中に現れた「黒い化物」。
原因不明の化物は、昨年クリスマスに起きたある出来事を堺に忽然と姿を消した。
日本の国会議事堂前で起きた内閣総理大臣襲撃テロ。全世界へ生放送されたその襲撃テロ事件の中で、ひときわ異彩を放っていた戦闘があった。
若い少年と少女が繰り広げた戦い。
それは明らかに――――
―――――――――魔法での戦闘
アリエスはモニターを見た後にローマ法王に話を切り出す。
「これがどうしたんだ?こんな映像は何度も見た。連日テレビで放映されていたからね。」
ローマ法王はアリエスに言う。
「少年の方は我々ローマ教会の魔法使いだ。そして、相手の少女は…………」
――――――悪魔の魔女
ぴくりとアリエスが反応する。
ローマ教会に所属している人間にとって、悪魔の魔女を知らない者は居ない。
ローマ法王は話を続ける。
「アリエス……、いや君達カーディナルズは、悪魔の魔女に勝てると思うか?それが、君に映像を見せた理由だ。」
「対戦している少年は、我々ローマ教会が密かに育て上げた魔導の結晶。その少年ですら悪魔の魔女には敵わなかった……。」
「魔導の結晶?」
アリエスはローマ法王の話の途中で口を挟む。
「シーザーちゃん、困るなぁ。俺っちに内緒で、あんな魔法使いを育てるなんて。」
「あんまり勝手な真似をすると……」
――――その首、撥ねるよ?
アリエスの異様な目つきにゴクリと唾を飲むローマ法王。
「まぁ、いいや。それで俺達カーディナルズを集めて悪魔の魔女を倒すって寸法だね。」
アリエスは再びにこやかな表情をしてローマ法王に話し掛ける。
「確かに………、この映像に映っている悪魔の魔女の魔力は相当なものだ……。」
ローマ法王は黙ってアリエスの言葉に耳を傾ける。
「しかし」
アリエスは話を続ける。
「俺達カーディナルズが5人揃えば、まず負けないだろうね。悪魔の魔女――是非とも対戦したいものだ。」
「そ……そうか。」
ほっとするローマ法王。
「それに……」
「それに?」
「悪魔の魔女に殺されるウイリアムを見るのも楽しそうじゃないか。白の魔導師(ホワイトマジシャン)の綺麗な顔が苦痛で歪む所を是非とも見てみたいなぁ……。」
楽しそうな笑みを浮かべるアリエス。
(こいつは面白くなって来やがった。5人の中で誰が最強か教えてやろう。)
「…………アリエス…」
ローマ法王は狂気の笑みを浮かべるアリエスの顔を見てゾッとする。
翌日
西暦2043年3月17日
新世界ローマ教会
法廷騎士団に所属する最高位の5人の魔導師達が教会専用の空港に集まっていた。
エストラーダは言う。
「5人が揃うなんて久し振りだな。」
「エストラーダ、お前がどれだけ強くなったのか楽しみだ。」とミカエル。
「相手はあの悪魔の魔女……、今回の任務は油断出来ませんね。」
ウイリアムは綺麗な金髪をそっと指でかき上げる。
「皆さんの活躍期待してますよ。」
アリエスは不敵な笑みを見せる。
一番年長でリーダー格のラルゴが四人に向けて言う。
「目的は黒い霧の正体……、悪魔の魔女の抹殺だ。俺達にローマ教会と世界の未来がかかっている。気合入れて行くぞ!」
5人の魔導師達
―――――カーディナルズが
―――――――――――始動する

カーディナルズ
エストラーダ・オリバー(中央)
ウイリアム・ロビンソン(左上)
アリエス・マイヤード(右上)
ミカエル・K・フォース(左下)
ラルゴ・ハインリッヒ(右下)
イラスト提供 フリー素材サイトより