【パンドラの箱編①】
これは はるか昔のお話
人類がまだ産まれたての頃
神々は平和に暮らしておりました。
神々のひとりプロメテウスは人類の幸せを願い聖なる炎を人界に届けました。
それを聞いたゼウスは激怒します。
聖なる炎は人間では扱いきれぬ。
人間は炎で武器を造り争いを始め多くの災いをもたらすであろう。
プロメテウスは反論します。
人類はそれほど愚かでは無いでしょう。
炎は人類に多くの技術をもたらします。
神々の世界に最も近づく事が出来るのは人間に違いありません。
ゼウスは答えます。
ならば試してみよう。
ゼウスは人界に1人の女性を遣わしました。
名をパンドーラと言います。
それはとても美しい女性でありました。
ゼウスはパンドーラに箱を託します。
人類が神にも匹敵する存在に成りうるのであれば、どんな困難も乗り越えやがて神々の世界に到達するであろう。
決して開けてはならない箱
―――――パンドラの箱
パンドーラは何とも言えぬ箱の魅力に負けて、或いはゼウスの思惑を知っていたのか、ついに禁断の箱を開けてしまいました。
箱には、この世に存在する全ての災いが詰まっております。疫病、悲嘆、欠乏、犯罪などあらゆる厄災が箱から飛び出しました。
そう……
パンドラの箱がもたらすものは、あらゆる厄災。
オリュンポス十二神のひとりヘーラーはゼウスに訪ねます。
ゼウス……、なぜ貴方は人類に厄災を贈ったのでしょう。
ゼウスはヘーラーに答える。
今のまま人類が我々神々に頼っているようでは、人類の発展は望めないであろう。私は試したのだ。
……試す?
もし人類が私の造った箱の力を乗り越え、自ら困難を打ち破る事が出来れば、もう人類には我々の力は必要無い。我々は安心して天界で暮す事が出来る。
ゼウス……貴方も人が悪いわね。貴方の造った箱の力に逆らう事が出来る人間など、何千年経っても現れ無いでしょう。
【パンドラの箱編②】
人の心を惑わす偽物の箱は―――
―――――この世から無くなりなさい。
ピキィーン……
可憐の言葉が
可憐の想いが
パンドラの箱に亀裂を産み出す。
シュウ………
その隙間から溢れだす人々の願い。
シュウ………
同時にエルピスの額に亀裂が産まれ黒色に光る粒子が漏れ出した。
「バカな…………」
エルピスは信じられないと言う顔で可憐を見る。
「貴様……、なぜ………」
「なぜパンドラの箱の誘惑に逆らえるのだ!」
「人間の分際で!」
どこまでも美しく
どこまでも優しいエルピスの顔が
悪魔の形相に一変する。
「もうすぐなのだ!」
「もうすぐ私は神になれる!」
「邪魔をするな!!」
エルピスの右手がドス黒いオーラに包まれて、可憐を目掛けて振り下ろす!
「玄武!」
麗は先程発動させた武神「玄武」に命令する。
「夢野さんを守りなさい!」
四神最強の防御力を誇る玄武がエルピスの一撃を跳ね返す。
「ぐっ!」
後ろに跳ね飛ばされるエルピス。
「くっ!貴様!言ったはずだ。私を倒す事は出来ない。私を傷付ければ、死ぬのは術を放った貴様の方だと!」
麗は言う。
「大丈夫です。夢野さんが教えてくれました。私はもうパンドラの箱(あなた)には惑わされない。」
ピキ………
ピキピキ…………
パンドラの箱の亀裂は更に広がり
シュウ……
パンドラの箱から次々と人々の願いが溢れ出す。
エルピスは笑う。
「ふふふ」
「人間に何が出来る!」
「私(パンドラの箱)は死なない!」
「パンドラの箱(私)が壊れる前に可憐(その女)を殺すだけだ!!」
エルピスの叫びに呼応するかのように、パンドラの箱が光り輝き、どす黒いオーラがエルピスに注ぎ込む。
麗は緋炎剣(ひえんのつるぎ)を構え再び立ち上がる。
(……これが、人々の負のオーラの力。私の力だけで抑える事が出来るでしょうか……。)
長い年月の間に蓄えられた
人間の憎しみ、悲しみ、欲望、嫉妬、あらゆる願いがエルピスに力を与える。
【パンドラの箱編③】
ふわり……
その願いの一つ
パンドラの箱から漏れ出した一つの願いが、ふわふわと空を舞い上がり1人の少女の上空でピタリと止まった。
『……エミリー』
「……」
『私の可愛いエミリー………』
「……マ…ン…マ?」
その少女エミリーは、懐かしい声に思わず空を見上げる。
うっすらと光る上空に、エミリーは確かにファミリアの面影を見る。
「マンマ!マンマなのね!!」
『エミリー、よく聞きなさい。私は間違えていました。あなたを生かす為にあなたを何百年もの間、あの城に閉じ込めてしまった。孤独な辛い日々だったでしょう。どうか母をお許し下さい。』
「ううん、大丈夫よ。私は今は1人じゃないもの。タケルに、麗ちゃんに、学校の友達も出来たわ!」
『あぁ、エミリー、強くなったのね。』
「マンマ、生き返ったのですか!」
『いいえエミリー。私はパンドラの箱に取り込まれて居たのです。そして、また私はエルピスに取り込まれようとしています。そろそろ限界のようです。』
「エルピス?」
エミリーはどす黒いオーラに包まれた男を見る。
「あの男を……、殺せば良いのね。」
―――――――――――――
シュウ………………
シュウ…………………………
パンドラの箱の亀裂はどんどん大きくなり、溢れる人々の願いが、可憐に痛いほど伝わって来る。
(ごめんなさい…………)
(長い間、辛かったでしょう。)
(苦しかったでしょう………。)
可憐は言う。
パンドラの箱に込められた全ての人間の願いに応えるように。
「さぁ、もう終わりです。」
「パンドラの箱よ。」
人々の願いを―――――
エルピスが叫ぶ!
「させるかぁあぁぁぁ!!」
エルピスの全身が巨大な黒いオーラの塊となり可憐に覆いかぶさる。
これほどの力……武神「玄武」を持ってしても、抑えきれるかどうか。
(私が殺るしか無い!)
「全ての力をこの剣(つるぎ)に!」
麗は緋炎剣(ひえんのつるぎ)を振り上げ、持てる力の全てをその剣に注ぎ込む。
ピカッ―――――
鮮やかな緋炎色に輝く剣
神代一族(かみしろのいちぞく)の正統なる後継者。麗の血に眠る安倍晴明の力が緋炎剣(ひえんのつるぎ)に宿る。
「これで決める!!」
と、その時
麗が最後の一太刀を振り下ろそうとした時、麗の後ろからエミリーの声が高々と鳴り響く!
「雷神の雷(トゥオーノ)まーっくす!!」
ビカビカビカッ!!!
天をも揺るがす巨大な雷神の雷が――
麗の振り上げた緋炎剣(ひえんのつるぎ)の刃に吸い寄せられ、偶然にも避雷針代わりとなった緋炎剣(ひえんのつるぎ)に巨万の力を与える。
エミリーと麗の異能の力が凝縮された緋炎剣(ひえんのつるぎ)が
エルピスの身体を―――――
――――――斬り裂いた
「ぐわぁあぁぁぁぁ!!」
そして
エルピスが絶叫するとほぼ同時に
可憐の「言霊」が―――完成する。
「パンドラの箱よ。」
人々の願いを―――――
―――――――開放せよ!
パリィーン!
パンドラの箱が――――
――――――――――砕け散る
【パンドラの箱篇④】
西暦2043年 1月1日
東京都にある総合病院の一室
「せっかくの正月だってのに、退院出来ないのかよ。」
タケルがベッドの上でぼやいていると、隣に入院している月影が言う。
「日本最先端のロボット兵器とやり合って、その程度の傷で済んだのだ。贅沢を言うものではない。」
「てめぇの仕業だろーが!ふざけんなよ月影!」
「ふん……、口の悪い奴だ。これで秘密警察官(エージェント)だとは日本の警察も質が落ちたものだ。」
「なんだと、てめぇ!」
2人の言い争いに不知火が割って入る。
「まぁまぁ、2人ともお止めなさい。ここは病室です。安静にしないと退院出来ませんよ。」
「ふん…」
タケルは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「不知火ちゃん。それより沖田ちゃんはどうしたのかな?」
見舞いに来ているちっこい少女が口を開く。
エミリー・エヴァリーナ。
あれ程の戦闘をして無傷だと言うから全く凄い少女だ。
(ちゃん……?)
「ん…あぁ、沖田の奴なら残るエージェントの2人を探しに言ったよ。なんでも、これからの戦闘に2人の力は欠かせないとか。」
「これからの戦闘?まだ戦う気かよ。あのロボット人間は。」とタケル。
不知火は月影に言う。
「どうやら貴方もエルピスに操られていたようだな。パンドラの箱が消滅した今、貴方も強力な絶対支配術は使えない。これからどうするのだ?」
「ふむ……」
月影は不知火の質問に答える。
「私はこの国の総理大臣だからな。パンドラの箱が無くなってもそれは変わらない。それに……、今日本を取り巻く環境は非常に厳しい。特に新世界ローマ教会と新世界国家連合。奴らは日本を配下に置きたくてウズウズしている。」
月影の言葉に反応するのはエミリー。
「ローマ教会……、エミリーも奴らとは決着を付けなければなりませーん!」
「決着って何する気?イタリアに乗り込むの?勘弁してくれ!」
タケルは嫌そうな顔でエミリーを見る。
「そう言えば、麗さんはどこでしょうか?」
不知火の質問に月影が答える。
「麗なら10階の病室だろう。今頃、可憐が見舞いに行っているはずだ。」
「麗ともゆっくり話さねばなるまい……。麗の父親、神代 合祀(かみしろ ごうし)に陰陽師の一族を滅ぼしたのは私だ。償いきれるものではないがな。」
【パンドラの箱篇⑤】
「神代さん……動いて大丈夫なのですか?」
病院の屋上で空を眺める麗に可憐が話し掛ける。
「大した怪我ではないもの。もう退院出来るみたい。」
麗の言葉にほっとする可憐。
「あの………」
口ごもる可憐。
「どうしたの?」と麗。
「あの……、助けて下さりありがとうございます。」
「助ける?」
麗は何の事か分からず聞き返す。
「クリスマスの日、あの男に襲われた時に助けてくれた事です。」
「あぁ……」
そんな事かと麗は微笑む。
「助けられたのは私の方です。あの時、夢野さんが居なかったら、私は勿論、全世界の人々がエルピスの配下になっていたかもしれません。」
麗はぺこりと頭を下げて可憐に言う。
「ありがとう。夢野さんに助けられたわ。」
「そんな!私なんか何もしていないわ。」
可憐は少し慌てて
そしてもう一つの想いを告げる。
「それと……」
「……?」
口ごもる可憐に麗は尋ねる
「……?まだ何かあるの?」
可憐は照れ臭そうに麗に言う。
「神代さん……、いや……、麗さんって呼んでいいですか?」
麗は思わずぷっと笑って可憐に言う。
「麗でいいわ。私も夢野さんの事 可憐って呼んでいいかしら?」
「はい!麗さん!」
西暦2042年の冬に世界を襲った黒い化物は、パンドラの箱の消滅と共に姿を消した。
日本帝都学園を襲った様々な奇怪な現象も沈静化し、ようやく平和が訪れた。
全能神ゼウスが産み出した「パンドラの箱」
ゼウスは「パンドラの箱」により人類を試した。
人類が神の力を乗り越え神に近づく存在に成り得るのかどうかを―――――
夢野 可憐(ゆめの かれん)
神代 麗(かみしろ れい)
エミリー・エヴァリーナ
少女達の想いが「パンドラの箱」とその分身であるエルピスを打ち砕く。
天界から様子を伺っていたゼウスはヘーラーに言う。
「どうやらプロメテウスの言う事が正しかったようだ。人類には、もう我々の力は必要無いと言う事か………」
「ゼウス……、長い間お疲れ様でした。そろそろ私達も行きましょう。オリュンポス十二神の力が無くても人類は進化し続けるでしょう。」
こうして人類は
パンドラの箱の誘惑―――
ゼウスの試練を乗り越え新たな歴史へと突入する。
【エピローグ】
日本一の霊山
―――――――富士山
富士山の麓に足を踏み入れた沖田 栄治。
沖田には1つ気になる事があった。
月影の精神支配術。
あれは普通の人間には逆らう事が出来ない。
パンドラの箱により強化されは月影の精神支配術は、陰陽師一族の棟梁である神代 麗(かみしろ れい)くらいの術者でもない限り防ぐのは無理だろう。
――――何故だ
あの日、警視庁長官は確かに言った。
月影の精神支配術は私には通用しないと。
長官が何かの達人なんて話は聞いた事が無い。
長官に疑念を抱いた沖田は警視庁長官の後を尾行する。
(ここは……富士御嵩神社へ通じる道……、長官が何故ここに…………)
そして沖田は異変に気づく。
富士の密林を覆う黒い霧―――
(なんだ、この霧は………)
「!?」
(………足が……、いや身体が……)
―――――――動かない
その場に倒れ込む沖田。
富士御嵩神社の御神体があった位置の真下にある地下道。その先で長官は大きな門の前に立つ。
黒い霧は、その門……
異世界への扉(ゲート)から噴き出していた。
長官は言う。
「ふっ……、ローマ教会の魔法使いゼロ。あの少年が造った結界が壊れ始めた。異世界に閉じ込められたゼロの魔力がもうすぐ途切れる。厄介なパンドラの箱とエルピス――ゼウスの力も無くなった。」
――――――全ては計画通り!
この扉(ゲート)が開かれた時
―――――真のパンドラの箱が開かれる
パンドラの箱
END
ご愛読ありがとうございましたm(_ _)m
これは はるか昔のお話
人類がまだ産まれたての頃
神々は平和に暮らしておりました。
神々のひとりプロメテウスは人類の幸せを願い聖なる炎を人界に届けました。
それを聞いたゼウスは激怒します。
聖なる炎は人間では扱いきれぬ。
人間は炎で武器を造り争いを始め多くの災いをもたらすであろう。
プロメテウスは反論します。
人類はそれほど愚かでは無いでしょう。
炎は人類に多くの技術をもたらします。
神々の世界に最も近づく事が出来るのは人間に違いありません。
ゼウスは答えます。
ならば試してみよう。
ゼウスは人界に1人の女性を遣わしました。
名をパンドーラと言います。
それはとても美しい女性でありました。
ゼウスはパンドーラに箱を託します。
人類が神にも匹敵する存在に成りうるのであれば、どんな困難も乗り越えやがて神々の世界に到達するであろう。
決して開けてはならない箱
―――――パンドラの箱
パンドーラは何とも言えぬ箱の魅力に負けて、或いはゼウスの思惑を知っていたのか、ついに禁断の箱を開けてしまいました。
箱には、この世に存在する全ての災いが詰まっております。疫病、悲嘆、欠乏、犯罪などあらゆる厄災が箱から飛び出しました。
そう……
パンドラの箱がもたらすものは、あらゆる厄災。
オリュンポス十二神のひとりヘーラーはゼウスに訪ねます。
ゼウス……、なぜ貴方は人類に厄災を贈ったのでしょう。
ゼウスはヘーラーに答える。
今のまま人類が我々神々に頼っているようでは、人類の発展は望めないであろう。私は試したのだ。
……試す?
もし人類が私の造った箱の力を乗り越え、自ら困難を打ち破る事が出来れば、もう人類には我々の力は必要無い。我々は安心して天界で暮す事が出来る。
ゼウス……貴方も人が悪いわね。貴方の造った箱の力に逆らう事が出来る人間など、何千年経っても現れ無いでしょう。
【パンドラの箱編②】
人の心を惑わす偽物の箱は―――
―――――この世から無くなりなさい。
ピキィーン……
可憐の言葉が
可憐の想いが
パンドラの箱に亀裂を産み出す。
シュウ………
その隙間から溢れだす人々の願い。
シュウ………
同時にエルピスの額に亀裂が産まれ黒色に光る粒子が漏れ出した。
「バカな…………」
エルピスは信じられないと言う顔で可憐を見る。
「貴様……、なぜ………」
「なぜパンドラの箱の誘惑に逆らえるのだ!」
「人間の分際で!」
どこまでも美しく
どこまでも優しいエルピスの顔が
悪魔の形相に一変する。
「もうすぐなのだ!」
「もうすぐ私は神になれる!」
「邪魔をするな!!」
エルピスの右手がドス黒いオーラに包まれて、可憐を目掛けて振り下ろす!
「玄武!」
麗は先程発動させた武神「玄武」に命令する。
「夢野さんを守りなさい!」
四神最強の防御力を誇る玄武がエルピスの一撃を跳ね返す。
「ぐっ!」
後ろに跳ね飛ばされるエルピス。
「くっ!貴様!言ったはずだ。私を倒す事は出来ない。私を傷付ければ、死ぬのは術を放った貴様の方だと!」
麗は言う。
「大丈夫です。夢野さんが教えてくれました。私はもうパンドラの箱(あなた)には惑わされない。」
ピキ………
ピキピキ…………
パンドラの箱の亀裂は更に広がり
シュウ……
パンドラの箱から次々と人々の願いが溢れ出す。
エルピスは笑う。
「ふふふ」
「人間に何が出来る!」
「私(パンドラの箱)は死なない!」
「パンドラの箱(私)が壊れる前に可憐(その女)を殺すだけだ!!」
エルピスの叫びに呼応するかのように、パンドラの箱が光り輝き、どす黒いオーラがエルピスに注ぎ込む。
麗は緋炎剣(ひえんのつるぎ)を構え再び立ち上がる。
(……これが、人々の負のオーラの力。私の力だけで抑える事が出来るでしょうか……。)
長い年月の間に蓄えられた
人間の憎しみ、悲しみ、欲望、嫉妬、あらゆる願いがエルピスに力を与える。
【パンドラの箱編③】
ふわり……
その願いの一つ
パンドラの箱から漏れ出した一つの願いが、ふわふわと空を舞い上がり1人の少女の上空でピタリと止まった。
『……エミリー』
「……」
『私の可愛いエミリー………』
「……マ…ン…マ?」
その少女エミリーは、懐かしい声に思わず空を見上げる。
うっすらと光る上空に、エミリーは確かにファミリアの面影を見る。
「マンマ!マンマなのね!!」
『エミリー、よく聞きなさい。私は間違えていました。あなたを生かす為にあなたを何百年もの間、あの城に閉じ込めてしまった。孤独な辛い日々だったでしょう。どうか母をお許し下さい。』
「ううん、大丈夫よ。私は今は1人じゃないもの。タケルに、麗ちゃんに、学校の友達も出来たわ!」
『あぁ、エミリー、強くなったのね。』
「マンマ、生き返ったのですか!」
『いいえエミリー。私はパンドラの箱に取り込まれて居たのです。そして、また私はエルピスに取り込まれようとしています。そろそろ限界のようです。』
「エルピス?」
エミリーはどす黒いオーラに包まれた男を見る。
「あの男を……、殺せば良いのね。」
―――――――――――――
シュウ………………
シュウ…………………………
パンドラの箱の亀裂はどんどん大きくなり、溢れる人々の願いが、可憐に痛いほど伝わって来る。
(ごめんなさい…………)
(長い間、辛かったでしょう。)
(苦しかったでしょう………。)
可憐は言う。
パンドラの箱に込められた全ての人間の願いに応えるように。
「さぁ、もう終わりです。」
「パンドラの箱よ。」
人々の願いを―――――
エルピスが叫ぶ!
「させるかぁあぁぁぁ!!」
エルピスの全身が巨大な黒いオーラの塊となり可憐に覆いかぶさる。
これほどの力……武神「玄武」を持ってしても、抑えきれるかどうか。
(私が殺るしか無い!)
「全ての力をこの剣(つるぎ)に!」
麗は緋炎剣(ひえんのつるぎ)を振り上げ、持てる力の全てをその剣に注ぎ込む。
ピカッ―――――
鮮やかな緋炎色に輝く剣
神代一族(かみしろのいちぞく)の正統なる後継者。麗の血に眠る安倍晴明の力が緋炎剣(ひえんのつるぎ)に宿る。
「これで決める!!」
と、その時
麗が最後の一太刀を振り下ろそうとした時、麗の後ろからエミリーの声が高々と鳴り響く!
「雷神の雷(トゥオーノ)まーっくす!!」
ビカビカビカッ!!!
天をも揺るがす巨大な雷神の雷が――
麗の振り上げた緋炎剣(ひえんのつるぎ)の刃に吸い寄せられ、偶然にも避雷針代わりとなった緋炎剣(ひえんのつるぎ)に巨万の力を与える。
エミリーと麗の異能の力が凝縮された緋炎剣(ひえんのつるぎ)が
エルピスの身体を―――――
――――――斬り裂いた
「ぐわぁあぁぁぁぁ!!」
そして
エルピスが絶叫するとほぼ同時に
可憐の「言霊」が―――完成する。
「パンドラの箱よ。」
人々の願いを―――――
―――――――開放せよ!
パリィーン!
パンドラの箱が――――
――――――――――砕け散る
【パンドラの箱篇④】
西暦2043年 1月1日
東京都にある総合病院の一室
「せっかくの正月だってのに、退院出来ないのかよ。」
タケルがベッドの上でぼやいていると、隣に入院している月影が言う。
「日本最先端のロボット兵器とやり合って、その程度の傷で済んだのだ。贅沢を言うものではない。」
「てめぇの仕業だろーが!ふざけんなよ月影!」
「ふん……、口の悪い奴だ。これで秘密警察官(エージェント)だとは日本の警察も質が落ちたものだ。」
「なんだと、てめぇ!」
2人の言い争いに不知火が割って入る。
「まぁまぁ、2人ともお止めなさい。ここは病室です。安静にしないと退院出来ませんよ。」
「ふん…」
タケルは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「不知火ちゃん。それより沖田ちゃんはどうしたのかな?」
見舞いに来ているちっこい少女が口を開く。
エミリー・エヴァリーナ。
あれ程の戦闘をして無傷だと言うから全く凄い少女だ。
(ちゃん……?)
「ん…あぁ、沖田の奴なら残るエージェントの2人を探しに言ったよ。なんでも、これからの戦闘に2人の力は欠かせないとか。」
「これからの戦闘?まだ戦う気かよ。あのロボット人間は。」とタケル。
不知火は月影に言う。
「どうやら貴方もエルピスに操られていたようだな。パンドラの箱が消滅した今、貴方も強力な絶対支配術は使えない。これからどうするのだ?」
「ふむ……」
月影は不知火の質問に答える。
「私はこの国の総理大臣だからな。パンドラの箱が無くなってもそれは変わらない。それに……、今日本を取り巻く環境は非常に厳しい。特に新世界ローマ教会と新世界国家連合。奴らは日本を配下に置きたくてウズウズしている。」
月影の言葉に反応するのはエミリー。
「ローマ教会……、エミリーも奴らとは決着を付けなければなりませーん!」
「決着って何する気?イタリアに乗り込むの?勘弁してくれ!」
タケルは嫌そうな顔でエミリーを見る。
「そう言えば、麗さんはどこでしょうか?」
不知火の質問に月影が答える。
「麗なら10階の病室だろう。今頃、可憐が見舞いに行っているはずだ。」
「麗ともゆっくり話さねばなるまい……。麗の父親、神代 合祀(かみしろ ごうし)に陰陽師の一族を滅ぼしたのは私だ。償いきれるものではないがな。」
【パンドラの箱篇⑤】
「神代さん……動いて大丈夫なのですか?」
病院の屋上で空を眺める麗に可憐が話し掛ける。
「大した怪我ではないもの。もう退院出来るみたい。」
麗の言葉にほっとする可憐。
「あの………」
口ごもる可憐。
「どうしたの?」と麗。
「あの……、助けて下さりありがとうございます。」
「助ける?」
麗は何の事か分からず聞き返す。
「クリスマスの日、あの男に襲われた時に助けてくれた事です。」
「あぁ……」
そんな事かと麗は微笑む。
「助けられたのは私の方です。あの時、夢野さんが居なかったら、私は勿論、全世界の人々がエルピスの配下になっていたかもしれません。」
麗はぺこりと頭を下げて可憐に言う。
「ありがとう。夢野さんに助けられたわ。」
「そんな!私なんか何もしていないわ。」
可憐は少し慌てて
そしてもう一つの想いを告げる。
「それと……」
「……?」
口ごもる可憐に麗は尋ねる
「……?まだ何かあるの?」
可憐は照れ臭そうに麗に言う。
「神代さん……、いや……、麗さんって呼んでいいですか?」
麗は思わずぷっと笑って可憐に言う。
「麗でいいわ。私も夢野さんの事 可憐って呼んでいいかしら?」
「はい!麗さん!」
西暦2042年の冬に世界を襲った黒い化物は、パンドラの箱の消滅と共に姿を消した。
日本帝都学園を襲った様々な奇怪な現象も沈静化し、ようやく平和が訪れた。
全能神ゼウスが産み出した「パンドラの箱」
ゼウスは「パンドラの箱」により人類を試した。
人類が神の力を乗り越え神に近づく存在に成り得るのかどうかを―――――
夢野 可憐(ゆめの かれん)
神代 麗(かみしろ れい)
エミリー・エヴァリーナ
少女達の想いが「パンドラの箱」とその分身であるエルピスを打ち砕く。
天界から様子を伺っていたゼウスはヘーラーに言う。
「どうやらプロメテウスの言う事が正しかったようだ。人類には、もう我々の力は必要無いと言う事か………」
「ゼウス……、長い間お疲れ様でした。そろそろ私達も行きましょう。オリュンポス十二神の力が無くても人類は進化し続けるでしょう。」
こうして人類は
パンドラの箱の誘惑―――
ゼウスの試練を乗り越え新たな歴史へと突入する。
【エピローグ】
日本一の霊山
―――――――富士山
富士山の麓に足を踏み入れた沖田 栄治。
沖田には1つ気になる事があった。
月影の精神支配術。
あれは普通の人間には逆らう事が出来ない。
パンドラの箱により強化されは月影の精神支配術は、陰陽師一族の棟梁である神代 麗(かみしろ れい)くらいの術者でもない限り防ぐのは無理だろう。
――――何故だ
あの日、警視庁長官は確かに言った。
月影の精神支配術は私には通用しないと。
長官が何かの達人なんて話は聞いた事が無い。
長官に疑念を抱いた沖田は警視庁長官の後を尾行する。
(ここは……富士御嵩神社へ通じる道……、長官が何故ここに…………)
そして沖田は異変に気づく。
富士の密林を覆う黒い霧―――
(なんだ、この霧は………)
「!?」
(………足が……、いや身体が……)
―――――――動かない
その場に倒れ込む沖田。
富士御嵩神社の御神体があった位置の真下にある地下道。その先で長官は大きな門の前に立つ。
黒い霧は、その門……
異世界への扉(ゲート)から噴き出していた。
長官は言う。
「ふっ……、ローマ教会の魔法使いゼロ。あの少年が造った結界が壊れ始めた。異世界に閉じ込められたゼロの魔力がもうすぐ途切れる。厄介なパンドラの箱とエルピス――ゼウスの力も無くなった。」
――――――全ては計画通り!
この扉(ゲート)が開かれた時
―――――真のパンドラの箱が開かれる
パンドラの箱
END
ご愛読ありがとうございましたm(_ _)m