【「ラボ」編①】
国会議事堂前大広場
その前方にある壇上の階段をゆっくりと降りる月影。
月影は懐から式札を取り出し術式を唱える。
「風神剣(ふうじんのつるぎ)。」
すると式札が鮮やかな翠色に光る半透明の日本刀に変化した。
月影は目の前に居る美しい佇まいの少女に話し掛ける。
「麗……、お主に剣術を教えたのは私だ。四神を扱えるお主がなぜ剣で戦うのだ。」
緋炎剣(ひえんのつるぎ)を構える麗が答える。
「不意打ちなら四神で勝負するでしょう。しかし、四神ですら精神支配術で操る貴方には真正面から霊獣をぶつけるには危険過ぎます。」
「ふん……、なるほどな。私の精神支配術にこんな効果があるとは…。四神の扱えないお主となら…」
――――互角に戦えるやも知れぬ
「「いざ!勝負!」」
2人の声が重なり合い運命の戦いが始まる。
「月影総理!」
2人の対決を止めようと可憐が走り寄ろうとした時、後ろから肩を掴まれた。
驚いて後ろを振り向く可憐。
「どなたですか!今は一刻を争うのです。」
長身の男は可憐に言う。
「止めて置け。あの2人を止める事は出来ない。巻き込まれて死ぬだけだ。」
「邪魔をしないで下さい。」
それでも男は可憐の肩を掴んで離さない。
「悪いが少し眠っていて貰う。朱雀が現れると厄介だからな。」
「!?…………なぜそれを……。」
ガッ!
「あ……」
男は有無を言わさず可憐の腹部に強烈な一撃を喰らわす。
その場で意識を失い倒れ込む可憐。
(ふぅ……、何とか間に合ったようだ。夢野 可憐の人格のままで助かった。)
その男、沖田 栄治が麗の助っ人に参戦しようとした時
ボワッ!
沖田の背後に火の手が上がる。
「なに!?」
振り向いた沖田の前にゆらりと立ち上がる可憐。
そして可憐は沖田に言う。
「我の発動条件は可憐の命の危機。主の強烈な一撃のお陰で人格を切り替える事が出来た。」
「ちっ!」
沖田はすかさず拳銃を抜くと可憐に向けて発泡する。
ダダーンッ!
ダダーンッ!
2発の銃弾が可憐の胸部に命中する。
しかし
不死鳥の化身である朱雀の身体は、どんな傷でも…
―――――――再生する。
可憐は静かに言う。
「誰かは知らぬが邪魔だてする者は死んで貰う。」
ボワッ!
可憐の身体から燃え盛る不死鳥が飛び立った。
不死鳥は大空をくるりと旋回し、直後に沖田に向かって急降下を始める。
「業火に焼かれて死ぬが良い。」
ボワッ!
不死鳥の業火が――――――
―――――――沖田の全身を包み込む
【「ラボ」編②】
西暦2037年 夏
東京の沖合いに浮かぶ無人島。
日本政府が巨額な資金と最先端技術を惜しみなく投入したその研究所では、人類の能力を越える新人類の開発が行われていた。
新人類開発計画―――通称『ラボ』
全国の孤児院から集められた身寄りの無い子供達。
死刑宣告を受けた凶悪な犯罪者。
様々なルートで集められた被験者と呼ばれるモルモット達。
被験者No203番 沖田 栄治(おきた えいじ)は同室の被験者に声を掛ける。
「なぁ時彦……、日本政府は俺達の中から秘密警察のメンバーを選抜するらしい。ようやく、この施設から開放される日が来たようだ。」
被験者No890番 遠藤 時彦(えんどう ときひこ)
時彦と呼ばれた男が沖田に答える。
「秘密警察?そんなの僕は選ばれないよ。僕は君みたいに戦闘能力に長けていないからね。」
「わかっちゃいないな時彦。お前の能力は多くの被験者の中でも特殊な能力だ。きっと選ばれる。一緒に外の世界へ行こう。」
この研究所に集めれた被験者はおよそ2000人。その半数は研究中の事故で命を落としている。
研究から10年の歳月を経てようやく初の卒業生―――新人類の誕生を迎えようとしていた。
ジリリリリリリリリリリッ!
「何だ……?」
研究所に非常警報の音が鳴り響く。
「大変だ!!」
研究員の1人の叫ぶ声が聞こえて来た。
「実験中の軍隊アリが暴走した!制御不能!ぐわぁあぁ!!」
顔を見合わせる沖田と時彦。
「軍隊アリ……?」
研究所で行われていた昆虫兵器の開発。
南米アマゾンの密林に生息する軍隊アリ。
体はゆうに1cmを超え、頑丈で体の半分ほどの長さのある大きな鎌のような顎(あご)で獲物を噛み殺す。
その軍隊アリが巨大化し暴走を始める。
体長3mを越える軍隊アリの大群が施設の人間に襲い掛かる!
「おい時彦!逃げるぞ!」
「逃げると言っても何処へ?ここは無人島ですよ。それに………」
ブン―――
空を見上げる沖田。
「おい……軍隊アリって飛べるのか?」
「さぁ………改造したんじゃないの?」
「ちっ!殺るしか無いようだな。」
そして、被験者達と軍隊アリの戦闘が始まった。
巨大化した軍隊アリの甲殻は鉄のように頑丈で、その動きは哺乳類最速のチーターよりも素早い。
「巨大化した昆虫がこれほど凶悪だとは思わなかったぜ。」と沖田。
「なかなかの研究ですね。これが兵器になると考えると恐ろしい。」と時彦。
激闘は3時間にも及んだ。
最後の軍隊アリの身体を引き千切った沖田の身体はアリの体液で真っ黒く染まっていたと言う。
政府の記録によれば、この時生き残った被験者は3名。
そして100匹を越える軍隊アリの全てが2人の被験者によって葬られた。
その2人のうちの1人
沖田 栄治(おきた えいじ)
――――――この日、新人類が誕生した。
【「ラボ」編③】
不死鳥の業火が沖田の身体を包み込み、纏(まと)っていた衣類が跡形も無く焼失する。
(…………む)
朱雀の人格となった可憐が目を細める。
シュウ……
未だ業火に包まれる炎の中で、平然と立つ沖田。
白銀色の金属に身を包んだ沖田が可憐に言う。
「俺の身体には耐熱処理が施されている。劣化量産型ロボットのアメンボとは性能が違うのだよ。」
「主もロボットだと言うのか……」
沖田は答える。
「違うな……」
そして
「!!」
ザッ!
沖田は一瞬で可憐との間合いを詰め
グサリッ―――
可憐の身体に手刀を突き刺した。
「ごほっ……」
血を吐き出す可憐。
目の前に居る可憐に沖田は言い放つ。
「何度でも再生するが良い。」
「………ぐ」
ボワッ!
可憐の身体が炎に包まれ、傷口が塞がって行く。
「そう……」
沖田は突き刺した手を引き抜いて
「再生するなら、何度でも破壊するだけだ。」
グサッ!!
2発目の手刀が再び可憐の胸部に穴を開ける。
「ぐっ!………貴様は……。」
苦痛に顔を歪める可憐に沖田は言う。
「教えてやろう。」
「俺はロボットなどでは無い。」
「人間の脳に機械の身体を持つ新人類。」
――――――――サイボーグだ。
国会議事堂前大広場
その前方にある壇上の階段をゆっくりと降りる月影。
月影は懐から式札を取り出し術式を唱える。
「風神剣(ふうじんのつるぎ)。」
すると式札が鮮やかな翠色に光る半透明の日本刀に変化した。
月影は目の前に居る美しい佇まいの少女に話し掛ける。
「麗……、お主に剣術を教えたのは私だ。四神を扱えるお主がなぜ剣で戦うのだ。」
緋炎剣(ひえんのつるぎ)を構える麗が答える。
「不意打ちなら四神で勝負するでしょう。しかし、四神ですら精神支配術で操る貴方には真正面から霊獣をぶつけるには危険過ぎます。」
「ふん……、なるほどな。私の精神支配術にこんな効果があるとは…。四神の扱えないお主となら…」
――――互角に戦えるやも知れぬ
「「いざ!勝負!」」
2人の声が重なり合い運命の戦いが始まる。
「月影総理!」
2人の対決を止めようと可憐が走り寄ろうとした時、後ろから肩を掴まれた。
驚いて後ろを振り向く可憐。
「どなたですか!今は一刻を争うのです。」
長身の男は可憐に言う。
「止めて置け。あの2人を止める事は出来ない。巻き込まれて死ぬだけだ。」
「邪魔をしないで下さい。」
それでも男は可憐の肩を掴んで離さない。
「悪いが少し眠っていて貰う。朱雀が現れると厄介だからな。」
「!?…………なぜそれを……。」
ガッ!
「あ……」
男は有無を言わさず可憐の腹部に強烈な一撃を喰らわす。
その場で意識を失い倒れ込む可憐。
(ふぅ……、何とか間に合ったようだ。夢野 可憐の人格のままで助かった。)
その男、沖田 栄治が麗の助っ人に参戦しようとした時
ボワッ!
沖田の背後に火の手が上がる。
「なに!?」
振り向いた沖田の前にゆらりと立ち上がる可憐。
そして可憐は沖田に言う。
「我の発動条件は可憐の命の危機。主の強烈な一撃のお陰で人格を切り替える事が出来た。」
「ちっ!」
沖田はすかさず拳銃を抜くと可憐に向けて発泡する。
ダダーンッ!
ダダーンッ!
2発の銃弾が可憐の胸部に命中する。
しかし
不死鳥の化身である朱雀の身体は、どんな傷でも…
―――――――再生する。
可憐は静かに言う。
「誰かは知らぬが邪魔だてする者は死んで貰う。」
ボワッ!
可憐の身体から燃え盛る不死鳥が飛び立った。
不死鳥は大空をくるりと旋回し、直後に沖田に向かって急降下を始める。
「業火に焼かれて死ぬが良い。」
ボワッ!
不死鳥の業火が――――――
―――――――沖田の全身を包み込む
【「ラボ」編②】
西暦2037年 夏
東京の沖合いに浮かぶ無人島。
日本政府が巨額な資金と最先端技術を惜しみなく投入したその研究所では、人類の能力を越える新人類の開発が行われていた。
新人類開発計画―――通称『ラボ』
全国の孤児院から集められた身寄りの無い子供達。
死刑宣告を受けた凶悪な犯罪者。
様々なルートで集められた被験者と呼ばれるモルモット達。
被験者No203番 沖田 栄治(おきた えいじ)は同室の被験者に声を掛ける。
「なぁ時彦……、日本政府は俺達の中から秘密警察のメンバーを選抜するらしい。ようやく、この施設から開放される日が来たようだ。」
被験者No890番 遠藤 時彦(えんどう ときひこ)
時彦と呼ばれた男が沖田に答える。
「秘密警察?そんなの僕は選ばれないよ。僕は君みたいに戦闘能力に長けていないからね。」
「わかっちゃいないな時彦。お前の能力は多くの被験者の中でも特殊な能力だ。きっと選ばれる。一緒に外の世界へ行こう。」
この研究所に集めれた被験者はおよそ2000人。その半数は研究中の事故で命を落としている。
研究から10年の歳月を経てようやく初の卒業生―――新人類の誕生を迎えようとしていた。
ジリリリリリリリリリリッ!
「何だ……?」
研究所に非常警報の音が鳴り響く。
「大変だ!!」
研究員の1人の叫ぶ声が聞こえて来た。
「実験中の軍隊アリが暴走した!制御不能!ぐわぁあぁ!!」
顔を見合わせる沖田と時彦。
「軍隊アリ……?」
研究所で行われていた昆虫兵器の開発。
南米アマゾンの密林に生息する軍隊アリ。
体はゆうに1cmを超え、頑丈で体の半分ほどの長さのある大きな鎌のような顎(あご)で獲物を噛み殺す。
その軍隊アリが巨大化し暴走を始める。
体長3mを越える軍隊アリの大群が施設の人間に襲い掛かる!
「おい時彦!逃げるぞ!」
「逃げると言っても何処へ?ここは無人島ですよ。それに………」
ブン―――
空を見上げる沖田。
「おい……軍隊アリって飛べるのか?」
「さぁ………改造したんじゃないの?」
「ちっ!殺るしか無いようだな。」
そして、被験者達と軍隊アリの戦闘が始まった。
巨大化した軍隊アリの甲殻は鉄のように頑丈で、その動きは哺乳類最速のチーターよりも素早い。
「巨大化した昆虫がこれほど凶悪だとは思わなかったぜ。」と沖田。
「なかなかの研究ですね。これが兵器になると考えると恐ろしい。」と時彦。
激闘は3時間にも及んだ。
最後の軍隊アリの身体を引き千切った沖田の身体はアリの体液で真っ黒く染まっていたと言う。
政府の記録によれば、この時生き残った被験者は3名。
そして100匹を越える軍隊アリの全てが2人の被験者によって葬られた。
その2人のうちの1人
沖田 栄治(おきた えいじ)
――――――この日、新人類が誕生した。
【「ラボ」編③】
不死鳥の業火が沖田の身体を包み込み、纏(まと)っていた衣類が跡形も無く焼失する。
(…………む)
朱雀の人格となった可憐が目を細める。
シュウ……
未だ業火に包まれる炎の中で、平然と立つ沖田。
白銀色の金属に身を包んだ沖田が可憐に言う。
「俺の身体には耐熱処理が施されている。劣化量産型ロボットのアメンボとは性能が違うのだよ。」
「主もロボットだと言うのか……」
沖田は答える。
「違うな……」
そして
「!!」
ザッ!
沖田は一瞬で可憐との間合いを詰め
グサリッ―――
可憐の身体に手刀を突き刺した。
「ごほっ……」
血を吐き出す可憐。
目の前に居る可憐に沖田は言い放つ。
「何度でも再生するが良い。」
「………ぐ」
ボワッ!
可憐の身体が炎に包まれ、傷口が塞がって行く。
「そう……」
沖田は突き刺した手を引き抜いて
「再生するなら、何度でも破壊するだけだ。」
グサッ!!
2発目の手刀が再び可憐の胸部に穴を開ける。
「ぐっ!………貴様は……。」
苦痛に顔を歪める可憐に沖田は言う。
「教えてやろう。」
「俺はロボットなどでは無い。」
「人間の脳に機械の身体を持つ新人類。」
――――――――サイボーグだ。