【運命のクリスマス編①】


神とは何か―――――



――――――神は存在するのか



人類の永遠の謎に

無神論者は答える。

「バカバカしい。神様なんて居る訳が無いだろう。君は神様を見た事があるのかい?本当に神様が居るなら是非とも見たいものだね。」

青い瞳の美しい神官風の男が答える。

「見た事があるのかい?あなたは目に見える者しか信じないのですか?」

「そりゃあ、そうだろう。見た事も無い者をどうやって信じたらいいんだ。」

神官風の男はふふと笑みを浮かべる。

「では何故、世界中の人間は見た事も無い神を信じるのでしょう?」

「……………それは…」

「一つ間違いを正しましょう。」

神官風の男は話を続ける。

「神は見える者では無いのですよ。神とは信じる者です。」

「何をバカな……」

「いいですか。世界中の人間が貴方が居ると信じるから貴方はこの世界に存在するのです。もし誰も貴方の存在を信じなければ貴方は存在しないも一緒でしょう。」

「何を詭弁を……」

「では試して見ましょう。」

神官風の男がすっと手を翳す。

「…………?」

「もはや貴方の存在を信じる人間は誰も居ない。貴方の存在は…………」


――――――消えて無くなる







ガバッ

(………………夢か)


それにしても妙な夢だ。

あの無神論者は私では無い。


誰かの記憶………

エルピスの奴、勝手に人の夢に現れるとは……。


月影は昨夜の事を思い出す。

ローマ教会の魔法使い『ゼロ』。あの少年を支配出来たのは思わぬ収穫であった。

おそらく今日の演説。
神代 麗(かみしろ れい)は私の命を狙って来るであろう。
それに行方をくらましている公安秘密警察官(エージェント)の動きも気になる。

今日の警備は一段と強化せねばなるまい。



【運命のクリスマス編②】

「さてと、いよいよクリスマスか。」

日賀 タケルがファミレスのテーブルを囲む仲間を見渡す。

今日始めて顔を合わすエージェントの1人、不知火 琢磨(しらぬい たくま)が口を開く。

「俺達エージェントの生き残り。残り2人の居所を当たってみたが、キングは依然として行方不明。時彦(ときひこ)は争い事には巻き込まれたく無いそうだ。」

不知火の言葉に沖田が答える。

「まぁ、時彦は仕方がない。奴の能力は戦闘には向いて居ないからな。キングが居れば強力な戦力になると期待したが、やはり行方は分からないか…。」

「居ない人間を当てにしても仕方が有りません。私達だけで月影を倒す事を考えましょう。」

麗は静かに口を開く。

「大丈夫だって!エミリーと麗ちゃんが居れば法廷騎士団なんてあっと言う間に倒しちゃうんだから!………むむ?この苺(いちご)美味しいわ!」

エミリーは5つ目のパフェを頬張りながら口を挟む。今日はイチゴパフェがお気に入りらしい。

「国会議事堂前の大広場……、おそらく観衆の数は半端じゃない。一般人を戦闘に巻き込みたくは無いが警察に頼んでみるか。」

タケルの提案に沖田は首を横に振る。

「それは無理だろう。警察の上層部は既に月影の精神支配術の配下にあると考えた方がいい。下手をすると警察官も全員敵に回るぞ。」

「ちっ……」

舌打ちをするタケル。

沖田はもう一度みんなに確認をする。

「いいな、今回の作戦には世界の未来が掛かっている。情けは無用だ。月影と……、月影に味方する人間は必ず殺せ。油断すると逆に殺されるぞ。」

「あぁ……」

「分かっています。」

沖田は更に言葉を続ける。

「夢野 可憐……、いや陰陽師の守護神である朱雀。君達の話が本当なら彼女が最大の脅威となる可能性がある。彼女の相手は俺がする。」

「しかし!」

麗の反論に沖田が声を被せる。

「麗さん…、君は月影を殺りなさい。それが神代一族(かみしろのいちぞく)の棟梁である君の役目だ。なに、心配は要らない。相手が霊獣であろうと互角の戦いはして見せる。」

不知火も言う。

「こいつなら大丈夫だ。何せ機関銃の弾丸を浴びても平気な顔をしている奴だ。エージェントの中でも沖田に勝てる奴なんざそうは居ない。」

「ほーほー。」

パフェを食べていたエミリーの目がギラリと光る。

「一応エミリーもエージェントの1人なんだけど、どちらが強いか試しましょうか?」

「いや、エミリーさんは少し黙っていようか。ほらパフェのおかわり頼んでいいから。」とタケル。

「それでは、そろそろ行くとしよう。」



―――――国会議事堂前の大広場へ



【運命のクリスマス編③】

国会議事堂には既に月影が演説の為に到着していた。

横に控える2人

夢野 可憐(ゆめの かれん)
少年ゼロ


可憐の中に居る朱雀が可憐に話し掛ける。

『どうやら神代 麗(かみしろ れい)が近くに来ている。』

(神代さんが…?)

『月影は麗の父親の仇だからな。おそらく今日で決着を付けるつもりであろう。』

(そんな……)

『可憐よ。主の身を守る為に今日は主の身体を借りる事になるだろう。しかし、我とて神代一族(かみしろのいちぞく)の棟梁と戦った事は無い。ましてや麗は歴代の棟梁の中でも随一の陰陽術の使い手。』


『どちらかが死ぬかもしれぬな……、覚悟はしておく事だ。』

(ゴクリ……)

可憐は朱雀の言葉を黙って聞くより他は無かった。


その近くに待機している少年ゼロ。
ゼロは昨夜の出来事に思考を巡らす。

(迂闊でした。精霊が枯渇したタイミングでマインドコントロールの術を掛けられるとは……。)

しかし

新世界ローマ教会の叡智の結晶であるゼロには、あらゆる危機に対応する能力が授けられている。

月影の精神支配術を受けても尚、完全に自我を失う事は無い。

(現状では月影に逆らう事は出来ません。計算によると月影の術を完全に解除するまでにはあと3時間は掛かるでしょう。)

月影は完全に僕を支配下においたつもりです。3時間後……その時が月影の最後。

ゼロがそんな思考を巡らせていると、国会議事堂の大広場にただならぬ気配が現れる。

(!!)

慌てて建物の外に飛び出すゼロ。

そこでゼロは1人の少女に目が釘付けになる。

(悪魔………!)

ローマ教会にとって最凶にして最大の敵



悪魔の魔女――――――


――――――エミリー・エヴァリーナ




思わず笑みが溢れるゼロ。

(どうやら今日は素晴らしい日になりそうです。)




国会議事堂の職員が月影に言う。

「総理、そろそろお時間です。」

「……ふむ」

月影が国会議事堂前の大広場へ向かう。




運命のクリスマス


―――――――聖なる夜が訪れる







その頃、国会議事堂前の大広場に居るエミリーは ぼそりと呟いた。

「パフェのおかわり…食べ損ねた……。」