【白銀の要塞編①】
西暦2042年12月24日
その日、東京は半世紀振りの大寒波に見舞われ真っ白な雪で覆い尽くされた。
白の世界と化した東京に――――――
――――――悪魔が舞い降りる。
通称『白銀の要塞(シルバードーム)』と呼ばれる内閣総理大臣公邸を警護している自衛隊の特殊部隊員の1人。
神原 将兵(かんぱら しょうへい)
(それにしても何て寒さだ。早く家に帰ってイヴのパーティを楽しまなければ。)
神原は時計をチラリと確認する。神原の勤務時間は午後9時まで。そろそろ交代の隊員が来る時間帯だ。
神原はおもむろに胸のポケットから煙草を取り出した。この時代殆どの喫煙家は電子煙草を吸っているが、従来型の紙煙草の愛好家も少なからず居る。
煙草に火をつけようとライターを取り出した神原。
カチッ
カチッ……
(…………変だな。)
オイルは十分に残っているのに火が付かない。思うように指が動かない。
(なんだ……?)
そして
カターンッ!
そして次の瞬間、神原はライターを地面に落とした。
(指の………指の感覚が……無い。)
北海道の田舎で育った神原にとって極寒の厳しさはよく知っている。寒さで指の感覚が無くなる事などよくある話だ。
しかし、この東京で……、いや、この急激な変化は何だ。何時間も冬の雪山で過ごした後のように指先から血の気が引いて行く。
「おじさん。どうしたの?」
「!!」
不意に神原の横から声が掛けられる。
ここは総理公邸の敷地内、今日は特に厳重な警備がされており一般人は立入禁止だ。
(外人の子供か……面倒だな。)
そんな事を考えて神原は、まだ中学生くらいの少年に言う。
「どうしたんだい坊や。ここは立入禁止だ。迷子にでもなったのか。」
すると、その少年は変な事を言い出した。
「その腰に掛けてある機関銃、ちょっと貸してくれないかな。」
「!?」
何かおかしい。
そう直感した神原は機関銃とは反対側に掛けてある拳銃を抜き出そうと腰に手を掛ける。
しかし、極寒による寒さに感覚を麻痺した右手は思うように動かない。
いや、既に身体全体の感覚が―――
――――――失われた。
少年は言う。
「この魔法は時間が掛かるのが難点だけど、そろそろ効いて来たみたいだね。」
【白銀の要塞編②】
♪
天使の歌声がイヴの東京ドームに響き渡る。
「きゃー!可愛いー!」
「可憐ちゃーん!」
国民的アイドル夢野 可憐(ゆめの かれん)
一時は北条 月詠の登場によりトップアイドルとしての地位を失いかけた可憐。
しかし彼女は不死鳥の如く蘇った。
北条 月影が操る精霊による精神支配術。そしてその精霊が発する精神干渉術によるファンへの洗脳。
今の可憐にはファンを洗脳する能力は無い。可憐の精神を支配していた精霊は神代 麗(かみしろ れい)の術式により霧散した。
しかし
そんなまやかしによる人気など可憐には必要無い。可憐の願いは1つだけ、ファンに歌声を届ける事。
世界中のファンに向けて可憐は心を込めて歌う。
「聴いて下さい。新曲―――」
―――――『真実の世界』
心地よいメロディに可憐の透き通るような歌声が重なり世界は夢の世界へと変貌する。
声援を送っていたファンはいつしか静まり返り、ただ可憐の歌声に耳を傾ける。
「なんて………」
「なんて心に響く歌なのかしら…。」
ツー
「あれ……?」
(私………泣いてる?)
ドームに集まった観衆の全てのファンが涙する。それは精神干渉術でも洗脳でも何でも無い。
純粋な可憐の想い。
可憐の想いが全てのファンを魅了して行く。
可憐のその姿はまるで―――
しんしんと雪が降る聖なるイヴ。
その日、東京ドームに訪れたファンは
―――――――天使の目撃者となる
「ファンの皆さん、Merry Xmas!それでは良いクリスマスを♪」
東京ドームでのクリスマスイベントが終了した夢野 可憐(ゆめの かれん)は急いでタクシーに乗り込んだ。
可憐を見た運転手は嬉しそうに声を掛ける。
「可憐ちゃん!おじさん大ファンなんだよ。サインを……」
「すみません、総理公邸シルバードームまで!急いで下さい!」
「え?シルバードームって、こんな時間に?」
「早くして下さい!」
「う……うん。それじゃあ行くよ。」
(何か嫌な予感がする。何事も無ければ良いんだけど……。)
可憐はタクシーの窓から見えるイルミネーションに目をやった。
【白銀の要塞編③】
「ひぃぃ!化物!」
パリィーンッ!
自衛隊の特殊部隊の1人、神原 将兵の身体が硝子細工のように砕け散る。
「もう煩(うるさ)いなぁ。黙っていたら助けてあげたのに。」
その少年ゼロはシルバードームの周りをぐるりと見回した。
総理公邸を警護していた自衛隊員は身体の感覚を無くしその場に倒れ込み、症状の重い者は氷の彫刻のように全身が凍り付いている。
ローマ教会が造り出した悪魔。
ゼロの魔法『絶対零度』によりシルバードームのある地区一体は極寒の氷の世界へと変貌する。
進行を妨げる者が居なくなったゼロはシルバードームの手前まで歩み寄り、巨大なドームを見上げた。
(予想以上に大きいな。どれ……)
ゼロは神経を集中させてドームの中の気配を感じ取る。
(………………1人?)
ドームの中に感じられる人の気配は1人。おそらくターゲットの北条 月影(ほうじょう つきかげ)。
(なんだ、意外と呆気ない。)
そう言ってゼロは右手に魔力を集中させる。右手がぼんやりと明るくなり魔力のエネルギーが巨大な球体を作り出す。
「せいっ!」
ドゴーンッ!!
物凄い轟音と共に魔力のエネルギーがシルバードームの壁に放たれた。
しかし
「――――!」
ドームの壁は何事も無かったかのように、白銀の光を保っている。
(ふーん。核兵器が落ちても大丈夫と言う触れ込みはまんざら嘘でも無い見たいだね。)
そう言ってゼロは、今度は右の手の平をドームにペタリと押し当てた。
(どんなに強固な素材でも超高熱には耐えられません。僕の超高熱魔法とドームの素材の耐熱性能とどちらが上か試してみましょう。)
数分が経過すると
ドロリ……
ゼロの右の手の平から発せられる超高熱魔法により徐々にドームの壁が融解して行く。
ようやく人間が通れるくらいの穴を開けたゼロは、シルバードームの中に足を踏み入れ「ふぅ」と一息ついた。
とその時…
ビシュッ!!
「痛っ!!」
ゼロの右肩に激痛が走る。
ドームの中には生命反応は無かったはずだと攻撃のあった方へ振り向いたゼロは思わず目を丸くする。
ギィ…
ギィ…
そこにはアメンボのような長い足を生やした機械仕掛けの白銀のロボットか赤い目を光らせていた。足を伸ばした状態での全長は1mくらいだろう。
そのアメンボの口がパクリと開かれ
ビシュッ!!
レーザ光線が発射される。
「くっ!」
ゼロは反射的に身をかわすと、すぐさま反撃の魔法を放つ。
「燃え盛れ!フィアンマ!」
灼熱の業火がアメンボの胴体に命中する。
しかし
その身体には傷一つついていない。
日本政府が最先端の技術と豊富な資金を投入して極秘に進めて来た新人類計画「ラボ」。その成果を元に造り出した量産型戦闘ロボット。
―――――通称『アメンボ』
その胴体を構成する素材は、シルバードームと同じ超硬度を誇る白銀色をした超合金製の金属。
そして、口から発せられるのは世界初の実用化されたレーザー光線。
ギィ…
ギィ…
アメンボの不気味な機械音が物静かなドームの中にこだまする。
ゼロは辺りを見回した。
ギィ…
ギィ…
…………3…4…5匹
(ちょっと面倒な事になって来たかな。)
ゼロの表情が戦闘モードに切り替わる。
(一体一体溶かすのは骨が折れそうだ。仕方がない……、魔力の消耗は避けたい所ですが、奥の手を使いましょうか。)
新世界ローマ教会に付与されたゼロの究極魔法……。
対悪魔の魔女エミリー・エヴァリーナを倒す為に開発された究極魔法を発動させるゼロ。
日本の最先端技術と新世界ローマ教会の魔導の結晶が産み出した2つの戦闘兵器がイヴの夜に激突する。
――――――――――――――――――
「可憐ちゃん、この先は通行禁止だよ。後は歩いて行くしかないようだね。」
タクシーの運転手が可憐に声を掛ける。
「ありがとう。お釣りは要らないわ。」
そう言って急いでタクシーから駆け降りる可憐。
クリスマス・イヴの夜。
夢野 可憐(ゆめの かれん)は巨大なシルバードームへと走り出す。
どこからか、聖なる鐘が鳴り響くのが聴こえて来た。
西暦2042年12月24日
その日、東京は半世紀振りの大寒波に見舞われ真っ白な雪で覆い尽くされた。
白の世界と化した東京に――――――
――――――悪魔が舞い降りる。
通称『白銀の要塞(シルバードーム)』と呼ばれる内閣総理大臣公邸を警護している自衛隊の特殊部隊員の1人。
神原 将兵(かんぱら しょうへい)
(それにしても何て寒さだ。早く家に帰ってイヴのパーティを楽しまなければ。)
神原は時計をチラリと確認する。神原の勤務時間は午後9時まで。そろそろ交代の隊員が来る時間帯だ。
神原はおもむろに胸のポケットから煙草を取り出した。この時代殆どの喫煙家は電子煙草を吸っているが、従来型の紙煙草の愛好家も少なからず居る。
煙草に火をつけようとライターを取り出した神原。
カチッ
カチッ……
(…………変だな。)
オイルは十分に残っているのに火が付かない。思うように指が動かない。
(なんだ……?)
そして
カターンッ!
そして次の瞬間、神原はライターを地面に落とした。
(指の………指の感覚が……無い。)
北海道の田舎で育った神原にとって極寒の厳しさはよく知っている。寒さで指の感覚が無くなる事などよくある話だ。
しかし、この東京で……、いや、この急激な変化は何だ。何時間も冬の雪山で過ごした後のように指先から血の気が引いて行く。
「おじさん。どうしたの?」
「!!」
不意に神原の横から声が掛けられる。
ここは総理公邸の敷地内、今日は特に厳重な警備がされており一般人は立入禁止だ。
(外人の子供か……面倒だな。)
そんな事を考えて神原は、まだ中学生くらいの少年に言う。
「どうしたんだい坊や。ここは立入禁止だ。迷子にでもなったのか。」
すると、その少年は変な事を言い出した。
「その腰に掛けてある機関銃、ちょっと貸してくれないかな。」
「!?」
何かおかしい。
そう直感した神原は機関銃とは反対側に掛けてある拳銃を抜き出そうと腰に手を掛ける。
しかし、極寒による寒さに感覚を麻痺した右手は思うように動かない。
いや、既に身体全体の感覚が―――
――――――失われた。
少年は言う。
「この魔法は時間が掛かるのが難点だけど、そろそろ効いて来たみたいだね。」
【白銀の要塞編②】
♪
天使の歌声がイヴの東京ドームに響き渡る。
「きゃー!可愛いー!」
「可憐ちゃーん!」
国民的アイドル夢野 可憐(ゆめの かれん)
一時は北条 月詠の登場によりトップアイドルとしての地位を失いかけた可憐。
しかし彼女は不死鳥の如く蘇った。
北条 月影が操る精霊による精神支配術。そしてその精霊が発する精神干渉術によるファンへの洗脳。
今の可憐にはファンを洗脳する能力は無い。可憐の精神を支配していた精霊は神代 麗(かみしろ れい)の術式により霧散した。
しかし
そんなまやかしによる人気など可憐には必要無い。可憐の願いは1つだけ、ファンに歌声を届ける事。
世界中のファンに向けて可憐は心を込めて歌う。
「聴いて下さい。新曲―――」
―――――『真実の世界』
心地よいメロディに可憐の透き通るような歌声が重なり世界は夢の世界へと変貌する。
声援を送っていたファンはいつしか静まり返り、ただ可憐の歌声に耳を傾ける。
「なんて………」
「なんて心に響く歌なのかしら…。」
ツー
「あれ……?」
(私………泣いてる?)
ドームに集まった観衆の全てのファンが涙する。それは精神干渉術でも洗脳でも何でも無い。
純粋な可憐の想い。
可憐の想いが全てのファンを魅了して行く。
可憐のその姿はまるで―――
しんしんと雪が降る聖なるイヴ。
その日、東京ドームに訪れたファンは
―――――――天使の目撃者となる
「ファンの皆さん、Merry Xmas!それでは良いクリスマスを♪」
東京ドームでのクリスマスイベントが終了した夢野 可憐(ゆめの かれん)は急いでタクシーに乗り込んだ。
可憐を見た運転手は嬉しそうに声を掛ける。
「可憐ちゃん!おじさん大ファンなんだよ。サインを……」
「すみません、総理公邸シルバードームまで!急いで下さい!」
「え?シルバードームって、こんな時間に?」
「早くして下さい!」
「う……うん。それじゃあ行くよ。」
(何か嫌な予感がする。何事も無ければ良いんだけど……。)
可憐はタクシーの窓から見えるイルミネーションに目をやった。
【白銀の要塞編③】
「ひぃぃ!化物!」
パリィーンッ!
自衛隊の特殊部隊の1人、神原 将兵の身体が硝子細工のように砕け散る。
「もう煩(うるさ)いなぁ。黙っていたら助けてあげたのに。」
その少年ゼロはシルバードームの周りをぐるりと見回した。
総理公邸を警護していた自衛隊員は身体の感覚を無くしその場に倒れ込み、症状の重い者は氷の彫刻のように全身が凍り付いている。
ローマ教会が造り出した悪魔。
ゼロの魔法『絶対零度』によりシルバードームのある地区一体は極寒の氷の世界へと変貌する。
進行を妨げる者が居なくなったゼロはシルバードームの手前まで歩み寄り、巨大なドームを見上げた。
(予想以上に大きいな。どれ……)
ゼロは神経を集中させてドームの中の気配を感じ取る。
(………………1人?)
ドームの中に感じられる人の気配は1人。おそらくターゲットの北条 月影(ほうじょう つきかげ)。
(なんだ、意外と呆気ない。)
そう言ってゼロは右手に魔力を集中させる。右手がぼんやりと明るくなり魔力のエネルギーが巨大な球体を作り出す。
「せいっ!」
ドゴーンッ!!
物凄い轟音と共に魔力のエネルギーがシルバードームの壁に放たれた。
しかし
「――――!」
ドームの壁は何事も無かったかのように、白銀の光を保っている。
(ふーん。核兵器が落ちても大丈夫と言う触れ込みはまんざら嘘でも無い見たいだね。)
そう言ってゼロは、今度は右の手の平をドームにペタリと押し当てた。
(どんなに強固な素材でも超高熱には耐えられません。僕の超高熱魔法とドームの素材の耐熱性能とどちらが上か試してみましょう。)
数分が経過すると
ドロリ……
ゼロの右の手の平から発せられる超高熱魔法により徐々にドームの壁が融解して行く。
ようやく人間が通れるくらいの穴を開けたゼロは、シルバードームの中に足を踏み入れ「ふぅ」と一息ついた。
とその時…
ビシュッ!!
「痛っ!!」
ゼロの右肩に激痛が走る。
ドームの中には生命反応は無かったはずだと攻撃のあった方へ振り向いたゼロは思わず目を丸くする。
ギィ…
ギィ…
そこにはアメンボのような長い足を生やした機械仕掛けの白銀のロボットか赤い目を光らせていた。足を伸ばした状態での全長は1mくらいだろう。
そのアメンボの口がパクリと開かれ
ビシュッ!!
レーザ光線が発射される。
「くっ!」
ゼロは反射的に身をかわすと、すぐさま反撃の魔法を放つ。
「燃え盛れ!フィアンマ!」
灼熱の業火がアメンボの胴体に命中する。
しかし
その身体には傷一つついていない。
日本政府が最先端の技術と豊富な資金を投入して極秘に進めて来た新人類計画「ラボ」。その成果を元に造り出した量産型戦闘ロボット。
―――――通称『アメンボ』
その胴体を構成する素材は、シルバードームと同じ超硬度を誇る白銀色をした超合金製の金属。
そして、口から発せられるのは世界初の実用化されたレーザー光線。
ギィ…
ギィ…
アメンボの不気味な機械音が物静かなドームの中にこだまする。
ゼロは辺りを見回した。
ギィ…
ギィ…
…………3…4…5匹
(ちょっと面倒な事になって来たかな。)
ゼロの表情が戦闘モードに切り替わる。
(一体一体溶かすのは骨が折れそうだ。仕方がない……、魔力の消耗は避けたい所ですが、奥の手を使いましょうか。)
新世界ローマ教会に付与されたゼロの究極魔法……。
対悪魔の魔女エミリー・エヴァリーナを倒す為に開発された究極魔法を発動させるゼロ。
日本の最先端技術と新世界ローマ教会の魔導の結晶が産み出した2つの戦闘兵器がイヴの夜に激突する。
――――――――――――――――――
「可憐ちゃん、この先は通行禁止だよ。後は歩いて行くしかないようだね。」
タクシーの運転手が可憐に声を掛ける。
「ありがとう。お釣りは要らないわ。」
そう言って急いでタクシーから駆け降りる可憐。
クリスマス・イヴの夜。
夢野 可憐(ゆめの かれん)は巨大なシルバードームへと走り出す。
どこからか、聖なる鐘が鳴り響くのが聴こえて来た。