【襲撃開始編①】

日本帝都学園を襲った謎の化物による学校襲撃事件。

一部のネットユーザーから『デスゲーム事件』と囁かれているこの事件は、校内にいた生徒48人が死亡すると言う日本の殺人事件史上でも稀に見る大惨事となった。

事件の詳細は連日テレビでも報道され、黒い化物の存在が世間に明るみになる。

しかし、閉ざされた空間で起きた事件を多くの人は作り話と笑い飛ばし、スマホで映された化物の映像は偽物と判定される。


『デスゲーム事件』は沈静化に向かおうとしていた。


そして1ヶ月が経過した頃
その知らせはアメリカから訪れる。

『本日未明、アメリカ合衆国ニューヨーク州の大学で正体不明の黒い化物が出現しました。合衆国政府は大学のある周辺区域一体を立入禁止区域とし現在アメリカ陸軍による掃討作戦が行なわれ…………』


『ここで緊急速報です。イギリス、ロンドンにある教会で謎の生物が発生した模様です。教会に居合わせた住民13名が謎の生物に襲われ死亡、被害は現在も拡大中です。』


『こちらテヘラン。こちらテヘラン。テヘラン最大のモスクを襲った化物が街の中心部へ移動中との情報が入りました。イラン政府は化物の正体がアメリカ合衆国の生物兵器である可能性があると発表し…。』


『謎の生物の発生が確認された国は現在の所13ヶ国に上り、専門家の間では宇宙生物である可能性が指摘されています。』


『被害は尚も拡大中。被害は尚も拡大中。新世界ローマ教会には世界中から救済を求める声が殺到し、現在対応を検討中との情報が……。』


世界中に現れた黒い化物に世界は混乱を極める。

各国の政府は緊急事態宣言を発動し対応に追われるも有効な手段が無いまま時間だけが経過して行く。

そして人々は黒い化物の出現は、黙示録に啓示されるハルマゲドンの始まりであると噂するようになる。


「あの化物はサタンの使いに違いない。」

「月影様…どうか世界をお救い下さい。」

「我らが救世主月影様……。」



北条 月影(ほうじょう つきかげ)

日本に現れた現代の預言者であり救世主(メシア)。

救世主信仰は世界中に広まり、人々は月影に世界の救済を求め始める。





西暦2040年に東京都千代田区の一角に建てられた内閣総理大臣の新しい公邸。

別名―――『白銀の要塞(シルバードーム)』

核兵器が落ちてもビクともしないと言われている最先端の科学技術で造られた鉄壁の要塞。

その一室で月影は呟く。

「そろそろ機は熟したようだな……。」

感慨深く独りごちる月影に、隣に座る少女 夢野 可憐(ゆめの かれん)は言う。

「月影総理……、あなたは何を急いでいるのです?まるで何かに取り憑かれたようです。」

「ふむ……、可憐は何も心配しなくても良い。全ては計画通り。」

「私は……、私はただあなたの行く末が心配なのです。まるで何かに操られているかのようです。死に急いでいるようにすら見えるわ。」

「はは、確かに救世主になる為に多くの敵を作った。陰陽師の一族にローマ教会、他にも沢山居るだろう。だが、もう大丈夫だ。このシルバードームの周辺には自衛隊の特殊部隊による警備を敷いた。ここより安全な場所は無い。」

「それに……」

「10日後の12月25日。私は全世界に向けてメッセージを送る。そうすればもう、私に逆らう事の出来る人間は居なくなるだろう。」

「メッセージ……?」

「そう。その日、真の神(ゴッド)が誕生する。その時に神の隣に居るのは可憐、君だよ。」

「君こそ神の従者に相応しい選ばれた人間だ。」


【襲撃開始編②】

西暦2042年12月20日

昼下がりのファミレスで3人の高校生がお茶をしている。

神代 麗(かみしろ れい)
日賀 タケル(ひが たける)
エミリー・エヴァリーナ

イケメン男子高生のタケルが口を開く。

「世界中に出現している黒い化物。学校に現れた化物と同じ性質のものだろう。」

タケルに答えるのは神代 麗。

「原因はおそらくパンドラの箱。そしてパンドラの箱を利用しているのは北条 月影(ほうじょう つきかげ)、月影を倒さなければ事件は解決しないと思われます。」

「神代……、だいたいの事情は分かっている。しかし、俺達3人で何が出来る。相手は一国の総理大臣。月影を倒すと言う事は日本国全体を敵に回すと言う事だ。」

「それは仕方がありません。しかし、このままでは日本は疎か全世界が月影の支配下に置かれるでしょう。世界を救う為には彼を倒すしかありません。」

「しかし……」

「タケル!何も心配する事は無いわ!エミリーと麗ちゃんの二人が居ればどんな敵が現れようとコテンパンにやっつけるんだから!魔女無双伝説の始まりよ!!」

エミリーは真剣な表情で店員に言う。

「すみませーん、パフェおかわり下さい!!」

タケルは一人厳しい表情を崩さない。

そこへ1人の男。顔に大きな古傷を持つ長身の男が現れる。

「その話……、私も協力しよう。」

3人が振り向き男を見る。

「!………沖田……さん。生きていたんですか!?」

「勝手に人を殺すなよ日賀 タケル君。」

「あなた、あの時の秘密警察の方ですね……。」

麗の言葉に沖田はじっと麗の顔を眺める。

(この少女があの時の美しい女性……、神代 麗か。悪魔のような力と女神のような立ち振る舞い。まさか共闘する事になるとは思わなかったが。)

沖田は3人に向けて言う。

「既に……既に警視庁内部、いや政府関係機関の上層部は北条 月影(ほうじょう つきかげ)の精神支配術とやらにヤラれている。」

「月影(奴)の次なる狙いは世界だ。日本だけでなく奴は全世界を支配下に治めようとしている。」

「なんだって!?」

驚くタケル。

「しかしどうやって!そんな事が可能なのか!?」

沖田はひと呼吸おいて話を続ける。

「今度の25日。クリスマスの夜に月影が全世界に向けて演説を予定している。おそらく精神支配術か、もしくは何らかの術を使う可能性がある。」

「クリスマスの夜……、しかし、月影は新しく出来た総理公邸……シルバードームに閉じ篭っている。おそらく当日までは出て来ないだろう。どうやって月影を倒すんだ。」

タケルの質問に沖田が答える。

「演説は国会議事堂前の大広場にて行われる。当日、演説に現れた月影を襲うしか無いだろう。」

「当日……、全世界に生中継される中での襲撃か……。」

「やむを得ない。シルバードームを襲撃するよりは可能性がある。奴を殺す為だ。」





西暦2042年 12月24日

クリスマス・イヴ

総理公邸 白銀の要塞(シルバードーム)

明日の演説に備えて月影が眠りについた頃、1人の少年がドームの前に現れた。


少年の名は『ゼロ』

彼の本名は誰も知らない。当の本人ですら自らの名前が分からない。


沖田やタケル、麗にエミリーが襲撃するのを諦めた鉄壁の要塞『シルバードーム』。

自衛隊の特殊部隊に守られ最先端の科学技術を駆使して建てられたこのドームに…



少年はたった1人で戦闘を仕掛ける―――



ゼロの広げた両腕が煌々と光り輝く。

「さぁ、始めましょうか。真の支配者は、偽の救世主なのか、新世界ローマ教会なのか……」




――――――戦争の始まりです。