【魔法少女登場編①】
西暦2042年7月
日本国警視庁公安本部
秘密警察官、沖田 栄治(おきた えいじ)と警視庁長官が密談をしていた。
「先の『デスウィルス』事件。またしても日本帝都学園。そして救世主月影(つきかげ)の登場。奴は長老派所属の神代一族(かみしろのいちぞく)の幹部。どう言う事でしょうか?」
沖田の質問に長官が答える。
「実はウィルス感染から回復した生徒達に聴き取りをしたところ、興味深い情報があってな。」
「…と、いいますと?」
「あの日、日本帝都学園にいた教員、生徒の全てがデスウィルスに感染したと言われている。しかし、実際にはそうでは無かった。」
長官は話を続ける。
「ウィルスに感染しても、ぼんやりと意識が残っている生徒が何人かいてな。その生徒達の証言では1人だけ自由に動いていた生徒がいたらしい。」
「1人だけ……、誰ですか?その生徒は。」
ふむと頷いて長官は生徒の名前を告げる。
「神代 麗(かみしろ れい)だよ。」
沖田はその名前にピクリと反応する。
長い歴史のある陰陽師の中でも、様々な超常現象を操り人外の力を持つと言われる神代一族(かみしろのいちぞく)。
その中でも類稀(たぐいまれ)なる能力を発揮して一族最高の能力者と言われる天才少女。
―――――神代 麗(かみしろ れい)
「では犯人は神代 麗だとでも?」
沖田が長官に質問をする。
「分からん。しかし、デスウィルスの消滅と北条 月影(ほうじょう つきかげ)の登場。神代一族(かみしろのいちぞく)が救世主を演出する為に周到に容易した計画の可能性が高い。」
「神代一族……、なんとも厄介な存在ですな。」
「世界中を騒がせた『デスウィルス事件』と救世主の登場。そして日本帝都学園の事件。全てはパンドラの箱を利用した長老派の仕業だろう。」
「長官、このままでは日本政府も我々警視庁も長老派の軍門に下ってしまいます。早急に手を打ちましょう。」
「沖田くん。まずは神代 麗……、彼女を拘束し真相を聞き出すのが先決だよ。」
「神代 麗をですか?しかしどうやって。彼女の能力には常人では太刀打ち出来ない。自衛隊の一個師団でも動かさないと……、我々警視庁でも総動員が必要でしょう。あまり目立った行動は長老派に邪魔される可能性が高い……。ここは私が……」
「まぁ待ちたまえ沖田くん。忘れたのかね?その為のエージェントだよ。あの2人の学生を日本帝都学園に編入させる。彼女の力なら神代麗を倒す事も可能だろう。」
沖田はゴクリと唾を呑み込んだ。
【魔法少女登場編②】
日賀 タケル(ひが たける)
私立関東学園2年3組所属。
運動神経抜群で野球部のエース。
少し冷たい印象のクールさは女生徒から人気がある。
しかし、タケルに言い寄る女生徒は1人も居ない。いや、告白をしようものなら半殺しにされるから。
いつも横にくっついている、黒いとんがり帽子と黒いローブのちっこい少女に。
彼女の名は エミリー・エヴァリーナ
タケルの両親の知り合いの子供らしいのだが、複雑な事情で引き取っているらしい。
同学年との事だが少し幼く見える。
タケルの高校は制服の無い学校のため、何を着ても自由なのだが、それにしても黒の帽子にローブとは何とも変わっている。
外国人の考える事はサッパリ分からない。
そんなある日、事件が起きる。
タケルのクラスメイトの1人健吾(けんご)が上級生から屋上に呼び出された。
校内でも有名な不良グループだ。
健吾は同じ野球部の仲間であったが、少し素行が悪かった。
それで不良グループに目を付けられたのだろう。
「タケル!頼む!一緒に来てくれないか!」
タケルは嫌そうな目で健吾を見やる。
「俺とお前の仲じゃないか!苦しみも悲しみも分かち合おう兄弟!」
随分と勝手な事を言う兄弟だ。
タケルはじっと健吾を見て答える。
「残念ながら俺は用事がある。勝手に死んで来い。」
すると健吾はニヤリと笑みを浮かべる。
「そうか、ならば仕方がない。エミリーちゃんに頼む事にするよ。」
なんて図々しい奴だ。
それにエミリーなんかに頼んだら先輩方は病院直行だろう。
「仕方ねぇな。付き合ってやるよ。」
「おー!さすが我が友よ!」
健吾は大袈裟に両手を広げた。
(こいつ、マジうざい…)
―――――放課後
タケルと健吾は屋上に行く。
そこには上級生の先輩が10人程たむろしていた。
(予想より人数多くね?)
タケルは健吾に耳打ちをする。
(大丈夫、大丈夫、タケルさんなら余裕っしょ!)
またしても健吾は勝手な事を言っている。
(ほんとマジうざい…)
タケルは先輩よりも健吾を殴りそうになる衝動を抑えた。
タケルの身体能力は抜群だった。
不良グループが束になって殴りかかっても、全く当たる気配が無い。
紙一重で交わした後にカウンターの一撃で次々と倒して行く。
「ふわぁあぁぁ…。」
健吾はあくびをしながらタケルの一方的な戦いを見学していた。
【魔法少女登場編③】
屋上での1件から2日後の土曜日。
タケルと健吾は街外れのゲームセンターに居た。エミリーも一緒だ。
野球部である2人は校内での喧嘩(実際にはタケルの一方的な暴力)により停学となっていた。もちろん野球部の練習も禁止となり暇を持て余していたのだ。
「エミリーちゃん、今日も可愛いね。」
健吾がいつものようにエミリーを口説いている。
エミリーはニコッと笑って健吾に手を差し伸べる。
「コイン無くなった。1000円ちょーだい。」
健吾はすっかりエミリーの財布代わりとなっていた。
(アホな奴だ。)
タケルが健吾に憐れみの視線を向けたその時、見た事のある集団を見つけた。
(おい!健吾!)
「どうした?タケル。」
(どうしたじゃねぇよ!先輩方だ!復讐に来やがった!)
タケル達を見つけた先輩達が近寄って来る。
手には木刀やらチェーンやら物騒な道具を抱えていた。
「おう!タケルに健吾!先日は世話になったな!」
「今日は女連れか、女を痛い目に合わせたく無かったら、大人しく言う事を聞け!」
「この人数で道具まで持って女を人質って…、情けない先輩だな。」
健吾が呟いた隣でタケルは青ざめる。
(バカやろう!何とかしないと死人が出るぞ!)
タケルの不安をよそに先輩の1人がエミリーの手をとって抱き寄せる。
「なかなか可愛いじゃねぇか。お嬢さん、大人しくしてたら怪我はさせねぇ。」
「ジローさん、怪我はさせなくても他の事はするんでしょ?」
不良達がニヤニヤと笑っている。
タケルだけでなく、今度は健吾も青ざめる。
(タケル…、救急車の手配を…。)
(もう遅えよバカ!)
エミリーは何やら呪文のような言葉を詠唱し始めた。すると店内にあった椅子やら灰皿が空に次々と浮かび上がった。
「ゲームの機械が床に固定されていて良かったな。」
とタケルが呟く。
すると空に浮いた椅子やら灰皿が物凄い勢いで不良グループに襲いかかった!
ガッコーンッ!!
バッコーンッ!!
「ぐわぁだぁっ!」
不良達の顔面に椅子が直撃する!
エミリーを抱き寄せていた先輩がエミリーの顔を見る。
「まさか、あなたが噂の魔法少女?」
エミリーはニコッと笑って先輩に話し掛ける。
「エミリーです。どうぞ宜しくね♪」
ドッゴォオォォーンッ!!
「ほんぎぁあぁぁぁっ!!!」
直後に隣のホールから飛んで来たボーリングの玉が先輩の頭を横殴りにした。
(あ!あれはヤバいな…)
タケルと健吾は同じ事を考えていた。
【魔法少女登場編④】
警察での事情聴取が終わった3人は昼下りの喫茶店でお茶をしていた。
幸い死者は出なかったものの、不良グループのリーダーは全治2ヶ月の重症である。
頭にボーリングの玉が直撃したから仕方がない。
「エミリーちゃん、そんなに落ち込むなって、あれは正当防衛なんだし。」
健吾がエミリーを慰める。
「正当防衛と言うか、あれは過剰防衛だけどな。」
タケルがため息をつく。
「このチョコパフェ美味しいね♪」
エミリーは聞いても居ない。
そもそもエミリーが落ち込んでいる理由は他にあった。
「あの程度の物体浮遊魔法で精神がクタクタになっちゃった。やっぱり東京だと調子が出ないわ。精霊の数が少ないもの。」
エミリーは2つ目のパフェに喰らい付いて言う。
「せめて……、せめて人間の魂さえあれば!」
「いや、さらっと怖い事を言うのは止めようねエミリーさん。」
タケルは うんざりしてエミリーに言う。
「人前で魔法は使うなと言っているだろう。それでなくても四六時中、警察に見張られているのに。」
エミリーの魔法能力は警察も把握していた。地元の警察官は常にエミリーの事を見張っているのだ。
エミリーはまだ悩んでいる。
「こんな事では法廷騎士団に対抗出来ないわ!うん、パフェお代わり!」
「またもや法廷騎士団?いったい何と戦ってるんだ?」とタケル。
「パフェのお金って誰が出すの?やっぱり俺?」と健吾。
するとエミリーは何かのスイッチが入った様に熱弁を繰り広げる。
「法廷騎士団を甘く見ない事ね。何人の仲間が魔女狩りと称して奴らに捕まった事か!」
「あの日の事は忘れられないわ。何万人もの騎士団と私達魔女との最期の戦い!」
「私以外の魔女は皆、殺されてしまった。私を殺すのは無理と判断したのか、異空間に閉じ込められてしまったの。あぁ、不覚!!」
「いや、知らない人が聞いたら完全に中二病だから、恥ずかしいから止めようね。」
タケルはウンザリして口を挟む。
「小遣い前だから、そろそろパフェ食べるの止めにしませんか?エミリーさん。」
健吾も青ざめている。
(それにしても……)
タケルは妙な胸騒ぎがした。
健吾と別れ自宅へ戻るタケルとエミリー。
そこに1人の警察官が現れた。
先程の地元の警察官とは明らかに違う雰囲気だ。
「日賀 タケル君、そしてエミリー・エヴァリーナさんだね。かねがね噂は聞いているよ。」
「さっきから人の気配がすると思ったら………、あんた、もしや?」
タケルが男の顔をじろりと見る。
「私は公安所属、秘密警察官の沖田 栄治(おきた えいじ)だ。」
「そう……
君達と同じエージェントだ。」
タケルは顔をしかめて沖田に言う。
「俺達と同じエージェントが自ら会いに来るなんて珍しいな。よほど重大な事件でもあったのかい?」
「まさか!法廷騎士団が現れたのでは!!」
「いや、エミリーさん、黙っててくれる?」
「実は………」
沖田は事の経緯(いきさつ)を2人に説明する。
「なるほどね。その神代 麗って奴を捕らえて真相を聞き出すと。」とタケル。
「油断するな。彼女の能力を甘く見ると返り討ちに合う。もし殺られそうになったら、場合によっては……」
―――――――殺しても構わん。
「日本帝都学園への編入準備はこちらでする。二学期からは君達は日本帝都学園の生徒になる。」
「ふん…」
タケルは鼻を鳴らして言う。
「殺しても構わんとは随分と物騒だな。まぁ、俺達2人がいれば、たかが女子高生1人に負ける事は無いと思うぜ?」
「そうだな……。幸運を祈る。」
神代 麗(かみしろ れい)
エミリー・エヴァリーナ
東洋と西洋の類稀(たぐいまれ)なる天賦の才能を持つ2人の天才少女が、時代(とき)を超えて交錯するまで
――――――――あと、わずか。

イラスト提供、ルイン様
西暦2042年7月
日本国警視庁公安本部
秘密警察官、沖田 栄治(おきた えいじ)と警視庁長官が密談をしていた。
「先の『デスウィルス』事件。またしても日本帝都学園。そして救世主月影(つきかげ)の登場。奴は長老派所属の神代一族(かみしろのいちぞく)の幹部。どう言う事でしょうか?」
沖田の質問に長官が答える。
「実はウィルス感染から回復した生徒達に聴き取りをしたところ、興味深い情報があってな。」
「…と、いいますと?」
「あの日、日本帝都学園にいた教員、生徒の全てがデスウィルスに感染したと言われている。しかし、実際にはそうでは無かった。」
長官は話を続ける。
「ウィルスに感染しても、ぼんやりと意識が残っている生徒が何人かいてな。その生徒達の証言では1人だけ自由に動いていた生徒がいたらしい。」
「1人だけ……、誰ですか?その生徒は。」
ふむと頷いて長官は生徒の名前を告げる。
「神代 麗(かみしろ れい)だよ。」
沖田はその名前にピクリと反応する。
長い歴史のある陰陽師の中でも、様々な超常現象を操り人外の力を持つと言われる神代一族(かみしろのいちぞく)。
その中でも類稀(たぐいまれ)なる能力を発揮して一族最高の能力者と言われる天才少女。
―――――神代 麗(かみしろ れい)
「では犯人は神代 麗だとでも?」
沖田が長官に質問をする。
「分からん。しかし、デスウィルスの消滅と北条 月影(ほうじょう つきかげ)の登場。神代一族(かみしろのいちぞく)が救世主を演出する為に周到に容易した計画の可能性が高い。」
「神代一族……、なんとも厄介な存在ですな。」
「世界中を騒がせた『デスウィルス事件』と救世主の登場。そして日本帝都学園の事件。全てはパンドラの箱を利用した長老派の仕業だろう。」
「長官、このままでは日本政府も我々警視庁も長老派の軍門に下ってしまいます。早急に手を打ちましょう。」
「沖田くん。まずは神代 麗……、彼女を拘束し真相を聞き出すのが先決だよ。」
「神代 麗をですか?しかしどうやって。彼女の能力には常人では太刀打ち出来ない。自衛隊の一個師団でも動かさないと……、我々警視庁でも総動員が必要でしょう。あまり目立った行動は長老派に邪魔される可能性が高い……。ここは私が……」
「まぁ待ちたまえ沖田くん。忘れたのかね?その為のエージェントだよ。あの2人の学生を日本帝都学園に編入させる。彼女の力なら神代麗を倒す事も可能だろう。」
沖田はゴクリと唾を呑み込んだ。
【魔法少女登場編②】
日賀 タケル(ひが たける)
私立関東学園2年3組所属。
運動神経抜群で野球部のエース。
少し冷たい印象のクールさは女生徒から人気がある。
しかし、タケルに言い寄る女生徒は1人も居ない。いや、告白をしようものなら半殺しにされるから。
いつも横にくっついている、黒いとんがり帽子と黒いローブのちっこい少女に。
彼女の名は エミリー・エヴァリーナ
タケルの両親の知り合いの子供らしいのだが、複雑な事情で引き取っているらしい。
同学年との事だが少し幼く見える。
タケルの高校は制服の無い学校のため、何を着ても自由なのだが、それにしても黒の帽子にローブとは何とも変わっている。
外国人の考える事はサッパリ分からない。
そんなある日、事件が起きる。
タケルのクラスメイトの1人健吾(けんご)が上級生から屋上に呼び出された。
校内でも有名な不良グループだ。
健吾は同じ野球部の仲間であったが、少し素行が悪かった。
それで不良グループに目を付けられたのだろう。
「タケル!頼む!一緒に来てくれないか!」
タケルは嫌そうな目で健吾を見やる。
「俺とお前の仲じゃないか!苦しみも悲しみも分かち合おう兄弟!」
随分と勝手な事を言う兄弟だ。
タケルはじっと健吾を見て答える。
「残念ながら俺は用事がある。勝手に死んで来い。」
すると健吾はニヤリと笑みを浮かべる。
「そうか、ならば仕方がない。エミリーちゃんに頼む事にするよ。」
なんて図々しい奴だ。
それにエミリーなんかに頼んだら先輩方は病院直行だろう。
「仕方ねぇな。付き合ってやるよ。」
「おー!さすが我が友よ!」
健吾は大袈裟に両手を広げた。
(こいつ、マジうざい…)
―――――放課後
タケルと健吾は屋上に行く。
そこには上級生の先輩が10人程たむろしていた。
(予想より人数多くね?)
タケルは健吾に耳打ちをする。
(大丈夫、大丈夫、タケルさんなら余裕っしょ!)
またしても健吾は勝手な事を言っている。
(ほんとマジうざい…)
タケルは先輩よりも健吾を殴りそうになる衝動を抑えた。
タケルの身体能力は抜群だった。
不良グループが束になって殴りかかっても、全く当たる気配が無い。
紙一重で交わした後にカウンターの一撃で次々と倒して行く。
「ふわぁあぁぁ…。」
健吾はあくびをしながらタケルの一方的な戦いを見学していた。
【魔法少女登場編③】
屋上での1件から2日後の土曜日。
タケルと健吾は街外れのゲームセンターに居た。エミリーも一緒だ。
野球部である2人は校内での喧嘩(実際にはタケルの一方的な暴力)により停学となっていた。もちろん野球部の練習も禁止となり暇を持て余していたのだ。
「エミリーちゃん、今日も可愛いね。」
健吾がいつものようにエミリーを口説いている。
エミリーはニコッと笑って健吾に手を差し伸べる。
「コイン無くなった。1000円ちょーだい。」
健吾はすっかりエミリーの財布代わりとなっていた。
(アホな奴だ。)
タケルが健吾に憐れみの視線を向けたその時、見た事のある集団を見つけた。
(おい!健吾!)
「どうした?タケル。」
(どうしたじゃねぇよ!先輩方だ!復讐に来やがった!)
タケル達を見つけた先輩達が近寄って来る。
手には木刀やらチェーンやら物騒な道具を抱えていた。
「おう!タケルに健吾!先日は世話になったな!」
「今日は女連れか、女を痛い目に合わせたく無かったら、大人しく言う事を聞け!」
「この人数で道具まで持って女を人質って…、情けない先輩だな。」
健吾が呟いた隣でタケルは青ざめる。
(バカやろう!何とかしないと死人が出るぞ!)
タケルの不安をよそに先輩の1人がエミリーの手をとって抱き寄せる。
「なかなか可愛いじゃねぇか。お嬢さん、大人しくしてたら怪我はさせねぇ。」
「ジローさん、怪我はさせなくても他の事はするんでしょ?」
不良達がニヤニヤと笑っている。
タケルだけでなく、今度は健吾も青ざめる。
(タケル…、救急車の手配を…。)
(もう遅えよバカ!)
エミリーは何やら呪文のような言葉を詠唱し始めた。すると店内にあった椅子やら灰皿が空に次々と浮かび上がった。
「ゲームの機械が床に固定されていて良かったな。」
とタケルが呟く。
すると空に浮いた椅子やら灰皿が物凄い勢いで不良グループに襲いかかった!
ガッコーンッ!!
バッコーンッ!!
「ぐわぁだぁっ!」
不良達の顔面に椅子が直撃する!
エミリーを抱き寄せていた先輩がエミリーの顔を見る。
「まさか、あなたが噂の魔法少女?」
エミリーはニコッと笑って先輩に話し掛ける。
「エミリーです。どうぞ宜しくね♪」
ドッゴォオォォーンッ!!
「ほんぎぁあぁぁぁっ!!!」
直後に隣のホールから飛んで来たボーリングの玉が先輩の頭を横殴りにした。
(あ!あれはヤバいな…)
タケルと健吾は同じ事を考えていた。
【魔法少女登場編④】
警察での事情聴取が終わった3人は昼下りの喫茶店でお茶をしていた。
幸い死者は出なかったものの、不良グループのリーダーは全治2ヶ月の重症である。
頭にボーリングの玉が直撃したから仕方がない。
「エミリーちゃん、そんなに落ち込むなって、あれは正当防衛なんだし。」
健吾がエミリーを慰める。
「正当防衛と言うか、あれは過剰防衛だけどな。」
タケルがため息をつく。
「このチョコパフェ美味しいね♪」
エミリーは聞いても居ない。
そもそもエミリーが落ち込んでいる理由は他にあった。
「あの程度の物体浮遊魔法で精神がクタクタになっちゃった。やっぱり東京だと調子が出ないわ。精霊の数が少ないもの。」
エミリーは2つ目のパフェに喰らい付いて言う。
「せめて……、せめて人間の魂さえあれば!」
「いや、さらっと怖い事を言うのは止めようねエミリーさん。」
タケルは うんざりしてエミリーに言う。
「人前で魔法は使うなと言っているだろう。それでなくても四六時中、警察に見張られているのに。」
エミリーの魔法能力は警察も把握していた。地元の警察官は常にエミリーの事を見張っているのだ。
エミリーはまだ悩んでいる。
「こんな事では法廷騎士団に対抗出来ないわ!うん、パフェお代わり!」
「またもや法廷騎士団?いったい何と戦ってるんだ?」とタケル。
「パフェのお金って誰が出すの?やっぱり俺?」と健吾。
するとエミリーは何かのスイッチが入った様に熱弁を繰り広げる。
「法廷騎士団を甘く見ない事ね。何人の仲間が魔女狩りと称して奴らに捕まった事か!」
「あの日の事は忘れられないわ。何万人もの騎士団と私達魔女との最期の戦い!」
「私以外の魔女は皆、殺されてしまった。私を殺すのは無理と判断したのか、異空間に閉じ込められてしまったの。あぁ、不覚!!」
「いや、知らない人が聞いたら完全に中二病だから、恥ずかしいから止めようね。」
タケルはウンザリして口を挟む。
「小遣い前だから、そろそろパフェ食べるの止めにしませんか?エミリーさん。」
健吾も青ざめている。
(それにしても……)
タケルは妙な胸騒ぎがした。
健吾と別れ自宅へ戻るタケルとエミリー。
そこに1人の警察官が現れた。
先程の地元の警察官とは明らかに違う雰囲気だ。
「日賀 タケル君、そしてエミリー・エヴァリーナさんだね。かねがね噂は聞いているよ。」
「さっきから人の気配がすると思ったら………、あんた、もしや?」
タケルが男の顔をじろりと見る。
「私は公安所属、秘密警察官の沖田 栄治(おきた えいじ)だ。」
「そう……
君達と同じエージェントだ。」
タケルは顔をしかめて沖田に言う。
「俺達と同じエージェントが自ら会いに来るなんて珍しいな。よほど重大な事件でもあったのかい?」
「まさか!法廷騎士団が現れたのでは!!」
「いや、エミリーさん、黙っててくれる?」
「実は………」
沖田は事の経緯(いきさつ)を2人に説明する。
「なるほどね。その神代 麗って奴を捕らえて真相を聞き出すと。」とタケル。
「油断するな。彼女の能力を甘く見ると返り討ちに合う。もし殺られそうになったら、場合によっては……」
―――――――殺しても構わん。
「日本帝都学園への編入準備はこちらでする。二学期からは君達は日本帝都学園の生徒になる。」
「ふん…」
タケルは鼻を鳴らして言う。
「殺しても構わんとは随分と物騒だな。まぁ、俺達2人がいれば、たかが女子高生1人に負ける事は無いと思うぜ?」
「そうだな……。幸運を祈る。」
神代 麗(かみしろ れい)
エミリー・エヴァリーナ
東洋と西洋の類稀(たぐいまれ)なる天賦の才能を持つ2人の天才少女が、時代(とき)を超えて交錯するまで
――――――――あと、わずか。

イラスト提供、ルイン様