【ロミオとジュリエット前編①】
武井 秀斗(たけい しゅうと)。
優秀な生徒が集まる日本帝都学園を特待生として入学。幼少の頃より天才少年として騒がれて来た秀斗は少し荒れていた。
(あの野郎…、あの通り魔を倒すのは俺だったはずだ。それを横からしゃしゃり出やがって。)
秀斗が通り魔に殴り掛かろうとした時、長身の男が突然 現れた。
その男は秀斗の拳を片手で受け止めると、もう片方の手の平で通り魔の突き出した包丁を受け止めた。
(あれは完全に包丁が突き刺さっていただろう?それを平気な顔して通り魔を取り押さえやがった。あいつ、何者だ…。)
「可憐ちゃん、おはよう!」
「可憐ちゃん、今日も可愛いね♪」
高校2年生になった夢野 可憐(ゆめの かれん)。日本を代表するトップアイドルは今日もクラスの女生徒達の中心にいた。
「それより聞いた?山野さんのお父さん亡くなったって話!」
「桜ちゃんが居なくなって後追い自殺したって話よ。」
「娘の後を追って死ぬなんて、凄い親子愛よね。」
クラスメイトの山野桜が卒業式の日に亡くなったのは、ほんの3ヶ月前の話だ。
桜と仲の良かった可憐には、この話題を平気でする女生徒達の気がしれない。
耳を塞ぎたいのを我慢して可憐はにこやかな笑顔を振りまいている。
「おい!テメェ等!ギャーギャーうるせぇぞ!低脳な奴等は黙って勉強でもしてろ!」
そこに秀斗が怒鳴り声を上げる。
「なにあれ?」
「なに苛ついてるの?」
「霞(かすみ)が休みだから荒れてるんじゃない?」
「ほっときましょ、可憐ちゃんも気にしないでね。」
可憐は少し驚いて秀斗の方を見ると秀斗と目が合い慌てて下を向く。
(秀斗君も桜ちゃんの話題が気に入らなかったのかな?……まさかね。)
それにしても、最近のこの学校は何かがおかしい。学校の関係者が妙に事件に巻き込まれる。しかも殺人事件だとか自殺だとか、人が死ぬような大事件だ。
そして可憐の知らない所でも事件は起こっていた。
【ロミオとジュリエット前編②】
舞台は14世紀
イタリアの都市
―――――――ヴェローナ
それは鮮やかな
とても鮮やかな月の光がジュリエットを照らしていた。
そんな息を呑むほどの美しい青い月の夜の物語。
バルコニーから飛び降りた時から決められていた終焉。
あぁ、愛しのジュリエット―――
最愛の人を失ったロミオは狂気と絶望の中で自ら毒を口に含む。
それは甘くて切ない恋人への祝杯。
愛する者との最期の――
――――――――口づけ
しかし悲劇の物語は終わりませんでした。
ロミオの病は人に感染するものだったのです。
究極の恋の病は仮死状態にあったジュリエットに受け継がれる。
目を覚ましたジュリエットはロミオの死を見て愕然とする。
あぁ、愛しのロミオ――――
そして同じ道を選びます。
ロミオの腕の中で逝けるのならこんなに幸せな事はありません。
2人は死を持って真実の愛を証明して見せました。
何よりも尊い絶望の中の死。
――――――真実の愛
――――――ロミオとジュリエット
END
「愛する人の為に死ぬなんて…」
(………ちょっと素敵よね。)
志保は読み終えた本をパタンと閉じて枕元に置いた。
日本帝都学園中等部
1年B組 雪白 志保(ゆきしろ しほ)。
頭脳明晰、明朗闊達、学級代表を務める志保はクラスでも人気者である。
入学前からその将来性を買われ、特待生として帝都学園へ入学した。
これは高等部に通う武井秀斗以来、学園として2例目の快挙である。
しかし志保が帝都学園に入学したのは他に理由があった。
滋賀 健太(しが けんた)。
健太は線の細い虚弱体質な男の子で子供の頃からイジメを受けていた。
正義感の強い志保は健太をイジメている男子とよく喧嘩をしたものだ。
健太には母性本能をくすぐる何かがあるのかもしれない。
ある日、健太が志保に打ち明けた話には少し驚いた。
「志保、俺さ中学校は帝都学園に行こうと思うんだ。」
「え?帝都学園?あの日本帝都学園!?」
驚くのも無理は無い。帝都学園に入学するには全国でもトップクラスの成績を残すか、スポーツやその他の分野で秀でた活躍をしていなければ難しい。
この時、実は志保の元に帝都学園から特待生として受け入れるとの案内が来ていた。しかし志保は帝都学園に行く気は無い。健太と同じ地元の中学校に通うつもりでいた。
(健太には話していなかったと思うけど、どこかでバレたかな?)
志保がそんな事を思っていると、健太は続けて志保に打ち明ける。
「まぁ驚くのも無理は無い。俺の学力だと厳しいからね。」
「う…うん。一緒に地元の中学校へ行きましょ。帝都学園なんて何か堅苦しいじゃない。」
「実はさ…、言いにくいんだけど、コネがあるんだ。」
「……コネ?」
「志保、聞いたよ。帝都学園から誘われているんだろ?俺の親父は政治家だから、色々な情報が入って来るのさ。」
「えー!情報って…政治家って凄いのね。」
「はは、だからさ志保も帝都学園へ行こう。断るつもりなんだろ?」
「えー!そんな事まで知っているの!?個人情報保護法はどこ行った?」
健太が日本帝都学園に入れたのは政治家である父親のお陰であった。それは志保を帝都学園へ入学させる為の策略であったのかもしれない。
こうして志保と健太の2人は日本帝都学園中等部へ入学した。
全国でも優秀な生徒が集まる日本帝都学園。
父親のコネで入学した健太は明らかに他の生徒よりも学力で劣っていた。
そしてもともと線の細い虐められ体質。
帝都学園の生徒は優秀ではあるが、そこはまだ中学生。コネで入学した健太は格好のイジメの対象となった。
イジメは日に日にエスカレートして行く――
【ロミオとジュリエット前編③】
コネで入学した健太への不満。
父親が政治家で金持ちだと言う妬み。
虚弱体質へのからかい。
授業について行けない学力への嘲り。
そこに学年でも人気のある志保と仲が良い事への嫉妬が加わる。
最初は机の上への落書きから始まったイジメも、3学期が終わる頃には絶望的なまでに発展していた。
「うげっ!こいつゴキブリを喰いやがったぞ!」
「本当は好きなんじゃねぇの?もっと食わせようぜ!」
中学一年生の健太には集団イジメに抵抗する術が思い付かない。
そんな時に1人の生徒が思い付いたように言葉を発する。
「そう言えば、先日の変死事件…見たか?」
「高等部で起きた男女がくっついたってやつだろ。見てないけどグロいよな。」
「健太もよ、志保とくっつきたいんじゃねぇの?」
「おー、いいね!健太も大好きな志保とくっついて一緒に死ねたら本望だろうよ。」
「志保も喜ぶぜ!なんてったって身体が合体するんだからな。どうせなら裸で実践して見せてくれよ。ハハハ。」
男子生徒の中傷の言葉が続く。
「………やめろ。」
「ん?何か言ったか?」
「………やめろ。」
「志保の悪口を言うのを止めろ!!」
健太は男子生徒の1人に殴り掛かる。
「うぉ!あぶねー!何だこいつ急に怒りやがって。」
「皆でやっちまおうぜ!」
男子生徒達は集団で健太を殴る蹴るの暴行を加える。
もう、健太は生きる気力を失っていた。
西暦2042年3月20日
日本帝都学園中等部
修了式
健太は誰も居ない学校の屋上で雲を見ていた。
(死のう………)
健太はクラスメイトへの恨みの手紙を机の中に残し屋上に上っていた。
唯一の心残りは幼馴染の志保への恋心をきちんと伝えられなかった事。
他に未練は無い。
この学校で生きるより死んだ方がどれだけ幸せだろうか。
一人息子の健太が死んだら大物政治家である父親は困るだろうか?
健太が足を踏み出そうとした時、屋上の扉がバタンと開いた。
「ケンちゃん!」
「志保!?」
「なにバカな事をしてるのよ!
様子がオカシイと思って机の中を見たら遺書なんて書いて!」
「明日から春休みじゃない。クラス替えもあるわ。イジメだってそのうち無くなるわ。いいえ、私が無くしてみせる。守ってあげるから!」
志保は目に溢れる涙を拭いもせず言葉を続ける。
「ケンちゃんの苦しみを私にも分けて。お願いだから変な事を考えないで!」
健太の目にも涙が浮かんでいた。
誰も居ない学校の屋上で2人は惹き付けられるように抱き合い熱い抱擁を交わす。
それは甘くて切ない恋人への祝杯。
愛する者との最初で最期の――
――――――――口づけ
ロミオとジュリエット編
後編へ続く
武井 秀斗(たけい しゅうと)。
優秀な生徒が集まる日本帝都学園を特待生として入学。幼少の頃より天才少年として騒がれて来た秀斗は少し荒れていた。
(あの野郎…、あの通り魔を倒すのは俺だったはずだ。それを横からしゃしゃり出やがって。)
秀斗が通り魔に殴り掛かろうとした時、長身の男が突然 現れた。
その男は秀斗の拳を片手で受け止めると、もう片方の手の平で通り魔の突き出した包丁を受け止めた。
(あれは完全に包丁が突き刺さっていただろう?それを平気な顔して通り魔を取り押さえやがった。あいつ、何者だ…。)
「可憐ちゃん、おはよう!」
「可憐ちゃん、今日も可愛いね♪」
高校2年生になった夢野 可憐(ゆめの かれん)。日本を代表するトップアイドルは今日もクラスの女生徒達の中心にいた。
「それより聞いた?山野さんのお父さん亡くなったって話!」
「桜ちゃんが居なくなって後追い自殺したって話よ。」
「娘の後を追って死ぬなんて、凄い親子愛よね。」
クラスメイトの山野桜が卒業式の日に亡くなったのは、ほんの3ヶ月前の話だ。
桜と仲の良かった可憐には、この話題を平気でする女生徒達の気がしれない。
耳を塞ぎたいのを我慢して可憐はにこやかな笑顔を振りまいている。
「おい!テメェ等!ギャーギャーうるせぇぞ!低脳な奴等は黙って勉強でもしてろ!」
そこに秀斗が怒鳴り声を上げる。
「なにあれ?」
「なに苛ついてるの?」
「霞(かすみ)が休みだから荒れてるんじゃない?」
「ほっときましょ、可憐ちゃんも気にしないでね。」
可憐は少し驚いて秀斗の方を見ると秀斗と目が合い慌てて下を向く。
(秀斗君も桜ちゃんの話題が気に入らなかったのかな?……まさかね。)
それにしても、最近のこの学校は何かがおかしい。学校の関係者が妙に事件に巻き込まれる。しかも殺人事件だとか自殺だとか、人が死ぬような大事件だ。
そして可憐の知らない所でも事件は起こっていた。
【ロミオとジュリエット前編②】
舞台は14世紀
イタリアの都市
―――――――ヴェローナ
それは鮮やかな
とても鮮やかな月の光がジュリエットを照らしていた。
そんな息を呑むほどの美しい青い月の夜の物語。
バルコニーから飛び降りた時から決められていた終焉。
あぁ、愛しのジュリエット―――
最愛の人を失ったロミオは狂気と絶望の中で自ら毒を口に含む。
それは甘くて切ない恋人への祝杯。
愛する者との最期の――
――――――――口づけ
しかし悲劇の物語は終わりませんでした。
ロミオの病は人に感染するものだったのです。
究極の恋の病は仮死状態にあったジュリエットに受け継がれる。
目を覚ましたジュリエットはロミオの死を見て愕然とする。
あぁ、愛しのロミオ――――
そして同じ道を選びます。
ロミオの腕の中で逝けるのならこんなに幸せな事はありません。
2人は死を持って真実の愛を証明して見せました。
何よりも尊い絶望の中の死。
――――――真実の愛
――――――ロミオとジュリエット
END
「愛する人の為に死ぬなんて…」
(………ちょっと素敵よね。)
志保は読み終えた本をパタンと閉じて枕元に置いた。
日本帝都学園中等部
1年B組 雪白 志保(ゆきしろ しほ)。
頭脳明晰、明朗闊達、学級代表を務める志保はクラスでも人気者である。
入学前からその将来性を買われ、特待生として帝都学園へ入学した。
これは高等部に通う武井秀斗以来、学園として2例目の快挙である。
しかし志保が帝都学園に入学したのは他に理由があった。
滋賀 健太(しが けんた)。
健太は線の細い虚弱体質な男の子で子供の頃からイジメを受けていた。
正義感の強い志保は健太をイジメている男子とよく喧嘩をしたものだ。
健太には母性本能をくすぐる何かがあるのかもしれない。
ある日、健太が志保に打ち明けた話には少し驚いた。
「志保、俺さ中学校は帝都学園に行こうと思うんだ。」
「え?帝都学園?あの日本帝都学園!?」
驚くのも無理は無い。帝都学園に入学するには全国でもトップクラスの成績を残すか、スポーツやその他の分野で秀でた活躍をしていなければ難しい。
この時、実は志保の元に帝都学園から特待生として受け入れるとの案内が来ていた。しかし志保は帝都学園に行く気は無い。健太と同じ地元の中学校に通うつもりでいた。
(健太には話していなかったと思うけど、どこかでバレたかな?)
志保がそんな事を思っていると、健太は続けて志保に打ち明ける。
「まぁ驚くのも無理は無い。俺の学力だと厳しいからね。」
「う…うん。一緒に地元の中学校へ行きましょ。帝都学園なんて何か堅苦しいじゃない。」
「実はさ…、言いにくいんだけど、コネがあるんだ。」
「……コネ?」
「志保、聞いたよ。帝都学園から誘われているんだろ?俺の親父は政治家だから、色々な情報が入って来るのさ。」
「えー!情報って…政治家って凄いのね。」
「はは、だからさ志保も帝都学園へ行こう。断るつもりなんだろ?」
「えー!そんな事まで知っているの!?個人情報保護法はどこ行った?」
健太が日本帝都学園に入れたのは政治家である父親のお陰であった。それは志保を帝都学園へ入学させる為の策略であったのかもしれない。
こうして志保と健太の2人は日本帝都学園中等部へ入学した。
全国でも優秀な生徒が集まる日本帝都学園。
父親のコネで入学した健太は明らかに他の生徒よりも学力で劣っていた。
そしてもともと線の細い虐められ体質。
帝都学園の生徒は優秀ではあるが、そこはまだ中学生。コネで入学した健太は格好のイジメの対象となった。
イジメは日に日にエスカレートして行く――
【ロミオとジュリエット前編③】
コネで入学した健太への不満。
父親が政治家で金持ちだと言う妬み。
虚弱体質へのからかい。
授業について行けない学力への嘲り。
そこに学年でも人気のある志保と仲が良い事への嫉妬が加わる。
最初は机の上への落書きから始まったイジメも、3学期が終わる頃には絶望的なまでに発展していた。
「うげっ!こいつゴキブリを喰いやがったぞ!」
「本当は好きなんじゃねぇの?もっと食わせようぜ!」
中学一年生の健太には集団イジメに抵抗する術が思い付かない。
そんな時に1人の生徒が思い付いたように言葉を発する。
「そう言えば、先日の変死事件…見たか?」
「高等部で起きた男女がくっついたってやつだろ。見てないけどグロいよな。」
「健太もよ、志保とくっつきたいんじゃねぇの?」
「おー、いいね!健太も大好きな志保とくっついて一緒に死ねたら本望だろうよ。」
「志保も喜ぶぜ!なんてったって身体が合体するんだからな。どうせなら裸で実践して見せてくれよ。ハハハ。」
男子生徒の中傷の言葉が続く。
「………やめろ。」
「ん?何か言ったか?」
「………やめろ。」
「志保の悪口を言うのを止めろ!!」
健太は男子生徒の1人に殴り掛かる。
「うぉ!あぶねー!何だこいつ急に怒りやがって。」
「皆でやっちまおうぜ!」
男子生徒達は集団で健太を殴る蹴るの暴行を加える。
もう、健太は生きる気力を失っていた。
西暦2042年3月20日
日本帝都学園中等部
修了式
健太は誰も居ない学校の屋上で雲を見ていた。
(死のう………)
健太はクラスメイトへの恨みの手紙を机の中に残し屋上に上っていた。
唯一の心残りは幼馴染の志保への恋心をきちんと伝えられなかった事。
他に未練は無い。
この学校で生きるより死んだ方がどれだけ幸せだろうか。
一人息子の健太が死んだら大物政治家である父親は困るだろうか?
健太が足を踏み出そうとした時、屋上の扉がバタンと開いた。
「ケンちゃん!」
「志保!?」
「なにバカな事をしてるのよ!
様子がオカシイと思って机の中を見たら遺書なんて書いて!」
「明日から春休みじゃない。クラス替えもあるわ。イジメだってそのうち無くなるわ。いいえ、私が無くしてみせる。守ってあげるから!」
志保は目に溢れる涙を拭いもせず言葉を続ける。
「ケンちゃんの苦しみを私にも分けて。お願いだから変な事を考えないで!」
健太の目にも涙が浮かんでいた。
誰も居ない学校の屋上で2人は惹き付けられるように抱き合い熱い抱擁を交わす。
それは甘くて切ない恋人への祝杯。
愛する者との最初で最期の――
――――――――口づけ
ロミオとジュリエット編
後編へ続く