異世界戦記 GOD AND DEVIL24

【ゴッドタウンの化物編①】

悪魔の王様ルシファーの放った「闇の波動」により抉り取られた大地。

あまりにも強力な闇の魔法は、この一帯の全てを塵へと変えた。

小高い丘は消滅し、広大な範囲に渡り草木や土の中に居る微生物さえも死に絶えたに違いない。

マリー、サラ、ゼクシード、シャルロット、カイザー、ヘンリー、チンドウ。

7人の戦士達も――――




何もかもが消滅した大地に声が響く。

「危なかったわね……、もう少し遅れていたら全滅でした。」

「シャルロット…、今の魔法は?」

「――次元移動」

「次元移動?」

「皆さんを連れて行けるかどうかは大きな賭けでしたが、何とか成功したようです。」



何も無い大地に7人の戦士が姿を現す。


ルシファーが「闇の波動」を放った瞬間、シャルロットが光を上回る速さで仲間の戦士達を時空の世界へ連れ出した。

さすがのルシファーも時空へ消えた戦士達を感知する事は出来なかったらしい。


「シャルロット…いつの間にそんな魔法を……。」

「それより…」

カイザーが言葉を発する。

「アゼルの奴……、まさか悪魔だったとは…。」

「人類を滅亡させるとか言っていたわ。私がルシファーなんて召喚するから…。」

涙を流すマリー。

「どうやらパンドラの箱を開けてしまったようじゃの。」とチンドウ。

「パンドラの箱……、パンドーラ軍か…。アゼルの奴、最初からこうなる事を分かってて反乱軍を…ふざけやがって!」

カイザーは唇を噛む。

「マリー、気にするな。それより奴ら…、2人の悪魔をどうやって倒すかだ。」とサラ。

「無理ですよ。あんなに強かった天使をあっさりと倒すような奴らです。神様でも無い限りあいつらを倒すなんて!」

ヘンリーは泣き言を言う。

しんと静まり返る7人。



「私が……」



「私が行きます。」


シャルロットがレイピアを構えて立ち上がる。

「待って、シャルロット。無茶よ!」

とマリーがシャルロットの手を掴む。

「ですが!他に誰が奴等に勝てるとでも言うのですか!私なら例え確率が低くても可能性はゼロじゃない!」

「無理だ……、人間では奴等に勝てない。可能性はゼロだ。」とサラ。


「人間では勝てない……か。」

ゼクシードが呟いた。

(そう言えば、かつてブラハムの奴がおかしな事を言っていたな……。)

「可能性は限りなく低いが、試してみる価値は有りそうだ。やってみるか。」

ゼクシードを除く6人の戦士達がゼクシードの方を見る。

悪魔を倒す為の秘策をゼクシードは打ち明けた。



【ゴッドタウンの化物編②】

聖なる泉―――


ヴァルハラ王国の剣聖は泉から強力な魔法を与えられて来た。


剣聖シュウの能力は広範囲に雷(イカズチ)を放つ「雷神剣」。
本来、魔法の使えない騎士であるシュウが雷を放つ事が出来たのは聖なる泉によって魔法を授けられたからだ。

チンドウは言う。

「魔法耐性の無い人間に魔法の能力を付与するのは無理じゃな……。」

「やはりダメか…」

項垂れるゼクシード。

「しかし…」

チンドウは話を続ける。

「一度きりで良いのであれば、大剣に魔法を付与する事は可能じゃ。ここに居る6人が一度づつ雷の魔法を撃つ事が出来る。わしはもう疲れたので止めて置くがの。ほっほっほ。」

「チンドウ老師!頼む、6本の大剣に雷の魔法を付与してくれ!」

「任せなさい。聖なる泉の番人チンドウが6本の雷神剣を作って進ぜよう。」



その頃、シャルロットは光の粒子をゴッドタウンに飛ばしていた。

ゴッドタウンにうごめく巨大な化物。
得体の知れない細胞の化物に取り込まれたヴィナス・マリア。

今回の作戦の鍵を握る彼女の救出こそが最大の目的となる。

光の粒子がヴィナスの波長を感知する。

「確かにヴィナスは化物の中に居ます。化物のちょうど中心部分。しかし、生死は不明。本当に生きているのでしょうか?」

シャルロットの問いに答えるゼクシード。

「分からないが、それしか方法が無い。ヴィナス・マリアを救出する。敵は巨大な細胞の化物。」

ゼクシードの言葉にサラが続く。

「例え魔力が尽きようとも、やるしか無いだろう。行こう!」

チンドウを除く6人は雷神剣を手にしてゴッドタウンへ向かう。

ヴィナス・マリアを救出する為に――



【ゴッドタウンの化物編③】

うごめく巨大な細胞の化物はアメーバのように周りの建物を取り込んで行く。

「近くで見ると凄いですね……」

とヘンリー。

「悪魔と戦うよりはマシだろう。」

とゼクシード。

「どっちもどっちですよ。」

またしても泣き言を言うヘンリーにシャルロットが言葉を掛ける。

「ヘンリー大丈夫です。先程の天使アナフィスとの戦闘は見事でした。あなたなら出来ますよ。」

「はっ!はい!副団長殿!」

ヘンリーは顔を赤らめて答える。

「騎士のシャルロットとヘンリーが細胞を斬り崩しながら突進。サラとカイザーは攻撃魔法で斬り崩した細胞を攻撃。俺とマリーは光の魔法で4人を援護する。」

ゼクシードの指示に頷く5人。

「行くぞ!死ぬなよ!」

「任せて下さい!うおりゃあぁぁあぁ!」

元気よく飛び出すヘンリー。

巨大な化物との勝負は長期戦となる。

シャルロットとヘンリーは見事な剣技で細胞を斬り崩し、サラとカイザーが魔法で細胞を攻撃。魔法によって飛び散った細胞は少しの間 動かなくなるが、再び動き始める。

動きが止まればたちまち細胞に取り込まれる。戦士達は休まず攻撃を続けなければならない。

そこで重要なのがゼクシードとマリーの光の魔法。2人は体力回復、魔力回復の治癒魔法で4人を援護する。

細胞への攻撃を開始して数時間が経過した。

「どうだ?ヴィナスの居る中心部までどのくらいだ?」とサラ。

「光の粒子の反応からすると、まだ半分も行っていません。」

シャルロットが答える。

「やばいな…、到達前にこちらの魔力が限界を迎える。」とゼクシード。

「くっ!こんな細胞如きに……」

焦り始める6人の戦士達。

「!?」

そこでマリーが声をあげる。

「みんな!上を見て!」

巨大な細胞との対戦に夢中になっていた戦士達の頭上を旋回する人影があった。

黒い翼で大空を飛ぶ人影、そんな人間は1人しか居ない。

神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)最後の生き残り。

タオ・シュンイエ―――

「ちっ!こんな時に厄介な奴が!」

ゼクシードは舌打ちをする。

全身の皮膚を聖なる盾に変化させるタオは相当に手強い。下手にタオに気を取られると今度は巨大な細胞の化物に呑み込まれる。

6人は絶対絶命の危機を迎えていた。


「どうする?このままでは全滅するぞ。」

サラの声にマリーが答える。

「イース待って……、様子が変よ。」


見ると上空を飛ぶタオがさらなる変形を始める。
神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)のタオ・シュンイエの能力は「人体変形」。
自身の身体を自在に変化させる事が出来る。

タオは2枚生えている巨大な黒い翼に加え、更に4枚の翼を追加した。
合計6枚となった翼を生やしたタオは正に巨大な鳥のようだ。

「何をする気だ?」とサラ。

するとタオ・シュンイエが戦士達に大声で叫び声を上げる。

「早く捕まれ!何をしたいのか分からんが、化物の中心に行きたいのだろう?空からならすぐに行ける!」

6人は顔を見合わした。

「………何の冗談だ?」


【ゴッドタウンの化物編④】

タオは足を変形させて6人の戦士達が乗れる箱を造る。6枚の翼は戦士達を乗せても失速する様子も無く大空を羽ばたいている。

「すごい!なんて便利な能力なのかしら。」

珍しく感心をするシャルロット。

「どう言う風の吹き回しだ?」

ゼクシードがタオに尋ねる。

「ふん…」

タオはしかめっ面をして答える。

「ラファール様も他の子供達も殺られた以上、俺1人で何が出来る。それに…」

タオは言葉を続ける。

「俺達は人類の平和の為に戦っていたんだ。実際にラファール様が作り上げた光の国ルミエルは幸福に満ちた高度な文明を作り上げた。」

戦士達は黙ってタオの言葉に耳を傾ける。

「しかし、奴らはどうだ?あの悪魔どもは人類を滅亡させようとしている。こんな身体でも俺だって人間だ。人類の滅亡など望んでいない。」

押し黙る戦士達。

声を上げたのはマリー・ステイシア。

「タオさん…、ありがとうございます。私が言うのも何ですが、一緒に悪魔を……、ルシファーとアザゼルを倒しましょう。」

「当たり前だ。奴らを倒さねば人類に未来は無い。ところで…」

タオは言う。

「そろそろ化物の中心地点だが、お前ら何をする気だ?」

「そうだな……」

ゼクシードが答える。

「眠っているお姫様を叩き起こす。雷の電撃でな!」

6人の戦士達が手に持つ雷神剣を構える。

「あの中心部にヴィナスが居る。ヴィナスは殺しても死なない奴だ。遠慮せず撃ち込め!!」

「おー!」「はい!」「行くぞ!」

6人が声を揃えて叫ぶ。

「「「雷神剣!!」」」

ビカビカビカッ!!

ゴロゴロゴロッ!!

6つの巨大な雷鳴が鳴り響いた。

「うぉ!あの爺さん魔力が強過ぎじゃねえか!?」とヘンリー。



化物の中心部。

ヴィナス・マリアを巨大な落雷が襲う。