異世界戦記 GOD AND DEVIL15
【聖なる盾編①】
「タオ兄さん!いったい、どうなっているの!?」
タオを見つけたシャンディが声を張り上げる。
「それは、こっちのセリフだ。他の子供達も戻って来ない…。俺達2人で迎え撃つぞ!」
「迎え撃つ?」
「大陸軍の生き残りが向かって来ている。人数はそれほど多く無いが神衛隊だけでは無理だろう。俺達、能力者が出なければ負けちまう…。」
「随分と弱気ね。まぁ、確かに私が居れば問題ありませんわ。」
「頼りにしてるぜ、シャンディ。」
2人が会話をしていると、2人の間に音も無く1つの影が現れた。
「!!」
「誰だ!」
即座に影から距離を取り警戒をするタオとシャンディ。
「そんなに驚かないで下さい。私はあなた達の味方ですわよ。」
天使のような透き通る声で2人に話し掛ける女性は2人を見て微笑む。
「あなた…双子の…」
シャンディの言葉に女性が答える。
「ええ、覚えていてくれて嬉しいわ。私は双子の神(ゴッドツインズ)の1人、アナフィス。さぁ、共に戦いましょう。」
美しいその女性アナフィスの言葉を聞いたタオは何故か力が漲(みなぎ)るのを感じる。
(この不思議な感覚は…、この女…何者なんだ……。)
自分を見つめるタオと目が合ったアナフィスは何かを思い出したような表情をする。
「そう言えば…、忘れる所でしたわ。」
そう言うとアナフィスは左手に持つ白く輝く盾をタオの前に差し出した。
タオは不思議に思い尋ねる。
「なんだ?この盾は……」
アナフィスは優しい顔で答える。
「この盾は聖なる盾と言います。この盾の防御力は天界でも上位レベル。大抵の攻撃であれば完全に防ぐ事が出来るでしょう。それが大剣の攻撃でも、魔法の攻撃でもです。」
「天界の……盾…。」
「さぁ、タオさん。この盾に触るのです。あなたの能力があれば、あなたを傷付ける事の出来る戦士は誰も居なくなります。」
あなたは
聖なる盾の防御力を身に付ける――
それから程なくして大陸軍の侵攻が始まった。
ゼクシードの立てた作戦。
―――――――嵐の砂作戦が
【聖なる盾編②】
「ぐわぁあぁ!」
「敵襲だ!」
「撃て!敵を撃て!!」
「しかし、視界が悪くて見えません!」
「敵が現れたと思ったら……ぐわっ!」
ラファール帝国軍の兵士達は大混乱に陥っていた。
突然発生した砂嵐により視界が極端に悪くなったのだ。
ラファール帝国軍は数の力によるライフル銃の一斉攻撃を得意とする。
先程のヴィナス・マリアも多くの弾丸を受けて重症を負った。
どんなに優秀な戦士でも四方から放たれる銃弾を全て躱(かわ)すのは難しい。
そこでゼクシードの立てた作戦は、砂嵐で視界を無くして接近戦による局地戦に持ち込む事であった。
少人数同士の戦闘なら能力に勝る大陸軍が圧倒的に有利。
あとは敵の能力者(ホーリーチルドレン)さえ倒す事が出来れば大陸軍の勝利となる。
大陸軍は3つに別れて行動を開始した。
サラとマリー
ゼクシードとヴィナス
シャルロット
それぞれが砂嵐の中で敵を撃退して行く。
砂嵐の中から神衛隊の兵士達の悲鳴があちらこちらから聞こえて来る。
「こんな砂嵐、ホーリーが居れば、どうにでもなるのに!あのコ何をやっているのかしら!」
大声で文句を言うシャンディ。
「シャンディ…、おそらく他の子供達はもう居ない。敵がゴッドタウンに現れたのは、子供達を倒したからだろう。」
タオはシャンディに言う。
「まさか…、夜叉丸兄さんとホーリーが…。信じられないわ。」
「さぁ行くぞ!俺達が行かなければ神衛隊の兵士が殺られて行くだけだ。」
【聖なる盾編③】
ラファール帝国軍の兵士達は砂嵐の中で、いつ現れるかも分からない大陸軍の戦士を待ち構える。
神衛隊の1人ジョンはライフル銃の引き金に指を掛けてその時を待つ。
ジョンは自分に言い聞かせる。
(大丈夫だジョン――
視界が悪いとは言え全く見えない訳では無い。敵が現れたらすぐにライフル銃を撃てば良い。
騎士や魔導師と言っても相手は同じ人間だ。銃弾を喰らって無事な人間など居ないはずだ。
敵の姿が見えたらすぐに撃つ!
銃弾より速く動ける人間は居ない――)
頭の中で何度もそう思考を巡らせるジョン。
そして、遂にその時が来た。
砂嵐の中から1人の女性騎士が現れる。
ジョンは何度も思い描いたシュミレーション通りにライフル銃の引き金を引く。
ダダーンッ!
銃弾はものの見事に騎士の身体の中心を捉えた。
「やった!」
思わず声を上げるジョン。
しかし、ジョンは信じられない光景を目撃する。
その女性騎士は、すっと手にした細い剣を瞬時に振り抜くと、ジョンが放ったライフル銃の弾丸を真っ二つに斬ったのだ。
「弾丸を…斬った!?」
その女性騎士は、無言でジョンに近付きそのままジョンの横を通り過ぎて行く。
しばらく茫然としていたジョンが我に返り、手にしたライフル銃を見ると、ライフル銃の銃口は真っ二つに斬られていた。
「いつの間に……、何も見えなかった。」
シャルロットは砂嵐の中を1人で駆け抜ける。
(敵の能力者…、神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)はどこに居る!仲間と遭遇する前に出来れば私が全ての能力者を倒す!)
「ふふふ…、あなた強そうね。」
シャルロットの前に現れた女性。
神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)の1人シャンディ・クリスタが2本のククリ刀をカキンと鳴らす。
シャルロットはシャンディを見て言う。
「私はマゼラン帝国の騎士シャルロット・ガードナー。能力者には手加減しません。死んで貰います。」
「ふん!生意気な事を!私の名はシャンディ!今の言葉、後悔して死になさい!」
2人の女性戦士の戦闘が始まる。
【聖なる盾編④】
タオは上空から2人の大陸軍戦士を見つけると、バサリと地上に降り立った。
「お前はさっきの魔導師だな。身体に受けた傷はどうした?もう動けるのか?」
無表情のヴィナスに変わりゼクシードが答える。
「その能力から見て、お前は敵の能力者タオ・シュンイエか。2対1で悪いが俺達が相手になろう。」
「誰だお前は…」
「この地の支配者。パラアテネの四将星ゼクシード・フォース。パラアテネ城は返して貰う。」
「ふっ…、それなら力づくで奪い返して見ろ。俺を倒す事が出来るならな!」
タオの身体が変形を始める。
右手は蛇王剣。
左手はライフル銃。
両足は最速の猛獣の足。
そして
身体を覆う皮膚が白く輝き出す。
(なんだ……?)
ゼクシードはタオの変化に眼を細める。
「さぁ、始めようか。大陸の戦士ども!」
不敵な笑みを浮かべるタオを前にゼクシードはすかさず風の魔法を詠唱する。
「何に変化しても同じこと。その足も両手の変化も無駄に終わる。行くぞ!カマイタチの陣!」
すると無数のカマイタチがタオを取り囲むように広がった。四方を風の刃に囲まれたタオに逃げ場は無い。
どんなに素早く動けても、強力な武器を擁しても、風の刃から逃れるのは不可能。
「カマイタチよ!切り刻め!」
激しい音を立てて無数のカマイタチが全方位からタオを襲う。上空にさえ逃げる隙間は無い。
ビジュ!バシュ!バシュ!
数え切れないほどの風の刃がタオの全身に命中した。
しかし、タオは不敵な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと歩み寄って来る。
(……カマイタチが効いていない!)
「ふふ……、ふはははは。どうした?魔導師の魔法とはその程度か?」
(俺の攻撃魔法では威力が足りないと言う事か……。)
もともとゼクシードは治癒魔法や補助魔法を得意とする魔導師。攻撃魔法の威力はそれほどでも無い。
(しかし、あれほどのカマイタチを喰らって傷1つつかないとはどう言う事だ…)
焦りを見せるゼクシードの後ろからヴィナス・マリアが無表情で声を掛ける。
「ゼクシード…、そこをどけて…。」
ヴィナスの両手には既に巨大な魔力が溜められていた。
魔光弾、最大出力―――
最大限の魔力を両手に集中させたヴィナスの両手からは七色の光が溢れんばかりに輝いている。
ゼクシードが知っている限り、ヴィナス・マリアの攻撃魔法の威力は大陸中の魔導師の中でもトップクラス。
聖なる盾――
天界の武器であるその盾は強度な防御力を誇ると言う。
アナフィスの所有する【聖なる盾】を触ったタオ・シュンイエは、自身の皮膚の表面を【聖なる盾】に変化させた。
ゼクシードの風の魔法カマイタチを喰らっても傷1つつかない程の防御力。
しかし…
ヴィナス・マリアの魔法の威力はカマイタチの魔法とは桁が違う。
(あれは……まずい!)
タオは直感で危機を察知し俊足の猛獣の足で逃げようとする。
「!!」
逃げられない!
先程までカマイタチを造り出していたゼクシードの風の魔法が、いつの間にか風の防御壁となってタオの周りを囲っていた。
風の防御壁が邪魔をして動けない!
「しまった!」
ゼクシードは言う。
「油断したな…、もう逃げられんぞ。」
直後にヴィナス・マリアの両手から七色の巨大な魔法が発射された。
「魔光弾!!」
大気を巻き込む程の風圧がゼクシードの横を通り過ぎる。
(これは凄い威力だ。サラの黒炎球とどちらが上かな…)
ゼクシードの頭をそんな考えがよぎった。
神の魔導師団ヴィナス・マリアの最大威力の魔法がタオを直撃する!
ドゴォオォォーンッ!!
ゴッドタウンの街にひときわ大きな爆音が鳴り響く。
(終わったか……)
ゼクシードは振り返りヴィナスに言う。
「他の仲間達が心配だ、行くぞ。」
魔法を撃ち終えたヴィナスはゼクシードを見て何かを叫んだ。
そしてゼクシードに走り寄り両手で思いっきり突き飛ばす。
「な!?」
蛇王剣――
バロン公国の騎士ジャミラ・メビウスが愛用していた伝説の妖刀「蛇王剣」が、ヴィナス・マリアの身体を穿いた。
油断したのはゼクシード。
ダダーンッ!
ダダーンッ!
続いて放たれるライフル銃の銃声がゼクシードの直ぐ隣から聞こえた。
「ガハッ……!」
血を吐いて崩れ去るゼクシードとタオの目が合う。
「聖なる盾…、なんと素晴らしい防御力。あれ程の攻撃魔法を受けきるとは…。」
タオの身体を覆っている白く輝く皮膚から、少量の煙が立ち昇っていた。
「少し…火傷を負ったか…」
薄れ行く意識の中でゼクシードは思う。
(あれ程の魔法を受けて……火傷だけとは…)
大陸軍の中でも屈指の魔力を誇る2人の魔導師、ヴィナス・マリアとゼクシード・フォース
聖なる盾の防御力を身に付けたタオ・シュンイエの前に力尽きる―――
【聖なる盾編①】
「タオ兄さん!いったい、どうなっているの!?」
タオを見つけたシャンディが声を張り上げる。
「それは、こっちのセリフだ。他の子供達も戻って来ない…。俺達2人で迎え撃つぞ!」
「迎え撃つ?」
「大陸軍の生き残りが向かって来ている。人数はそれほど多く無いが神衛隊だけでは無理だろう。俺達、能力者が出なければ負けちまう…。」
「随分と弱気ね。まぁ、確かに私が居れば問題ありませんわ。」
「頼りにしてるぜ、シャンディ。」
2人が会話をしていると、2人の間に音も無く1つの影が現れた。
「!!」
「誰だ!」
即座に影から距離を取り警戒をするタオとシャンディ。
「そんなに驚かないで下さい。私はあなた達の味方ですわよ。」
天使のような透き通る声で2人に話し掛ける女性は2人を見て微笑む。
「あなた…双子の…」
シャンディの言葉に女性が答える。
「ええ、覚えていてくれて嬉しいわ。私は双子の神(ゴッドツインズ)の1人、アナフィス。さぁ、共に戦いましょう。」
美しいその女性アナフィスの言葉を聞いたタオは何故か力が漲(みなぎ)るのを感じる。
(この不思議な感覚は…、この女…何者なんだ……。)
自分を見つめるタオと目が合ったアナフィスは何かを思い出したような表情をする。
「そう言えば…、忘れる所でしたわ。」
そう言うとアナフィスは左手に持つ白く輝く盾をタオの前に差し出した。
タオは不思議に思い尋ねる。
「なんだ?この盾は……」
アナフィスは優しい顔で答える。
「この盾は聖なる盾と言います。この盾の防御力は天界でも上位レベル。大抵の攻撃であれば完全に防ぐ事が出来るでしょう。それが大剣の攻撃でも、魔法の攻撃でもです。」
「天界の……盾…。」
「さぁ、タオさん。この盾に触るのです。あなたの能力があれば、あなたを傷付ける事の出来る戦士は誰も居なくなります。」
あなたは
聖なる盾の防御力を身に付ける――
それから程なくして大陸軍の侵攻が始まった。
ゼクシードの立てた作戦。
―――――――嵐の砂作戦が
【聖なる盾編②】
「ぐわぁあぁ!」
「敵襲だ!」
「撃て!敵を撃て!!」
「しかし、視界が悪くて見えません!」
「敵が現れたと思ったら……ぐわっ!」
ラファール帝国軍の兵士達は大混乱に陥っていた。
突然発生した砂嵐により視界が極端に悪くなったのだ。
ラファール帝国軍は数の力によるライフル銃の一斉攻撃を得意とする。
先程のヴィナス・マリアも多くの弾丸を受けて重症を負った。
どんなに優秀な戦士でも四方から放たれる銃弾を全て躱(かわ)すのは難しい。
そこでゼクシードの立てた作戦は、砂嵐で視界を無くして接近戦による局地戦に持ち込む事であった。
少人数同士の戦闘なら能力に勝る大陸軍が圧倒的に有利。
あとは敵の能力者(ホーリーチルドレン)さえ倒す事が出来れば大陸軍の勝利となる。
大陸軍は3つに別れて行動を開始した。
サラとマリー
ゼクシードとヴィナス
シャルロット
それぞれが砂嵐の中で敵を撃退して行く。
砂嵐の中から神衛隊の兵士達の悲鳴があちらこちらから聞こえて来る。
「こんな砂嵐、ホーリーが居れば、どうにでもなるのに!あのコ何をやっているのかしら!」
大声で文句を言うシャンディ。
「シャンディ…、おそらく他の子供達はもう居ない。敵がゴッドタウンに現れたのは、子供達を倒したからだろう。」
タオはシャンディに言う。
「まさか…、夜叉丸兄さんとホーリーが…。信じられないわ。」
「さぁ行くぞ!俺達が行かなければ神衛隊の兵士が殺られて行くだけだ。」
【聖なる盾編③】
ラファール帝国軍の兵士達は砂嵐の中で、いつ現れるかも分からない大陸軍の戦士を待ち構える。
神衛隊の1人ジョンはライフル銃の引き金に指を掛けてその時を待つ。
ジョンは自分に言い聞かせる。
(大丈夫だジョン――
視界が悪いとは言え全く見えない訳では無い。敵が現れたらすぐにライフル銃を撃てば良い。
騎士や魔導師と言っても相手は同じ人間だ。銃弾を喰らって無事な人間など居ないはずだ。
敵の姿が見えたらすぐに撃つ!
銃弾より速く動ける人間は居ない――)
頭の中で何度もそう思考を巡らせるジョン。
そして、遂にその時が来た。
砂嵐の中から1人の女性騎士が現れる。
ジョンは何度も思い描いたシュミレーション通りにライフル銃の引き金を引く。
ダダーンッ!
銃弾はものの見事に騎士の身体の中心を捉えた。
「やった!」
思わず声を上げるジョン。
しかし、ジョンは信じられない光景を目撃する。
その女性騎士は、すっと手にした細い剣を瞬時に振り抜くと、ジョンが放ったライフル銃の弾丸を真っ二つに斬ったのだ。
「弾丸を…斬った!?」
その女性騎士は、無言でジョンに近付きそのままジョンの横を通り過ぎて行く。
しばらく茫然としていたジョンが我に返り、手にしたライフル銃を見ると、ライフル銃の銃口は真っ二つに斬られていた。
「いつの間に……、何も見えなかった。」
シャルロットは砂嵐の中を1人で駆け抜ける。
(敵の能力者…、神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)はどこに居る!仲間と遭遇する前に出来れば私が全ての能力者を倒す!)
「ふふふ…、あなた強そうね。」
シャルロットの前に現れた女性。
神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)の1人シャンディ・クリスタが2本のククリ刀をカキンと鳴らす。
シャルロットはシャンディを見て言う。
「私はマゼラン帝国の騎士シャルロット・ガードナー。能力者には手加減しません。死んで貰います。」
「ふん!生意気な事を!私の名はシャンディ!今の言葉、後悔して死になさい!」
2人の女性戦士の戦闘が始まる。
【聖なる盾編④】
タオは上空から2人の大陸軍戦士を見つけると、バサリと地上に降り立った。
「お前はさっきの魔導師だな。身体に受けた傷はどうした?もう動けるのか?」
無表情のヴィナスに変わりゼクシードが答える。
「その能力から見て、お前は敵の能力者タオ・シュンイエか。2対1で悪いが俺達が相手になろう。」
「誰だお前は…」
「この地の支配者。パラアテネの四将星ゼクシード・フォース。パラアテネ城は返して貰う。」
「ふっ…、それなら力づくで奪い返して見ろ。俺を倒す事が出来るならな!」
タオの身体が変形を始める。
右手は蛇王剣。
左手はライフル銃。
両足は最速の猛獣の足。
そして
身体を覆う皮膚が白く輝き出す。
(なんだ……?)
ゼクシードはタオの変化に眼を細める。
「さぁ、始めようか。大陸の戦士ども!」
不敵な笑みを浮かべるタオを前にゼクシードはすかさず風の魔法を詠唱する。
「何に変化しても同じこと。その足も両手の変化も無駄に終わる。行くぞ!カマイタチの陣!」
すると無数のカマイタチがタオを取り囲むように広がった。四方を風の刃に囲まれたタオに逃げ場は無い。
どんなに素早く動けても、強力な武器を擁しても、風の刃から逃れるのは不可能。
「カマイタチよ!切り刻め!」
激しい音を立てて無数のカマイタチが全方位からタオを襲う。上空にさえ逃げる隙間は無い。
ビジュ!バシュ!バシュ!
数え切れないほどの風の刃がタオの全身に命中した。
しかし、タオは不敵な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと歩み寄って来る。
(……カマイタチが効いていない!)
「ふふ……、ふはははは。どうした?魔導師の魔法とはその程度か?」
(俺の攻撃魔法では威力が足りないと言う事か……。)
もともとゼクシードは治癒魔法や補助魔法を得意とする魔導師。攻撃魔法の威力はそれほどでも無い。
(しかし、あれほどのカマイタチを喰らって傷1つつかないとはどう言う事だ…)
焦りを見せるゼクシードの後ろからヴィナス・マリアが無表情で声を掛ける。
「ゼクシード…、そこをどけて…。」
ヴィナスの両手には既に巨大な魔力が溜められていた。
魔光弾、最大出力―――
最大限の魔力を両手に集中させたヴィナスの両手からは七色の光が溢れんばかりに輝いている。
ゼクシードが知っている限り、ヴィナス・マリアの攻撃魔法の威力は大陸中の魔導師の中でもトップクラス。
聖なる盾――
天界の武器であるその盾は強度な防御力を誇ると言う。
アナフィスの所有する【聖なる盾】を触ったタオ・シュンイエは、自身の皮膚の表面を【聖なる盾】に変化させた。
ゼクシードの風の魔法カマイタチを喰らっても傷1つつかない程の防御力。
しかし…
ヴィナス・マリアの魔法の威力はカマイタチの魔法とは桁が違う。
(あれは……まずい!)
タオは直感で危機を察知し俊足の猛獣の足で逃げようとする。
「!!」
逃げられない!
先程までカマイタチを造り出していたゼクシードの風の魔法が、いつの間にか風の防御壁となってタオの周りを囲っていた。
風の防御壁が邪魔をして動けない!
「しまった!」
ゼクシードは言う。
「油断したな…、もう逃げられんぞ。」
直後にヴィナス・マリアの両手から七色の巨大な魔法が発射された。
「魔光弾!!」
大気を巻き込む程の風圧がゼクシードの横を通り過ぎる。
(これは凄い威力だ。サラの黒炎球とどちらが上かな…)
ゼクシードの頭をそんな考えがよぎった。
神の魔導師団ヴィナス・マリアの最大威力の魔法がタオを直撃する!
ドゴォオォォーンッ!!
ゴッドタウンの街にひときわ大きな爆音が鳴り響く。
(終わったか……)
ゼクシードは振り返りヴィナスに言う。
「他の仲間達が心配だ、行くぞ。」
魔法を撃ち終えたヴィナスはゼクシードを見て何かを叫んだ。
そしてゼクシードに走り寄り両手で思いっきり突き飛ばす。
「な!?」
蛇王剣――
バロン公国の騎士ジャミラ・メビウスが愛用していた伝説の妖刀「蛇王剣」が、ヴィナス・マリアの身体を穿いた。
油断したのはゼクシード。
ダダーンッ!
ダダーンッ!
続いて放たれるライフル銃の銃声がゼクシードの直ぐ隣から聞こえた。
「ガハッ……!」
血を吐いて崩れ去るゼクシードとタオの目が合う。
「聖なる盾…、なんと素晴らしい防御力。あれ程の攻撃魔法を受けきるとは…。」
タオの身体を覆っている白く輝く皮膚から、少量の煙が立ち昇っていた。
「少し…火傷を負ったか…」
薄れ行く意識の中でゼクシードは思う。
(あれ程の魔法を受けて……火傷だけとは…)
大陸軍の中でも屈指の魔力を誇る2人の魔導師、ヴィナス・マリアとゼクシード・フォース
聖なる盾の防御力を身に付けたタオ・シュンイエの前に力尽きる―――