異世界戦記 Holy children10
【策略編①】
大陸中央に位置する大陸最大の都市メガロバンクス。交通と貿易の拠点として栄えたこの都市は大陸中から戦士を集めた軍事国家でもある。
国家元首のバロン閣下は大商人の家系で産まれ育った大富豪であり、バロン公国は先代の伯爵が金の力で買い取った比較的新しい国である。
バロン閣下は贅沢な資金を投入し大勢の兵士を集めていた。その数およそ2000人。
大陸の2大勢力マゼラン帝国、パラアテネ神聖国をも上回る規模の軍隊を編成した。
その多くはルミエル軍によって滅ぼされ国を追われた戦士達である。
「閣下、ルミエル軍は国境を越えたようです。」
バロン閣下に報告をする女性魔導師の名はカレハ。アルシュメール王国魔導師団の団長であったカレハは大陸でも名の知れた魔導師である。
祖国をルミエル軍に滅ぼされた彼女はその実力を買われバロン公国魔導師団の団長となっていた。
小太りの中年魔導師バロン閣下は全軍に命令する。
「各員配置に付け!我々の恐ろしさを見せてやりなさい!」
バロン公国軍の作戦は大規模なゲリラ戦。
大規模な軍隊を街中に待機させての奇襲攻撃。
街の住民は事前に避難させてある。
公国軍は民家などの建物の影から魔法攻撃を仕掛けて、反撃される前に逃げる作戦。
追って来た敵兵は同じく隠れて待ち伏せをしている騎士達が攻撃する。
真正面からの対決を好むこの大陸ではあまり見られない作戦た。
「それにしてもカレハ殿、ゲリラ作戦とはよく考えましたな。」
バロン閣下は素直に感心する。
常識に囚われないカレハならではの策略と言えよう。
「敵軍はマスケット銃と呼ばれる武器が主体ですわ。広い戦場での三段構えによる遠距離攻撃を得意とします。隠れる場所の多いメガロバンクスはマスケット銃からは狙われにくい。逆に敵を狙うのに格好の戦場です。街中での戦闘ならこちらに分があるでしょう。」
カレハは言葉を続ける。
「いつどこから狙われるかも分からない我々の攻撃に敵軍は混乱するでしょう。」
________________
ルミエル軍の戦力は2000人以上。
指揮を取るのは神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)のタオ・シュンイエ。目付きの鋭いタオは更に目を細くしてメガロバンクスの街中を見回していた。
「随分と大きな街だな。そして妙だ…。」
帯同するゼオン・サクセスがタオに言う。
「タオ兄さん?どうしたんです?」
「…これ程の大きな街にしては静かだ。」
ゼオンは笑って答える。
「僕達の進軍が敵に見付かっていたようですね。恐れを成して逃げたのでしょう。このまま一気に敵の城を攻め落としましょう。」
ルミエル軍が街の中程まで進軍し遠くに巨大なバロン城が見えて来る。大通りの幅は40m程あり道の両側には商店や教会、鍛冶場工場などが並んでいる。
しんと静まり返った街にルミエル軍の足音だけが響いていた。
ピカッ!
ボワッ!
ビュッ!
戦闘は突然に始まった。
両側の建物の影から攻撃魔法が次々と放たれる。炎、水、風、様々な属性の魔法がルミエル軍の兵士達を直撃した!
「ぐわっ!」
「敵だ!建物の影に隠れて居るぞ!」
「射撃隊!反撃開始!」
ズキューン!
ドキューン!
魔法の放たれた方向にマスケット銃を撃つ兵士達。しかし、姿の見えない敵に当たる訳もなく銃声だけが虚しく響いた。
「何をしている!追え!1人足りとも逃がすな!」
大通りから横へ抜ける道はそれほど広くない上に土地勘の無いルミエル軍がバロン公国軍の魔導師を追うのは難しい。
更に敵を追っている最中ではマスケット銃を構えて撃つのも容易では無い。
道の影に隠れて居たのはバロン公国騎士団ロード・メビウス。凄腕の傭兵として大陸中に恐れられていたロードはバロン閣下に雇われ専属の兵士となっていた。
「ゲイ・ボルグ!」
ロードの持つ武器は聖槍ゲイ・ボルグ。
伸縮自在の槍の尖端は最大30に別れ同時に敵を攻撃する伝説の武器。
魔導師を追っていた3人のルミエル軍兵士はロードの一撃で同時に絶命する。
「なんだ、噂ほどでも無い。ルミエル軍の兵士とはこんなものか。」
ロードはボソリと呟いた。
【策略編②】
実際カレハの作戦は見事に的中した。
建物の影から攻撃しては逃げる魔導師。
それを追うルミエル軍は待ち伏せしている騎士達に簡単に倒されて行く。
100名ほどの部下を失った所でようやくタオは敵の作戦に気付く。
「待て!追うのを止めろ!一旦広場に集合だ!」
まだ2000人近い兵士達は近くの広場に集合した。タオは顔をしかめてゼオンに言う。
「このままでは不味いな。貴重な戦力を無駄に失う訳には行かない。頼めるか?」
ゼオンはやれやれと言う表情でタオに答える。
「これだけの大きさになると疲れるんだけどね。まぁ、仕方ないか。」
そんな会話をしている2人の足元がグラリと揺れた。
「何だ?地震か!」
ゴゴゴゴゴゴォ!
広場に集まったルミエル軍が突然の地震に襲われる。周りの建物が揺れている様子は見られない。
広場の一部だけが揺れているのだ。
カレハの戦略は周到であった。
魔法による攻撃と撤退を繰り返せばルミエル軍は必ず見晴らしの良い場所に集合する。
攻撃のタイミングも敵の位置も計算ずく。
わざと広場に誘導した。
カレハの得意な魔法で敵軍を一網打尽にする為に!
「アースシェイカー!!」
轟音が鳴り響き広場の地面が激しく揺れる。地面は裂け亀裂が走る。
カレハの魔法は地震を起こす魔法。
強力な魔法であるが故にその攻撃範囲は限定される。
隊列を組んで縦長に進軍するルミエル軍を相手にしては、その威力は半減される。
だからこそ1箇所に集める必要があった。
見晴らしの良い広場の中央に集まる事により、四方からのバロン公国軍の攻撃を迎え撃つ事が出来る。それが仇になった。
カレハはその行動までも読み切った。
割れた地面から脱出しようとするルミエル軍の足がドロっとした感触に捕らわれる。
地面の液状化現象。
カレハは水属性と土属性の魔法を極めた魔導師。割れた地面はカレハの魔法によりドロドロの底なし沼へと姿を変えて行き、2000人ものルミエル軍が為す術もなく底なし沼に沈んで行く。
バロン公国の完全勝利。
見事に策略がはまったカレハは敵軍の兵士が底無し沼に沈むのを待つばかり。
ほっとして、ひと息つくカレハ。
(どうやら侵攻は防げたようね。)
しかし ――
そう思ったカレハの目に信じられない光景が飛び込んで来た。
神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)のタオ・シュンイエの腕が巨大な翼に変形する。伝説の悪魔が持つような巨大な翼を広げたタオが一直線にカレハに向かって飛んで来る。
「な!なんだアイツは!」
驚くカレハはすかさず水の魔法で迎撃する。高圧で発射された水の弾丸はタオの額を目掛けて飛んで行く。
すると今度はタオの顔の表面が黒い光沢を帯びる鋼鉄へと変化した。
タオは身体のあらゆる部分を自由に作り変える特殊能力を持つ。鋼鉄の顔面は水の弾丸を弾き飛ばした。
「貴様があの魔法の発動者だな!死ね!」
タオの黒い翼の両腕は今度は鋭いランスへと変貌しカレハの身体を突き抜ける。
2つの穴から大量の血が噴き出した!
「がはっ!」
「……いったい…、何もの……」
声にならないカレハの最期の言葉にタオは答える。
「俺は神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)の1人タオ・シュンイエ。俺の能力は「人体変形」。相手が悪かったな。」
大陸にその名を轟かせた知将カレハはメガロバンクスにてその生涯に幕を降ろした。
発動者が居なくなった魔法は効力を失い、底無し沼は元の土へと戻って行く。
この戦闘でのルミエル軍の戦死者は103人。あと数分でもカレハを討ち取るのが遅れていたら戦死者の数の桁は違っていたかもしれない。
【策略編①】
大陸中央に位置する大陸最大の都市メガロバンクス。交通と貿易の拠点として栄えたこの都市は大陸中から戦士を集めた軍事国家でもある。
国家元首のバロン閣下は大商人の家系で産まれ育った大富豪であり、バロン公国は先代の伯爵が金の力で買い取った比較的新しい国である。
バロン閣下は贅沢な資金を投入し大勢の兵士を集めていた。その数およそ2000人。
大陸の2大勢力マゼラン帝国、パラアテネ神聖国をも上回る規模の軍隊を編成した。
その多くはルミエル軍によって滅ぼされ国を追われた戦士達である。
「閣下、ルミエル軍は国境を越えたようです。」
バロン閣下に報告をする女性魔導師の名はカレハ。アルシュメール王国魔導師団の団長であったカレハは大陸でも名の知れた魔導師である。
祖国をルミエル軍に滅ぼされた彼女はその実力を買われバロン公国魔導師団の団長となっていた。
小太りの中年魔導師バロン閣下は全軍に命令する。
「各員配置に付け!我々の恐ろしさを見せてやりなさい!」
バロン公国軍の作戦は大規模なゲリラ戦。
大規模な軍隊を街中に待機させての奇襲攻撃。
街の住民は事前に避難させてある。
公国軍は民家などの建物の影から魔法攻撃を仕掛けて、反撃される前に逃げる作戦。
追って来た敵兵は同じく隠れて待ち伏せをしている騎士達が攻撃する。
真正面からの対決を好むこの大陸ではあまり見られない作戦た。
「それにしてもカレハ殿、ゲリラ作戦とはよく考えましたな。」
バロン閣下は素直に感心する。
常識に囚われないカレハならではの策略と言えよう。
「敵軍はマスケット銃と呼ばれる武器が主体ですわ。広い戦場での三段構えによる遠距離攻撃を得意とします。隠れる場所の多いメガロバンクスはマスケット銃からは狙われにくい。逆に敵を狙うのに格好の戦場です。街中での戦闘ならこちらに分があるでしょう。」
カレハは言葉を続ける。
「いつどこから狙われるかも分からない我々の攻撃に敵軍は混乱するでしょう。」
________________
ルミエル軍の戦力は2000人以上。
指揮を取るのは神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)のタオ・シュンイエ。目付きの鋭いタオは更に目を細くしてメガロバンクスの街中を見回していた。
「随分と大きな街だな。そして妙だ…。」
帯同するゼオン・サクセスがタオに言う。
「タオ兄さん?どうしたんです?」
「…これ程の大きな街にしては静かだ。」
ゼオンは笑って答える。
「僕達の進軍が敵に見付かっていたようですね。恐れを成して逃げたのでしょう。このまま一気に敵の城を攻め落としましょう。」
ルミエル軍が街の中程まで進軍し遠くに巨大なバロン城が見えて来る。大通りの幅は40m程あり道の両側には商店や教会、鍛冶場工場などが並んでいる。
しんと静まり返った街にルミエル軍の足音だけが響いていた。
ピカッ!
ボワッ!
ビュッ!
戦闘は突然に始まった。
両側の建物の影から攻撃魔法が次々と放たれる。炎、水、風、様々な属性の魔法がルミエル軍の兵士達を直撃した!
「ぐわっ!」
「敵だ!建物の影に隠れて居るぞ!」
「射撃隊!反撃開始!」
ズキューン!
ドキューン!
魔法の放たれた方向にマスケット銃を撃つ兵士達。しかし、姿の見えない敵に当たる訳もなく銃声だけが虚しく響いた。
「何をしている!追え!1人足りとも逃がすな!」
大通りから横へ抜ける道はそれほど広くない上に土地勘の無いルミエル軍がバロン公国軍の魔導師を追うのは難しい。
更に敵を追っている最中ではマスケット銃を構えて撃つのも容易では無い。
道の影に隠れて居たのはバロン公国騎士団ロード・メビウス。凄腕の傭兵として大陸中に恐れられていたロードはバロン閣下に雇われ専属の兵士となっていた。
「ゲイ・ボルグ!」
ロードの持つ武器は聖槍ゲイ・ボルグ。
伸縮自在の槍の尖端は最大30に別れ同時に敵を攻撃する伝説の武器。
魔導師を追っていた3人のルミエル軍兵士はロードの一撃で同時に絶命する。
「なんだ、噂ほどでも無い。ルミエル軍の兵士とはこんなものか。」
ロードはボソリと呟いた。
【策略編②】
実際カレハの作戦は見事に的中した。
建物の影から攻撃しては逃げる魔導師。
それを追うルミエル軍は待ち伏せしている騎士達に簡単に倒されて行く。
100名ほどの部下を失った所でようやくタオは敵の作戦に気付く。
「待て!追うのを止めろ!一旦広場に集合だ!」
まだ2000人近い兵士達は近くの広場に集合した。タオは顔をしかめてゼオンに言う。
「このままでは不味いな。貴重な戦力を無駄に失う訳には行かない。頼めるか?」
ゼオンはやれやれと言う表情でタオに答える。
「これだけの大きさになると疲れるんだけどね。まぁ、仕方ないか。」
そんな会話をしている2人の足元がグラリと揺れた。
「何だ?地震か!」
ゴゴゴゴゴゴォ!
広場に集まったルミエル軍が突然の地震に襲われる。周りの建物が揺れている様子は見られない。
広場の一部だけが揺れているのだ。
カレハの戦略は周到であった。
魔法による攻撃と撤退を繰り返せばルミエル軍は必ず見晴らしの良い場所に集合する。
攻撃のタイミングも敵の位置も計算ずく。
わざと広場に誘導した。
カレハの得意な魔法で敵軍を一網打尽にする為に!
「アースシェイカー!!」
轟音が鳴り響き広場の地面が激しく揺れる。地面は裂け亀裂が走る。
カレハの魔法は地震を起こす魔法。
強力な魔法であるが故にその攻撃範囲は限定される。
隊列を組んで縦長に進軍するルミエル軍を相手にしては、その威力は半減される。
だからこそ1箇所に集める必要があった。
見晴らしの良い広場の中央に集まる事により、四方からのバロン公国軍の攻撃を迎え撃つ事が出来る。それが仇になった。
カレハはその行動までも読み切った。
割れた地面から脱出しようとするルミエル軍の足がドロっとした感触に捕らわれる。
地面の液状化現象。
カレハは水属性と土属性の魔法を極めた魔導師。割れた地面はカレハの魔法によりドロドロの底なし沼へと姿を変えて行き、2000人ものルミエル軍が為す術もなく底なし沼に沈んで行く。
バロン公国の完全勝利。
見事に策略がはまったカレハは敵軍の兵士が底無し沼に沈むのを待つばかり。
ほっとして、ひと息つくカレハ。
(どうやら侵攻は防げたようね。)
しかし ――
そう思ったカレハの目に信じられない光景が飛び込んで来た。
神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)のタオ・シュンイエの腕が巨大な翼に変形する。伝説の悪魔が持つような巨大な翼を広げたタオが一直線にカレハに向かって飛んで来る。
「な!なんだアイツは!」
驚くカレハはすかさず水の魔法で迎撃する。高圧で発射された水の弾丸はタオの額を目掛けて飛んで行く。
すると今度はタオの顔の表面が黒い光沢を帯びる鋼鉄へと変化した。
タオは身体のあらゆる部分を自由に作り変える特殊能力を持つ。鋼鉄の顔面は水の弾丸を弾き飛ばした。
「貴様があの魔法の発動者だな!死ね!」
タオの黒い翼の両腕は今度は鋭いランスへと変貌しカレハの身体を突き抜ける。
2つの穴から大量の血が噴き出した!
「がはっ!」
「……いったい…、何もの……」
声にならないカレハの最期の言葉にタオは答える。
「俺は神聖なる子供達(ホーリーチルドレン)の1人タオ・シュンイエ。俺の能力は「人体変形」。相手が悪かったな。」
大陸にその名を轟かせた知将カレハはメガロバンクスにてその生涯に幕を降ろした。
発動者が居なくなった魔法は効力を失い、底無し沼は元の土へと戻って行く。
この戦闘でのルミエル軍の戦死者は103人。あと数分でもカレハを討ち取るのが遅れていたら戦死者の数の桁は違っていたかもしれない。