【完結編①】
アルゼリア暦3351年09月15日
アヴェスター公国首都シーナ
「我が娘ヴァローナよ。お前もそろそろアヴェスター家の家督を継いでアヴェスター性を名乗るのだ。」
広大な屋敷の大広間。その中央にきらびやかな黄金の椅子が置いてある。
そこに座るのはアヴェスター公国の国家元首アヴェスター伯爵。
「お父様、私はモト家の性を名乗ります。その方が自由に動けるもの。」
金髪の美女ヴァローナは魅惑的な笑みを浮かべる。
「長い間 世間に姿を現さなかったパラアテネ神聖国の教皇が姿を現した。教皇は弱体化した神聖国の軍隊を立て直す為にお前の力を借りたいと言って来たのだ。」
「教皇が…?確かに四将星のキャローラは死亡。ルーカスとゼクシードは行方不明。サラ・イースターに至っては魔力をすっかり喪失している。神聖国を恨んでいる他国が攻めて来たらパラアテネ神聖国は崩壊するかもしれませんね。」
ヴァローナは話を続ける。
「そこで四将星に匹敵する魔導師の私の力を借りたいと…。」
「その通りだ。しかし我がアヴェスター家の一人娘を神聖国に預ける訳には行かない。そこで正式にお前をアヴェスター公国の国家元首にする。」
アヴェスター伯爵は力のこもった声でヴァローナを説得する。
「大丈夫ですお父様。私は神聖国には行きません。そして母上のモト家の性を捨てる事も出来ません。私は呪われた一族の家系なのです。」
アヴェスター公国には、多くの優秀な魔導師を産み出す複数の家系がある。
アヴェスター家から派生した複数の家系の中でも異端として嫌われているモト家。
モト家に産まれた女性には通常の生殖機能が備わっていない。子供を造る時のみ魔法により一時的に体内に生殖器を造り出す。
その強力な魔力により愛する人との間に子供を授かるのだ。一子相伝の秘術により自身の魔力を子供に受け継がせるモト家。
よってモト家の女性は子供を造ると同時に魔力を失う。
現国家元首アヴェスター伯爵は子供に恵まれなかった。このままでは次の元首は伯爵の弟に譲り渡す事となる。最後の手段としてモト家の女性に子供を産ませる決断をしたのだ。
その呪われた一族の女性こそがヴァローナ・モト。国家元首の一人娘。
パラアテネの四将星が恐れた唯一の魔導師。
「お父様、そろそろ平和条約の式典ですわ。お父様はなぜ行かれなかったのです?」
「平和条約などまやかしだよ。事実上、パラアテネ神聖国の無条件降伏条約。神聖国の同盟国であるアヴェスター公国が行っても笑われるだけだ。」
【完結編②】
バロン公国首都メガロバンクス
「よくぞおいで下さいました。パラアテネ教皇、そしてマゼラン帝国皇帝陛下。これより平和条約の締結を致します。」
バロン閣下が2人に礼をして深々と頭を下げる。
「ふん!あの団子閣下もよくやるぜ!」
ジャミラ・メビウスは隣に座るロード・メビウスに悪態をつく。
「それより、式典の後に行われるアルゼリア王国の救世主とシャルロット・ガードナーの対戦。この対戦を見る為に大陸中の人間がここメガロバンクスに集まっている。」
「兄者、だからバロンの旦那は平和条約の調停を引き受けたんだぜ?団子閣下は金になる事なら何でもするからな。」
滞りなく式典が終わり無事に平和条約が結ばれた。2年前に始まった世界大戦はパラアテネ神聖国の敗戦により幕を閉じる。
この2年間でパラアテネ神聖国に占領された全ての国が開放された。
そして、世界中の視線が2人の戦士に集まる。今回の戦争でパラアテネ神聖国を倒した中心人物である2人の英雄。
シャルロットは瞬に声を掛ける。
「ごめんなさい…、こんな大事になるとは思わなくって…。」
「シャルロット、仕方ないさ。バロン閣下に話が漏れたら最後、こうなるのは目に見えている。」
2人の前でバロンが笑っている。
「カッカッカ!どうした2人とも?そろそろ試合開始だぞ。熱戦を期待しているぞ。」
観客席には複雑な表情で座っている舞。
(瞬くん、頑張って!あぁ、でもシャルロットにも負けて欲しくない…。)
プロメテウス団長がシャルロットに声援を送る。
「シャルロット!近衛騎士団の名にかけて負けは許さんぞ!」
勝手な事を言う観客達をよそにシャルロットは気合いを入れる。
(高峰瞬…、ルーカスもアルカスも彼に倒された。今まで私が出会った中で最強の戦士。)
「行きます!」
瞬は大剣を構えてシャルロットの攻撃に備える。
そして、ゆっくりと眼を閉じた。
【完結編③】
高峰瞬が極めた北辰夢幻一刀流の極意は敵の気配を察知すること。
(目で追ってはいけない。気配を感じるんだ!)
シャルロットの高速の剣が次々に繰り出されるが瞬は剣撃の全てをゆらりと紙一重で躱(かわ)して行く。
(信じられない…。私の剣筋を眼をつむったままに見切るなんて。)
シャルロットが一瞬、手を休めた隙を見逃さない瞬。
「ここだ!」
避ける事が出来ない距離まで間合いを詰めた瞬が大剣を真横に振り抜く。
(後ろへ飛んでも避けきれない!)
シャルロットの光の魔法が自身の脳を活性化させ瞬の大剣を振り抜く速さを瞬時に把握した。
(逃げても間にあわないなら…)
シャルロットは持っているレイピアの柄を大剣に併せて突き出した。
瞬の大剣はレイピアの柄に激突し、シャルロットが吹き飛ばされる。
驚いたのは瞬の方。剣を振り抜くスピードに併せて柄で防御するなど完全に見切っていないと出来ない芸当だ。
「やるな!シャルロット!」
そう叫ぶと瞬はもう一度 間合いを詰めて大剣を振り上げる。
「北辰夢幻一刀流奥義!千の太刀!」
千の刃がシャルロットに襲い掛かる!
「光速剣!」
シャルロットは超反応で全ての攻撃を撃ち落とす。
対戦を見ていた大観衆は声援を送る事も忘れて2人の攻防を見守る。
「おい…、見えたか?」
「いや、剣の軌道が全く見えない。」
「何者だ?あいつら…。」
次元の違う2人の戦いに観衆は圧倒される。
「これは自信を失くすぜ…」
近衛騎士団エースのジャッカルも驚きを隠せない。
「なんだ、ジャッカル。まさかシャルロットに勝てる気でいたのか?シャルロットに勝てる騎士など世界中探しても居ないぞ?」
プロメテウスが口を挟む。
「しかし団長…、世界中を探しても居ないはずの相手が目の前に居ますぜ?あいつは人間じゃ無いのか?」とジャッカル。
シャルロットの光速剣は光のスピードで繰り出される回避不能の必殺剣。
シャルロットの師匠、英雄ロイス・ガードナーの高速剣を進化させた技は人間の限界を越えている。シャルロットの光の魔法があってこそ成せる技だ。
そのスピードに反応し互角に撃ち合う瞬はまさに人間とは思えない。
舞だけは知っている。
この世界に召喚された地球人は元の世界での能力を遥かに凌ぐ能力を身につけている。
瞬はそれを重力の違いだと言っていた。
しかし、それだけでは説明がつかない。技のスピードも反射神経も全ての感覚が研ぎ澄まされている。
この世界に召喚された地球人は神の力を手に入れる。
「北辰夢幻一刀流奥義!牙突!!」
瞬の突きを防ごうとしたシャルロットのレイピアが牙突の破壊力に吹き飛ばされる。
「しまった!」
瞬は大剣を握り直しもう一度突きの態勢を取る。
とその時、対戦を見守る舞に異変が起きた。確かに存在した舞の姿がうっすらと薄れて行く。
隣にいたサラとマリーが顔を見合わせる。
「マリー!どう言う事だ!?」
「分からないわ。あの戦争の後、私は召喚魔法を解こうとしたけれど、失敗してしまって…。」
「それが今頃になって召喚魔法が解けたって事か!?」
舞はマリーとサラに笑顔を見せる。
「どうやらお別れのようですね。短い間でしたが色々とありがとうございました。」
そう言うと舞は瞬が戦っているフィールドに小走りにかけて行く。
「瞬くん!早く私の手を!」
「舞!?」
舞の姿に気が付いた瞬が慌てて舞の手を握りしめる。
「どうした舞!召喚が解けるのか!?」
「うん…、そうみたい!」
2人の異変を察知したシャルロットが声を張り上げる。
「決着はまだついていません!いつかまた勝負しましょう!」
「今度は日本で勝負だな。」と瞬。
「ありがとう。シャルロット。そしてさようなら。」と舞。
マリーもフィールドに上がり2人に声を掛ける。
「助けてくれてありがとう。このご恩は一生忘れません。」
シャルロットとマリー、そして大観衆が見守る中、瞬と舞の2人は静かに消えて行った。
異世界戦記 完
アルゼリア暦3351年09月15日
アヴェスター公国首都シーナ
「我が娘ヴァローナよ。お前もそろそろアヴェスター家の家督を継いでアヴェスター性を名乗るのだ。」
広大な屋敷の大広間。その中央にきらびやかな黄金の椅子が置いてある。
そこに座るのはアヴェスター公国の国家元首アヴェスター伯爵。
「お父様、私はモト家の性を名乗ります。その方が自由に動けるもの。」
金髪の美女ヴァローナは魅惑的な笑みを浮かべる。
「長い間 世間に姿を現さなかったパラアテネ神聖国の教皇が姿を現した。教皇は弱体化した神聖国の軍隊を立て直す為にお前の力を借りたいと言って来たのだ。」
「教皇が…?確かに四将星のキャローラは死亡。ルーカスとゼクシードは行方不明。サラ・イースターに至っては魔力をすっかり喪失している。神聖国を恨んでいる他国が攻めて来たらパラアテネ神聖国は崩壊するかもしれませんね。」
ヴァローナは話を続ける。
「そこで四将星に匹敵する魔導師の私の力を借りたいと…。」
「その通りだ。しかし我がアヴェスター家の一人娘を神聖国に預ける訳には行かない。そこで正式にお前をアヴェスター公国の国家元首にする。」
アヴェスター伯爵は力のこもった声でヴァローナを説得する。
「大丈夫ですお父様。私は神聖国には行きません。そして母上のモト家の性を捨てる事も出来ません。私は呪われた一族の家系なのです。」
アヴェスター公国には、多くの優秀な魔導師を産み出す複数の家系がある。
アヴェスター家から派生した複数の家系の中でも異端として嫌われているモト家。
モト家に産まれた女性には通常の生殖機能が備わっていない。子供を造る時のみ魔法により一時的に体内に生殖器を造り出す。
その強力な魔力により愛する人との間に子供を授かるのだ。一子相伝の秘術により自身の魔力を子供に受け継がせるモト家。
よってモト家の女性は子供を造ると同時に魔力を失う。
現国家元首アヴェスター伯爵は子供に恵まれなかった。このままでは次の元首は伯爵の弟に譲り渡す事となる。最後の手段としてモト家の女性に子供を産ませる決断をしたのだ。
その呪われた一族の女性こそがヴァローナ・モト。国家元首の一人娘。
パラアテネの四将星が恐れた唯一の魔導師。
「お父様、そろそろ平和条約の式典ですわ。お父様はなぜ行かれなかったのです?」
「平和条約などまやかしだよ。事実上、パラアテネ神聖国の無条件降伏条約。神聖国の同盟国であるアヴェスター公国が行っても笑われるだけだ。」
【完結編②】
バロン公国首都メガロバンクス
「よくぞおいで下さいました。パラアテネ教皇、そしてマゼラン帝国皇帝陛下。これより平和条約の締結を致します。」
バロン閣下が2人に礼をして深々と頭を下げる。
「ふん!あの団子閣下もよくやるぜ!」
ジャミラ・メビウスは隣に座るロード・メビウスに悪態をつく。
「それより、式典の後に行われるアルゼリア王国の救世主とシャルロット・ガードナーの対戦。この対戦を見る為に大陸中の人間がここメガロバンクスに集まっている。」
「兄者、だからバロンの旦那は平和条約の調停を引き受けたんだぜ?団子閣下は金になる事なら何でもするからな。」
滞りなく式典が終わり無事に平和条約が結ばれた。2年前に始まった世界大戦はパラアテネ神聖国の敗戦により幕を閉じる。
この2年間でパラアテネ神聖国に占領された全ての国が開放された。
そして、世界中の視線が2人の戦士に集まる。今回の戦争でパラアテネ神聖国を倒した中心人物である2人の英雄。
シャルロットは瞬に声を掛ける。
「ごめんなさい…、こんな大事になるとは思わなくって…。」
「シャルロット、仕方ないさ。バロン閣下に話が漏れたら最後、こうなるのは目に見えている。」
2人の前でバロンが笑っている。
「カッカッカ!どうした2人とも?そろそろ試合開始だぞ。熱戦を期待しているぞ。」
観客席には複雑な表情で座っている舞。
(瞬くん、頑張って!あぁ、でもシャルロットにも負けて欲しくない…。)
プロメテウス団長がシャルロットに声援を送る。
「シャルロット!近衛騎士団の名にかけて負けは許さんぞ!」
勝手な事を言う観客達をよそにシャルロットは気合いを入れる。
(高峰瞬…、ルーカスもアルカスも彼に倒された。今まで私が出会った中で最強の戦士。)
「行きます!」
瞬は大剣を構えてシャルロットの攻撃に備える。
そして、ゆっくりと眼を閉じた。
【完結編③】
高峰瞬が極めた北辰夢幻一刀流の極意は敵の気配を察知すること。
(目で追ってはいけない。気配を感じるんだ!)
シャルロットの高速の剣が次々に繰り出されるが瞬は剣撃の全てをゆらりと紙一重で躱(かわ)して行く。
(信じられない…。私の剣筋を眼をつむったままに見切るなんて。)
シャルロットが一瞬、手を休めた隙を見逃さない瞬。
「ここだ!」
避ける事が出来ない距離まで間合いを詰めた瞬が大剣を真横に振り抜く。
(後ろへ飛んでも避けきれない!)
シャルロットの光の魔法が自身の脳を活性化させ瞬の大剣を振り抜く速さを瞬時に把握した。
(逃げても間にあわないなら…)
シャルロットは持っているレイピアの柄を大剣に併せて突き出した。
瞬の大剣はレイピアの柄に激突し、シャルロットが吹き飛ばされる。
驚いたのは瞬の方。剣を振り抜くスピードに併せて柄で防御するなど完全に見切っていないと出来ない芸当だ。
「やるな!シャルロット!」
そう叫ぶと瞬はもう一度 間合いを詰めて大剣を振り上げる。
「北辰夢幻一刀流奥義!千の太刀!」
千の刃がシャルロットに襲い掛かる!
「光速剣!」
シャルロットは超反応で全ての攻撃を撃ち落とす。
対戦を見ていた大観衆は声援を送る事も忘れて2人の攻防を見守る。
「おい…、見えたか?」
「いや、剣の軌道が全く見えない。」
「何者だ?あいつら…。」
次元の違う2人の戦いに観衆は圧倒される。
「これは自信を失くすぜ…」
近衛騎士団エースのジャッカルも驚きを隠せない。
「なんだ、ジャッカル。まさかシャルロットに勝てる気でいたのか?シャルロットに勝てる騎士など世界中探しても居ないぞ?」
プロメテウスが口を挟む。
「しかし団長…、世界中を探しても居ないはずの相手が目の前に居ますぜ?あいつは人間じゃ無いのか?」とジャッカル。
シャルロットの光速剣は光のスピードで繰り出される回避不能の必殺剣。
シャルロットの師匠、英雄ロイス・ガードナーの高速剣を進化させた技は人間の限界を越えている。シャルロットの光の魔法があってこそ成せる技だ。
そのスピードに反応し互角に撃ち合う瞬はまさに人間とは思えない。
舞だけは知っている。
この世界に召喚された地球人は元の世界での能力を遥かに凌ぐ能力を身につけている。
瞬はそれを重力の違いだと言っていた。
しかし、それだけでは説明がつかない。技のスピードも反射神経も全ての感覚が研ぎ澄まされている。
この世界に召喚された地球人は神の力を手に入れる。
「北辰夢幻一刀流奥義!牙突!!」
瞬の突きを防ごうとしたシャルロットのレイピアが牙突の破壊力に吹き飛ばされる。
「しまった!」
瞬は大剣を握り直しもう一度突きの態勢を取る。
とその時、対戦を見守る舞に異変が起きた。確かに存在した舞の姿がうっすらと薄れて行く。
隣にいたサラとマリーが顔を見合わせる。
「マリー!どう言う事だ!?」
「分からないわ。あの戦争の後、私は召喚魔法を解こうとしたけれど、失敗してしまって…。」
「それが今頃になって召喚魔法が解けたって事か!?」
舞はマリーとサラに笑顔を見せる。
「どうやらお別れのようですね。短い間でしたが色々とありがとうございました。」
そう言うと舞は瞬が戦っているフィールドに小走りにかけて行く。
「瞬くん!早く私の手を!」
「舞!?」
舞の姿に気が付いた瞬が慌てて舞の手を握りしめる。
「どうした舞!召喚が解けるのか!?」
「うん…、そうみたい!」
2人の異変を察知したシャルロットが声を張り上げる。
「決着はまだついていません!いつかまた勝負しましょう!」
「今度は日本で勝負だな。」と瞬。
「ありがとう。シャルロット。そしてさようなら。」と舞。
マリーもフィールドに上がり2人に声を掛ける。
「助けてくれてありがとう。このご恩は一生忘れません。」
シャルロットとマリー、そして大観衆が見守る中、瞬と舞の2人は静かに消えて行った。
異世界戦記 完