【最終決戦編①】

「シャルロット!」

マリーはシャルロットを見つけると一目散に駆け寄った。

「!!マリー!?」

「助かったのね。マリー!」

喜ぶシャルロット。

2年前の覇王祭の決勝戦。優勝した2人は直後に離れ離れになる。その日から世界大戦が始まった。

瞬と舞も2人の喜ぶ姿を見て微笑んだ。

「どうやら終わったようだな。パラアテネの大司教は倒したみたいだ。」と瞬。

しかしシャルロットは浮かない顔をしている。マリーはシャルロットの顔を覗き込み質問をする。

「どうしたの?シャルロット。戦争は終わったのでしょう?」

するとシャルロットは下を向いて答える。

「すまない。四将星のルーカスを取り逃しました。ゼクシードも生きています。そして、闇の魔導師団を名乗る脅威の魔導師達。敵の主力は殆ど無傷…。」

「どこへ逃げたんだ?追い掛けよう。」

瞬の提案に首を振るシャルロット。

「無駄です。敵は空の上、あそこです。」

シャルロットが指を指す上空に巨大な飛行船が浮遊する。

「飛行機?」と舞。

「あれは四将星ゼクシードが操る魔空挺だな。空でも飛べない限り追う事は出来ない。」

サラが横から解説をする。
サラはルーカスやゼクシードと同じパラアテネ四将星の一人。

「分かりました。あの船で敵は逃げたのね。」

そう言うとマリーは悪魔禁書のページをパラパラとめくる。

「ハルファス!」

マリーの掛け声に応じるように巨大な黒鳥が姿を現す。異様な威圧感を持つ黒鳥は羽を広げるとマリーの側にすっと降り立ち首を下げた。

周りの戦士達がざわつくのも気にせずマリーはハルファスに飛び乗り命令をする。

「ハルファス!あの空飛ぶ船まで私を運んで下さい。」

驚くシャルロット。
瞬はすぐに状況を察知すると、シャルロットが持つレイピアを奪いハルファスに飛び乗った。

「瞬さん!」

今度はマリーが驚く。

ハルファスが飛び立つと、瞬はシャルロットに向けて叫ぶ。

「シャルロット!悪いがこの剣は借りて行く。俺の剣は折れちまった!」

「な、な、な…何で私を置いて行くのです!」とシャルロット。

「瞬くん!気を付けて!」と舞。

(しかし、相手は四将星の2人に闇の魔導師団。たった2人で戦いを挑むのは危険過ぎる……。)

頭に不安がよぎるシャルロット。

魔導師の少女マリーと異世界の騎士瞬。
2人の最後の戦いが始まる。

______________


魔空挺を操るのはパラアテネの四将星の一人、ゼクシード・フォース。
風属性の魔法で魔空挺を自在に飛ばす事が出来る。もちろん他の魔導師では操る事は不可能。彼の異常なまでの魔力があって初めて出来る芸当である。

「ルーカス、俺達を追って来るやつが居るぞ。何だあの鳥は?」

ゼクシードが後方を見て呟く。

「悪魔か…。どうやらマリーに悪魔禁書を奪われたらしいな。全く今日は最悪の日だ。」とルーカス。

「ルーカス様、私達にお任せ下さい。」

「任せなさい。」

「任せるといいわ。」

闇の魔導師団の7人が口々に言葉を発すると魔空挺の後部へ飛んで行く。

「おい!ヴィナスワン!」

ルーカスの静止を聞く様子も無い。

「ちっ!どうも奴らは欠陥品だな。魔力は強いが意思の疎通がイマイチだ。」

ハルファスに乗るマリーと瞬は魔空挺の後部に並んで立つ7人の魔導師を見つける。

「あいつらか…、厄介だな。」

瞬が呟くとマリーが答える。

「問題ないわ。私に任せて。」

闇の魔導師団の7人は片手をマリー達に向けて構える。

「狙い撃ちですね。」

「単なる的ね。」

「これ以上の接近はさせないわ。」

「一斉に行きます。」

魔導師達が手の先に魔力を込める。あまりに強力な魔力に空間の大気が歪んで見える。

「「「魔光弾!!」」」

物凄い勢いで七色の攻撃魔法が放たれた。

「おい!マリー!」

慌てる瞬の隣でマリーは魔法を唱える。

「ミラーリフレクト!」

マリーの魔法は鏡の魔法。
あらゆる攻撃を放った相手にそのまはま跳ね返す。相手の攻撃は強ければ強いほど一撃必殺のカウンターとなる。

七色の魔法がマリーの鏡に反射し、そのままの勢いで闇の魔導師団を襲う。
 
「な!」

「「「なんですか!!」」」
 
魔導師団の7人は自ら放った魔法に次々と撃ち抜かれて行く。

瞬は呆然と状況を眺め、そして呟いた。

「すげぇ…。」


【最終決戦編②】

闇の魔導師団を倒した瞬とマリーはハルファスから魔空挺へと飛び降りた。
船上はかなり広い。
マリーは2年前にさらわれた時も魔空挺に乗っているのだが、その時は魔障球に閉じ込められていた為に船上の様子は見ていない。

そのマリーをさらった張本人。因縁の相手が目の前にいる。
パラアテネの四将星。世界最強の魔導師。

ルーカス・レオパルド

世界を侵略し戦争の渦に巻き込んだ元凶がマリーを迎える。

「よく来たなマリー。わざわざ悪魔禁書を返しに来るとは律儀な奴だ。」

マリーの隣に立つ瞬が耳打ちする。

(おい、さっきの魔法。どんな攻撃も跳ね返すのか?)

マリーは瞬に答える。

(ミラーリフレクトは耐久力があるの。さっきので私の魔力はカラカラだわ。ルーカスはあなたにお任せします。)

丸投げのマリーの説明に瞬は苦笑い。

「全く、俺が付いて来なかったらどうなっていたのか。」

瞬はシャルロットのレイピアを構えてルーカスに言い放つ。

「お前が敵の大将か?どちらが強いか勝負と行こうぜ!」

ルーカスは瞬を見て言い返す。

「アルゼリア王国の救世主だな。お手並み拝見と行こうか。」

するとルーカスの腕から黒い帯が噴き出し、更に黒い剣へと姿を変える。空に浮く無数の黒い剣が瞬に狙いを定める。

「魔障剣!」

無数の剣が瞬の頭上に降り注ぐ。
瞬はすっと眼を閉じ剣の気配を察知する。
無駄の無い動きで、ゆらりと身体を動かすと魔障剣は虚しく地面に突き刺さる。

ルーカスは呆れた様子で言葉を発する。

「今日は何て日だ…。俺の攻撃をこうも簡単にかわされるとは、シャルロットと言いお前と言い、自信を無くすぜ…。」

瞬はルーカスを見て返答する。

「シャルロットか…?確かに彼女の動きは尋常じゃない。一度手合わせをしたいものだ。」

「しかしだ。それでもシャルロットもお前も俺を倒す事は不可能だがな。」

「なに!?」

ルーカスは両手を広げ魔法を発動する。

「魔障球!」

みるみるうちにルーカスは黒い球体に包まれる。球体を構成する物質は魔障体と言われる異世界の物質。この世界のどんな物よりも硬く決して壊れる事は無い。

瞬はレイピアで黒い球体を斬り付ける。

ガキィーン……

「確かにこいつは厄介だな。」

魔障球には傷ひとつ付いて居ない。

「驚くのは早いぞ、アルゼリアの救世主!俺の魔障体は攻防一体!魔障球の中からでも攻撃が出来るのだよ!」

すると魔障球の表面から棘のような鋭い槍が瞬に向けて放たれる。
変幻自在、伸縮自在の魔障体は様々な軌道で瞬を攻撃する。

ルーカスの攻撃を紙一重でかわす瞬は時々レイピアで魔障球を斬り付けるが、やはりビクともしない。

「瞬さん!頑張って!」

マリーは声援を送るのに専念し手助けをする気は無いらしい。魔力の切れた魔導師ならば仕方のない事なのだが…。

「仕方ない…、全力でやるか。」

瞬はそう呟くとレイピアを一直線に構える。魔障体の槍が瞬の頬をかすめた時、瞬はレイピアに気合いを込める。

「行くぞ!ルーカス!あの世で会ったら、また戦おうぜ!」

ルーカスは魔障球の中で独りごちる。

「バカが…、これで終わりだ。」

2人は同時に技の名前を叫ぶ。

「魔障弾!!」

「北辰夢幻一刀流奥義!ゼロの太刀!!」

魔障球から放たれた黒い弾丸が瞬を撃ち抜くよりも早く、瞬は必殺の一撃を放つ。

瞬の放ったレイピアが魔障球の硬い防壁を通り抜けた。魔障球を突き破った訳でも破壊した訳でも無い。

魔障球の存在を無視したレイピアがルーカスの胸部に突き刺さった。

「な…!!」

ルーカスは何が起きたかも分からず、激しい鮮血を噴き出しその場に倒れ込む。

ルーカスが倒れるのを見届けた瞬。
しかし、瞬の身体は黒い弾丸に撃ち抜かれた無数の傷が広がっている。

「瞬さん!」

マリーが倒れる瞬に駆け寄り抱き留める。

「瞬さん!大丈夫ですか!」

マリーの声に瞬は片目を開けて微笑んだ。

「よせよ…。顔が近いぜ。こんな所を見られたら舞に怒られちまう…。」

それだけ言うと瞬はガクリと意識を失った。




「見事だ青年よ。」

2人の戦いを見ていた男が賞賛の拍手を送る。

「あなたは!?」

マリーの問いに男は答える。

「俺の名はゼクシード。知っているかな?」

「…知っているも何も四将星の1人。知らない者は居ないわ。」とマリー。

「そうか…、あまり人前に顔を出す事は無いのだがな。」

ゼクシードはそう言うとルーカスに光の魔法を掛ける。

「それは治癒魔法!止めなさい!」

マリーが叫ぶと同時にゼクシードは瞬にも同じ魔法を掛ける。

「え!?」

「二人とも致命傷だよ。ルーカスはもちろん、その男も放って置いたら数分も保たない。相討ちって奴だ。」

「……なぜ……なぜ助けるのです?ルーカスはともかく瞬さんまで。」

ゼクシードは笑って答える。

「なぜ助けないのだ?怪我人が居たら助けるのが治癒魔法を扱える魔導師の使命だ。それが味方なら当然だろう。」

「味方…ですって?」

「俺達は同じ大陸の者同士で争っている場合では無いからな。今に分かるさ。」

ゼクシードは言葉を続ける。

「大司教様とルーカスはやり方を間違えたのだ。世界統一など出来る訳が無い。もっとも、俺達の話を聞こうともしないマゼラン帝国の奴らも同罪だが。」

「何の話をしているのですか?」

「まぁ、今は関係の無い話だ。それより先程の治癒魔法では長くは保たない。早く仲間の所へ戻り治療をするんだな。俺はルーカスの治療を続けたい。」

マリーは少しの沈黙の後に答える。

「分かりました。ゼクシードさん、また会えるかしら?」

「君の力はこの世界を救う事が出来る力だ。いずれ会う事もあるだろう。」


ゼクシードとの話を終えたマリーは瞬を抱えハルファスに乗り込む。
ハルファスは大空へ向けて魔空挺から飛び立った。