【死神出現編①】

パラアテネ神聖国首都パラアテネの中央に位置するパラアテネ大聖堂。
大聖堂と言ってもその造りは強固な城を思わせる。
その最上部にある教会の玉座にその男は座ってた。

ルーカス・レオパルド

魔導先進国パラアテネ神聖国の中でも最上位の魔導師。パラアテネ四将星の一人。
大司教の信頼も厚いこの男がパラアテネ神聖国を事実上支配していた。

「ルーカス!!」

大聖堂の扉を開け駆込んで来たのは神聖国の幹部デスペラード・デルタ。

「デスペラード、何事かね?」

ルーカスは冷めた目でデスペラードを見る。

「ルーカス!あの女魔導師どもは貴様の仕業だな!」

「女魔導師?闇の魔導師団の事かな。」

「知っているぞ!貴様が密かに研究を続けている得体の知れない魔導師達の事を!よくもキャローラ様を!!」

デスペラードの怒りはおさまらない。四将星の中でもデスペラードはキャローラの直属の部下として仕えていた。
ルーカスは言わばキャローラのライバルであり政敵でもある。

「キャローラは死んだのか?それは残念な事だ。パラアテネ神聖国にとっても大きな損失となる。」

「ふざけるな!」

デスペラードは怒りのままルーカスに攻撃を仕掛ける。
デスペラードの魔法「暗黒世界」は相手の視覚を奪う高度魔法。

ルーカスの視覚を奪ったデスペラードは黒炎の剣でルーカスに斬り掛かる。

「これが暗黒世界か…。なかなか優れた魔法だ。まさか仲間にこの魔法を掛けられるとは思わなかったが。」

ルーカスはそう言うと両手を広げた。

「魔障球!」

ルーカスが魔法を唱えるとルーカスの両手から無数の黒い帯が飛び出した。帯はルーカスを取り囲むように球状に姿を変える。

デスペラードの攻撃は魔障球によって阻まれる。

「チッ!」

舌打ちをするデスペラードにルーカスが声を掛ける。

「デスペラードよ。お前は優秀な魔導師だ。キャローラの事は忘れて俺の部下になれ。」

「ふざけるな!誰がお前なんかに!」

デスペラードは怒鳴り声を上げてルーカスの要求をはねつける。

「そうか。それは残念だ…。ならば死ね!」

ルーカスがそう言うと魔障球は分裂し数百本の剣に姿を変える。

「黒炎の盾!」

デスペラードは魔法の盾で防御。

「愚かな…。魔障体で出来た俺の剣はこの世のどんな物質よりも硬く鋭い。さらばだデスペラード。あの世でキャローラが待っている。」

数百の魔障剣はルーカスの魔力に反応し一斉にデスペラードを襲う。

「グワーッ!!」

黒炎の盾を突き抜けた魔障剣はデスペラードを串刺しにした。

視覚の戻った目でデスペラードの死体を確かめたルーカスは玉座に座り直しそっと目を閉じる。


【死神出現編②】

広場で剣聖シュウの遺体を埋葬した瞬と近衛騎士団一行は首都パラアテネに侵入していた。

「シュウさんの遺体にあった攻撃魔法の跡…、あれはやはり…。」

舞の問いに答えるのはカイザー。

「間違いない。あの女魔導師達だろうな。」

「何者か知らないが今は放っておけ。もうすぐパラアテネ大聖堂に着くぞ。」

プロメテウス団長が声を掛ける。

「それなんですが、プロメテウスさん。私達は大聖堂の他に行く所があるのです。」

舞の言葉にシャルロットが言葉を続ける。

「わかっています舞。マリーを助けに行くのでしょう?マリーなら魔導研究所にいるとの情報があります。ここで別れましょう。」

「すまないシャルロット。」

舞に変わって瞬が返答する。

瞬と舞、カイザーの目的は魔導師マリーを助ける事。近衛騎士団はパラアテネ神聖国の大司教を倒す事を目的とする。

「マリーを助けたら俺達も大聖堂に向かう。」と瞬。

「お気を付けて。」

シャルロットと近衛騎士団のメンバーは瞬達を見送るとパラアテネ大聖堂に向けて歩み出す。



魔導研究所は首都パラアテネの中心部より東に15分ほど歩いた所にあった。
中心部にあるパラアテネ大聖堂を眺める事が出来る距離でありそれ程遠くは無い。

「私達を召喚した魔導師マリー。彼女がここに居るのね…。」

「敵の兵士がどれだけ居るか分からない。注意を怠るなよ。」

瞬が舞の手を握り魔導研究所の内部へ足を踏み入れる。

先に進んでいたカイザーが異変に気が付いた。施設内部の神聖国の兵士達が傷を負って倒れ込んで居る。
中には命を落とし死亡したと思われる遺体も転がっていた。

「どう言う事だ?」

「私達以外にも侵入者が居るのかしら?」

警戒しつつも瞬達は研究所の奥へと進む。

(……舞さん)

その時、舞の頭にマリーの声が響く。

(マリーさん…?)

(来て下さったのですね。ありがとう、私はここにいます…。)

声に導かれ舞が走り出す。
魔導研究所の最深部。厳重な施錠のしてある扉を瞬がこじ開けると、その部屋には薄茶色の長い髪の少女。

魔導師マリーがいた。

夢に見たあの少女だ。

瞬と舞よりも早く少女に話し掛けたのはカイザー。マリーは嬉しそうにカイザーに駆け寄る。

「助けに来て頂きありがとうございます。」

少女は瞬と舞に一礼をすると、すぐに話題を切り替える。

「近くの部屋にイースが…、サラ・イースターが居るはずです。どうか助けて下さい。」

「サラ・イースター?あの四将星のサラ・イースターか?」


【死神出現編③】

ちょうどその頃、魔導研究所内部。パラアテネ神聖国の兵士達が一人の魔導師と対峙していた。
魔導師の名はヴァローナ・モト。
アヴェスター公国を治めるアヴェスター家の一人娘。

「ヴァローナ様が何をしにこんな所へ!ここは立入禁止ですぞ!」

兵士の一人が身構える。

「そんなの決まっているわ。死にたくなければ、その本…【悪魔禁書】を渡す事ね。」

「なんだと!」

驚く兵士にヴァローナは話を続ける。

「2年間研究をして何の成果も無い貴方達では、その本は宝の持ち腐れでしょう。その本は私達アヴェスター家が保管する事にしたの。」

そう言うとヴァローナは黒いシャボン玉のような丸い球体をポポンと浮かび上がらせた。

「まさか!その魔法は!」

球体は兵士達の周りを取り囲むように浮かび動きを止める。

「私の魔法は知っているわね?動いたら命の保証は出来ないわ。」

ヴァローナの魔法は反物質を作り出す脅威の魔法。黒い球体に触れた者は防御不能の爆発により弾け飛ぶ。

ヴァローナは動けない兵士達を他所(よそ)に研究室に保管してある黒い表紙の本を手に入れる。

【悪魔禁書】

「ついに手に入れたわ…。これで奴らと戦える…。」

ヴァローナは満足そうに微笑み研究所を後にする。

「待て!ヴァローナ!」

と、その時、ヴァローナを後ろから呼び止める声が聞こえた。
随分と久し振りに聞く声にヴァローナは後ろを振り向く。

「…サラ?」




マリーを助け出した瞬達は同じく捕らわれていた一人の魔導師を助け出す。

サラ・イースター

若きパラアテネの四将星。
彼の攻撃魔法の威力は四将星の中でも最強と言われていた。

しかし、ある事件を機にその姿を忽然と消す。
――アルゼリアの悲劇――

6年前にアルゼリア王国で起きた悲劇。
マゼラン帝国の騎士達が何者かに襲われ多くの犠牲者を出した。
その犯人はサラ・イースターだと言われている。

ヴァローナはサラを見て笑顔を見せる。

「やはり生きていたのねサラ。それで険しい顔をしてどうしたの?」

「その本…、悪魔禁書を返して貰おう。それは君の本では無い。マリーのものだ。」

ヴァローナはサラの隣に居る少女を見る。
可愛らしい顔に意志の強さが感じられる。

「知っているわ。覇王祭の優勝は見事でした。マリーさん、優勝おめでとう。」

話をはぐらかすヴァローナにサラが近寄ろうとした時、シャボン玉のような黒い球体がヴァローナとサラの間に浮遊する。

「!?」

ヴァローナは笑顔で答える。

「分かったわサラ。私から悪魔禁書を奪ってみなさい。そうすれば私は引き下がりましょう。」


【死神出現編④】

ヴァローナの提案に2人の戦士が前に出る。

高峰瞬
カイザー・ヴァルフェルム

「面白そうだな。魔力を失っているサラに代わり俺達が相手をしよう。」と瞬。

「約束は守って貰う。本を取り戻したら良いんたな?」とカイザー。

カイザーは両の手の平を重ね魔力を込める。すると手の平から氷の礫(つぶて)が無数に生まれ空に浮かんだ。

「ダイヤモンドダスト!」

カイザーの魔法は氷の魔法。
無数の氷の礫がヴァローナの作り出した黒い球体に衝突する。

ドバババッドガッ!!ドガッーン!!

黒い球体は物凄い音を立てた爆発する。
爆風が吹き荒れる中、瞬はヴァローナとの間合いを一気にて詰め大剣を振り抜いた。

ガキィーン!!

瞬の攻撃を防いだのは巨大な大鎌。
こんな巨大な武器をどこに隠し持っていたのか。

大鎌を手にしたヴァローナの目が真っ赤に光り輝く。

「貴方達…、まさか本気で戦うつもり?」

ヴァローナの目を見たサラが瞬とカイザーに叫ぶ。

「気を付けろ!死神モードになったヴァローナの強さは尋常じゃない!」

(死神だと!?)

瞬は大剣を握り直し言い放つ。

「死神上等!カイザー手を出すなよ!1対1の真っ向勝負だ!」

瞬の動きは人間のそれを超えていた。
地球よりも軽い重力がそうさせたのかもしれない。

瞬速の動きでヴァローナの背後に周り込んだ瞬は必殺の一撃に闘志を込める。

「北辰夢幻一刀流奥義!千の太刀!」

瞬が手にする大剣が千の刃になりヴァローナに襲い掛かる!
千の突きがヴァローナの身体に突き刺さりヴァローナは前方へ吹き飛んだ!

サラは驚き目を見開く。

(この青年…、これ程の技を!もしかしたらヴァローナを倒せるかもしれない!)

「やったか!?」

カイザーが思わず声を上げる。

「いや…、まだだ。離れていろ。」

瞬が左手を出してカイザーを制止しようとした時、瞬の左手首から先がポトリと地面に落ちる。

「!!!」

「瞬くん!!」

倒れていたヴァローナがゆっくりと立ち上がる。

「私の身体に傷を付けるとは…、少し驚いたわ。」

全身血だらけのヴァローナが手にした大鎌の先から、瞬の手首を斬り落とした血のりが滴り落ちた。