【バロン城の決戦編①】

「ようこそ、アルゼリア王国の救世主殿」

瞬と舞、そしてカイザーを迎え入れたのはこの国の元首バロン閣下。小太りの男はにこやかな笑顔で3人を迎え入れる。

(あの男が四将星を倒したと言う…)

(そんなに強そうには見えないな。)

(おい、隣に居るのはアルゼリア王国にこの人有りと言われたジーク・ヴァルフェルムの一人息子カイザー・ヴァルフェルムか?)

(あの女は何だ?かなり若いが…)

(光魔法の魔導師らしい。どんな重症の傷も一瞬で治すらしいぞ。)

四将星キャローラ・ノースクイーンがアルゼリア王国へ攻め込んでから、まだ数週間しか経っていない。
しかし、最強の魔導師と言われるパラアテネの四将星を倒した噂は、ここバロン公国にまで伝わっていた。

瞬は事の経緯(いきさつ)を説明し協力を依頼する。
パラアテネ神聖国の本国へ攻め入り大司教を倒す。そして囚われている魔導師マリーを助け出す。
今の世の中にパラアテネ神聖国に攻め込むなど正気の沙汰では無い。

その場に居た戦士達がざわめいた。

声を上げたのは聖騎士シュウ。

「面白い!俺は協力するぜ!どの道奴らを倒さねば俺達に居場所は無い。マゼラン帝国が敵に回ったのなら尚更だ。」

しかし、その後の声が続かない。パラアテネ神聖国へ攻め込むなど自殺行為に等しい。

ようやくバロンが声を発する。

「宜しい。その話は後で考えるとして問題は今、外に居る奴らを倒さねば先へは進めないですな。」

「我々に残された道は城の外へ討って出て総力戦に出るしか無いでしょう。敵の指揮官以外の兵隊の対処はメビウス兄弟に任せます。問題はアルカス、バッフェルム、アレス。この3人は要注意…」

またしてもシュウが声を上げる。

「アルカスの相手は俺だ。まだ勝負はついていない。」

続いて瞬。

「協力して貰うには、どうやら俺も戦わなければな…。」

「瞬くん…」心配そうな舞。

「ならば瞬はアレス。バッフェルは私に任せて貰おう。」

最後にカイザーが手を上げる。

バロンがニヤリと笑い号令をかける。

「では行くぞ!敵兵を殲滅だ!」

(アルゼリアの救世主…、果たしてその実力、本物かどうか。)

バロンの号令により、最初に飛び出したのはメビウス兄弟。

(パラアテネ軍は一箇所に集結したか…。まぁ、その方が探す手間が省ける。)

ロードは手に持つ巨大な槍を構える。

【ゲイ・ボルグ】

伝説の槍が敵の軍隊に狙いを定めた時、敵軍の中から飛び出して来たアルカスがロードに斬り掛かる!

「チッ!」舌打ちをして攻撃を躱すロード。

「その槍なら知っている。風の旅団ロード・メビウス!」とアルカス

「予定変更だ。シュウには悪いが貴様は俺が倒す!」

ロードとアルカスが激しく相手を威圧する。


【バロン城の決戦編②】

バッフェルは配下の魔導師達に攻撃を命ずる。パラアテネ神聖国は魔導先進国。一流の魔導師達の攻撃は凄まじい。
城から飛び出したバロン公国側の兵士達を次々と屠って行く。

「くっ!これでは近寄れん!」

シュウが遠く前方で戦っているアルカスとロードを見やる。

「敵の魔導師達を殲滅させます。一箇所に固まっているなら好都合。」

カイザーが天空に手をかざす。

「この技は魔力の消耗が激しい。後は任せますよ。」

カイザーの声にシュウが応える。

「任せろ!あの魔導師達を止めてくれればこっちのもんだ。」

「では…」

カイザーの表情が引き締まる。
2年前のセルバーニア王国での戦闘。味方の戦士が次々と殺されて行く中、カイザーは何も出来なかった。
マリーが居なければ被害はもっと大きかったであろう。

(マリー…、君を死なせる訳には行かない。2年前とは違う。)

「絶対零度!!」

カイザーが大きな声で魔法を唱える。
すると敵の魔導師達の辺りがピキピキと凍りはじめる。

「うわっ!」
「何だ!?」

慌てる魔導師達が次々と氷に包まれ動かなくなる。
水と風の魔法属性を最高レベルにまで極めたカイザーだからこそ出来る魔法。

「今です!突撃して下さい!」

カイザーの声にバロン公国の戦士達が一斉に突撃開始!
魔導師団の多くが凍りついた中でバッフェルは何とか逃げ出し騎士団に命ずる。

「くっ!迎え撃て!騎士団突撃!」

総勢200名ものパラアテネ神聖国の騎士団に対するバロン公国の戦士達は100名程度。
しかし、一人ひとりの実力なら負けては居ない。パラアテネ神聖国は元より騎士よりも魔導師の育成に力を入れている。

ジャミラ・メビウスの蛇王剣が敵の騎士達を返り討ちにして行く。

劣勢になったパラアテネ神聖国の兵士達を一気に叩き潰すチャンス。

ジャミラが勢い良く敵の本隊に突入を仕掛けた時、敵陣の向こうに鎧をまとった騎士団が現れる。

(ちっ!来やがったが!)

そこには、マゼラン帝国の月光騎士団が大剣を携えて待ち構えていた。

「バッフェルよ。随分と苦戦しているようだな。俺達が助太刀しよう。」

月光騎士団の動きは速い。
瞬く間に戦場に突入しバロン公国の戦士達に攻撃を仕掛ける。

アレスの大剣がジャミラの頬を掠める。

頬から流れ落ちる血をぺろりと舐めてジャミラが蛇王剣を構える。

「月光騎士団のアレス!その実力を見せて貰おう!」

ジャミラが突き出した蛇王剣の尖端が黒い蛇へと変化する。無数の蛇がアレスに噛み付こうとした時、アレスは腕を前に出し大剣を回転し始める。
アレスの身体を防御するように大剣は巨大なプロペラと化し蛇王剣の蛇どもを粉砕する。

「風の旅団のジャミラとはこの程度の実力か。」


【バロン城の決戦編③】

「ゲイ・ボルグ!」

ロード・メビウスの伝説の槍がアルカスを捉える。伸縮自在のゲイ・ボルグは一直線にアルカスを攻撃する。
しかし、アルカスの大剣は伝説の武器ゲイ・ボルグをも軽く弾き飛ばす。

「大丈夫か!ロード殿!遅くなってすまない!」

そこへ剣聖シュウが駆け寄って来る。
シュウはアルカスを睨み付け雷神の剣を構える。

「同時に攻撃するぞ!」

シュウの声にロードも応える。

ヴァルハラ王国の剣聖シュウ
風の旅団のロード・メビウス

世界でも知らない者は居ない2人の同時攻撃!

「雷神剣!」「ゲイ・ボルグ!」

激しい唸りを上げた2人の攻撃がアルカスに襲い掛かかる。

流石のアルカスも2人の同時攻撃をまともに受ける事はしない。素早く身をひる返し後方へジャンプ。

(これは面倒な事になったが、戦況はどうだ?主力の2人を引き付けて於けば、バロン公国の軍隊はマゼラン帝国に任せて大丈夫だろうが…。)

アルカスは主戦場となっている方向を見る。


ジャミラ・メビウスは月光騎士団アレス副団長の攻撃に防戦一方であった。

蛇王剣が効かないとなると攻撃する活路が見い出せない。

(やはりマゼラン帝国の騎士は強い…)

ジャミラが焦り始めた時、ふらりと一人の戦士がジャミラの前に立つ。

アルゼリア王国の救世主、瞬。

「俺の相手はこいつだな?マゼラン帝国の……アレス?」

「なんだキサマは。そんな細い身体でそれでも騎士か?」

アレス副団長が瞬を見て笑い声をあげる。

「そう言うアンタもあまり強そうには見えないな。隙だらげだぜ?」

瞬の発言にアレスはピクリと反応する。

「キサマ!月光騎士団副団長!このアレスを愚弄するか!!」

アレスが瞬に斬りかかる。大剣を次々と繰り出すスピードは並の騎士では躱す事も出来ないだろう。

しかし…、アレスの攻撃はゆらりと立っている瞬に当たらない。

(なんだこいつは!?)

アレスは攻撃を止め瞬を睨みつける。

「ん?もう終わりか?では、こちらから攻撃するぞ。」

今度は瞬が攻撃態勢に入る。

アレスは大剣を腕の前にかざし回転を始める。アレス得意の防御技!

「風車陣!」

プロペラのように回転する大剣がアレスの姿を見えなくする。

「あの技だ!あの技がある限り奴に攻撃を当てるのは不可能!」

ジャミラ・メビウスが思わず叫び声をあげる。

瞬はふらりとアレスに近寄り突きの態勢を取る。

「北辰夢幻一刀流奥義!ゼロの太刀!」

「!!!」

理由は分からない。高速回転するアレスの大剣を通り抜けて、瞬の剣がアレスの身体に突き刺さった。

「グホッ!!」

吐血しその場で倒れるアレス。
大きな音を立てて倒れるアレスを戦場に居た誰もが目撃した。

マゼラン帝国月光騎士団副団長のアレスが一撃で倒された。

【バロン城の決戦編④】

(ここまでだな…。)

アルカスはアレスが倒れるのを見届けると味方全軍に司令を出す。

「全軍退却だ!これ以上の長居は無駄だ!戦力を消耗する前に退却だ!」

バッフェルはアレスの命令を聞いて言葉を返す。

「アルカス!全軍を連れて本国へ戻れ!ここは俺が引き受ける!」

「バッフェル!?」

「このまま敵に背を向けて無事に逃げ切れると思うのか?敵の攻撃を抑える役目が必要だ。ここは任せろ!」

バッフェルの厳しい表情を見てアルカスが応える。

「死ぬなよ、バッフェル!」

一人バッフェルを残して退却するパラアテネ神聖国の軍隊。
司令塔を失ったマゼラン帝国の騎士団も続けて逃走を開始する。

「一人で戦う気か?」

剣聖シュウがバッフェルに近付いて行く。

「ふふふ…」

不気味に笑うバッフェルの赤い髪が風に揺れる。

「パラアテネ神聖国の魔導師を侮るな。俺の炎は全てを焼き付くす。」

するとバッフェルの身体から激しい炎が放出される。

「まずはキサマだ!剣聖シュウ!!」

バッフェルの叫び声と同時に激しい炎がシュウを襲う。巨大な魔法の炎は剣で切る事は出来ない。シュウが咄嗟に避けるも炎は次々と飛んで来る。

(くっ!避けきれないか!)

シュウが炎の直撃を受ける寸前。近くに居た瞬が大剣をシュッとひと振りし炎の攻撃を打ち消した。

(何だ?)

バッフェルは少し驚き攻撃目標を瞬に変更する。どんなに強い騎士でもバッフェルの魔法を防ぐ事は不可能。それほど強い魔力を込められた魔法。

「紅蓮弾!!」

バッフェルは無数の炎を瞬に撃ち込む!

瞬は大剣を静かに構え、飛んで来る炎を見定める。

「北辰夢幻一刀流奥義!真空斬り!」

瞬の起こした剣撃は全ての炎を斬り裂き炎の魔法を消滅させる。

「バカな……、剣で魔法を切るだと?」

驚くバッフェルの背後に、いつの間にか周り込んでいたジャミラ・メビウスが蛇王剣をバッフェルの首筋に当てる。

「パラアテネの魔導師バッフェルよ。さらばだ。」

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「よくやってくれた皆の衆!そしてアルゼリア王国の戦士よ。」

バロンは笑顔で戦闘を終えた兵士達を出迎えた。

2年前に世界大戦が始まってからパラアテネ神聖国の侵攻を撃退した国は殆ど無い。
ましてや神聖国の幹部クラスの戦士を投入した戦争では負け知らず。
それが先のアルゼリア王国での敗戦に続いての連敗となった。

瞬は改めて魔導師マリーの救出の手助けをバロン閣下に依頼する。
しかし、バロンの返答は冴えないものであった。

「今回の戦の貴公達の活躍には感謝している。勝利の立役者と言っても良いだろう。しかし、我々も自国を護るのに精一杯だ。南のパラアテネ神聖国に加えて北のマゼラン帝国の相手をしなければならぬ。悪いが戦力の支援は難しい。」

バロンの返事に応えるのは舞。

「こちらこそ無理なお願いをして申し訳ありません。私達は自分達の力でマリーさんを助けに行きます。」

ヴァルハラ王国の剣聖シュウがバロンに別れを告げる。

「勝手ながら俺は彼らに付いて行くつもりだ。閣下、短い間だったが世話になった。」

メビウス兄弟の兄ロード・メビウスがシュウの肩を叩いて言葉をかける。

「気にするな。バロン公国は俺達が守る。何せ大金を貰っているからな。」

そう言って大きく笑い声をあげた。

結局、瞬と舞に賛同したのは剣聖シュウのみ。カイザーを含めても四人のみでパラアテネ神聖国へ攻め込む事となる。

(やはり、そう甘くは無いか…)

カイザーが目をつむったその時、駆け込んで来た戦士から新たな情報が入る。

「バロン閣下!ビッグニュースです!2年前にパラアテネ神聖国が侵攻し現在まで占領していたセルバーニア王国が解放されたとの事です!」

「何だと!我々以外にパラアテネ神聖国に敵対する勢力が居るのか?アルゼリア王国か神竜王国か?もしくは他の独立国か?」

現在の世界で二大大国以外で独立を保っている国はパラアテネ神聖国の同盟国を除けば5つしか無い。

どの国も自分の国を守るのに精一杯で他国に攻め込む戦力は無いはずだ。

(いったい誰が…)

翌日、瞬達一行はバロン城を後にする。

目指すはパラアテネ神聖国の首都【パラアテネ】。

四人の旅が始まる。