【覇王祭強敵編①】

準決勝第二試合
○スカルアイランド
 ケン
 リン
○マゼラン帝国アルゼリア王国
 シャルロット・ガードナー
 マリー・ステイシア


(あの二人の拳闘士ケンとリン。覇気を纏(まと)う戦士。その辺の戦士では全く歯が立たないであろう。ロイスの孫娘がどこまで通用するか…。)

試合開始を見守るカスター将軍は一方的な試合展開を予想していた。

最初に動いたのはケン。
みなぎる闘気を全身から発する。
大陸では覇気を纏う事が出来る戦士はカスター将軍だけと言われている。
しかし、スカルアイランドの拳闘士の二人は覇気を身につけていた。
彼等は覇気の事を闘気と呼んでいる。

「うおりゃあぁぁぁ!」

ケンが闘気を纏った拳を握りシャルロットに突進する。
ビリビリと感じるプレッシャーにシャルロットは動けない。

(な!身体が動かない!)

初めて闘気を当てられた戦士は、その巨大なプレッシャーにより身体が硬直する事がある。シャルロットはまさに今そう言う状態であった。

絶体絶命のピンチ!
カスター将軍はシャルロットの敗退を予想する。
(これでマゼラン帝国の騎士は全滅か…)
将軍がそう思った時。

「シャルロット!」

隣に居た魔導師の少女マリーがシャルロットを引っ張りケンの拳から救出する。

ケンは少し驚いてマリーを見る。

「俺の闘気に当てられて動けるのかい?こりゃ、面白くなりそうだ!」

試合を見ていたキャローラはフフと笑う。

(マリーの飼っている化物のプレッシャーに比べたら、あの程度のプレッシャーは何とも思わないかしら。)

「マリー!ありがとう!助かったわ!」

シャルロットはマリーに礼を告げるとすぐさま反撃に出る。

(どんなに強い戦士でも、私の剣を見切れる者など居ない!)

「光速剣!!」

眩い光りを放つ無数の剣撃が光速の速さでケンを襲う。
ケンは剣撃の威力により後ろへ弾かれた。

「おー!凄いなお前!全く見えなかったぞ!」

そう言ってケンは立ち上がる。

「な!無傷!?」

シャルロットは驚きに思わず声を上げる。

「ああ、俺達の身体は特別性だ。闘気を纏った身体に剣は効かないぜ!」

自信満々にケンは言い放つ。

「さぁ、やろうぜ!これからが本番だ!」



【覇王祭強敵編②】

積極的に戦闘を楽しむケンとは対象的にリンは攻撃をためらっていた。

一回戦で見せたマリーの戦闘。
風の旅団メビウス兄弟の兄【ロード・メビウス】が放った聖槍ゲイ・ボルグの一撃。

あの一撃は確かに必殺の一撃であった。
闘気を纏(まと)うリンですら無傷では済まされない程の威力を感じた。

その一撃を全くの無傷で跳ね返したマリー。
どんな技を使ったのか。
リンは攻撃をするのをためらっていた。

いや、考えても仕方ない。
爺ちゃんに教わった必殺の正拳を叩き込むのみ。

「行きます!」

リンはその拳に闘気を集中する。
どんな巨大な魔獣をも一撃で倒すリンの拳(こぶし)は薄っすらと光り輝く。

強烈な殺気を放つリンを前にマリーは深く深呼吸をする。
マリーの魔法はどんな攻撃をも跳ね返す鏡の魔法。耐久力にこそ弱点はあるが、初撃であれば大抵の攻撃は跳ね返す。
相手の攻撃は強ければ強いほど必殺のカウンターとなる。

リンが一瞬で間合いを詰めた。
物凄い闘気を右の拳に集中する。

(焦るな…、大丈夫!)

マリーは心でそう呟くと鏡の魔法を発動させる。

(ミラーリフレクト!)

声には出さないその魔法詠唱によりマリーの身体は鏡に包まれ姿を消して行く。

リンの攻撃は止まらない。
必殺の正拳突きをマリーの鏡に撃ちつける!

「!!!」

手応えはあった。リンの突きの威力は天地を揺るがす程の威力がある。
鏡に亀裂が入りその後ろに居るマリーの姿があらわになる。

同時に必殺の一撃はリンに向かって反射する。超接近した2人の距離でカウンターの一撃を防ぐのは不可能。
初手で最高威力の突きを放ったリンの過ち。
マリーは割れた鏡の向こうで勝利を予感した。

「ここだ!」

リンはそう叫ぶと超至近距離のカウンターの一撃を左手の正拳突きで相殺する!
一瞬の状況判断。
それに対応する反射神経。
一回戦のマリーの魔法をみていたから出来た芸当。
それにしても、リンの超反応は常人の域を越えていた。

「そんな!」

マリーは驚きの表情でリンを見つめる。

闘気を込めた右の正拳突きに対し、咄嗟に繰り出した左の突きでは威力が違う。
リンの左拳は自ら放った突きの威力で粉々に砕け散りもはや使い物にはならない。
しかし致命傷を防ぐ事には成功した。

「さぁ、もう一撃、行きますよ!」



【覇王祭強敵編③】

ケンが次々と繰り出す攻撃の全てをシャルロットは躱(かわ)して行く。
シャルロットは騎士でありながら光属性の魔法を使う。
光の粒子を眼と脳に集中する事により、周りの情景がスローモーションのように映る。
全ての攻撃が当たらない。
しかしケンは楽しそうに攻撃を繰り出す。

「お前凄えな!俺の攻撃が当たらない奴なんて初めてだ!こうなりゃ当たるまで攻撃してやるぜ!」

止まらない。

ケンの攻撃が止まらない。

既に何十発もの攻撃を仕掛けてるケンには疲れてる様子は微塵も感じられない。

シャルロットが相手の攻撃をスローモーションの様に見えたとしても、シャルロットの体力が上がる訳では無い。

ケンの正拳突きを躱(かわ)した時、シャルロットの膝がガクンと崩れその場に倒れる。

(しまった!)

ケンはシャルロットの隙を見逃さない。
「おりゃあ!」

咄嗟(とっさ)に避けるシャルロットの肩をケンの正拳突きがかすった。
シャルロットは激しい痛みにフィールドを転がる。

「おー!やっと当たったぜ!」

ケンが嬉しそうに声を上げる。

しかし、シャルロットはすぐ様、反撃に出る。立ち上がると同時に駆け寄りレイピアで攻撃を仕掛ける!

「光速剣!」

無数の剣撃がケンに命中する。
ケンは少しよろめきニヤリと笑う。

「何度やっても、俺の身体に傷を付けるのは無理だと思うよ?」

シャルロットは傷ついた肩を押さえケンを睨む。

(この人、強すぎる……。)

______________

1年前、マゼラン帝国

「光速剣!」

シャルロットの光速の剣撃が祖父ロイス・ガードナーを襲う!

マゼラン帝国の英雄ロイスですら、シャルロットの剣撃を見切るのは不可能。
その場で膝まずくロイス。

「シャルロットよ。お前は確かに強くなった。お前の剣を見切れる者など、この世には存在しないであろう。」

ロイスは言葉を続ける。

「しかしだ。例え模擬戦用の剣だとしても、私にこの程度のダメージしか与えられ無いようだと、真の強敵には勝てないだろう。」

シャルロットは目をパチクリさせて応える。

「真の強敵ですか?」

「そうだシャルロット。お前の剣は軽い。今のお前では覇気を纏(まと)ったカスター将軍に傷1つ付ける事は出来ない。」

「よく聞けシャルロット、これが私からの最後の教えだ。」



【覇王祭強敵編④】

リンの左拳(こぶし)から血が滴り落ちる。

(確かに恐ろしい魔法だわ。しかし仕組みは分かった。そして鏡は撃ち砕いた。この左拳はもう使い物にならないし、次に私の攻撃が跳ね返されたら私の負けね…。)
リンが再び右の拳に闘気を集中する。
反射を恐れて手加減するつもりは無い。

(勝つか負けるか、次の一撃が勝負!)

リンの決意をよそにマリーはジリジリと後ろに下がる。ミラーリフレクトの魔法を砕かれたマリーには魔力が殆ど残って居ない。
魔力の回復には、時間が掛かる。

マリーは逃げるように後ろに下がり危うくフィールドから足を踏み外しそうになる。

(後ろに逃げ場は無い…。どうする?)

下がるマリーを追い詰めるようにリンが間合いを詰める。

「あまりガッカリさせないで下さいね。私は全力で撃ち込みます。行きます!」

リンの宣言にマリーは決意する。

(もう一度、反射するしか無い!)

動いたのはリン。
闘気によって光り輝く右の拳に全身全霊を込める。元より身体能力が違う。
一撃を喰らえば確実に負ける。
マリーがリンの攻撃を受けるには鏡の魔法しか無い。

「ミラーリフレクト!」

次の瞬間マリーの身体が光の鏡に覆われ見えなくなる。
リンの勢いは止まらない!
しかしリンに躊躇(ためら)いは無い。全力で撃ち込むのみ!

神様はリンに微笑んだのか、そこで鏡の効力が音も無く消え去った。
マリーを包んでいた光の鏡が消え、その背後にマリーの姿がくっきりと現れる。

「貰った!」

リンは全力でマリーを撃ち抜く!

「!!!!」

リンの正拳突きはマリーの身体を撃ち抜いた!

そのはずであった。

しかし、何も手応えが無い。
リンの拳は虚しく空を突き、勢い余ったリンはよろけるように前へ出る。

「え?」

リンは何が起きたのか理解出来ない。

フィールドに立つマリーが微笑んだ。

「ミラーエフェクト」

「あなたが撃ち抜いたのは私の幻影。言わば鏡によって加工された偽物です。

私の勝ちね、リンさん。そこはフィールドの外。
……場外よ。」

リンはフィールドの外で呆然と立ち尽くす。



【覇王祭強敵編⑤】

ケンの怒濤の攻撃をシャルロットは躱(かわ)し続ける。時折見せる反撃もケンの闘気を纏(まと)った身体には傷を付ける事が出来ない。疲れの見えるシャルロットに対しケンは疲れる素振りは無い。

『おっーと、ここでスカルアイランドの拳闘士リン選手、場外にて失格です!これは思わぬ事態になりました!』
アナウンサーの実況にケンが思わず動きを止める。

「場外?姉ちゃん、何やってんだ?」

フィールドの外に居る姉の方を見るケン。

シャルロットは1年前の祖父ロイス・ガードナーの言葉を思い出す。

「よく聞けシャルロット、これが私からの最後の教えだ。」

ロイスは言葉を続ける。

「どんな物体にも核と言う物が存在する。頑強な岩にも鋼鉄にも、そして人間にも。
一部の騎士はその核の事を点欠(てんけつ)と呼んでいる。歴史上、名を残した騎士や剣豪と呼ばれる者達には点欠を見極める力があった。
シャルロットよ。お前の光の魔法なら点欠を見極められるかもしれぬ。そうすれば、カスター将軍の覇気すら打ち破る事が出来るだろう。」

(点欠……。)

シャルロットは光の粒子を極限にまで高め、自らの脳と眼に集中させる。
大歓声の響くフィールドが「しん」と静まり返ったような気がした。

迫り来るケンの右拳が見える。
スローモーションに映るその正拳突きを最小限の動きで躱したシャルロットは右手のレイピアを強く握りしめた。

ケンが次の攻撃を繰り出そうとしている、その一点。身体のちょうど中心の辺りが白く光って見えた。

無数の剣撃は不要。

ただの一撃で良い。

シャルロットの細いレイピアが光の軌道を創り出す。それは、まるで天空に流れる一筋の流星のよう。

「流星剣!」

針の穴を通すような繊細な一撃。
闘気を纏(まと)い、剣の刃をも弾き返すケンの鍛え抜かれた体が悲痛の叫びを上げた。

「ガハッ…」

吐血をするケンの顔には驚きと賞賛の表情が見える。

(爺ちゃん…、やっぱり世界は広いわ…。)

『勝負あり!
 勝者!
 シャルロット・ガードナー!
 マリー・ステイシア!

恐るべし16歳の少女、シャルロットとマリー!スカルアイランドの強敵を見事に撃退しました!』

試合を見ていたキャローラが不敵な笑みを浮かべる。

(ついに来たわね、マリー…。いよいよ決勝かしら。)