【覇王祭激闘編①】
世界会議
世界各国の王族、元首が四年に一度、神竜王国に集まり世界秩序と世界平和について話し合う一大イベント。
今回の主要議題は昨年末のセルバーニア王国侵略及び占領の件。
パラアテネ神聖国による占領は不当であるとマゼラン帝国の皇帝陛下が強い懸念を示す。
決議の結果、占領を認めない国家が23ヶ国。占領を認める国が7ヶ国。
各国の元首は多額の賠償金を受け取る代わりにセルバーニア王国から撤退するよう求めた。
これにはパラアテネ神聖国の大司教が激怒。
「この会議はいつからマゼラン帝国の傀儡となったのかね?我々パラアテネ神聖国と敵対するつもりか?」
議長の神竜王国の国王が答える。
「大司教殿、これは世界平和の為ですぞ。パラアテネ神聖国と言えどマゼラン帝国を始めとする世界中の国を相手に全面戦争は望まないでしょう。それに、この決議を守らない場合は中立国である我々神竜王国も敵に回す事になります。ドラゴンと戦うおつもりですかな?」
黙りこんだ大司教にマゼラン帝国の皇帝が話を続ける。
「まぁ、明日も世界会議はあります。覇王祭が終わった後にでも大司教殿の返答を頂きましょう。今年の覇王祭は高レベルですな。決勝トーナメントが楽しみです。」
その日の夕刻、明日の決勝トーナメントの組み合わせが発表された。
第一回戦
○パラアテネ神聖国
キャローラ・ノースクイーン
デスペラード・デルタ
○マゼラン帝国死神部隊
キース・ミュラー
バーミラ・アリオネ
第二回戦
○神竜王国竜神
飛竜
水竜
○マゼラン帝国近衛騎士団魔導師団
ジャッカル・バロンドール
シノア・ヨシュア
第三回戦
○マゼラン帝国黄金騎士団
カスター将軍
ランドルフ
○スカルアイランド
ケン
リン
第四回戦
○風の旅団
ロード・メビウス
ジャミラ・メビウス
○マゼラン帝国アルゼリア王国
シャルロット・ガードナー
マリー・ステイシア
第一回戦と第二回戦の勝者
第三回戦と第四回戦の勝者が準決勝を戦います。
【覇王祭激闘編②】
予選を勝ち抜いた八チーム16名が決勝トーナメントの舞台に立つ。
死神部隊隊長キース・ミュラーは抽選の結果に感謝する。
3ヶ月前のセルバーニア城での攻防は城門の上に立つキャローラに、触れる事すら出来なかった。
何の抵抗も出来ないまま、多くの仲間が土人形ゴーレムに無残に殺された。
(大剣が届く距離での戦闘ならば俺達は負けない。必ずキャローラを……、殺す!)
覇王祭決勝トーナメント第一回戦が始まる。
第一回戦
○パラアテネ神聖国
キャローラ・ノースクイーン
デスペラード・デルタ
○マゼラン帝国死神部隊
キース・ミュラー
バーミラ・アリオネ
『いよいよ決勝トーナメント一回戦!四将星キャローラ・ノースクイーンの登場です!対するはマゼラン帝国の死神部隊!昨年末のセルバーニア王国紛争の因縁対決!試合開始です!』
「バーミラ!先手必勝だ!」
キースの叫びにバーミラが即応する。
闇の撹乱魔法!
闇の雲を発生させて敵の視覚を奪う。
開始わずか5秒でキースはキャローラの首に大剣を振りかざす。
「暗黒世界!」
次の瞬間キースの目の前が忽然と暗くなる。
「!!!」
(なんだ!?何も見えない!)
ふいに横から灼熱の剣でキースは叩き切られる。熱さと激痛で叫び声を上げるキース。
ようやく辺りが明るくなった時には目の前に炎の剣が向けられていた。
「くっ!何をした!?」
デスペラードが悠然と答える。
「闇魔法を極めた俺に闇の撹乱魔法など効きはしない。俺の闇魔法は視覚を撹乱するのでは無く、脳に直接働き掛ける。」
「脳に……だと?」
「俺と対戦した敵は暗闇の中で何が起こったかも分からないまま死んで行く。」
「キース隊長!」
バーミラは闇の攻撃魔法をデスペラードに発射する。
黒い煙状の帯がデスペラードを捉えようとした時、デスペラードは片手で黒炎の盾を造り出し攻撃をシャットアウト。
その隙をキースは逃さない。
キースは大剣を最速で振り抜いた。
目の前に接近していたデスペラードが大剣を交わす事は不可能!
「!!!」
が、またしても黒炎の盾が大剣の攻撃を防御する。
すかさず後ろへ飛び跳ねたキースは防御態勢で身構えるので精一杯であった。
(この魔導師…、強い!)
【覇王祭激闘編③】
「あの魔導師…、只者では無いな。接近戦で騎士を圧倒するか…。」
水竜の呟きに飛竜が答える。
「これだからパラアテネ神聖国は侮れない。無名の魔導師が超一流ときてる。」
「飛竜…、それにしては楽しそうだな。」
「当たり前だ。全力で戦える相手はそうは居ないからな。」
戦況を眺めていたキャローラが言葉を紡ぐ。
「あらあら、またしても私の出番は無いのかしら。死神部隊もこの程度とは、つまらないわね。」
デスペラードが黒炎の剣を構えてキースに迫る。
「キャローラ様は退屈のようだ。この戦闘はもう終わりにしよう。」
「暗黒世界!」
またしてもキースの目の前が真っ暗な世界に閉ざされる。
絶望絶命のピンチにキースはニヤリと笑う。
「キャローラ、その余裕が死を招く。」
【死神部隊】
狙った獲物は必ず仕留める事から付けられた特殊部隊の愛称。
キースは最初の一撃でキャローラの首筋に狙いを定めていた。
キースの持つ大剣は特殊な魔法が掛けられている。キースが大剣を投げた時、一度定めた目標に一直線に飛んで行く追尾魔法。
デスペラードが黒炎の剣を振りかざすより早く、キースは大剣を投げつける。
いかに四将星とは言え、魔導師に変わりはない。油断している魔導師になら、この一撃は届くはず!
鋭い音を響かせてキースの投げた大剣はキャローラの首筋を目掛け飛んで行く。
「しまった!間にあわない!」
デスペラードが振り向いた時にはキースの投げた大剣は正確にキャローラの首筋を捉えていた。
キャローラの首筋から血が滴り落ちる。
「もう少し…
もう少し…、土の壁を造るのが遅れていたら危なかったですわね。」
大剣はキャローラの造り出した土の壁を突き抜けて、キャローラの首に僅かに刺さった所で止まっていた。
武器を手放したキースには、もうデスペラードの攻撃を防ぐ手段は無かった。
デスペラードの留めの一撃でキースは力尽き、バーミラは降参する。
『勝負あり!
勝者!
キャローラ・ノースクイーン!
デスペラード・デルタ!』
【覇王祭激闘編④】
「キースの旦那は惜しかったな…。代わりに俺達が一回戦をサックリ勝ってパラアテネの四将星を倒してやろうじゃないの!」
ジャッカルが真っ先にフィールドへ飛び出した。
シノアはジャッカルの後に続く。
「初戦から優勝候補の竜神…、これに勝っても次が四将星とか…、ジャッカルってクジ運悪過ぎ……。」
シノアのぼやきを他所(よそ)にジャッカルは元気いっぱいに準備運動をしている。
迎え撃つのは地元神竜王国が誇る竜神。
前回覇者の飛竜と水竜。
大歓声の中、颯爽(さっそう)とフィールドに立つ。
第二回戦
○神竜王国竜神
飛竜
水竜
○マゼラン帝国近衛騎士団魔導師団
ジャッカル・バロンドール
シノア・ヨシュア
「シノア!速攻で行くぞ!」
ジャッカルの掛け声と共にシノアは魔法を唱える。
光と闇の特殊魔法「ミラージュ!」
この魔法を受けた対象者は実態を保有したまま分身する。
10に別れたジャッカルが2人の竜神に攻撃を仕掛ける!
飛竜とジャッカルの戦闘技術はほぼ互角。しかし、複数人で四方から攻撃されると流石の飛竜も防戦一方になる。
ジャッカルの二刀が5倍になり10の刃が飛竜を襲う!
水竜はドラゴンの幼生に飛び乗り上空へ逃げる。自身が召喚した生物に乗るのはフィールドの外へ出ない限りは認められている。
「「空を飛ぶのは反則だろう!」」
5人のジャッカルが空を見上げ一斉に叫ぶ。
「もっとも…」
「それも対策済だけどな!」
「シノア!今だ!」
シノアが上空へ向けて闇魔法を放つ。
ただの攻撃魔法では無い。
空間を闇で遮断する高度魔法。
フィールド上空の空間が蜘蛛の巣の網の様に切り裂かれドラゴンの行き場を奪う。
切り裂かれた闇の空間に触れたドラゴンの身体から無数の鮮血が噴き出した!
地元の優勝候補の思わぬ苦戦に、戦闘を観戦していた観衆から悲鳴にも似たどよめきが起こる。
「一気に行くぜ!」
5人のジャッカルが飛竜に猛攻を仕掛ける。
もはや全ての攻撃を防ぐ事も出来ず飛竜の身体から出血が溢れ出る。
一方的な展開に誰もが竜神の敗戦を予感した。
【覇王祭激闘編⑤】
血だらけの飛竜がそっと呟く。
「5分か…、そろそろだな。」
その言葉に反応したジャッカルが一斉に飛竜に切り掛かる!
飛竜はジャッカルの内の1人の攻撃を長剣で防御する。
他の四人のジャッカルは攻撃の途中で音も無く消え去った。
「キサマ…、なぜ分かった!?」
飛竜はシノアを見てからジャッカルに返答する。
「今のお前の相棒の魔力はゼロだ。魔力が尽きれば魔法の効力が切れるのは必然。俺はその人間の魔力保有量を見る事が出来る。」
「な!…そんな事が出来るのかよ!」
「当然に空の切れ目も無くなった訳だが、ドラゴンの攻撃を魔法の使えない魔導師が防ぐ事が出来るのかな?」
ドラゴンの幼生が大きく口を開き激しい水流を放出する。
全身に強烈な圧が掛かりシノアの身体はコンクリートの壁に打ち付けられたかの様な打撃を受ける。
「シノアーー!!」
ジャッカルがシノアの方へ走り寄ろうとした時、飛竜がジャッカルに長剣を突き刺した!
「予選で同じ技を使ったのは間違いだ。こうなる未来は最初から分かっていた。」
背後から貫かれたジャッカルがシノアに手を伸ばしたまま、その場に倒れ込む。
『勝負あり!
勝者!
飛竜!
水竜!
どうなる事かと心配しましたが
我らが竜神の2人が二回戦進出です!』
「魔法なんぞに頼るからだ。近衛騎士団の若造が…。マゼラン帝国の真の騎士には程遠い。」
戦況を見守っていたカスター将軍が立ち上がる。黄金に輝く衣装が将軍の風格を一層醸し出している。
「ランドルフよ。なぜ我々が黄金の騎士を名乗っているか分かるか?」
「ハッ!恐れながら私には分かり兼ねます。」
「マゼラン帝国の騎士たるもの、どんな状況であっても常に勝たねばならんのだ。黄金に輝く宝石のように常に輝いてこそ我らが正義!例え相手が女子供であっても全力で屠るぞ。」
「爺ちゃん!ちょっくら暴れて来るぜ!」
「ちょっと待ちなさいよ!ケン!」
ケンとリンの双子の姉弟がフィールドに駆け上がる。
「なぁ、姉ちゃん!あのデッカイオッサン、爺ちゃんに似てないか?」
「なに言ってんのよ、全然似てないじゃない。」
「いや、顔とか体格じゃなくて…、あの全身から溢れる闘気。」
「……、そうね。良かったじゃない?全力で撃ち合えそうで!」
【覇王祭激闘編⑥】
『さぁ、決勝トーナメントは早くも三戦目。伝説の武神、マゼラン帝国の大将軍の登場です!死神部隊に近衛騎士団の敗戦によりマゼラン帝国の威信にかけても負けられない一戦!』
「カスター将軍、相手は無手の子供。私が行って参ります。」
ランドルフは大剣をかざし前へ出る。
第三回戦
○マゼラン帝国黄金騎士団
カスター将軍
ランドルフ
○スカルアイランド
ケン
リン
『予選では大活躍のスカルアイランドの戦士がマゼラン帝国の騎士を相手にどこまで通用するのか!第三回戦開始!』
ランドルフの前に躍り出たのは双子の弟ケン。ケンはランドルフを見ると、つまらなそうに呟く。
「あんたは、あまり強そうじゃないね。あんたの相手は姉ちゃんに任せるわ。」
ランドルフは怒りにみるみる赤くなる。
「貴様、騎士を愚弄するか!」
ランドルフは試合である事も忘れ素早く大剣を振り抜きケンを叩き切ろうとする!
水平に胴体を狙った剣裁きは当たれば即死の勢い。
しかし、ケンはランドルフが大剣を振り切るより早く間合いを詰め正拳を繰り出す。
闘気の込めた正拳突きの一撃はランドルフの胸部を陥没させた。
「グホッ!」
口から大量の血を吐き出したランドルフは、一撃でその場に沈んだ。
会場は静まり返る。
「さて、オッサン!始めようぜ!」
ケンは何事も無かったようにカスター将軍に話し掛ける。
ランドルフがやられてもカスター将軍は動じない。そもそもカスター将軍にとって、自分と同じ域にまで剣を極めた者など存在しない。
そう言う意味ではペアの相方には特に期待はしていなかった。
(スピード、パワー共に申し分なし。覇気まで身につけて居るならば、本気でやらねばなるまい。)
カスター将軍には奢りも油断も無い。
全神経を右手に握る大剣に集中させる。
先に仕掛けたのはケンの方であった。
瞬速で間合いを積めて正拳突きを繰り出す。
(速い!)
(この俺が剣を振り抜く間も無く懐に入られるとは!)
「うぉりゃぁあぁぁぁー!」
ケンの拳がカスター将軍の胸元を殴り付ける!巨漢を誇るカスター将軍がグラリと態勢を崩したその時、右手の大剣が面前の敵を切り付けた!
ケンは超反射で身体を後ろに反らすも大剣の風圧で吹き飛ばされる!
最初の攻防は互角の撃ち合いとなった。
【覇王祭激闘編⑦】
地面に叩きつけられたケンはすぐに飛び起きて目をパチパチと瞬(まばた)きをする。
「オッサン!やるな!風圧だけでこの威力かよ!」
「ケン!1人では危ないわ!私も手伝う!」
そう言ってリンが駆け寄るもケンは右手で制す。
「姉ちゃん、男の真剣勝負に口を出しちゃダメだ。俺が1人で倒すぜ!」
「真剣勝負って…、2対2の試合じゃないの!」
ケンはリンの言葉を無視してカスター将軍に立ち向かう。
(覇気を纏(まと)った俺にダメージを与える奴など何十年振りだ…。)
カスター将軍は再び大剣を構える。
(何より信じられない速さ。瞬時に間合いを詰められ、更には接近した状態の我が剣を躱(かわ)すとは…。)
お互いの覇気と闘気がぶつかり合いフィールドには異様な空気が流れる。
ケンは右手の拳に闘気を集中させる。
資源の少ないスカルアイランドでは、防具になる金属も、武器になる金属も殆ど無い。
そこで戦士達は素手で戦う術を学ぶ。
幼少の頃より鍛えられた身体に闘気を纏(まと)う事により鋭い大剣の一撃を跳ね返す肉体を持ち、その拳は巨大な岩石をも打ち砕く。
ケンとリンの姉弟は拳闘士と言われる一族の中でも異彩を放つ。
闘気のレベルが他の一族と比べても群を抜いていた。これは産まれ持った素質による所が大きい。
そこに一族の中でも最強と言われる老師が戦闘技術を叩き込んだ。
並の騎士では傷一つ付ける事も出来ないであろう。
(しかし、あれは危ない)
カスター将軍が放った剣撃は闘気を纏(まと)ったケンの肉体ですら無傷では済まないだろう。
本能で危険を察知したケンは咄嗟に躱(かわ)す事を選んだ。
(しかし!)
(拳に闘気を集中させればカスター将軍の大剣を砕く事が出来るはず!
いや、出来る!!)
ケンは自分に言い聞かせるように闘気を集中して行く。
「次で決まるな。」
戦況を見守っていた飛竜が呟く。
「ああ、二人ともとんでもない化物だ。世の中広いものだ。」と水竜。
「二人?いや、三人だろう。俺にはあの少女が最も恐ろしく映る。」
【覇王祭激闘編⑧】
カスター将軍の覇気は最高潮に達していた。
並の戦士なら立って居る事も出来ない程の威圧。
「見せてやろう。黄金の剣、最大奥義。」
みなぎる覇気がカスター将軍の大剣を黄金色に光り輝かせる。
天に愛された者のみが可能な必殺剣!
「太陽剣!!」
眩い光がフィールド上を照らし会場全体が光に包まれる。
強大な一撃は大地をも切り裂く必殺剣。
それを
ケンは真っ向から受け止める。
全身の闘気をその拳に集中させイナズマのような正拳を撃ち込む!
カスター将軍の大剣とケンの拳が衝突しフィールドに激しい地鳴りが響き渡る。
観衆は静まり返り、二人を見守る。
どちらが勝ったのか?
数瞬の時を経て、ケンの拳から血が噴き出す。
「ぐっ!」
ケンの拳は中央からバッサリと斬られ激しい痛みに思わず声を漏らす。
「カスター将軍の勝ちだ!」
観衆の誰かが叫んだ。
カスター将軍はゆっくりと目をつぶり、構えていた大剣を下ろす。
すると黄金の大剣がパリンと音を立てて砕け散った。
「すげぇなオッサン!俺の拳を切り裂くとは!」
ケンは楽しそうに叫ぶ。
カスター将軍は審判の方を見て言葉を発する。
「降参だ。」
そしてカスター将軍はリンの方を見る。
「大剣を失った俺が、もう1人の化物を倒す手段は無い。」
……
『これは大変な事になりました!
マゼラン帝国の武神!騎士の中の騎士!戦場では負け知らずの大将軍がスカルアイランドから来た若干16歳の戦士の前に敗北した!』
『勝負あり!
勝者!
ケンとリン!』
静まり返っていた大観衆が一斉に声を上げる。
「うおー!すげーぞ!拳闘士!」
「無手で将軍を破りやがった!」
「そのまま決勝まで勝ち上がれよー!」
ケンとリンは照れ臭そうに観衆に手を降って応える。
カスター将軍は救護班に向けて話し掛ける。
「早く拳の治療をしてやれ。次の試合に差し支えるといかん。」
ケンはカスター将軍を見て大声で叫ぶ。
「オッサン!楽しかったぜ!またやろうな!」
【覇王祭激闘編⑨】
「調子はどうだ?キャローラ。お前程の魔導師が負けるとも思えないが、お前も物好きな奴だな。」
試合を観戦していたキャローラに1人の男が近付き話し掛ける。
男は全身を黒いローブで身を包みその顔は見る事が出来ない。
「そうでも無いかしら。これから戦争をする相手を知る事は大切な事ですわよ?」
キャローラは男を見て言葉を続ける。
「それよりも、貴方こそこんな所に来て大丈夫なのかしら?大司教様の護衛役でしょう?」
「まぁ、部下の魔導師が付いている。それに、ここで大司教の命を狙う国もないだろう。この地には我々四将星が2人も揃っているのだから。」
男は立ち上がると去り際にそっと耳打ちをする。
(あの少女がマリーだな。作戦に変更は無しだ。)
『さぁ、いよいよ一回戦も最後の試合となりました。予選で圧倒的な強さを見せ付けた最強の傭兵団、風の旅団の2人のリーダー!メビウス兄弟の登場です!』
『対するは、マゼラン帝国から参戦した騎士の最後の1人となりました。あの英雄ロイス・ガードナーの孫娘シャルロット・ガードナー!大国マゼラン帝国の意地を見せて貰いたいものです!』
第四回戦
○風の旅団
ロード・メビウス
ジャミラ・メビウス
○マゼラン帝国アルゼリア王国
シャルロット・ガードナー
マリー・ステイシア
「マリー、私が先に行きます。」
シャルロットに対するはメビウス兄弟の弟ジャミラ。
「ロイスの孫か……、高速剣がどんな物か見せて貰おうか!」
シャルロットはレイピアを構え攻撃態勢に入る。
ジャミラとシャルロットが対峙する中、メビウス兄弟の兄ロードが聖槍【ゲイ・ボルグ】の狙いを後方に居るマリーに定める。
伸縮自在のゲイ・ボルグなら十数メートル離れたマリーを攻撃する事が可能。
「わかりました。祖父ロイス・ガードナーから受け継いだ高速剣、お見せしましょう。」
シャルロットがレイピアを振りかざすのと同時にジャミラは蛇王剣を突き出した。
「高速剣!」
「蛇王剣!」
レイピアより無数の剣撃が放たれる。
音速の剣撃は人の目で捉える事が出来ない。
ジャミラ・メビウスにもシャルロットの放つ剣の軌道を見極めるのは困難。
しかし
蛇王剣から無数に伸びる蛇の牙が高速剣の剣撃を尽く弾き返す!
「!!!」
「そんな!!」
【覇王祭激闘編⑩】
聖槍ゲイ・ボルグがマリー目掛けて一直線に伸びる!
間一髪で交したマリーの薄茶色の髪が槍の一撃によりハラリと舞う。
「不意の一撃を上手く避けたな魔導師。そうでなくては、つまらない。次は外さない。」
マリーはロードを睨みつける。
「私は逃げも隠れもしません。その程度の槍では私を倒す事など出来ません。」
マリーの挑発にロードは顔を歪ませる。
「ガキが!調子に乗るなよ!予選でも何もせずに観戦していた魔導師に何が出来る!ゲイ・ボルグの真の力を教えてやろう!」
「マリー!」
シャルロットがマリーに駆け寄ろうとした時、ジャミラが蛇王剣を突き出し行く手を塞ぐ。
「おっと!マゼランの騎士さんよ、お前の相手は俺だろう。もっとも高速剣を破られたお前には、もはや何も出来ないだろうがな。」
シャルロットがジャミラを睨み付ける。
「私の剣筋を見る事も出来ない貴方が強いとでも?その剣が無ければ貴方は切り刻まれている所です。」
ジャミラはガハハと笑い飛ばす。
「蛇王剣は俺の一部だ!負け惜しみとは情けない奴だ。死ね!」
ジャミラがシャルロットに蛇王剣を突き出した。
「ゲイ・ボルグは30もの刃に別れ全方位から獲物を串刺しにする!逃げる事は不可能!死ぬが良い魔導師の少女よ!」
ロードの聖槍ゲイ・ボルグはその言葉の通り無数の刃と化し全方位からマリーを襲う!
ロードとジャミラは、それぞれの持つ特異な武器、【聖槍ゲイ・ボルグ】【妖刀蛇王剣】でシャルロットとマリーに留めの一撃を放つ。
シャルロットはジャミラに向かい言い放つ。
「確かに蛇王剣は私の高速剣に反応し、全てを防いだかもしれないわね。では、これはどうかしら?」
シャルロットがレイピアを向かって来る蛇王剣に向けて構える。
「光速剣!!」
刹那、無数の剣撃が光の速度でジャミラを襲う。妖刀の力を持ってしても光の速さで繰り出される光速剣には全く反応出来ない。
その後方、ゲイ・ボルグの槍が30本の刃に分かれ全方位からマリーを襲う!
マリーに逃げ場は無い。観衆の誰もが串刺しになる少女を想像する。
そっとマリーは魔法を唱える。
「光の鏡!」
するとマリーは眩いばかりの光に包まれ、その姿を消していく。
2つの勝負が決着を迎えようとしていた。
【覇王祭激闘編⑪】
ジャミラ・メビウスはシャルロットの光速剣に全く反応出来ず全身を切り刻まれる。
伝説の妖刀蛇王剣は虚しく音を立ててジャミラの手からこぼれ落ちた。
シャルロットはレイピアを腰に仕舞いジャミラに言葉を投げかける。
「急所は外しています。早く手当を受けた方が良いでしょう。」
そう言ってシャルロットは、もう一人の敵、ロード・メビウスを見る。
(マリーに攻撃を仕掛けるなんて無謀だわ。)
ロード・メビウスの聖槍【ゲイ・ボルグ】が、攻撃を仕掛けたロード本人を串刺しにする。
「ぐっ…!」
「な、何が……、起こった……」
弟のジャミラと同じく、兄のロードも全身から血を噴き出してその場に崩れさった。
フィールドが静まり返る。
観衆は何が起きたのか理解出来ず、ただ呆然と2人の少女を見つめていた。
「おい!何が起きたんだ?メビウス兄弟が攻撃を仕掛けたはずだが…。」
「返り討ちに合ったんだろ?マゼラン帝国の騎士は高速剣のロイスの孫だ。」
「ロード・メビウスは何で負けたんだ?」
「………」
『勝負あり!
勝者!
シャルロット・ガードナー!
マリー・ステイシア!
救護班!急いで下さい!』
『これは驚きました!最強の傭兵メビウス兄弟が惨敗です!シャルロットとマリーの少女2人は全くの無傷!完勝です!!』
アナウンスを聞いた観衆がようやく大歓声を上げる。
「おー!あの2人、子供のくせに強ええな!対戦が楽しみだぜ!」
楽しそうに叫ぶケン。
「子供って…、私達と同い歳みたいよ?」
リンは冷静に答える。
「見たか?水竜。」
飛竜は横に居る水竜に囁(ささや)く。
「マゼランの騎士の剣筋か…、俺には見えなかったが、お前は見えたのか?」と水竜。
「いや、そっちじゃねぇ。アルゼリアの魔導師。あの女、ロードの攻撃を跳ね返しやがった。どう言う仕組みか分からないが、あの魔法は危険だ。」
戦士達が2人の少女に警戒を抱く中、キャローラは嬉しそうに笑う。
「マリー、悪魔を召喚せずとも戦えるじゃないの。これは楽しみが増えたかしら。」
覇王祭一回戦が終了し、準決勝に進出する四チームが出揃った。
真の強者のみの決勝を掛けた戦いが始まる。
世界会議
世界各国の王族、元首が四年に一度、神竜王国に集まり世界秩序と世界平和について話し合う一大イベント。
今回の主要議題は昨年末のセルバーニア王国侵略及び占領の件。
パラアテネ神聖国による占領は不当であるとマゼラン帝国の皇帝陛下が強い懸念を示す。
決議の結果、占領を認めない国家が23ヶ国。占領を認める国が7ヶ国。
各国の元首は多額の賠償金を受け取る代わりにセルバーニア王国から撤退するよう求めた。
これにはパラアテネ神聖国の大司教が激怒。
「この会議はいつからマゼラン帝国の傀儡となったのかね?我々パラアテネ神聖国と敵対するつもりか?」
議長の神竜王国の国王が答える。
「大司教殿、これは世界平和の為ですぞ。パラアテネ神聖国と言えどマゼラン帝国を始めとする世界中の国を相手に全面戦争は望まないでしょう。それに、この決議を守らない場合は中立国である我々神竜王国も敵に回す事になります。ドラゴンと戦うおつもりですかな?」
黙りこんだ大司教にマゼラン帝国の皇帝が話を続ける。
「まぁ、明日も世界会議はあります。覇王祭が終わった後にでも大司教殿の返答を頂きましょう。今年の覇王祭は高レベルですな。決勝トーナメントが楽しみです。」
その日の夕刻、明日の決勝トーナメントの組み合わせが発表された。
第一回戦
○パラアテネ神聖国
キャローラ・ノースクイーン
デスペラード・デルタ
○マゼラン帝国死神部隊
キース・ミュラー
バーミラ・アリオネ
第二回戦
○神竜王国竜神
飛竜
水竜
○マゼラン帝国近衛騎士団魔導師団
ジャッカル・バロンドール
シノア・ヨシュア
第三回戦
○マゼラン帝国黄金騎士団
カスター将軍
ランドルフ
○スカルアイランド
ケン
リン
第四回戦
○風の旅団
ロード・メビウス
ジャミラ・メビウス
○マゼラン帝国アルゼリア王国
シャルロット・ガードナー
マリー・ステイシア
第一回戦と第二回戦の勝者
第三回戦と第四回戦の勝者が準決勝を戦います。
【覇王祭激闘編②】
予選を勝ち抜いた八チーム16名が決勝トーナメントの舞台に立つ。
死神部隊隊長キース・ミュラーは抽選の結果に感謝する。
3ヶ月前のセルバーニア城での攻防は城門の上に立つキャローラに、触れる事すら出来なかった。
何の抵抗も出来ないまま、多くの仲間が土人形ゴーレムに無残に殺された。
(大剣が届く距離での戦闘ならば俺達は負けない。必ずキャローラを……、殺す!)
覇王祭決勝トーナメント第一回戦が始まる。
第一回戦
○パラアテネ神聖国
キャローラ・ノースクイーン
デスペラード・デルタ
○マゼラン帝国死神部隊
キース・ミュラー
バーミラ・アリオネ
『いよいよ決勝トーナメント一回戦!四将星キャローラ・ノースクイーンの登場です!対するはマゼラン帝国の死神部隊!昨年末のセルバーニア王国紛争の因縁対決!試合開始です!』
「バーミラ!先手必勝だ!」
キースの叫びにバーミラが即応する。
闇の撹乱魔法!
闇の雲を発生させて敵の視覚を奪う。
開始わずか5秒でキースはキャローラの首に大剣を振りかざす。
「暗黒世界!」
次の瞬間キースの目の前が忽然と暗くなる。
「!!!」
(なんだ!?何も見えない!)
ふいに横から灼熱の剣でキースは叩き切られる。熱さと激痛で叫び声を上げるキース。
ようやく辺りが明るくなった時には目の前に炎の剣が向けられていた。
「くっ!何をした!?」
デスペラードが悠然と答える。
「闇魔法を極めた俺に闇の撹乱魔法など効きはしない。俺の闇魔法は視覚を撹乱するのでは無く、脳に直接働き掛ける。」
「脳に……だと?」
「俺と対戦した敵は暗闇の中で何が起こったかも分からないまま死んで行く。」
「キース隊長!」
バーミラは闇の攻撃魔法をデスペラードに発射する。
黒い煙状の帯がデスペラードを捉えようとした時、デスペラードは片手で黒炎の盾を造り出し攻撃をシャットアウト。
その隙をキースは逃さない。
キースは大剣を最速で振り抜いた。
目の前に接近していたデスペラードが大剣を交わす事は不可能!
「!!!」
が、またしても黒炎の盾が大剣の攻撃を防御する。
すかさず後ろへ飛び跳ねたキースは防御態勢で身構えるので精一杯であった。
(この魔導師…、強い!)
【覇王祭激闘編③】
「あの魔導師…、只者では無いな。接近戦で騎士を圧倒するか…。」
水竜の呟きに飛竜が答える。
「これだからパラアテネ神聖国は侮れない。無名の魔導師が超一流ときてる。」
「飛竜…、それにしては楽しそうだな。」
「当たり前だ。全力で戦える相手はそうは居ないからな。」
戦況を眺めていたキャローラが言葉を紡ぐ。
「あらあら、またしても私の出番は無いのかしら。死神部隊もこの程度とは、つまらないわね。」
デスペラードが黒炎の剣を構えてキースに迫る。
「キャローラ様は退屈のようだ。この戦闘はもう終わりにしよう。」
「暗黒世界!」
またしてもキースの目の前が真っ暗な世界に閉ざされる。
絶望絶命のピンチにキースはニヤリと笑う。
「キャローラ、その余裕が死を招く。」
【死神部隊】
狙った獲物は必ず仕留める事から付けられた特殊部隊の愛称。
キースは最初の一撃でキャローラの首筋に狙いを定めていた。
キースの持つ大剣は特殊な魔法が掛けられている。キースが大剣を投げた時、一度定めた目標に一直線に飛んで行く追尾魔法。
デスペラードが黒炎の剣を振りかざすより早く、キースは大剣を投げつける。
いかに四将星とは言え、魔導師に変わりはない。油断している魔導師になら、この一撃は届くはず!
鋭い音を響かせてキースの投げた大剣はキャローラの首筋を目掛け飛んで行く。
「しまった!間にあわない!」
デスペラードが振り向いた時にはキースの投げた大剣は正確にキャローラの首筋を捉えていた。
キャローラの首筋から血が滴り落ちる。
「もう少し…
もう少し…、土の壁を造るのが遅れていたら危なかったですわね。」
大剣はキャローラの造り出した土の壁を突き抜けて、キャローラの首に僅かに刺さった所で止まっていた。
武器を手放したキースには、もうデスペラードの攻撃を防ぐ手段は無かった。
デスペラードの留めの一撃でキースは力尽き、バーミラは降参する。
『勝負あり!
勝者!
キャローラ・ノースクイーン!
デスペラード・デルタ!』
【覇王祭激闘編④】
「キースの旦那は惜しかったな…。代わりに俺達が一回戦をサックリ勝ってパラアテネの四将星を倒してやろうじゃないの!」
ジャッカルが真っ先にフィールドへ飛び出した。
シノアはジャッカルの後に続く。
「初戦から優勝候補の竜神…、これに勝っても次が四将星とか…、ジャッカルってクジ運悪過ぎ……。」
シノアのぼやきを他所(よそ)にジャッカルは元気いっぱいに準備運動をしている。
迎え撃つのは地元神竜王国が誇る竜神。
前回覇者の飛竜と水竜。
大歓声の中、颯爽(さっそう)とフィールドに立つ。
第二回戦
○神竜王国竜神
飛竜
水竜
○マゼラン帝国近衛騎士団魔導師団
ジャッカル・バロンドール
シノア・ヨシュア
「シノア!速攻で行くぞ!」
ジャッカルの掛け声と共にシノアは魔法を唱える。
光と闇の特殊魔法「ミラージュ!」
この魔法を受けた対象者は実態を保有したまま分身する。
10に別れたジャッカルが2人の竜神に攻撃を仕掛ける!
飛竜とジャッカルの戦闘技術はほぼ互角。しかし、複数人で四方から攻撃されると流石の飛竜も防戦一方になる。
ジャッカルの二刀が5倍になり10の刃が飛竜を襲う!
水竜はドラゴンの幼生に飛び乗り上空へ逃げる。自身が召喚した生物に乗るのはフィールドの外へ出ない限りは認められている。
「「空を飛ぶのは反則だろう!」」
5人のジャッカルが空を見上げ一斉に叫ぶ。
「もっとも…」
「それも対策済だけどな!」
「シノア!今だ!」
シノアが上空へ向けて闇魔法を放つ。
ただの攻撃魔法では無い。
空間を闇で遮断する高度魔法。
フィールド上空の空間が蜘蛛の巣の網の様に切り裂かれドラゴンの行き場を奪う。
切り裂かれた闇の空間に触れたドラゴンの身体から無数の鮮血が噴き出した!
地元の優勝候補の思わぬ苦戦に、戦闘を観戦していた観衆から悲鳴にも似たどよめきが起こる。
「一気に行くぜ!」
5人のジャッカルが飛竜に猛攻を仕掛ける。
もはや全ての攻撃を防ぐ事も出来ず飛竜の身体から出血が溢れ出る。
一方的な展開に誰もが竜神の敗戦を予感した。
【覇王祭激闘編⑤】
血だらけの飛竜がそっと呟く。
「5分か…、そろそろだな。」
その言葉に反応したジャッカルが一斉に飛竜に切り掛かる!
飛竜はジャッカルの内の1人の攻撃を長剣で防御する。
他の四人のジャッカルは攻撃の途中で音も無く消え去った。
「キサマ…、なぜ分かった!?」
飛竜はシノアを見てからジャッカルに返答する。
「今のお前の相棒の魔力はゼロだ。魔力が尽きれば魔法の効力が切れるのは必然。俺はその人間の魔力保有量を見る事が出来る。」
「な!…そんな事が出来るのかよ!」
「当然に空の切れ目も無くなった訳だが、ドラゴンの攻撃を魔法の使えない魔導師が防ぐ事が出来るのかな?」
ドラゴンの幼生が大きく口を開き激しい水流を放出する。
全身に強烈な圧が掛かりシノアの身体はコンクリートの壁に打ち付けられたかの様な打撃を受ける。
「シノアーー!!」
ジャッカルがシノアの方へ走り寄ろうとした時、飛竜がジャッカルに長剣を突き刺した!
「予選で同じ技を使ったのは間違いだ。こうなる未来は最初から分かっていた。」
背後から貫かれたジャッカルがシノアに手を伸ばしたまま、その場に倒れ込む。
『勝負あり!
勝者!
飛竜!
水竜!
どうなる事かと心配しましたが
我らが竜神の2人が二回戦進出です!』
「魔法なんぞに頼るからだ。近衛騎士団の若造が…。マゼラン帝国の真の騎士には程遠い。」
戦況を見守っていたカスター将軍が立ち上がる。黄金に輝く衣装が将軍の風格を一層醸し出している。
「ランドルフよ。なぜ我々が黄金の騎士を名乗っているか分かるか?」
「ハッ!恐れながら私には分かり兼ねます。」
「マゼラン帝国の騎士たるもの、どんな状況であっても常に勝たねばならんのだ。黄金に輝く宝石のように常に輝いてこそ我らが正義!例え相手が女子供であっても全力で屠るぞ。」
「爺ちゃん!ちょっくら暴れて来るぜ!」
「ちょっと待ちなさいよ!ケン!」
ケンとリンの双子の姉弟がフィールドに駆け上がる。
「なぁ、姉ちゃん!あのデッカイオッサン、爺ちゃんに似てないか?」
「なに言ってんのよ、全然似てないじゃない。」
「いや、顔とか体格じゃなくて…、あの全身から溢れる闘気。」
「……、そうね。良かったじゃない?全力で撃ち合えそうで!」
【覇王祭激闘編⑥】
『さぁ、決勝トーナメントは早くも三戦目。伝説の武神、マゼラン帝国の大将軍の登場です!死神部隊に近衛騎士団の敗戦によりマゼラン帝国の威信にかけても負けられない一戦!』
「カスター将軍、相手は無手の子供。私が行って参ります。」
ランドルフは大剣をかざし前へ出る。
第三回戦
○マゼラン帝国黄金騎士団
カスター将軍
ランドルフ
○スカルアイランド
ケン
リン
『予選では大活躍のスカルアイランドの戦士がマゼラン帝国の騎士を相手にどこまで通用するのか!第三回戦開始!』
ランドルフの前に躍り出たのは双子の弟ケン。ケンはランドルフを見ると、つまらなそうに呟く。
「あんたは、あまり強そうじゃないね。あんたの相手は姉ちゃんに任せるわ。」
ランドルフは怒りにみるみる赤くなる。
「貴様、騎士を愚弄するか!」
ランドルフは試合である事も忘れ素早く大剣を振り抜きケンを叩き切ろうとする!
水平に胴体を狙った剣裁きは当たれば即死の勢い。
しかし、ケンはランドルフが大剣を振り切るより早く間合いを詰め正拳を繰り出す。
闘気の込めた正拳突きの一撃はランドルフの胸部を陥没させた。
「グホッ!」
口から大量の血を吐き出したランドルフは、一撃でその場に沈んだ。
会場は静まり返る。
「さて、オッサン!始めようぜ!」
ケンは何事も無かったようにカスター将軍に話し掛ける。
ランドルフがやられてもカスター将軍は動じない。そもそもカスター将軍にとって、自分と同じ域にまで剣を極めた者など存在しない。
そう言う意味ではペアの相方には特に期待はしていなかった。
(スピード、パワー共に申し分なし。覇気まで身につけて居るならば、本気でやらねばなるまい。)
カスター将軍には奢りも油断も無い。
全神経を右手に握る大剣に集中させる。
先に仕掛けたのはケンの方であった。
瞬速で間合いを積めて正拳突きを繰り出す。
(速い!)
(この俺が剣を振り抜く間も無く懐に入られるとは!)
「うぉりゃぁあぁぁぁー!」
ケンの拳がカスター将軍の胸元を殴り付ける!巨漢を誇るカスター将軍がグラリと態勢を崩したその時、右手の大剣が面前の敵を切り付けた!
ケンは超反射で身体を後ろに反らすも大剣の風圧で吹き飛ばされる!
最初の攻防は互角の撃ち合いとなった。
【覇王祭激闘編⑦】
地面に叩きつけられたケンはすぐに飛び起きて目をパチパチと瞬(まばた)きをする。
「オッサン!やるな!風圧だけでこの威力かよ!」
「ケン!1人では危ないわ!私も手伝う!」
そう言ってリンが駆け寄るもケンは右手で制す。
「姉ちゃん、男の真剣勝負に口を出しちゃダメだ。俺が1人で倒すぜ!」
「真剣勝負って…、2対2の試合じゃないの!」
ケンはリンの言葉を無視してカスター将軍に立ち向かう。
(覇気を纏(まと)った俺にダメージを与える奴など何十年振りだ…。)
カスター将軍は再び大剣を構える。
(何より信じられない速さ。瞬時に間合いを詰められ、更には接近した状態の我が剣を躱(かわ)すとは…。)
お互いの覇気と闘気がぶつかり合いフィールドには異様な空気が流れる。
ケンは右手の拳に闘気を集中させる。
資源の少ないスカルアイランドでは、防具になる金属も、武器になる金属も殆ど無い。
そこで戦士達は素手で戦う術を学ぶ。
幼少の頃より鍛えられた身体に闘気を纏(まと)う事により鋭い大剣の一撃を跳ね返す肉体を持ち、その拳は巨大な岩石をも打ち砕く。
ケンとリンの姉弟は拳闘士と言われる一族の中でも異彩を放つ。
闘気のレベルが他の一族と比べても群を抜いていた。これは産まれ持った素質による所が大きい。
そこに一族の中でも最強と言われる老師が戦闘技術を叩き込んだ。
並の騎士では傷一つ付ける事も出来ないであろう。
(しかし、あれは危ない)
カスター将軍が放った剣撃は闘気を纏(まと)ったケンの肉体ですら無傷では済まないだろう。
本能で危険を察知したケンは咄嗟に躱(かわ)す事を選んだ。
(しかし!)
(拳に闘気を集中させればカスター将軍の大剣を砕く事が出来るはず!
いや、出来る!!)
ケンは自分に言い聞かせるように闘気を集中して行く。
「次で決まるな。」
戦況を見守っていた飛竜が呟く。
「ああ、二人ともとんでもない化物だ。世の中広いものだ。」と水竜。
「二人?いや、三人だろう。俺にはあの少女が最も恐ろしく映る。」
【覇王祭激闘編⑧】
カスター将軍の覇気は最高潮に達していた。
並の戦士なら立って居る事も出来ない程の威圧。
「見せてやろう。黄金の剣、最大奥義。」
みなぎる覇気がカスター将軍の大剣を黄金色に光り輝かせる。
天に愛された者のみが可能な必殺剣!
「太陽剣!!」
眩い光がフィールド上を照らし会場全体が光に包まれる。
強大な一撃は大地をも切り裂く必殺剣。
それを
ケンは真っ向から受け止める。
全身の闘気をその拳に集中させイナズマのような正拳を撃ち込む!
カスター将軍の大剣とケンの拳が衝突しフィールドに激しい地鳴りが響き渡る。
観衆は静まり返り、二人を見守る。
どちらが勝ったのか?
数瞬の時を経て、ケンの拳から血が噴き出す。
「ぐっ!」
ケンの拳は中央からバッサリと斬られ激しい痛みに思わず声を漏らす。
「カスター将軍の勝ちだ!」
観衆の誰かが叫んだ。
カスター将軍はゆっくりと目をつぶり、構えていた大剣を下ろす。
すると黄金の大剣がパリンと音を立てて砕け散った。
「すげぇなオッサン!俺の拳を切り裂くとは!」
ケンは楽しそうに叫ぶ。
カスター将軍は審判の方を見て言葉を発する。
「降参だ。」
そしてカスター将軍はリンの方を見る。
「大剣を失った俺が、もう1人の化物を倒す手段は無い。」
……
『これは大変な事になりました!
マゼラン帝国の武神!騎士の中の騎士!戦場では負け知らずの大将軍がスカルアイランドから来た若干16歳の戦士の前に敗北した!』
『勝負あり!
勝者!
ケンとリン!』
静まり返っていた大観衆が一斉に声を上げる。
「うおー!すげーぞ!拳闘士!」
「無手で将軍を破りやがった!」
「そのまま決勝まで勝ち上がれよー!」
ケンとリンは照れ臭そうに観衆に手を降って応える。
カスター将軍は救護班に向けて話し掛ける。
「早く拳の治療をしてやれ。次の試合に差し支えるといかん。」
ケンはカスター将軍を見て大声で叫ぶ。
「オッサン!楽しかったぜ!またやろうな!」
【覇王祭激闘編⑨】
「調子はどうだ?キャローラ。お前程の魔導師が負けるとも思えないが、お前も物好きな奴だな。」
試合を観戦していたキャローラに1人の男が近付き話し掛ける。
男は全身を黒いローブで身を包みその顔は見る事が出来ない。
「そうでも無いかしら。これから戦争をする相手を知る事は大切な事ですわよ?」
キャローラは男を見て言葉を続ける。
「それよりも、貴方こそこんな所に来て大丈夫なのかしら?大司教様の護衛役でしょう?」
「まぁ、部下の魔導師が付いている。それに、ここで大司教の命を狙う国もないだろう。この地には我々四将星が2人も揃っているのだから。」
男は立ち上がると去り際にそっと耳打ちをする。
(あの少女がマリーだな。作戦に変更は無しだ。)
『さぁ、いよいよ一回戦も最後の試合となりました。予選で圧倒的な強さを見せ付けた最強の傭兵団、風の旅団の2人のリーダー!メビウス兄弟の登場です!』
『対するは、マゼラン帝国から参戦した騎士の最後の1人となりました。あの英雄ロイス・ガードナーの孫娘シャルロット・ガードナー!大国マゼラン帝国の意地を見せて貰いたいものです!』
第四回戦
○風の旅団
ロード・メビウス
ジャミラ・メビウス
○マゼラン帝国アルゼリア王国
シャルロット・ガードナー
マリー・ステイシア
「マリー、私が先に行きます。」
シャルロットに対するはメビウス兄弟の弟ジャミラ。
「ロイスの孫か……、高速剣がどんな物か見せて貰おうか!」
シャルロットはレイピアを構え攻撃態勢に入る。
ジャミラとシャルロットが対峙する中、メビウス兄弟の兄ロードが聖槍【ゲイ・ボルグ】の狙いを後方に居るマリーに定める。
伸縮自在のゲイ・ボルグなら十数メートル離れたマリーを攻撃する事が可能。
「わかりました。祖父ロイス・ガードナーから受け継いだ高速剣、お見せしましょう。」
シャルロットがレイピアを振りかざすのと同時にジャミラは蛇王剣を突き出した。
「高速剣!」
「蛇王剣!」
レイピアより無数の剣撃が放たれる。
音速の剣撃は人の目で捉える事が出来ない。
ジャミラ・メビウスにもシャルロットの放つ剣の軌道を見極めるのは困難。
しかし
蛇王剣から無数に伸びる蛇の牙が高速剣の剣撃を尽く弾き返す!
「!!!」
「そんな!!」
【覇王祭激闘編⑩】
聖槍ゲイ・ボルグがマリー目掛けて一直線に伸びる!
間一髪で交したマリーの薄茶色の髪が槍の一撃によりハラリと舞う。
「不意の一撃を上手く避けたな魔導師。そうでなくては、つまらない。次は外さない。」
マリーはロードを睨みつける。
「私は逃げも隠れもしません。その程度の槍では私を倒す事など出来ません。」
マリーの挑発にロードは顔を歪ませる。
「ガキが!調子に乗るなよ!予選でも何もせずに観戦していた魔導師に何が出来る!ゲイ・ボルグの真の力を教えてやろう!」
「マリー!」
シャルロットがマリーに駆け寄ろうとした時、ジャミラが蛇王剣を突き出し行く手を塞ぐ。
「おっと!マゼランの騎士さんよ、お前の相手は俺だろう。もっとも高速剣を破られたお前には、もはや何も出来ないだろうがな。」
シャルロットがジャミラを睨み付ける。
「私の剣筋を見る事も出来ない貴方が強いとでも?その剣が無ければ貴方は切り刻まれている所です。」
ジャミラはガハハと笑い飛ばす。
「蛇王剣は俺の一部だ!負け惜しみとは情けない奴だ。死ね!」
ジャミラがシャルロットに蛇王剣を突き出した。
「ゲイ・ボルグは30もの刃に別れ全方位から獲物を串刺しにする!逃げる事は不可能!死ぬが良い魔導師の少女よ!」
ロードの聖槍ゲイ・ボルグはその言葉の通り無数の刃と化し全方位からマリーを襲う!
ロードとジャミラは、それぞれの持つ特異な武器、【聖槍ゲイ・ボルグ】【妖刀蛇王剣】でシャルロットとマリーに留めの一撃を放つ。
シャルロットはジャミラに向かい言い放つ。
「確かに蛇王剣は私の高速剣に反応し、全てを防いだかもしれないわね。では、これはどうかしら?」
シャルロットがレイピアを向かって来る蛇王剣に向けて構える。
「光速剣!!」
刹那、無数の剣撃が光の速度でジャミラを襲う。妖刀の力を持ってしても光の速さで繰り出される光速剣には全く反応出来ない。
その後方、ゲイ・ボルグの槍が30本の刃に分かれ全方位からマリーを襲う!
マリーに逃げ場は無い。観衆の誰もが串刺しになる少女を想像する。
そっとマリーは魔法を唱える。
「光の鏡!」
するとマリーは眩いばかりの光に包まれ、その姿を消していく。
2つの勝負が決着を迎えようとしていた。
【覇王祭激闘編⑪】
ジャミラ・メビウスはシャルロットの光速剣に全く反応出来ず全身を切り刻まれる。
伝説の妖刀蛇王剣は虚しく音を立ててジャミラの手からこぼれ落ちた。
シャルロットはレイピアを腰に仕舞いジャミラに言葉を投げかける。
「急所は外しています。早く手当を受けた方が良いでしょう。」
そう言ってシャルロットは、もう一人の敵、ロード・メビウスを見る。
(マリーに攻撃を仕掛けるなんて無謀だわ。)
ロード・メビウスの聖槍【ゲイ・ボルグ】が、攻撃を仕掛けたロード本人を串刺しにする。
「ぐっ…!」
「な、何が……、起こった……」
弟のジャミラと同じく、兄のロードも全身から血を噴き出してその場に崩れさった。
フィールドが静まり返る。
観衆は何が起きたのか理解出来ず、ただ呆然と2人の少女を見つめていた。
「おい!何が起きたんだ?メビウス兄弟が攻撃を仕掛けたはずだが…。」
「返り討ちに合ったんだろ?マゼラン帝国の騎士は高速剣のロイスの孫だ。」
「ロード・メビウスは何で負けたんだ?」
「………」
『勝負あり!
勝者!
シャルロット・ガードナー!
マリー・ステイシア!
救護班!急いで下さい!』
『これは驚きました!最強の傭兵メビウス兄弟が惨敗です!シャルロットとマリーの少女2人は全くの無傷!完勝です!!』
アナウンスを聞いた観衆がようやく大歓声を上げる。
「おー!あの2人、子供のくせに強ええな!対戦が楽しみだぜ!」
楽しそうに叫ぶケン。
「子供って…、私達と同い歳みたいよ?」
リンは冷静に答える。
「見たか?水竜。」
飛竜は横に居る水竜に囁(ささや)く。
「マゼランの騎士の剣筋か…、俺には見えなかったが、お前は見えたのか?」と水竜。
「いや、そっちじゃねぇ。アルゼリアの魔導師。あの女、ロードの攻撃を跳ね返しやがった。どう言う仕組みか分からないが、あの魔法は危険だ。」
戦士達が2人の少女に警戒を抱く中、キャローラは嬉しそうに笑う。
「マリー、悪魔を召喚せずとも戦えるじゃないの。これは楽しみが増えたかしら。」
覇王祭一回戦が終了し、準決勝に進出する四チームが出揃った。
真の強者のみの決勝を掛けた戦いが始まる。