【闇ギルド編①】
アルゼリア王国首都アルバーナにマゼラン帝国の騎士団が到着したのは、既に日が沈んだ後であった。
マゼラン帝国近衛騎士団副団長ロイス・ガードナーの亡骸を引き取った一行はアルゼリア王国の国王に一つの命令を下す。
隣国セルバーニア王国への出兵。
セルバーニア王国はマゼラン帝国の同盟国で豊富な地下資源に恵まれた小国である。
質の良い鉄鉱石はマゼラン帝国の武器・防具の製造に重宝されていた。
しかし、1ヵ月前にパラアテネ神聖国の攻撃を受けて現在は膠着状態が続いている。
アルゼリア王国魔導師団幹部、ジーク・ヴァルフェルムは憤りを隠せない。
なぜ我々が参戦する必要があるのか。
アルゼリア王国は長い間、マゼラン帝国、パラアテネ神聖国のどちらにも組みせず平和を保って来た。
ロイス・ガードナーを殺した?
四年前のアルゼリアの悲劇、20名もの近衛騎士団を殺したサラ・イースターを匿っている?
とんだ濡れ衣だ。
無実を証明する為に戦争に参加すれだと?
ふざけるな!
ジークは国王から渡された指令書を破り捨てた。
指令書にはジークの率いる第一魔導師団のセルバーニア王国への出兵命令が書かれていた。
この国はマゼラン帝国の属国に成り下がったのか。
そもそも、魔導師団のみが出兵して何をすれと言うのだ。騎士団の護衛無しでは魔導師団など一溜りも無いだろう。
後方からの騎士への支援。それが魔導師の役割。国王陛下はそんな事も知らんのか!
闇ギルドの本拠地は首都アルバーナの一角、西方の教会にあった。
ギルドマスタージークはギルドメンバーに最終指令を出す。
悪魔禁書の強奪。
あの禁書さえあれば、マゼラン帝国など怖く無い。この世界の勢力図を根底から覆す事が出来る。
数百もの悪魔を召喚出来れば世界を支配する事すら可能だろう。
ジークは不敵な笑い声を上げた。
【闇ギルド編②】
シャルロットがアルゼリア王国に着いた時、祖父ロイス・ガードナーの遺体はマゼラン帝国に運び出される直前であった。
実際に祖父の遺体を目の当たりにしたシャルロットの目から涙が止めどなく溢れる。
しかし、泣いてばかりは居られない。
シャルロットは光の魔力を目に集中する。
遺体は治癒魔法でも掛けられているのか、目立った損傷は無い。しかし、シャルロットの目を誤魔化す事は出来ない。
光の粒子がロイスの腹部と心臓を微かに照らす。
(やはり…)
(腹部の傷は相当に深かったはず、しかし致命傷になったのは心臓。治癒魔法を使う間もなく殺されたのか…)
シャルロットは更に傷から感じられる気配を察知する。
この気配と同じ性質を持った者。
その者こそ祖父の仇。
シャルロットの光魔法は祖父から感じられた、わずかの気配を探知する。
サーチアイ
白い光の粒子が気配の持ち主の方へ移動を始める。
粒子は2つに分かれて飛んで行く。
(どう言う事かしら?仇の人間は2人?)
シャルロットは粒子の一方を追跡する。
第七魔導学院は魔導対戦の余韻で祝福ムードであった。
魔導対戦で準優勝での快挙は何十年振りの出来事。
近年はエリート校である第一魔導学院が優勝と準優勝を独占していた。
マリーは元々、あまり人と接するのを好まない。悪魔禁書を手にしたあの事件から人と必要以上に接するのを避けて来た。
だから、皆に祝福されるのは、かなり恥ずかしい気持ちであった。
それに、魔導対戦の後に起こった出来事。
マゼラン帝国の騎士との一戦。
そして闇ギルドの魔導師に殺されかけた事。
マリーが気が付いた時にはマリーの傷は治癒魔法によって完治していた。
そして、少し離れた所に倒れていた騎士。
おそらく、あの騎士がマリーを助けたのであろう。
騎士の死を知ったマリーには、とても祝福を受ける気持ちにはなれない。
授業が終わるとマリーはそそくさと学校を後にする。
今日はいつになく肌寒い日であった。
アルゼリア王国は温暖な気候で冬と言う物が存在しない。
この世界で雪が降るのは北の大国マゼラン帝国と一部の周辺国のみであり、基本的には温暖な気候の国が多い。
マリーが学校近くの緑道に差し掛かった時、前方に一人の少女が見えた。
マリーとシャルロット。
2人の視線が交差する。
【闇ギルド編③】
(この少女が祖父の仇?)
(年齢は私と同じくらいかしら…。マゼラン帝国の英雄とも讃えられた祖父が、こんな少女に殺されるとは思えない。)
仇討ちに強い決意を持って犯人の追跡をしていたシャルロットは予想外の相手に戸惑う。
(少し…、試して見るか…)
シャルロットは腰に下げたマゼラン帝国製の細身の剣、レイピアをスラリと抜いた。
スピードが身上の光速剣を使うには、なるべく軽い剣の方が媒体として都合が良くシャルロットはレイピアを愛用している。
少し驚いた表情を見せる少女(マリー)に有無を言わさず攻撃を仕掛ける。
レイピアの鋭い剣撃が少女の頬を掠める。
「な!何をするのですか!」
マリーの頬から一筋の血が流れ落ちる。
(私の剣のスピードに全く反応出来ない。やはり祖父を殺す事など不可能。光の粒子が反応したのは、何かの間違いのようね。)
「すまない。私はマゼラン帝国の騎士シャルロット。祖父の仇を探していた。どうやら、人違いのようです。」
シャルロットはマゼラン帝国の騎士式のお辞儀で無礼を詫びる。
するとマリーが反応する。
「マゼラン帝国の騎士…、仇…、あなた、あの騎士の関係者なのですか?それで私を狙って…」
マリーは悪魔の存在を知られたのかと思い身構える。
マリーの言葉に今度はシャルロットの表情が引き締まる。
「知っているのか!?やはり、お前が祖父の仇か…!」
シャルロットがレイピアを構える。
「死して詫びよ!」
シャルロットが攻撃体制に入る。
通常、騎士と魔導師の1対1の対戦は圧倒的に騎士が有利とされる。
騎士のスピードとパワーに対応出来る魔導師は居ない。
魔導師が魔法を発動すると同時に騎士の剣は魔導師に致命傷を与えるからだ。
騎士シャルロットの鋭いレイピアを防御する手段は、魔道士であるマリーには無い。
そのはずであった。
しかし、次の瞬間、吹き飛ばされたのはシャルロットの方。
あまりの衝撃に数メートルも飛ばされ背中から地面に落ちる。
「な……!何か……、居る……!?」
すると、その場の空気が張り詰めたように冷たくなった。
マリーの横に青色の影がぼんやりと浮かび上がる。
ブルーアモン
青い悪魔が嬉しそうに笑う。
「キヒヒ…、やはりハイドしたままではパワーも半減か、女の騎士よ!俺様が相手だ!」
【闇ギルド編④】
およそこの世の者とは思えない不気味な顔立ちには、目玉の無い赤い眼だけがギロリと光っている。
全身は青い皮膚に覆われ、所々に黒い毛のような物が垂れ下がる。
ブルーアモン
「殺してはいけません。」
マリーが悪魔に命令する。
「キヒヒ」
ブルーアモンはゆっくりとシャルロットに近寄り不気味な笑い声をあげた。
シャルロットが不意の悪魔の出現に混乱している間にブルーアモンは容赦なく攻撃を繰り出す。
鋭い爪が剥き出しとなった手刀がシャルロットの顔面を狙う。
間一髪手刀をかわしたシャルロットが愛刀のレイピアを握り直し冷静さを取り戻そうと深呼吸。
(落ち着け…、落ち着くのですシャルロット、私に見切れない攻撃は無い。)
シャルロットの両眼に光の粒子がまとわりつくつく。
ブルーアモンは攻撃を緩める事なく次々と手刀を繰り出す。
「!!!」
「何者だ!キサマ!?」驚くブルーアモン。
シャルロットはブルーアモンの攻撃を全て見切りかわして行く。
シャルロットは表情を引き締めて悪魔に言い放つ。
「無駄です、得体の知れない化物よ。貴方の攻撃は既に見切りました。今度は私の番です。」
細身のレイピアが光り輝く。
今度はブルーアモンが驚きの表情を見せた。
「光速剣!」
光の速さで放たれる無数の剣撃をかわす手段は無い。ブルーアモンの青い身体からどす黒い血が噴き出した!
「ブルーアモン!!」
マリーが駆け寄ろうとするが悪魔が手を伸ばしてそれを止める。
(油断したようだ…)
「キヒヒ…、だが…、これならどうだ…」
ブルーアモンの身体が、またしても背景と同化して姿を消して行く。
ブルーアモンの最大の特徴はそのハイド能力にある。
他の悪魔には無い姿を消す能力。
常に命を狙われるマリーにとって、悪魔の存在を周りの人々に悟られずに護衛するには、これ以上無い能力である。
ハイドには欠点もある。
悪魔特有の魔力をハイド能力に使い続けるため、攻撃に魔力を回す事が出来ない。
威力が半減されるのだ。
しかし人間相手の戦闘であれば半減された威力であっても凄まじい殺傷能力には変わらない。
何も無い空間から放たれる一撃にシャルロットの腹部が貫かれた。
シャルロットは血を口から吐き出す。
【闇ギルド編⑤】
マゼラン帝国製の強固な鎧が無ければシャルロットは致命傷を受けて即死であったかもしれない。
見えない敵からの攻撃に腹部を貫かれたシャルロット。
幼少の頃より国の英雄である祖父ロイス・ガードナーに叩き込まれた騎士としての強固な精神と戦闘センスは、ピンチの時にこそ発揮される。
化物の能力は姿を消す能力
シャルロットの光の眼を持っても見切るのは難しい。
しかし
自分の腹部を貫いている化物は
今、私の目の前に居る。
シャルロットの光速の剣が姿の見えない悪魔を正確に捉える。
超接近の位置からも全く威力の衰えない光速剣がブルーアモンを真っ二つに切り裂いた!
物凄い絶叫を上げるブルーアモン。
ハイド魔法を維持する事も出来ず、全身血まみれの姿がシャルロットの目の前に現れる。
(まさかブルーアモンが負けた!?)
闇ギルドに命を狙われているマリー。
今まで何度も襲われたが、ブルーアモンがマリーを守り戦ってくれた。
ブルーアモンが負けて、瀕死の傷を負うなど想像もしていない。
(助けなきゃ!)
マリーは咄嗟(とっさ)に異空間より悪魔禁書を取り出しブルーアモンの召喚を解こうとする。
魔界へ戻って手当てをしなければならない。
焦りがあったのかもしれない。
闇ギルド、メフィスト・ダークフィールド。
黒いマントの魔道士は悪魔禁書を奪う事を目的に常にマリーを監視していた。
マリーが悪魔禁書を取り出すこの瞬間を。
「シャイニング!」
メフィストの光魔法の閃光が瀕死のブルーアモンに降り注ぐ。
同時に現れた闇ギルドの騎士、ドリアーノ・セイバーが素早くマリーの持つ黒い本を取り上げた。
ドリアーノがメフィストの所に駆け寄り満面の笑みを浮かべる。
「メフィスト様、ついに悪魔禁書を手に入れましたぞ!これでマスターも喜ばれるでしょう。」
マリーはブルーアモンに駆け寄り泣き叫ぶも無数の光の閃光に貫かれた身体は既に動かない。
悪魔とは言え、常に行動を共にしマリーを護衛していたブルーアモン。
今までマリーは悪魔禁書を守る事はあっても敵を殺す事を許さなかった。
何度襲われても敵を殺す事なく逃して来た。
その結果がこの様なのか…
闇ギルド…
彼らだけは許す事が出来ない。
マリーは闇ギルドの二人を睨みつける。
【闇ギルド編⑥】
アルゼリア王国には主に2つの軍隊が存在する。
アルゼリア騎士団とアルゼリア魔道師団。
この世界の戦争は騎士と魔道師による戦争であるが、主戦力は騎士。魔導師は騎士の補助的役割として遠隔魔法を中心として戦争に参加する。
騎士と魔道士が1対1で戦えば騎士が圧倒的に有利である事から、立場上は騎士の方が上と見なされる傾向がある。
特に世界最大の騎士数を誇るマゼラン帝国とその同盟国、友好国の間ではその傾向が強い。
アルゼリア王国も例に漏れず騎士団の方が発言力もあり上とされていた。
魔導師団の大幹部であるジーク・ヴァルフェル厶には、それが許せ無かった。
騎士団の連中は事ある事に魔導師団を見下して嘲り笑う。
更にはマゼラン帝国の騎士はアルゼリア王国を我が物顔で闊歩している。
四年前の王国生誕祭の日にはマゼラン帝国の騎士が大勢街中を徘徊していた。
これではアルゼリア王国はマゼラン帝国の属国ではないか。
とそんな時にあの事件が起こった。
アルゼリアの悲劇
マゼラン帝国の騎士達がパラアテネ神聖国の魔導師サラ・イースターに殲滅(せんめつ)させられた。
ジークは内心、この事件を喜んでさえいた。
魔導師は騎士なんかに負けない。
マゼラン帝国の騎士はアルゼリア王国から出て行くべきだと。
そして、この時1つの奇妙な目撃情報がジークの元に届く。
悪魔の召喚
サラ・イースターは伝説上の生物とされる悪魔の召喚に成功したとの情報。
ジークはこの情報を元にサラとその時に悪魔と行動を共にしたとされる少女を探した。
マリー・ステイシア
サラの捜索のためジークはマリーを監視するようになる。
監視を始めて2年ほど経過した頃、更に驚くべき情報が伝えられた。
悪魔の召喚師はサラ・イースターでは無く
この少女…
マリー・ステイシアだと。
ジークはこの極秘情報を王国に隠し1つの野望を企てる。
闇ギルドを創設しマリーから悪魔の召喚に使われる本【悪魔禁書】を強奪。
その力でアルゼリア王国を支配しマゼラン帝国と絶縁。
魔導師の聖地とされるパラアテネ神聖国と同盟を結ぶと言うものだ。
悪いのは全て魔導師をバカにする王国騎士団でありマゼラン帝国である。
そして、ついにジークの野望である最初の一歩。
闇ギルドのメンバーが悪魔禁書を手に入れた。
【闇ギルド編⑦】
闇ギルドマスター、ジーク・ヴァルフェルムの片腕、メフィスト・ダークフィールドは歓喜の声を上げる。
ついに悪魔禁書を手に入れた。
マゼラン帝国の騎士が悪魔に致命傷を与えてくれるとは思わぬハプニングであった。
メフィストは何度かマリーから悪魔禁書の強奪を試みたが、ハイド魔法で姿の見えないブルーアモンに返り討ちに合っていた。
「今日は何と素晴らしい日であろうか。」
先日の老騎士と言いマゼラン帝国の騎士には何かと縁がある。
しかし、悪魔の存在を知られたからにはマゼラン帝国の騎士も殺さなければなるまい。
先日の老騎士同様、死んで貰う!
シャルロットはブルーアモンに抉られた腹部の治療をしながら状況把握に頭を巡らせていた。
悪魔
老騎士
老騎士とは祖父ロイスの事か
(ロイス・ガードナーを殺したのはあの魔導師か!)
メフィストの身体には先程シャルロットが飛ばした光の粒子の片割れが飛翔している。
(間違いない!奴が祖父の仇!)
メフィストはもう一人の闇ギルドメンバーであるドリアーノに命令する。
「私は先にマスターに本を届ける。ドリアーノ、お前はマリーとマゼラン帝国の騎士を殺せ。騎士の少女は悪魔との戦闘で重症のようだ。お前なら問題無いだろう。」
そう言うとメフィストはその場から姿を消した。
「さて、それでは死んで貰おう。」
ドリアーノが鋭い眼光で2人の少女を睨む。
マリーとシャルロットの2人を。
悪魔禁書を奪われたマリーには召喚魔法で悪魔を呼び出す事は出来ない。
自力で闇ギルドの騎士を倒さなければならない。
ブルーアモンが死んだ悲しみを抑えマリーは立ち上がる。
私の光魔法でどこまで戦えるのか。
しかし、殺される訳には行かない。
私は生きて必ずてイースと再会してみせる。
マリーが決意を胸に前へ出ようとした時、シャルロットがマリーの前に立ち塞がる。
「マゼラン帝国の騎士さん。私は貴女に用はありません。そこをどいて下さい。」
しかしシャルロットは動かない。
そしてマリーに話し掛ける。
「私の名はシャルロット。ロイス・ガードナーの孫になります。貴女を祖父の仇と間違えて襲った事をお許し下さい。」
「そして、悪魔…、貴女が召喚した悪魔が死んだのも私の責任。あの騎士の相手は私に任せて下さい。」
【闇ギルド編⑧】
闇ギルドの一員であるドリアーノは、アルゼリア騎士団の中で仲間殺しをして死刑宣告を受けた経歴を持つ。
最初に人を殺したのはドリアーノが騎士団に入り1年後の事。
当時、アルゼリア王国で勢力を拡大していた山賊の討伐隊に参加した時。
ドリアーノは山賊のメンバーを次々と切り捨てた。そこには純粋な喜びがあった。
人を殺す事の快感がドリアーノを支配した。
類まれな戦闘センスを持つドリアーノにとって戦闘は一方的な虐殺であった。
騎士団の模擬戦でもドリアーノは負けた事が無い。
次々と戦果を上げるドリアーノは騎士団の中でも異例の早さで出世をする。
そしてある日ドリアーノは当時の騎士団ナンバーツー、副団長と模擬戦をする事になった。
模擬戦は一方的な展開となる。
ドリアーノの剣技は副団長を圧倒した。
試合はすぐに決着し止(や)めの合図があった時、ドリアーノは副団長を殺したい衝動を抑える事が出来なかった。
人を殺す事に快感を覚えていたドリアーノは試合終了の合図を無視して副団長に留めを刺した。
狂気の騎士ドリアーノ。
死刑宣告を受けたドリアーノを救ったのは魔導師団幹部のジーク。
模擬戦の殺害は不慮の事故となりドリアーノは騎士団からの除名処分で終わる。
そしてジークの闇ギルドの一員となる。
ドリアーノにとって、か弱い少女を殺す事は快感以外の何物でも無い。
狂気の笑みを浮かべて大剣をスラリと抜いたドリアーノが2人の少女に歩み寄る。
「どちらを先に殺そうか…、マゼランの騎士、お前が先に死にたいらしいな。」
ドリアーノの前にはレイピアを構えたシャルロットが立っていた。
腹部に重症を負うシャルロットがドリアーノの剣を躱(かわ)す事など不可能。
大剣の重さを感じさせない鋭い突きがシャルロットを襲う。
ドリアーノ得意の剣技。
「三段突き!」
目にも止まらぬ突きによりシャルロットは串し刺しになるはずであった。
「!!!」
しかし!
三段の突きはシャルロットにかすりもしない。
「バカな!」
(だが…)
「これなら躱す事は出来まい!」
ドリアーノが大剣を横に振り抜く。
空気を切り裂く轟音が大地に木霊(こだま)する。
「遅すぎます。突きと言うのはこうするのよ」
いつの間にかドリアーノの横に現れたシャルロットがレイピアに光の魔力を込める。
「光速剣!!」
【闇ギルド編⑨】
アルゼリア王国アルバーナ城
カイザー・ヴァルフェルムは突然の報告を聞いて駆けつけていた。
「セルバーニア王国へ出兵とはどう言う事ですか!しかも第一魔導師団のみで戦地へ行くなど正気の沙汰では無い!」
「父上を!ジーク・ヴァルフェルムを呼んで下さい!」
カイザーの目の前に立つ大男はアルゼリア王国第一騎士団団長マルス・アレキサンダー。
アルゼリア王国に5つある騎士団のトップに君臨する王国最強の騎士。
「何だ騒々しい。戦争への参加は国王陛下の命令だぞ。それにジーク殿の力があれば騎士の力なぞ不要だろう。何せ王国最高の魔導師だからな。
それに
第一魔導師団は既にセルバーニアへ出発した。今更どうにもならん!」
「な!?指令が出たのは今日のはず!今日の今日で出発とはどう言う事ですか!」
「しつこい奴だ。それ程、セルバーニア王国の戦況が一刻を争うと言う事だろう。分かったら、とっとと失せるんだな。」
カイザーはマルスを睨みつける。
「まさか…、キサマが第一魔導師団を…」
すると横に控えていた騎士達がカイザーを抑えつける。
「マルス様に無礼であろう!ジーク様の息子であっても許さんぞ!」
(これが…、これが王国騎士のやり方か!)
______________
「なんだと!?」
メフィスト・ダークフィールドは報告を告げるメンバーに怒鳴りつける。
「ついに悪魔禁書を手に入れたと言うのに
マスターが出兵だと!!そんなバカな事があってたまるか!
アルゼリア王国は中立国家!
戦争など何百年も経験していない平和な国だぞ!」
「しかしながらメフィスト様…
国王陛下の命令ですのでジーク様も逆らえません。急な呼び出しで仕方なく…。」
メフィストが歯ぎしりをしている所へ更なる報告が入る。
「メフィスト様!」
「今度は何だ!」
メフィストは苛立ちを隠さず質問する。
「例の少女…
マリーとマゼラン帝国の騎士がこちらに向かって来ます。もうすぐ到着するかと…」
「何だと!?ドリアーノが破れたと言うのか!」
ドリアーノは闇ギルド内でも屈指の実力者。
悪魔の召喚出来ないマリーに倒されるとは…。
「ギルドメンバー全員に告ぐ!マリーとマゼラン帝国の騎士を抹殺せよ!」
闇ギルド本部に居た総勢12名のギルドメンバーが2人の少女を迎え撃つ。
【闇ギルド編⑩】
闇ギルドメンバー魔導師、爆炎のジョー。
彼の得意な魔法は炎の球体を敵にぶつけて爆発させる魔法!
人間の頭ほどもある炎の球体が2人の少女目掛けて放たれる!
「シャルロット、ここは私に任せて!」
マリーが手をかざすと2人の前方に光の鏡が現れる。
全ての攻撃を鏡に反射させ、そのままの威力で跳ね返すマリー得意の魔法。
「ミラーリフレクト!」
炎の球体は辿って来た軌道をそのまはまに逆走し爆炎のジョーを直撃する。
大きな悲鳴と共にジョーが爆発した。
メフィストがギルドメンバーに指示を飛ばす。
「何をやっている!マリーに中途半端な魔法は効かない!魔導対戦を見ていないのか!
剣だ!剣で攻撃しろ!」
すると今度は闇ギルドメンバーの騎士が大剣を振りかざして突進する。
「マリー!」
シャルロットがマリーに声を掛けるも、マリーはシャルロットを手で静止する。
「大丈夫です。私の光の鏡はどんな攻撃をも跳ね返します。」
闇ギルドメンバーの大剣がマリーを叩き切ろうと振り下ろされる。
大剣が光の鏡をすり抜けた瞬間、攻撃者の身体から血が吹き出す!
「!!!」
シャルロットはマリーの魔法を目の当たりにして驚きを隠せない。
(この娘…。あの時、悪魔が私の光速剣を防がなかったら…、斬られていたのは私の方…)
次々と襲い掛かる闇ギルドメンバーの攻撃はマリーの魔法により全て跳ね返される。
12名居たメンバーが、あっと言う間に2人になった。
「メフィスト様…、不味い事になりましたな。あれでは攻撃も出来ない。」
最後に残ったメンバー。鎖鎌(くさりがま)のザンジがメフィストに耳打ちする。
するとメフィストはニヤリと笑う。
「ザンジよ…、あの鏡の魔法には弱点があってな。耐久力が尽きると反射出来なくなる。
そろそろ限界のはずだ。
私がマリーを殺る。
ザンジ、お前はマゼランの騎士を殺れ!」
鎖鎌(くさりがま)のザンジ
切れ味抜群の鎖鎌を自在に操り、その長い射程距離は敵が間合いに入る前に攻撃する事が出来る。
騎士殺しの異名を持つザンジは騎士の天敵とも言える存在。
ザンジは鎖鎌をブンブン廻しシャルロットに立ち塞がる。
マゼラン帝国の騎士がこんな所まで何の用かは知らねえが、俺に会ったのは不運だったな。
ザンジの鎖鎌がシャルロットの首を狙う。
【闇ギルド編⑪】
鎖鎌の射程距離は5m以上。
騎士が近づく前に鋭い鎌が騎士の首を撥ねる。
幾人もの騎士を葬って来たザンジの異名は騎士殺し。
そんな細いレイピアでは防ぐ事も出来ぬわ!
ザンジが振り回した鎖鎌がシャルロットを目掛け飛んで来る。
シャルロットは光の魔法で脳を活性化。意識を目に集中する。
スローモーションの用にゆっくりと飛んで来る鎖鎌を造作も無く躱してレイピアを構える。
射程距離5m
(充分ね…)
レイピアの素早い軌道が空を切ると光の斬撃が光速で発射される。
「光速剣!」
シャルロットの斬撃は音よりも速く敵を切り刻む光速の剣。
ザンジが悲鳴を上げるよりも速く全身が切り刻まれる。
(ば… か…な… )
シャルロットは血のりすら付いていないレイピアをそっと鞘にしまった。
シャルロットが戦闘を終えた時、メフィストが無数の光の閃光を解き放つ瞬間であった。
「シャイニング!」
百を超える閃光がマリーに襲い掛かる。
光の鏡の魔力は限界となりマリーの身体がはっきりと透けて見える。
メフィストの攻撃はこれで3度目であった。
最初の2回はわざと殺傷能力の低い閃光を放ち鏡の魔力を削った。
跳ね返された閃光がメフィストに当たっても殆どダメージは無い。
「これが本物の魔導師と魔導師見習いの差だ!」
メフィストの声がマリーに届くとマリーはそっと囁く。
鏡の魔法、第二形態。
「ミラーワールド!」
マリーの魔法は鏡の魔法。
マリーは普段、誰にも見られたく無い悪魔禁書を鏡の世界に隠し持つ。
ブルーアモンの遺体も異世界空間である鏡の世界で埋葬した。
ミラーワールドは何も反射せず、全てを受け入れる光の魔法。
そして、それは魔力とて例外では無い。
無数に飛んで来たメフィストの光の閃光が鏡の世界に吸収される。
そして、取り込んだ魔力は鏡の魔法の魔力として反射の力を復活させた。
マリーは静かにメフィストに告げる。
「ブルーアモンの仇、取らせて頂きます。」
12名居た闇ギルドメンバーは全滅し、残るはメフィスト一人。
戦地に向かったギルドマスター、ジークに何と報告したら良いのか。
しかし、メフィストには奥の手がある。
黒いマントの中に手を入れると、そこから1冊の本を取り出した。
【悪魔禁書】
メフィストは禁書のページをめくり魔力を込める。
【闇ギルド編⑫】
神話の時代
人類を滅ぼしたと言われる悪魔
上級悪魔にもなると、1体で世界を火の海にしたと古い書物に書かれている。
人類は悪魔の存在を恐れ、禁断の魔法である召喚魔法を封印した。
数多く造られた悪魔禁書は焼き捨てられ、悪魔の存在を記した書物すら極秘とされ封印された。
メフィストは禁断の魔法、悪魔召喚の魔法を唱える。
「いでよ邪悪なる悪魔ども!その凶悪なる力で敵対する者を抹殺せよ!」
禍々しいオーラを放つ黒い本はうっすらと光り輝く。
メフィストの魔力はアルゼリア王国の魔導師の中でもトップレベル。
魔力に不足は無い。
シャルロットは息を飲んで事態を見つめる。
「マリー…、どうする?」
マリーはシャルロットに囁く。
「大丈夫です。悪魔は現れませんよ。それより、私にはメフィストを倒す事の出来る攻撃魔法は有りません。仇討ちは貴女にお任せします。」
メフィストは全身全霊の魔力を悪魔禁書に込めるが、黒い本から悪魔が召喚される気配が無い。
「くっ!偽物か!」
メフィストが禁書を投げ捨てた時には、既にシャルロットがレイピアを構えていた。
シャルロットはメフィストを前に高貴あふれる様相で口上を告げる。
「母国マゼラン帝国の英雄
我が祖父ロイス・ガードナーが一番弟子。
シャルロット・ガードナー。祖父より伝授された我が剣で、仇を取らせて頂きます。覚悟せよ!」
「高速剣!」
音速のスピードを誇る無数の斬撃がメフィストの身体を切り刻む。
光速剣では無く祖父の得意技を放ったシャルロット。
メフィストは先日戦った、マゼラン帝国の老騎士を思い出す。
(ジーク…、マゼラン帝国の騎士に殺られたなど口が裂けても言えないな…)
その場に倒れ込んだメフィスト・ダークフィールドは、静かに息を引き取った。
________________
アルゼリア王国首都アルバーナの教会前で行われたその戦闘を知る者は居ない。
それから一週間後
カイザー・ヴァルフェルムの元に訃報が届く。
アルゼリア王国第一魔導師団団長ジーク・ヴァルフェルムの戦死。
その日、セルバーニア王国はパラアテネ神聖国により陥落した。
アルゼリア王国首都アルバーナにマゼラン帝国の騎士団が到着したのは、既に日が沈んだ後であった。
マゼラン帝国近衛騎士団副団長ロイス・ガードナーの亡骸を引き取った一行はアルゼリア王国の国王に一つの命令を下す。
隣国セルバーニア王国への出兵。
セルバーニア王国はマゼラン帝国の同盟国で豊富な地下資源に恵まれた小国である。
質の良い鉄鉱石はマゼラン帝国の武器・防具の製造に重宝されていた。
しかし、1ヵ月前にパラアテネ神聖国の攻撃を受けて現在は膠着状態が続いている。
アルゼリア王国魔導師団幹部、ジーク・ヴァルフェルムは憤りを隠せない。
なぜ我々が参戦する必要があるのか。
アルゼリア王国は長い間、マゼラン帝国、パラアテネ神聖国のどちらにも組みせず平和を保って来た。
ロイス・ガードナーを殺した?
四年前のアルゼリアの悲劇、20名もの近衛騎士団を殺したサラ・イースターを匿っている?
とんだ濡れ衣だ。
無実を証明する為に戦争に参加すれだと?
ふざけるな!
ジークは国王から渡された指令書を破り捨てた。
指令書にはジークの率いる第一魔導師団のセルバーニア王国への出兵命令が書かれていた。
この国はマゼラン帝国の属国に成り下がったのか。
そもそも、魔導師団のみが出兵して何をすれと言うのだ。騎士団の護衛無しでは魔導師団など一溜りも無いだろう。
後方からの騎士への支援。それが魔導師の役割。国王陛下はそんな事も知らんのか!
闇ギルドの本拠地は首都アルバーナの一角、西方の教会にあった。
ギルドマスタージークはギルドメンバーに最終指令を出す。
悪魔禁書の強奪。
あの禁書さえあれば、マゼラン帝国など怖く無い。この世界の勢力図を根底から覆す事が出来る。
数百もの悪魔を召喚出来れば世界を支配する事すら可能だろう。
ジークは不敵な笑い声を上げた。
【闇ギルド編②】
シャルロットがアルゼリア王国に着いた時、祖父ロイス・ガードナーの遺体はマゼラン帝国に運び出される直前であった。
実際に祖父の遺体を目の当たりにしたシャルロットの目から涙が止めどなく溢れる。
しかし、泣いてばかりは居られない。
シャルロットは光の魔力を目に集中する。
遺体は治癒魔法でも掛けられているのか、目立った損傷は無い。しかし、シャルロットの目を誤魔化す事は出来ない。
光の粒子がロイスの腹部と心臓を微かに照らす。
(やはり…)
(腹部の傷は相当に深かったはず、しかし致命傷になったのは心臓。治癒魔法を使う間もなく殺されたのか…)
シャルロットは更に傷から感じられる気配を察知する。
この気配と同じ性質を持った者。
その者こそ祖父の仇。
シャルロットの光魔法は祖父から感じられた、わずかの気配を探知する。
サーチアイ
白い光の粒子が気配の持ち主の方へ移動を始める。
粒子は2つに分かれて飛んで行く。
(どう言う事かしら?仇の人間は2人?)
シャルロットは粒子の一方を追跡する。
第七魔導学院は魔導対戦の余韻で祝福ムードであった。
魔導対戦で準優勝での快挙は何十年振りの出来事。
近年はエリート校である第一魔導学院が優勝と準優勝を独占していた。
マリーは元々、あまり人と接するのを好まない。悪魔禁書を手にしたあの事件から人と必要以上に接するのを避けて来た。
だから、皆に祝福されるのは、かなり恥ずかしい気持ちであった。
それに、魔導対戦の後に起こった出来事。
マゼラン帝国の騎士との一戦。
そして闇ギルドの魔導師に殺されかけた事。
マリーが気が付いた時にはマリーの傷は治癒魔法によって完治していた。
そして、少し離れた所に倒れていた騎士。
おそらく、あの騎士がマリーを助けたのであろう。
騎士の死を知ったマリーには、とても祝福を受ける気持ちにはなれない。
授業が終わるとマリーはそそくさと学校を後にする。
今日はいつになく肌寒い日であった。
アルゼリア王国は温暖な気候で冬と言う物が存在しない。
この世界で雪が降るのは北の大国マゼラン帝国と一部の周辺国のみであり、基本的には温暖な気候の国が多い。
マリーが学校近くの緑道に差し掛かった時、前方に一人の少女が見えた。
マリーとシャルロット。
2人の視線が交差する。
【闇ギルド編③】
(この少女が祖父の仇?)
(年齢は私と同じくらいかしら…。マゼラン帝国の英雄とも讃えられた祖父が、こんな少女に殺されるとは思えない。)
仇討ちに強い決意を持って犯人の追跡をしていたシャルロットは予想外の相手に戸惑う。
(少し…、試して見るか…)
シャルロットは腰に下げたマゼラン帝国製の細身の剣、レイピアをスラリと抜いた。
スピードが身上の光速剣を使うには、なるべく軽い剣の方が媒体として都合が良くシャルロットはレイピアを愛用している。
少し驚いた表情を見せる少女(マリー)に有無を言わさず攻撃を仕掛ける。
レイピアの鋭い剣撃が少女の頬を掠める。
「な!何をするのですか!」
マリーの頬から一筋の血が流れ落ちる。
(私の剣のスピードに全く反応出来ない。やはり祖父を殺す事など不可能。光の粒子が反応したのは、何かの間違いのようね。)
「すまない。私はマゼラン帝国の騎士シャルロット。祖父の仇を探していた。どうやら、人違いのようです。」
シャルロットはマゼラン帝国の騎士式のお辞儀で無礼を詫びる。
するとマリーが反応する。
「マゼラン帝国の騎士…、仇…、あなた、あの騎士の関係者なのですか?それで私を狙って…」
マリーは悪魔の存在を知られたのかと思い身構える。
マリーの言葉に今度はシャルロットの表情が引き締まる。
「知っているのか!?やはり、お前が祖父の仇か…!」
シャルロットがレイピアを構える。
「死して詫びよ!」
シャルロットが攻撃体制に入る。
通常、騎士と魔導師の1対1の対戦は圧倒的に騎士が有利とされる。
騎士のスピードとパワーに対応出来る魔導師は居ない。
魔導師が魔法を発動すると同時に騎士の剣は魔導師に致命傷を与えるからだ。
騎士シャルロットの鋭いレイピアを防御する手段は、魔道士であるマリーには無い。
そのはずであった。
しかし、次の瞬間、吹き飛ばされたのはシャルロットの方。
あまりの衝撃に数メートルも飛ばされ背中から地面に落ちる。
「な……!何か……、居る……!?」
すると、その場の空気が張り詰めたように冷たくなった。
マリーの横に青色の影がぼんやりと浮かび上がる。
ブルーアモン
青い悪魔が嬉しそうに笑う。
「キヒヒ…、やはりハイドしたままではパワーも半減か、女の騎士よ!俺様が相手だ!」
【闇ギルド編④】
およそこの世の者とは思えない不気味な顔立ちには、目玉の無い赤い眼だけがギロリと光っている。
全身は青い皮膚に覆われ、所々に黒い毛のような物が垂れ下がる。
ブルーアモン
「殺してはいけません。」
マリーが悪魔に命令する。
「キヒヒ」
ブルーアモンはゆっくりとシャルロットに近寄り不気味な笑い声をあげた。
シャルロットが不意の悪魔の出現に混乱している間にブルーアモンは容赦なく攻撃を繰り出す。
鋭い爪が剥き出しとなった手刀がシャルロットの顔面を狙う。
間一髪手刀をかわしたシャルロットが愛刀のレイピアを握り直し冷静さを取り戻そうと深呼吸。
(落ち着け…、落ち着くのですシャルロット、私に見切れない攻撃は無い。)
シャルロットの両眼に光の粒子がまとわりつくつく。
ブルーアモンは攻撃を緩める事なく次々と手刀を繰り出す。
「!!!」
「何者だ!キサマ!?」驚くブルーアモン。
シャルロットはブルーアモンの攻撃を全て見切りかわして行く。
シャルロットは表情を引き締めて悪魔に言い放つ。
「無駄です、得体の知れない化物よ。貴方の攻撃は既に見切りました。今度は私の番です。」
細身のレイピアが光り輝く。
今度はブルーアモンが驚きの表情を見せた。
「光速剣!」
光の速さで放たれる無数の剣撃をかわす手段は無い。ブルーアモンの青い身体からどす黒い血が噴き出した!
「ブルーアモン!!」
マリーが駆け寄ろうとするが悪魔が手を伸ばしてそれを止める。
(油断したようだ…)
「キヒヒ…、だが…、これならどうだ…」
ブルーアモンの身体が、またしても背景と同化して姿を消して行く。
ブルーアモンの最大の特徴はそのハイド能力にある。
他の悪魔には無い姿を消す能力。
常に命を狙われるマリーにとって、悪魔の存在を周りの人々に悟られずに護衛するには、これ以上無い能力である。
ハイドには欠点もある。
悪魔特有の魔力をハイド能力に使い続けるため、攻撃に魔力を回す事が出来ない。
威力が半減されるのだ。
しかし人間相手の戦闘であれば半減された威力であっても凄まじい殺傷能力には変わらない。
何も無い空間から放たれる一撃にシャルロットの腹部が貫かれた。
シャルロットは血を口から吐き出す。
【闇ギルド編⑤】
マゼラン帝国製の強固な鎧が無ければシャルロットは致命傷を受けて即死であったかもしれない。
見えない敵からの攻撃に腹部を貫かれたシャルロット。
幼少の頃より国の英雄である祖父ロイス・ガードナーに叩き込まれた騎士としての強固な精神と戦闘センスは、ピンチの時にこそ発揮される。
化物の能力は姿を消す能力
シャルロットの光の眼を持っても見切るのは難しい。
しかし
自分の腹部を貫いている化物は
今、私の目の前に居る。
シャルロットの光速の剣が姿の見えない悪魔を正確に捉える。
超接近の位置からも全く威力の衰えない光速剣がブルーアモンを真っ二つに切り裂いた!
物凄い絶叫を上げるブルーアモン。
ハイド魔法を維持する事も出来ず、全身血まみれの姿がシャルロットの目の前に現れる。
(まさかブルーアモンが負けた!?)
闇ギルドに命を狙われているマリー。
今まで何度も襲われたが、ブルーアモンがマリーを守り戦ってくれた。
ブルーアモンが負けて、瀕死の傷を負うなど想像もしていない。
(助けなきゃ!)
マリーは咄嗟(とっさ)に異空間より悪魔禁書を取り出しブルーアモンの召喚を解こうとする。
魔界へ戻って手当てをしなければならない。
焦りがあったのかもしれない。
闇ギルド、メフィスト・ダークフィールド。
黒いマントの魔道士は悪魔禁書を奪う事を目的に常にマリーを監視していた。
マリーが悪魔禁書を取り出すこの瞬間を。
「シャイニング!」
メフィストの光魔法の閃光が瀕死のブルーアモンに降り注ぐ。
同時に現れた闇ギルドの騎士、ドリアーノ・セイバーが素早くマリーの持つ黒い本を取り上げた。
ドリアーノがメフィストの所に駆け寄り満面の笑みを浮かべる。
「メフィスト様、ついに悪魔禁書を手に入れましたぞ!これでマスターも喜ばれるでしょう。」
マリーはブルーアモンに駆け寄り泣き叫ぶも無数の光の閃光に貫かれた身体は既に動かない。
悪魔とは言え、常に行動を共にしマリーを護衛していたブルーアモン。
今までマリーは悪魔禁書を守る事はあっても敵を殺す事を許さなかった。
何度襲われても敵を殺す事なく逃して来た。
その結果がこの様なのか…
闇ギルド…
彼らだけは許す事が出来ない。
マリーは闇ギルドの二人を睨みつける。
【闇ギルド編⑥】
アルゼリア王国には主に2つの軍隊が存在する。
アルゼリア騎士団とアルゼリア魔道師団。
この世界の戦争は騎士と魔道師による戦争であるが、主戦力は騎士。魔導師は騎士の補助的役割として遠隔魔法を中心として戦争に参加する。
騎士と魔道士が1対1で戦えば騎士が圧倒的に有利である事から、立場上は騎士の方が上と見なされる傾向がある。
特に世界最大の騎士数を誇るマゼラン帝国とその同盟国、友好国の間ではその傾向が強い。
アルゼリア王国も例に漏れず騎士団の方が発言力もあり上とされていた。
魔導師団の大幹部であるジーク・ヴァルフェル厶には、それが許せ無かった。
騎士団の連中は事ある事に魔導師団を見下して嘲り笑う。
更にはマゼラン帝国の騎士はアルゼリア王国を我が物顔で闊歩している。
四年前の王国生誕祭の日にはマゼラン帝国の騎士が大勢街中を徘徊していた。
これではアルゼリア王国はマゼラン帝国の属国ではないか。
とそんな時にあの事件が起こった。
アルゼリアの悲劇
マゼラン帝国の騎士達がパラアテネ神聖国の魔導師サラ・イースターに殲滅(せんめつ)させられた。
ジークは内心、この事件を喜んでさえいた。
魔導師は騎士なんかに負けない。
マゼラン帝国の騎士はアルゼリア王国から出て行くべきだと。
そして、この時1つの奇妙な目撃情報がジークの元に届く。
悪魔の召喚
サラ・イースターは伝説上の生物とされる悪魔の召喚に成功したとの情報。
ジークはこの情報を元にサラとその時に悪魔と行動を共にしたとされる少女を探した。
マリー・ステイシア
サラの捜索のためジークはマリーを監視するようになる。
監視を始めて2年ほど経過した頃、更に驚くべき情報が伝えられた。
悪魔の召喚師はサラ・イースターでは無く
この少女…
マリー・ステイシアだと。
ジークはこの極秘情報を王国に隠し1つの野望を企てる。
闇ギルドを創設しマリーから悪魔の召喚に使われる本【悪魔禁書】を強奪。
その力でアルゼリア王国を支配しマゼラン帝国と絶縁。
魔導師の聖地とされるパラアテネ神聖国と同盟を結ぶと言うものだ。
悪いのは全て魔導師をバカにする王国騎士団でありマゼラン帝国である。
そして、ついにジークの野望である最初の一歩。
闇ギルドのメンバーが悪魔禁書を手に入れた。
【闇ギルド編⑦】
闇ギルドマスター、ジーク・ヴァルフェルムの片腕、メフィスト・ダークフィールドは歓喜の声を上げる。
ついに悪魔禁書を手に入れた。
マゼラン帝国の騎士が悪魔に致命傷を与えてくれるとは思わぬハプニングであった。
メフィストは何度かマリーから悪魔禁書の強奪を試みたが、ハイド魔法で姿の見えないブルーアモンに返り討ちに合っていた。
「今日は何と素晴らしい日であろうか。」
先日の老騎士と言いマゼラン帝国の騎士には何かと縁がある。
しかし、悪魔の存在を知られたからにはマゼラン帝国の騎士も殺さなければなるまい。
先日の老騎士同様、死んで貰う!
シャルロットはブルーアモンに抉られた腹部の治療をしながら状況把握に頭を巡らせていた。
悪魔
老騎士
老騎士とは祖父ロイスの事か
(ロイス・ガードナーを殺したのはあの魔導師か!)
メフィストの身体には先程シャルロットが飛ばした光の粒子の片割れが飛翔している。
(間違いない!奴が祖父の仇!)
メフィストはもう一人の闇ギルドメンバーであるドリアーノに命令する。
「私は先にマスターに本を届ける。ドリアーノ、お前はマリーとマゼラン帝国の騎士を殺せ。騎士の少女は悪魔との戦闘で重症のようだ。お前なら問題無いだろう。」
そう言うとメフィストはその場から姿を消した。
「さて、それでは死んで貰おう。」
ドリアーノが鋭い眼光で2人の少女を睨む。
マリーとシャルロットの2人を。
悪魔禁書を奪われたマリーには召喚魔法で悪魔を呼び出す事は出来ない。
自力で闇ギルドの騎士を倒さなければならない。
ブルーアモンが死んだ悲しみを抑えマリーは立ち上がる。
私の光魔法でどこまで戦えるのか。
しかし、殺される訳には行かない。
私は生きて必ずてイースと再会してみせる。
マリーが決意を胸に前へ出ようとした時、シャルロットがマリーの前に立ち塞がる。
「マゼラン帝国の騎士さん。私は貴女に用はありません。そこをどいて下さい。」
しかしシャルロットは動かない。
そしてマリーに話し掛ける。
「私の名はシャルロット。ロイス・ガードナーの孫になります。貴女を祖父の仇と間違えて襲った事をお許し下さい。」
「そして、悪魔…、貴女が召喚した悪魔が死んだのも私の責任。あの騎士の相手は私に任せて下さい。」
【闇ギルド編⑧】
闇ギルドの一員であるドリアーノは、アルゼリア騎士団の中で仲間殺しをして死刑宣告を受けた経歴を持つ。
最初に人を殺したのはドリアーノが騎士団に入り1年後の事。
当時、アルゼリア王国で勢力を拡大していた山賊の討伐隊に参加した時。
ドリアーノは山賊のメンバーを次々と切り捨てた。そこには純粋な喜びがあった。
人を殺す事の快感がドリアーノを支配した。
類まれな戦闘センスを持つドリアーノにとって戦闘は一方的な虐殺であった。
騎士団の模擬戦でもドリアーノは負けた事が無い。
次々と戦果を上げるドリアーノは騎士団の中でも異例の早さで出世をする。
そしてある日ドリアーノは当時の騎士団ナンバーツー、副団長と模擬戦をする事になった。
模擬戦は一方的な展開となる。
ドリアーノの剣技は副団長を圧倒した。
試合はすぐに決着し止(や)めの合図があった時、ドリアーノは副団長を殺したい衝動を抑える事が出来なかった。
人を殺す事に快感を覚えていたドリアーノは試合終了の合図を無視して副団長に留めを刺した。
狂気の騎士ドリアーノ。
死刑宣告を受けたドリアーノを救ったのは魔導師団幹部のジーク。
模擬戦の殺害は不慮の事故となりドリアーノは騎士団からの除名処分で終わる。
そしてジークの闇ギルドの一員となる。
ドリアーノにとって、か弱い少女を殺す事は快感以外の何物でも無い。
狂気の笑みを浮かべて大剣をスラリと抜いたドリアーノが2人の少女に歩み寄る。
「どちらを先に殺そうか…、マゼランの騎士、お前が先に死にたいらしいな。」
ドリアーノの前にはレイピアを構えたシャルロットが立っていた。
腹部に重症を負うシャルロットがドリアーノの剣を躱(かわ)す事など不可能。
大剣の重さを感じさせない鋭い突きがシャルロットを襲う。
ドリアーノ得意の剣技。
「三段突き!」
目にも止まらぬ突きによりシャルロットは串し刺しになるはずであった。
「!!!」
しかし!
三段の突きはシャルロットにかすりもしない。
「バカな!」
(だが…)
「これなら躱す事は出来まい!」
ドリアーノが大剣を横に振り抜く。
空気を切り裂く轟音が大地に木霊(こだま)する。
「遅すぎます。突きと言うのはこうするのよ」
いつの間にかドリアーノの横に現れたシャルロットがレイピアに光の魔力を込める。
「光速剣!!」
【闇ギルド編⑨】
アルゼリア王国アルバーナ城
カイザー・ヴァルフェルムは突然の報告を聞いて駆けつけていた。
「セルバーニア王国へ出兵とはどう言う事ですか!しかも第一魔導師団のみで戦地へ行くなど正気の沙汰では無い!」
「父上を!ジーク・ヴァルフェルムを呼んで下さい!」
カイザーの目の前に立つ大男はアルゼリア王国第一騎士団団長マルス・アレキサンダー。
アルゼリア王国に5つある騎士団のトップに君臨する王国最強の騎士。
「何だ騒々しい。戦争への参加は国王陛下の命令だぞ。それにジーク殿の力があれば騎士の力なぞ不要だろう。何せ王国最高の魔導師だからな。
それに
第一魔導師団は既にセルバーニアへ出発した。今更どうにもならん!」
「な!?指令が出たのは今日のはず!今日の今日で出発とはどう言う事ですか!」
「しつこい奴だ。それ程、セルバーニア王国の戦況が一刻を争うと言う事だろう。分かったら、とっとと失せるんだな。」
カイザーはマルスを睨みつける。
「まさか…、キサマが第一魔導師団を…」
すると横に控えていた騎士達がカイザーを抑えつける。
「マルス様に無礼であろう!ジーク様の息子であっても許さんぞ!」
(これが…、これが王国騎士のやり方か!)
______________
「なんだと!?」
メフィスト・ダークフィールドは報告を告げるメンバーに怒鳴りつける。
「ついに悪魔禁書を手に入れたと言うのに
マスターが出兵だと!!そんなバカな事があってたまるか!
アルゼリア王国は中立国家!
戦争など何百年も経験していない平和な国だぞ!」
「しかしながらメフィスト様…
国王陛下の命令ですのでジーク様も逆らえません。急な呼び出しで仕方なく…。」
メフィストが歯ぎしりをしている所へ更なる報告が入る。
「メフィスト様!」
「今度は何だ!」
メフィストは苛立ちを隠さず質問する。
「例の少女…
マリーとマゼラン帝国の騎士がこちらに向かって来ます。もうすぐ到着するかと…」
「何だと!?ドリアーノが破れたと言うのか!」
ドリアーノは闇ギルド内でも屈指の実力者。
悪魔の召喚出来ないマリーに倒されるとは…。
「ギルドメンバー全員に告ぐ!マリーとマゼラン帝国の騎士を抹殺せよ!」
闇ギルド本部に居た総勢12名のギルドメンバーが2人の少女を迎え撃つ。
【闇ギルド編⑩】
闇ギルドメンバー魔導師、爆炎のジョー。
彼の得意な魔法は炎の球体を敵にぶつけて爆発させる魔法!
人間の頭ほどもある炎の球体が2人の少女目掛けて放たれる!
「シャルロット、ここは私に任せて!」
マリーが手をかざすと2人の前方に光の鏡が現れる。
全ての攻撃を鏡に反射させ、そのままの威力で跳ね返すマリー得意の魔法。
「ミラーリフレクト!」
炎の球体は辿って来た軌道をそのまはまに逆走し爆炎のジョーを直撃する。
大きな悲鳴と共にジョーが爆発した。
メフィストがギルドメンバーに指示を飛ばす。
「何をやっている!マリーに中途半端な魔法は効かない!魔導対戦を見ていないのか!
剣だ!剣で攻撃しろ!」
すると今度は闇ギルドメンバーの騎士が大剣を振りかざして突進する。
「マリー!」
シャルロットがマリーに声を掛けるも、マリーはシャルロットを手で静止する。
「大丈夫です。私の光の鏡はどんな攻撃をも跳ね返します。」
闇ギルドメンバーの大剣がマリーを叩き切ろうと振り下ろされる。
大剣が光の鏡をすり抜けた瞬間、攻撃者の身体から血が吹き出す!
「!!!」
シャルロットはマリーの魔法を目の当たりにして驚きを隠せない。
(この娘…。あの時、悪魔が私の光速剣を防がなかったら…、斬られていたのは私の方…)
次々と襲い掛かる闇ギルドメンバーの攻撃はマリーの魔法により全て跳ね返される。
12名居たメンバーが、あっと言う間に2人になった。
「メフィスト様…、不味い事になりましたな。あれでは攻撃も出来ない。」
最後に残ったメンバー。鎖鎌(くさりがま)のザンジがメフィストに耳打ちする。
するとメフィストはニヤリと笑う。
「ザンジよ…、あの鏡の魔法には弱点があってな。耐久力が尽きると反射出来なくなる。
そろそろ限界のはずだ。
私がマリーを殺る。
ザンジ、お前はマゼランの騎士を殺れ!」
鎖鎌(くさりがま)のザンジ
切れ味抜群の鎖鎌を自在に操り、その長い射程距離は敵が間合いに入る前に攻撃する事が出来る。
騎士殺しの異名を持つザンジは騎士の天敵とも言える存在。
ザンジは鎖鎌をブンブン廻しシャルロットに立ち塞がる。
マゼラン帝国の騎士がこんな所まで何の用かは知らねえが、俺に会ったのは不運だったな。
ザンジの鎖鎌がシャルロットの首を狙う。
【闇ギルド編⑪】
鎖鎌の射程距離は5m以上。
騎士が近づく前に鋭い鎌が騎士の首を撥ねる。
幾人もの騎士を葬って来たザンジの異名は騎士殺し。
そんな細いレイピアでは防ぐ事も出来ぬわ!
ザンジが振り回した鎖鎌がシャルロットを目掛け飛んで来る。
シャルロットは光の魔法で脳を活性化。意識を目に集中する。
スローモーションの用にゆっくりと飛んで来る鎖鎌を造作も無く躱してレイピアを構える。
射程距離5m
(充分ね…)
レイピアの素早い軌道が空を切ると光の斬撃が光速で発射される。
「光速剣!」
シャルロットの斬撃は音よりも速く敵を切り刻む光速の剣。
ザンジが悲鳴を上げるよりも速く全身が切り刻まれる。
(ば… か…な… )
シャルロットは血のりすら付いていないレイピアをそっと鞘にしまった。
シャルロットが戦闘を終えた時、メフィストが無数の光の閃光を解き放つ瞬間であった。
「シャイニング!」
百を超える閃光がマリーに襲い掛かる。
光の鏡の魔力は限界となりマリーの身体がはっきりと透けて見える。
メフィストの攻撃はこれで3度目であった。
最初の2回はわざと殺傷能力の低い閃光を放ち鏡の魔力を削った。
跳ね返された閃光がメフィストに当たっても殆どダメージは無い。
「これが本物の魔導師と魔導師見習いの差だ!」
メフィストの声がマリーに届くとマリーはそっと囁く。
鏡の魔法、第二形態。
「ミラーワールド!」
マリーの魔法は鏡の魔法。
マリーは普段、誰にも見られたく無い悪魔禁書を鏡の世界に隠し持つ。
ブルーアモンの遺体も異世界空間である鏡の世界で埋葬した。
ミラーワールドは何も反射せず、全てを受け入れる光の魔法。
そして、それは魔力とて例外では無い。
無数に飛んで来たメフィストの光の閃光が鏡の世界に吸収される。
そして、取り込んだ魔力は鏡の魔法の魔力として反射の力を復活させた。
マリーは静かにメフィストに告げる。
「ブルーアモンの仇、取らせて頂きます。」
12名居た闇ギルドメンバーは全滅し、残るはメフィスト一人。
戦地に向かったギルドマスター、ジークに何と報告したら良いのか。
しかし、メフィストには奥の手がある。
黒いマントの中に手を入れると、そこから1冊の本を取り出した。
【悪魔禁書】
メフィストは禁書のページをめくり魔力を込める。
【闇ギルド編⑫】
神話の時代
人類を滅ぼしたと言われる悪魔
上級悪魔にもなると、1体で世界を火の海にしたと古い書物に書かれている。
人類は悪魔の存在を恐れ、禁断の魔法である召喚魔法を封印した。
数多く造られた悪魔禁書は焼き捨てられ、悪魔の存在を記した書物すら極秘とされ封印された。
メフィストは禁断の魔法、悪魔召喚の魔法を唱える。
「いでよ邪悪なる悪魔ども!その凶悪なる力で敵対する者を抹殺せよ!」
禍々しいオーラを放つ黒い本はうっすらと光り輝く。
メフィストの魔力はアルゼリア王国の魔導師の中でもトップレベル。
魔力に不足は無い。
シャルロットは息を飲んで事態を見つめる。
「マリー…、どうする?」
マリーはシャルロットに囁く。
「大丈夫です。悪魔は現れませんよ。それより、私にはメフィストを倒す事の出来る攻撃魔法は有りません。仇討ちは貴女にお任せします。」
メフィストは全身全霊の魔力を悪魔禁書に込めるが、黒い本から悪魔が召喚される気配が無い。
「くっ!偽物か!」
メフィストが禁書を投げ捨てた時には、既にシャルロットがレイピアを構えていた。
シャルロットはメフィストを前に高貴あふれる様相で口上を告げる。
「母国マゼラン帝国の英雄
我が祖父ロイス・ガードナーが一番弟子。
シャルロット・ガードナー。祖父より伝授された我が剣で、仇を取らせて頂きます。覚悟せよ!」
「高速剣!」
音速のスピードを誇る無数の斬撃がメフィストの身体を切り刻む。
光速剣では無く祖父の得意技を放ったシャルロット。
メフィストは先日戦った、マゼラン帝国の老騎士を思い出す。
(ジーク…、マゼラン帝国の騎士に殺られたなど口が裂けても言えないな…)
その場に倒れ込んだメフィスト・ダークフィールドは、静かに息を引き取った。
________________
アルゼリア王国首都アルバーナの教会前で行われたその戦闘を知る者は居ない。
それから一週間後
カイザー・ヴァルフェルムの元に訃報が届く。
アルゼリア王国第一魔導師団団長ジーク・ヴァルフェルムの戦死。
その日、セルバーニア王国はパラアテネ神聖国により陥落した。