【少女の決意編①】

この世界の戦争は騎士と魔導師による戦争。

騎士と魔導師の数と能力で勝敗が決まる。
しかし、誰もが騎士や魔導師になれる訳では無い。

例えば、世界最大の騎士団を保有するマゼラン帝国では、騎士の資格を得るために厳しい試験に合格しなければならない。

その試験に合格するのは年に数名。
よって騎士の数は極端に少なくなる。
マゼラン帝国でさえ、正規に騎士と認められている人数は1000人に満たない。

この年、マゼラン帝国で騎士と認められた者は7名。
その中で史上最年少で騎士となった一人の少女が居た。

若干16歳。
世界で最も厳しいと言われるマゼラン帝国の騎士学校を飛び級で卒業。
英雄ロイス・ガードナーの孫娘

シャルロット・ガードナー

――騎士試験最終日――

帝国騎士との模擬戦が行われた。

試験官は近衛騎士団の中堅騎士ザック。
ロイス・ガードナーとは何度も戦場を共にした歴戦の勇者。

ザックの木刀がシャルロットに振り下ろされる。模擬戦では真剣は使用されない。しかし超高速で振り下ろされる木刀は直撃すれば重症は免れ無い。

ザックには手加減をする余裕が無かった。それほど少女が放つ剣気に押されていたのだ。

高速に振り下ろされた剣は、またしても紙一重で躱(かわ)される。
シャルロットは実に10度に渡るザックの攻撃を全て最小限の動きで躱(かわ)していた。

シャルロットの剣の師匠はロイス・ガードナー。幼少の頃から祖父に剣術を教わっていた。
何度も何度も祖父の剣に打ちのめされ、その度に剣術の修行に明け暮れた。

ロイスの高速剣よりも素早い剣撃など見た事
が無い。瞬時に無数の刃が四方から襲う高速剣はシャルロットにとって脅威以外の何ものでも無かった。

だからシャルロットはその全てを躱(かわ)す術を身につけた。

光属性の魔法。
シャルロットは騎士としは珍しく魔導師としての才能を持っていた。
これも祖父譲りであったのかもしれない。

光の魔力を自身の眼と脳に集中する事により、周りの全てがスローモーションのように映し出される。

ロイスの高速剣の全てを最初に躱したのは、シャルロットが13歳の時であった。

シャルロットの剣気が変わる。
物凄い威圧がザックに襲い掛かる。

(これは……)

シャルロットが木刀を構え技を発動する。

「光速剣!!」


【少女の決意編②】

ロイス・ガードナーの高速剣は無数の斬撃を瞬時に発動する。
そのスピードは音速にも匹敵すると言われていた。
事実、ロイスの剣撃よりも早い剣技を扱える者は記録に無い。高速剣はそれほどの大技である。

ロイスは高速剣の継承者としてシャルロットに技の極意を叩き込んだ。
血の滲(にじ)むような修行を連日連夜行った。

そして、ついにシャルロットが高速剣を身につけた時にロイスは信じられないに出来事に感嘆の声を漏らす。

「これは…」

(高速剣では無い…)


シャルロットは、祖父ロイスの高速剣に光魔法を融合させた。

祖父から教わった高速剣を進化させ、更にスピードを極めた光速剣は、光の速さに匹敵する。

もはやシャルロットの光の剣を見切れる者は存在しない。

ザックの身体から100を越える切り傷の鮮血が噴き出した。

光の剣にとっては、木刀は単なる技の媒介の道具に過ぎない。その切れ味が衰える事は無い。

シャルロットは光速剣の斬撃をザックに致命傷を与えない程度に皮膚の上層部のみを切り刻んでいた。

恐ろしいまでの天賦の才能と血の滲むような修行により、ここに一人の天才騎士が誕生した。

マゼラン帝国騎士
シャルロット・ガードナー

シャルロットが騎士試験に合格し半年が経過した11月。
帝国の友好国でもあるアルゼリア王国の魔導対戦に来賓として招かれていた祖父の帰りを待っていた。

「魔導対戦か…、面白そうね。」

(でも私は騎士。どちらかと言えば騎士対戦の方に興味があるわ。来年はお祖父様に言って連れて行って貰おうかしら。)

そんな事を考えている彼女の元に訃報(ふほう)が届く。

祖父ロイス・ガードナー死去。
アルゼリア王国にて原因不明の事故により死亡。

「まさか…」

(有り得ない。祖父は光魔法の使い手。多少の事故なら治癒魔法で回復出来る。そもそも、騎士の中でもトップクラスの実力を誇る祖父が事故死?)


シャルロットの大きな瞳から一筋の涙が溢れる落ちる。

祖父は

殺されたに違いない。

その日、シャルロットは自身の長い金髪をバッサリと切り落とし決意を胸に秘める。

必ず

必ず、祖父の仇を討つ。

シャルロットは故郷マゼラン帝国を後にして、アルゼリア王国へと向かう。