MARIONETTE- シンドウ


【ポルフス①】


日本国防衛軍 控室


カツン


カツン


ウィーン


「戦況はどうだね。伊集院統括隊長。」


「吉良中将!いつ、イスラエルへ?」


防衛軍中将である吉良 庸介(きら ようすけ)は、防衛軍歩兵部隊の実質的なトップに位置するが、機動兵士ではなく制服組の軍人である。


「今、着いたはかりだ。予選の状況を教えてくれ。」


「Cブロック予選は始まったばかりですが、白峰副隊長が脱落しました。相手はアメリカ軍の将軍クリストファー・カレンです。」


「クリストファー将軍か。」


「えぇ…………。」


マリオネット大国のアメリカ合衆国にて、現在残っている将軍職は3人。アレクサンダーとゲイリーが純粋な戦闘能力で戦う機動兵士だとするなら、クリストファーは未知の能力を使って戦う機動兵士である。


「クリストファー将軍の情報は殆ど無い。厳しい戦闘になりそうだ。他には?」


「夢第二統括隊長がロシア軍のレッドスコッチと交戦中です。」 


「なんと!クレムリン親衛隊のトップファイブか…。」


現状、防衛軍と相対するする敵は世界でも上位の機動兵士ばかりである。


「戦闘が始まってからは連絡を取る事は出来ません。我々は兵士達を信じるしか無い。」


「うむ。そうだな。」


「大丈夫です。夢統括隊長も坂田隊長も簡単にやられる玉でない。見守りましょう。」



───白百合の機動兵士───


それが、第二歩兵部隊隊長、坂田 めいの異名である。特徴的なのは、その光学剣(ソード)で、その先端が双花に分かれる特別仕様だ。


『白百合の剣!』


ガキィーン!


『ケンシン!今です!』


ブワッ!


カレンの光学剣(ソード)は白百合の剣に絡み取られて動かす事が出来ない。その一瞬の隙を上杉 ケンシンは見逃さない。


『とりゃぁ!』


バッ!


『!』


そして、カレンが突き出したのは左手だ。武器を持たない左手に光学剣(ソード)が当たれば装甲の耐久値が減少する。普通の機動兵士であれば、それは防御の意味を成さない。しかし、カレンの左手は上杉 ケンシンの動きを止めた。


『ちょっと!なんだこれ!?』


ガシュッ!


ズバッ!


ビビッ!


『損傷率21%』


その隙にカレンは坂田 めいの光学剣(ソード)を払い除けそのままケンシンの身体を斬り伏せた。


(今のは何!?)


ビビッ!


『ケンシン!何がありましたか!?』


『わからねぇ!身体の自由を奪われた感じだ!』


『自由を?』


ザザッ!


坂田と上杉は体勢を立て直し再び光学剣(ソード)を構える。


ジリ………。


(迂闊に攻撃出来ない……………。)


ジリ…………。


『ふっ…………。』


カレンは、動かない2人へ微笑みかける。


『来ないなら私から行くわよ。』


『!』


シュバッ!


『ぐっ!』


ビビッ!


『損傷率46%』


『ケンシン!』


ズバッ!


『うぉ!』


クリストファー・カレンは明らかに上杉 ケンシンを狙っている。数的不利を解消するには弱い機動兵士から先に始末するのがセオリーだ。


『ちくしょう!行くぜ!』


対するケンシンも士気は下がっていない。どんなに強敵が相手でも臆する事が無いのはケンシンの強みである。


(ならば………!)


ザザッ!


坂田 めいは、カレンの後方へと回り込み前後からの挟み撃ちの体勢を取った。


(あの左手の能力は解明出来ませんが、前後からの同時攻撃なら対応は出来ないはず。)


『うりゃあぁぁぁ!!』


『白百合の剣!』


ブワッ!


すると、カレンは大きな身体には似合わない跳躍力で飛び上がり、そのままケンシンに向けて光学剣(ソード)を放った。


シュバッ!


ガキィーン!


『くぅ!』


『あら?素敵な反応速度。』


────


次の瞬間、カレンは左手をケンシンに向けて差し出した。


『させない!』


『!』


ガキィーン!


ビリビリ


『ケンシン!離れて!』


『くそっ!』


ババッ!


しかし、カレンが攻撃する前に飛び込んで来た坂田の攻撃に阻まれケンシンは難を逃れる。


『日本国防衛軍…………。こうでなければ戦闘はつまらないわ。』


『何を…………。』


『私は、強い機動兵士を倒すのが好きなのよ。努力と才能により機動兵士としての素質を開花させた機動兵士達。その努力も才能も私の左手の前には無力と化す。その絶望した表情が、たまらなく好き。』


『!』


(左手!?)


シュバッ!


ビビッ!


『損傷率28%』


(身体の自由が効かない………。)


『逃げないのかしら?』


『なにが!』


ズバッ!


グサッ!


シュバッ!


『坂田隊長ぉ!!


手を足も出ないとはこの事であろう。文字通り坂田 めいの動きは封じられ一方的に斬り刻まれる。


『これが、アメリカ合衆国の将軍…………。』


クリストファー・カレン────


バチバチバチバチバチ!


ドッガーン!


『てめぇ!』


ブン!


ガキィーン!


『動きが雑ね…………。』


『なんだと!』


『私は強い機動兵士と戦いたいのよ。貴方では無い。』


『くそっ!』


バシュッ!


『ぐわっ!』


ビビッ!


『損傷率70%』


『つまらない戦闘は、終わりにしましょう。』


『!』


シュバッ!!


(こいつ……………。)


バチバチバチバチバチバチバチ!


(強すぎるだろ。)


ドッガーン!




【ポルフス②】


西暦2057年


アンドロメダ・マウラーがサウジアラビアの地で亡くなる2年前の話だ。


ザッ


ザッ


「ベガ……………。私を呼び出して何かあったのか。」


2人はロシア軍が誇るニ大戦力であり、ロシアに機動兵器を持ち込んだ2人の機動兵士である。


「クレムリン親衛隊の総帥の座を降りる事にしたよ。」


「…………………そう………。後継者は決まったのですか?」


「シーザーと言う男になる。コードネームはレッドパンサー、聞いた事があるだろう?」


「レッドパンサー…………、知ってはいますが、それほど強いのですか?」


「機動兵士としての能力は俺と同程度ではあるが、お前の方が上だろうな。奴の事なら心配はいらない。」


「………本題は別という事ですか。」


ベガは少し苦笑いをしてアンドロメダに告げる。


「総帥の座を降りる事に決めたのは別に理由がある。」


「………それは?」


「レッドデイヴィスだ。奴はクレムリン親衛隊を敵対視している。徒党を組まないと何も出来ない弱者の集まりだと批判して来た。」


「それで…………。」


「まんまと奴の挑発に乗り戦闘をする事になった。クレムリン親衛隊の総帥の座を掛けてだ。」


「始めて聞く話ですね。」


「誰も知らない話だ。」


「その戦闘はどちらが勝ったのですか?」


「……………完敗だった。」


「まさか…………。シュリング流の武術を極めた貴方が簡単に負けるはずが無いでしょう。」


「事実だよアンドロメダ。そして奴はクレムリン親衛隊の総帥の座など要らないと嘲笑した。他の奴にくれてやれとな。」


「……………それで引退の決意を。」


「気を付けろアンドロメダ。奴の強さは尋常ではない。純粋な戦闘能力で言えばお前と同等かそれ以上。しかし、奴は祖国ロシアの事を何も考えてはいない。ただの戦闘狂だ。何を考えているか分からない奴ほど恐ろしいものはいない。」




西暦2060年


ビビッ!


(2人か………………。フランス軍の機動兵士。1人は……ポルフス?)


レッドデイヴィスは、予選が始まるとすぐに味方の機動兵士達とは別行動を取り、中華人民共和国の機動兵士5人を瞬殺した。そして次の獲物を求めてモニターの点灯を目指して来てみると、そこで思い掛けない敵の兵士を発見する。



サン・ルヴィエ・ポルフス────



フランス軍の英雄にして、世界三大英傑の1人であるポルフスを発見したレッドデイヴィスは思わず笑みを浮かべる。


(生きてたのか…………。これは面白くなりそうだ。)


ザッ


ザッ


レッドデイヴィスは臆する事なく荒野をまっすぐに進み、フランス軍の2人の前に躍り出た。


『ポルフス様、敵です。』


『マリアの言っていた機動兵士。相当に強いという話だが、実力を見るとするか。レオン、下がっていなさい。』


ザッ


ザザッ!


『ほぉ…………。1人で戦う気か。』


『不服かね。』


『いやぁ、皇帝ポルフスが相手なら十分に楽しめそうだ。世界トップの実力を見せて貰おうか。』


シュルシュルシャキィーン!


レッドデイヴィスは専用の光学槍(ランス)を構える。


ゴゴゴォ


(むぅ……………。)


ポルフスは目を細めた。


(この殺気は戦場でもなかなかお目に掛かれるものではない。)


ジリ…………。


ザッ!


バッ!


ガキィーン!!


光学剣(ソード)と光学槍(ランス)が激しくぶつかり、次の瞬間。


シュン!


(!?)


『レオン!!避けろ!』


『え?』


ズバァ!!


ビビッ!


『損傷率28%』


レッドデイヴィスの刃がレオン・マックスへと襲い掛かる。


『剣技!ハリケーン!』


『!』


ギュルギュルギュル!!


ガガガガガガガガガガガガ!!


『ぐわっ!』


『損傷率63%』


ザッ!


『貴様!俺が相手だぞ!』


シュバッ!


ガキィーン!


『ふっ、皇帝ポルフス…………。』


交わる剣の向こうでデイヴィスが笑う。


『遅いよアンタ。それでも世界三大英傑なのかい?』


『なにを!』


シュバッ!


ブルン!


レッドデイヴィスの狙いは、あくまでレオン・マックスである。レッドデイヴィスはポルフスの攻撃を掻い潜りレオンへ光学槍(ランス)を突き刺した。


ズバッ!


『ぐわぁ!』


ビビッ!


『損傷率88%』


『はっ!弱えよお前!』


ズバッ!


『ぐほっ!』


バチバチバチバチバチバチバチ!


ドッガーン!


『レオン!!』


(馬鹿な………。レオンは聖戦騎士団の中でも上位の実力を誇る機動兵士。そのレオンが、まるで相手にならない。)


ロシア軍の機動兵士レッドデイヴィス


(無名の機動兵士が、ここまで強いとは………。)




【ポルフス③】


日本国防衛軍 控室


ざわざわ


「ポルフス…………、目が覚めたのか。良かった。」


そう呟いたのは大和 幸一(やまと こういち)である。ヨーロッパの戦場で昏睡状態となったポルフスを幸一は目撃している。あの時、ポルフスが懇親の一撃を繰り出さなければ犠牲者は更に増えたに違いない。


「私達にとっては強敵が増えた事になります。」


「七瀬統括隊長………、それはそうだな。」


そして、問題は他にもある。


「そのポルフスと互角に戦っているロシア軍の機動兵士、信じられないですね。」


羽生 明日香が2人の会話に入り込む。それは幸一も怜も同じ意見であり由々しき問題だ。ロシア軍は、クレムリン親衛隊以外にも強い機動兵士が大勢いる。


「さすがはロシア…………、そして、そのボスとも言えるクレムリン親衛隊のトップファイブ、夢統括隊長も押されている。厳しい戦闘になるな。」


別のモニターには、夢 香織とレッドスコッチの戦闘映像が映し出されていた。このまでのところ、レッドスコッチが優勢に見える。


「あの見えない武器は厄介ですね。」


レッドスコッチの武器はステルス性能を兼ね備えた光学鎌(ギロチン)と呼ばれる武器である。


「確かに初見であれを攻略するのは難しそうだ。アメリカ軍の将軍が倒されたのも無理はない。」


「えぇ、しかし、初見でなければどうかしら?」


「と言うと?」


「今回の大会は世界中に戦闘が放映されます。今まで謎に満ちていたロシア軍の機動兵士の能力が次々に明るみになっています。」


「…………確かにそうだな。」


「アレクサンダー将軍の狙いはそれかもしれません。大会が終わる頃には、ロシア軍の機動兵士の脅威は大幅に減少すると思うわ。」


七瀬の言う事はもっともだ。世界最強の機動兵士を揃えるロシア軍ではあるが、手の内を明かしては、その脅威は減少する。


しかし──────


「しかし、今回の大会でロシアの機動兵士が優勝すれば世界はロシアのものになる。」


「大和統括隊長…………。」


「あの皇帝ポルフスと無名の機動兵士が互角とか有り得ないだろ。あの動き普通では無い。」


ゴクリ…………。


『剣技!ハリケーン!』


ズバァ!!


モニターに映し出されたのは、ポルフスの身体を斬り刻むレッドデイヴィスの姿である。


「仮にも世界三大英傑と呼ばれるポルフスが……、このままでは負けるぞ。」


ギュルギュルギュル!




アメリカ合衆国 控室


ポルフスとレッドデイヴィスの戦闘を観戦しているのは防衛軍の兵士達だけではない。


アレクサンダー・ルーカス


今回の大会の主催者にして、優勝候補の1人であるアレクサンダーは、2人の対戦を食い入るように見ていた。


(ふむ……………。)


純粋な戦闘能力──────


レッドデイヴィスの強さは驚異的な身体能力にある。


(見たところ強制シンクロ装置は使っていない。奴の身体能力は、この俺やシリウスにも匹敵する。)


「ポルフスが負けるか……………。」


「アレクサンダー。」


「ゲイリーか……、どうした?」


「ヨーロッパ戦線で見たポルフスの実力はあんなものでは無い。まだ勝負はわからないぞ。」


「ほぉ………。それは楽しみだな。」



機動兵器「マリオネット」には、未だに解明されていない多くの未来技術が内包されている。足の速い人間が機動兵器を装着すれば、そのスピードは驚異的な速さとなり、力の強い者が装着すれば圧倒的な破壊力を有する。


しかし、それだけでは説明出来ない。明らかに身体能力が劣る人間が、時には誰にも負けない能力を発揮する事がある。


──────精神力



ある科学者は言う。身体能力以上に機動兵器に影響を与えているのは「精神力」である。


サン・ルヴィエ・ボルフスは、精神力の兵士だ。


ビビッ!


損傷率68%


(この私をここまで追い詰めるとは、全く大した奴だな。)


レッドデイヴィスの身体能力は、ポルフスの想像を遥かに越えている。無名の機動兵士の驚異的な戦闘能力には驚くばかりだ。


しかし──────


シュルシュル


シャキーン!


ポルフスは、自らの光学剣(ソード)を前方に構えて見せた。風になびく金髪にも劣らない光り輝く光学剣(ソード)は、とても美しく見える。


キラーン


(……………む?)


その光が徐々に広がり、眩いばかりに荒野の大地を照らして行く。


(なんだ…………。どんな仕組みだ?)


ゴゴゴォ


レッドデイヴィスは、かつて、このような現象は見たことが無い。


『行くぞ!』


ジャリ


皇帝と言われる機動兵士、サン・ルヴィエ・ボルフスの真骨頂が見られるのは、これからだ。


ビカッ!!


『!?』


バッ!


『メテオ・クラッシュッ!!』


ポルフスは、瞬時にレッドデイヴィスとの距離を詰めて光学剣(ソード)を振り下ろす。


ドッガーン!!!


『!』『!』『!』『!』『!』


そして、その破壊力は尋常ではない。バトルフィールド全域にまで響く爆音が他のプレイヤー達の耳にまで届いた。


サン・ルヴィエ・ボルフス───


「素晴らしい…………。」


アレクサンダー・ルーカスはモニターに映るポルフスを素直に称賛した。初めて開催された世界規模の『機動兵士』の大会にあって、ポルフスは間違いなくトップレベルの機動兵士である。


「世界一の機動兵士を決める大会だ。皇帝の復活は何よりも大会の価値を高める。」


「アレクサンダー…………。」 


「あぁ………。復活したポルフスですら予選を突破出来ない大会だ。この大会で優勝した者は、間違いなく世界最強の機動兵士として歴史に名を残すであろう。」


バチバチバチバチバチバチ!


『貴様………、まさか………。』


『ふん。俺様に光学盾(シールド)を使わせた機動兵士は、お前が初めてだ。』


『耐久型の機動兵士だったのか…………。信じられん。』


ドッガーン!





予選Cブロック

日本国防衛軍

夢 香織

黒川  由利


アメリカ合衆国
クリストファー・カレン

イギリス連邦共和国
レスター・シルビア


ロシア連邦共和国

レッドスコッチ

レッドデイヴイス


フランス共和国

マリア・ローラ

アラン・トルーパー

ミーシャ・ロザリア



──────残り9名