2025年12月14日、NHK大河ドラマ「べらぼう」が最終回を迎えた。カミさんが出勤時間が早まって朝ドラが観られなくなって以来、大河ドラマは我が家で唯一夫婦揃って観る貴重な番組枠だが、今回は脚本も演出も秀逸で、主演の横浜流星はじめキャスト陣も皆好演していて非常に面白かった。


        【NHKのWebより】

大河ドラマといえば主人公は歴史上の英雄等が多いが、今回は江戸時代に繁盛した蔦屋耕書堂という書店主の蔦屋重三郎(以下、蔦重)が主人公と、極めて地味である。放映前は、恐らく今風に言うところのコンテンツビジネスで成功したマーケターとしての商才が描かれるのだろうと私は思っていた

しかし実際に描かれたのは、蔦重の商才よりも、喜多川歌麿、恋川春町、十返舎一九、大田南畝、滝沢馬琴、葛飾北斎といった当代の天才達と交流し、彼等に無茶振りをしつつ才能を引き出し人気コンテンツに仕立てて世の中を変えていく、プロデューサーとしての手腕の方だったように思う。

象徴的な場面がある。蔦重を兄のように慕って頼り、彼を支えた喜多川歌麿が念願叶って“当代一の絵師”となり晩年の蔦重と袂を分かった。しかし歌麿は後に蔦重にこう漏らすのだ。「他の本屋(蔦重以外)は優しいんだ。『そのままでいい』と言うんだ。でも俺はそれじゃつまらないんだよ」と。


このシーンを見て私はアップルの共同創業者スティーブ・ジョブスを思い出した。彼はプログラムも作らずデザインもせず経営者としても自らにダメ出しを(してプロの経営者をスカウト)したくらいだが(*1)、Macintoshやiphoneを生み出して“世界を変えた”のは、紛れもなく彼の手腕だった(*2)。

  【Steve Jobs (写真は中西氏のサイトから)】

ある時、彼は半導体の回路を眺めて「このゴチャゴチャしたところ設計し直して」と言った。技術者が「は?機能的に問題ないし半導体は外から見えないだろう」と反論したが「僕はイヤなんだ」と彼は譲らない。仕方なく回路設計をし直したら何と演算性能や電力消費性能が向上したという。

かつての優秀な部下達が集まると「俺は奴に何度もクビになった」「俺も奴に何度も酷い眼に遭った」と“ジョブス被害者の会”状態で盛り上がるが最後は「また奴と一緒に仕事がしたい」という結論で終わるという。結局、彼の無茶振りが自分達の才能を引き上げる事を身を以て知っているからだろう。

つまり蔦重は“江戸時代のジョブス”だったのだ。この2人に共通しているのは、確かに大衆の求める商品を企画する優れたプランナーでありマーケターでもあるが、同時に天才達の才能を見抜く力とその才能を開花成長させ商品価値に結び付ける卓越したプロデューサーとしての能力だったのだろう。
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*1:ジョブスは、史上初めてコカ・コーラを抜き業界トップとなったペプシ・コーラの経営者ジョン・スカリーを「砂糖水を売って一生過ごすより世界を変えてみないか」という有名な口説き文句でアップル社にスカウトした(そのスカリーにアップル社を追放されるジョブスだが後年カムバックする)。
*2:感情的に怒鳴り散らす、他人のアイデアを無断でパクる、恋人に産ませた子供を認知せず養育費も払わずなど、ジョブスは才能を生かして仕事では大成功したが人格的には悪評も高かった。2011年に膵臓ガンで没(享年56歳)。

Saigottimo